第549話:不自然
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「意識をこちらに向けさせるだけでいいッ! これ以上、結界を攻撃させるなッ!」
二度の巨大な爆発により、ベンディゴの結界はすでに破壊され、代わりにティーターンの結界が発動。
少しでも長くこの結界を維持するべく、アスナ隊はカサナエル軍に対する攻撃を継続していた。
「ドラゴンの数が多い……このままだと……!」
アスナの視線の先には、何十頭ものドラゴンがベンディゴの周りを飛び交い、それらが次々に息吹を吐いている光景が広がっていた。
さらに、それを駆逐するためにたった1人で戦う騎士の姿もあり、彼女は状況的にそれが伝説の武具であることを察する。
その騎士は、離れた位置にいるドラゴンの首を次々に落としていくが、ドラゴンたちは落とされる数以上に次々と飛来し、どんどんとその数を増やしていた。
さらに、ベンディゴをさまざまな方向から攻撃し始め、もはや彼1人では手に負えなくなりつつあった。
「くッ……レヴィも心配だけど……!」
ちらりと、アスナは後方へと視線を向ける。
圧倒的な魔力を誇るズィグラッド。
その強さはSSSランク冒険者と比べても遜色なく、遠目から見ていてもそれは明らかであった。
だが────
「本当に……大丈夫なの……? レヴィ……」
禍々しく、異質な魔力を身に纏ったレヴィは、そんな彼を遥かに凌駕していた。
白兵戦の極致ともいうべきズィグラッドの打ち込みを、彼女は真っ向から受け止め、その尽くを力で捩じ伏せていく。
────その、歪な笑みを浮かべたままに。
それは、普段の彼女を知るアスナからすれば異様な光景であった。
ただ、いかにレヴィのことが気がかりとはいえ、あのレベルの戦いに割って入ろうと考えるほど、アスナは驕ってもいなければ愚かでもない。
故に、彼女はこの戦局の"核"を冷静に探り始めた。
「アディード様なら……」
実戦経験に乏しい彼女は、"戦神"アディードのように、長年にわたって蓄積された経験値から解を見出すという手法を取ることが出来ない。
だからアスナは、アディードの教えを現状に当てはめ、彼女ならどう考えるかを想像して解を出すという手法を取った。
まず前提として、この戦はレアではなく、ティタノマキアが計画したものである。
そして、これまでの彼らの行動を鑑みるに、ベンディゴを陥落させること自体が目的ではなく、それとは別の何かがあると考えるのが自然であった。
「ティタノマキアは何を考えて……そもそも、どうしてベンディゴを……」
ティタノマキアの傀儡となっているレアは、ティーターンから再三に渡り提案された終戦協定を全て拒否している。
北の大地を手中に収めたいだけであるならば、ティーターンから出された敗北宣言にも等しいそれを拒否する必要は全くなく、さっさと受け入れてしまえばいいだけであった。
しかし、レアは拒否するだけにとどまらず、ティーターンを殲滅するとまで宣言していた。
そして今、レアはベンディゴをティーターン攻略の足がかりとすべく、戦力をほぼ結集させた大規模侵攻を行っている。
ベンディゴが選ばれた主な理由は、山々に囲まれた他の同盟3国であるザッカバーグやドリューダーと違い、ベンディゴは3方向が平原に囲まれているため、攻める際に軍が展開しやすく、またレアとティーターンを結ぶ直線上に位置していることから、物資や人員の輸送を考えた時、地理的に前線基地として最適であるため────
「……と、こちら側は認識してる。けど、ロードがここにいることを奴らは知っていたはず……なのにわざわざベンディゴを選んだのは、それほどここが重要だったから? そもそも、これだけの大軍を空間転移出来るなら、別に最初からティーターンに送り込めば……いや、そう出来なかった理由があるからこうして……」
その疑問を足がかりに、彼女は部隊に指示を出しながら、思考をさらに研ぎ澄ませていく。
そうして、ティタノマキアが関わっていたと思われることを全て繋げ、そこから余分なものを少しずつ削っていった。
これはアディードの教えの1つ。
策略、謀略の類いを画策する際、それを企む人間は、その真意を隠すために、不自然にならない程度の余計な行動をとる。
故に、それを暴くには、自然に見える不自然な行動を除外していく必要がある、という考え方。
そこで、彼女は気づいた。
「……なんで、ティタノマキアは今になってドラゴンを?」
そうして辿り着いた、その"不自然"。
アスナはさらに思考を巡らせる。
「最後の一押しに温存していた? でも、こんな風に攻撃出来るなら、最初からそうした方がもっと早くベンディゴを落とせた可能性は高い……あ、いや、最初に出してはいたのか……でも、あれは外に誘き出すためと考えれば……ひょっとして……ロードを? そもそもクロスが出てきていないのも……アナだってズィードさんと戦えるくらいだから、当然戦闘能力は高いはず……それに、まだ出てきていない他のティタノマキアも……」
アスナは点と点を繋ぎ、1本の線を作っていく。
だが、それは非常に難解なパズル。
はめ込む先の穴も変化すれば、手にした型も、なんらかの影響を受ければ、簡単に形を変えてしまうという理不尽極まりない代物である。
全てが計算通りにはならないということを、アスナはアディードとの特訓の中で嫌というほど味わってきた。
幾たびも模擬戦を行い、そうして数え切れぬ敗北を喫する中、彼女が1つ学んだことは、"結果的にそうなった"という偶然を、いかに味方につけるかが重要だということ。
互いに思考を読み合う際、これがノイズとなるのだ。
アディードと対峙すると、まるで全てを見透かされているかのような感覚に彼女は何度も陥ったが、その後の感想戦では、実はアスナの策がはまり、アディードが読み切れていない場面も確かに存在していたことを知る。
だが、結果はアスナの惨敗。
それは、アディードがアスナの策を受けて柔軟に対応し、"結果的にそうなった"ことを、まるで計画通りといわんばかりに振る舞っていたことにより、全てが読まれていると錯覚してしまったためであった。
「……奴らの顔は見えない。けど、今奴らは……笑っている気がする」
アスナは敵側に立って思考を整理する。
自分がもしティタノマキアであれば、最大の脅威はいったい何か。
答えは、最初から決まっている。
「奴らは……ロードをここに縛りたかった……?」
50万人もの民間人。
ロードの性格上、助けないはずがない。
それは火を見るより明らかで、もはや確約と言っても過言ではなかった。
「でも、代わりに出てきたディーさんとルカさんに止められた……で、これを排除するためにジェイドたちが出て、そこにドラグニスさんが現れた。さらに神獣、そして私たち……」
ティタノマキアは一貫して、対処困難なカードを切り続けていた。
合計70万にも及ぶ大軍の奇襲。
操られた民間人、狂ったように暴れ回る兵士たち、そしてズィグラッドが率いる本隊。
それらをなんとか対処したところにジェイドたちが現れ、さらには神獣の出現、ズィグラッドの攻城兵器、そしてこのドラゴンの複製による猛攻。
もし仮に、ドラグニスやアスナたちが現れていなかったとしたら、すでに勝敗は決して────
「……いや、もしそうだったなら、ロードは無理にでも前に出ていた。絶対に……間違いなく」
この戦場の中で、ティタノマキアが明確に、そして自ら動いたのは2つ。
1つはジェイド、チャムリット、リセルの出現。
これの狙いは明白である。
それは、ディーを倒し、さらなる50万人の民間人に対する対抗札を要求することで、ロードを自由にさせないようにするために他ならない。
つまり、彼らティタノマキアは、自分たちにとって最大の脅威であるロードが、何をしているのかを常に把握しておきたかったからだと考えられる。
そしてもう1つは、フェイクの生み出したドラゴンの複製による────
「……まって。この結界は……もし、そのことを奴らが知っていたとしたら……ッ!?」
その時、アスナの持つ通信魔石が、強い光を放った。




