第545話:二重
「見つけ出すことは至難かと……それこそ、新たな"無能"を探すことと同じか、それ以上に。ご存知の通り、私の力はここ数年でかなり弱体化しておりますし、何故かムムの予知夢もほとんど……」
これまで、ティタノマキアのメンバーになり得る者を順調に発見してこれたのは、このアナの力によるものが大きかった。
彼女が"神のお導き"と呼ぶそれは、自身が望む展望を叶えるために有用な情報を得られるというもの。
しかし、ここ数年でその力は急激に失われ、そして何故か同じような力であるムムのスキル、予知夢もまた、ほとんど何も見えなくなっていたのであった。
「……そうだな。実際、新たな仲間を得たのも数年ぶりのことだった。ああ……シェリルを除いて、な」
「アレは確かに惜しい存在でした……が、仕方ありません。彼女は心が弱かった。小事に囚われ、大事を知ることを恐れてしまった……しかし、新たに仲間に加わった彼女はむしろ、私やクロス様に近い考えを持っていますし、今回の作戦も、彼女がいなければ実現不可能でした。まぁ、まだ子供ではありますので、我々がより良い方向へと導いていかなければなりませんが……」
────そう。
ここ数年、世界を陰から操りつつ、ティタノマキアは新たな仲間集めも並行して行っていた。
結果、1人の"無能"を探し出し、新たなメンバーを得ることに成功していたのである。
その人物は現在、このベンディゴ殲滅戦で全ての力を使い果たしたため、すでに戦場から離れ、ある国に存在するティタノマキアの隠れ家で休息をとっていた。
「そうだな……彼女には、ジェイドの分まで働いてもらわなければならん。だが────」
「分かっております。ジェイドを治せるような使い手、あるいはそれに準ずる何かがないかを探してはみます」
そう言って微笑むアナに、クロスもまた微かに笑みを浮かべた。
「……すまない。俺の魔法も結局のところ……何かを生み出すものではない。フッ……随分と矛盾しているがな」
「ふふっ……確かに。ところで、リセルとチャムリットはどうなさいましたか?」
「今はジェイドの側にいる。責任を感じているようだが……決して彼女たちのせいではない。ましてや、ドラグニスのせいでもな」
「ええ。全ては世界の歪み……ジェイドはその犠牲になろうとしています」
「……急がねばなるまい。お前たちの力が失われつつあるのも、おそらくその前兆なのだろう。全てが溢れるその前に、この世界をなんとしても……作戦に戻ろう。戦況は?」
「はっ……現在、東はご覧の通り、あの少女によって完全に制圧されております」
「うむ……次から次へと邪魔な……」
映像魔石の1つに、宙に浮かんだまま、腕を組んで戦場を見つめるティアの姿が映っていた。
その足元には、彼女が作った巨大な土の壁が10キロにわたって聳え立ち、50万人の民は完全にその足を止められていた。
クロスはじっとその画面を見つめていたが────
「しかし、これほどまでに凄まじい力を……ん? あれは確か……」
「はい。あれは一時、ロード=アーヴァインと行動をともにしていた元"無能"です。まぁ、随分と前の話ではありますが……そんなことよりも私が驚いたのは、彼女と一緒に……シェリルとカレンが現れたことです」
「……なんだと? あの2人が?」
「ええ。そして、あの少女と行動をともにしているということは、必然的にあの2人は今、ロード=アーヴァインとも繋がりがあるということになります」
「なるほどな……やはりそうなっていたか。まぁ、予想はついていたが、オトリスの件はこれで合点がいったというところか」
北の大地、最果ての国オトリス。
今はもう消えたその国にはかつて、ティタノマキアの本拠地が存在していた。
アルメニアでティタノマキアに救出されたシェリルは、少しの間そこで暮らし、しばらく得られなかった心の安寧を手に入れる。
しかし、"無能"であったカレンを攫うようにそこへと連れて行った挙句、勧誘を拒否した彼女に対し、牢屋に入れて監禁するという処遇に納得がいかず、さらにもともと抱いていたティタノマキアに対する疑念から、シェリルはカレンとともにオトリスから脱出することを決意する。
仲良くなったリセルとの別れだけが心残りであったが、彼女を追ってオトリスまでやって来たティアとアスナ、ニーベルグの騎士団長ディンとズィードの協力のもと、見事脱出に成功したのだった。
クロスはこれらの裏に、ロードの存在があると踏んでいた。
その時点ではロードは無関係であったが、シュメールからは行動をともにしていることもあり、あながち間違いでもなかったと言える。
「まぁ、今はいい……南はどうだ?」
「こちらは6万、あちらは2千と、まさにあと一歩というところでしたが……そのシェリルとカレンが邪魔を」
「フッ……逃した魚はなんとやら、か」
「ええ。2人ともかなりの使い手に成長しています。ですが、さすがに全体は抑えられていないようで、南でも一部は結界への攻撃に成功しています。こちらは特に問題ないかと」
「うむ……で、北は?」
「ズィグラッドはさすがですね。優位に事を進め、大きな損害なく結界の攻撃に成功。それにより、ベンディゴ自体の結界はすでに破壊され、現在は計画通り……ティーターンの結界が展開されています」
「二重結界……哀れだな。策を弄した結果、それが墓穴を掘ることになるとも知らずに」
クロスはそう言ってニヤリと笑う。
彼がベンディゴへの大侵攻を決断した決め手こそが、この二重結界の存在であった。
彼らはベンディゴ内部を探るため、フェイクの複製魔法を使い、それなりの地位を持ち、かつ1人住まいであった兵士を1人、複製体と入れ替えた。
それは誰にも気づかれることなく、入れ替わった兵士の代わりに働きながら、様々な情報を彼らにもたらしていた。
その中の1つが、ティーターンとの結界のリンクである。
それはベンディゴ攻略を難しくする負の要素であったが、それがむしろ逆に、いくつかある目的の1つを達成する手助けとなっていた。
これによりクロスの、そしてティタノマキアのある目的までの道程が、かなり短縮されることとなったのである。
「現在、フェイクの複製である翼爪竜種や、南と北からの攻撃により、ティーターンの結界もかなり削れてきております」
「仕込みは?」
「すでに。ですので、タイミング的にはそろそろ……」
「分かった。だが、やはり────」
クロス最大の懸念。
それは当然、ロードの存在であった。




