第533話:30分
凄まじい爆発とともに噴煙が上がり、両者の身体が激しく吹き飛ばされる。
「ぐッ!」
「ぬおッ……!」
ほぼ同時に地面へと叩きつけられた2人は、しばらく起き上がらず、そのまま空を見上げていた。
そして、耳鳴りが終わるころ、レヴィの耳に遠くからの激しい戦闘音が聞こえてくる。
朧げな視界をそちらへ向けると、ベンディゴの結界に向けて激しい攻撃を行うカサナエル軍と、それに抗うベンディゴ内部からの攻撃の応酬が見えた。
さらに別の方向へ目を向ければ、ギブライ軍に押されるカルサたちの部隊と、それに加わらんと押し寄せるバーメディ軍が目に入る。
「ぐッ……うッ!」
彼女が立ち上がり前を向くと、同じように立ち上がったズィグラッドと目が合った。
「じ、自爆技とはのぅ……あたた……無茶をッ……ふー……しよるわいッ」
腰を叩きながら、ズィグラッドは地面に落ちた武器を拾い上げる。
それを杖代わりにし、肩を大きく揺らして息を整え始めた。
「現状……あなた様にダメージを与えるには、こうするしかなかったもので。まぁ、やった甲斐はあったようですが」
「まぁ、の……じゃが、今更────」
その時だった。
「なッ!?」
「えっ!? こ、この魔力は……まさか……!」
今日3度目となる、東からの凄まじい魔力が、北の大地を大きく震わせた。
「な、なんじゃこれはッ……先程よりも……!」
報告を受け、南と北を優位に進めていることはズィグラッドも把握していた。
ただ唯一、東だけはほとんど情報が入っていなかったのである。
当初こそある程度の連絡は受けていたが、もともと彼の担当は北であり、まだ自軍の兵が使われている南はともかくとして、東に関しては完全に蚊帳の外であった。
故に、強大な魔力の出現は気になりつつも、明らかな劣勢の報告などがなかったこともあり、自身の持ち場に注力していたのである。
「いったい東に何が……なッ!? か、片方が……消えた!? あの馬鹿でかい魔力が一瞬で……!」
それはまさに、ティアがバフォメットを討ちとった瞬間であった。
状況を把握し切れていないズィグラッドに対し、その時レヴィは拳を強く握った。
そして、ここまで表情を崩さなかった彼女の顔が────
「ティア……!」
満面の笑みへと、変わっていた。
「はっ!?」
さらにその時、彼女が持つ、もう1つの通信魔石が何度も点滅を始める。
それは、"仕込み"がもうすぐ終わるという合図であった。
「……よし」
「随分と嬉しそうじゃのう……レヴィ」
その声に、レヴィは再び前を向く。
驚愕もつかの間、ズィグラッドはすでに気持ちを切り替え、彼女に向けて剣を構えていた。
「……ええ。まぁ、よい策が浮かんだもので」
「ほっほっほっ……それはこの戦況をひっくり返すものか? それとも、ワシを討つ算段か? どちらも無理じゃよ。東は……よう分からんが、こちらか南はもう持たん。そして、お主にワシを倒すことは出来んよ。お主の底は、もう見えたからのう。まぁ、仮に倒せたとて、そこに意味などありはせん。もしもの備えはしておる。我が軍は……止まらんよ」
「はたして……そうでしょうか」
「……ほう」
この時、戦局は最終盤を迎え始めていた。
北はレヴィとズィグラッドの一騎打ちに始まり、カサナエル軍約2万による、ベンディゴへの直接攻撃の開始。
死に物狂いで奮戦する、カルサ率いるベンディゴ防衛軍残り約8千と、ギブライ、バーメディ軍約3万の戦い。
さらには、レア本軍約3万の側面に、レア側諸国連合軍約1万ずつが合流。
合計5万の大軍となってベンディゴへの侵攻を開始していた。
また、南ではヘラクレス、リサナウトと、アマド率いる残り約2千のベンディゴ側と、未だ暴れ回るレア側約6万の操作された兵士たちによる戦闘。
アスナ率いるアーヴァイン遊撃隊と、操られた50万の民がいる東。
そして、動きの見えないティタノマキア。
全ての戦いが、今まさに収束しようとしていた。
そして、その思惑も。
この時、ロードの指定した時間まで、残り30分を切っていた。
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「一歩も引くなッ!! ここが正念場だッ!!!」
カルサの檄が飛ぶ。
ギブライ軍との最前線は、まさに地獄と化していた。
カサナエル軍による防御結界攻撃開始との報せを受けたカルサは、これ以上の侵攻を防ぐため、不退転の覚悟で前へ前へと突き進んでいた。
「カ、カルサ様! お下がりをッ……」
「ふざけるなぁッ! 誰が引くかあッ!! オラァッ!」
カルサの放つ火球が敵部隊に着弾した刹那、激しい爆発が起こる。
彼女の魔法は"爆発魔法"。
文字通り、放った魔力が凄まじい爆発を引き起こす強力な魔法である。
「撃って撃って撃ちまくれぇッ! ここで引けば全てが終わるぞッ!! 男を見せろお前らッ!!」
「「「「「お、おうッ!!!!」」」」」
"北の猛将"と呼ばれるカルサは、その爆発魔法の破壊力と、味方を上手く"のせる"檄の飛ばし方や、卓越した兵法などにより、北では知らぬ者のいない存在であった。
ティーターン第1騎士団団長の名は伊達ではなく、ズィグラッドの策により騎馬隊約2千を失ったベンディゴ軍であったが、合流した彼女はすぐさま部隊を再編。
なんとか部隊を立て直し、ギブライ軍2万と正面から激突していた。
「ここで引いたら奴らの思う壺だぞッ! 絶対引くなぁッ!! ……ミディルクどう?」
矢はもちろんのこと、炎に水、雷や土、さらには浮遊した剣や槍もあれば、泡や煙など、あらゆる魔法が飛び交う戦場の中で、カルサは兵士たちを激しく鼓舞しながら、実のところ冷静に状況を見極めていた。
彼女は間一髪難を逃れたミディルクに指示を出し、ギブライ軍後方から迫るバーメディ軍約1万の動向を探らせていた。
『こちらミディルク。カルサ様の予想通りです』
手にした通信魔石から聞こえたその声に、カルサはニヤリと笑みを浮かべる。
「なーんかバーメディがもたついてるなと思ったけど、やっぱりさすがだよ……伝説の武具ってやつは!」
開戦当初、バーメディ軍はギブライ、カサナエル両軍の背後をカバーするように、横に長く展開していた。
しかし、ケニシュヴェルトの力により、カサナエル軍が行動不能に陥った際、ズィグラッドの指示でギブライ軍の後方へと全軍を集約。
そのまま両軍の力をもって敵防衛軍を突破し、ベンディゴを攻撃するという作戦へ移行していた。
カルサは自身が敵軍の将であれば、バーメディ軍をベンディゴ軍の左側面から当て、前と横から一気に押し潰す作戦を取るだろうと考え、あえて左を手薄にし、誘い込んで叩くことを計画していた。
しかし、ギブライ軍のすぐ後方まで進軍していたはずのバーメディ軍は、何故かそれ以上前に進んでは来ず、カルサはそこで彼女の存在を思い出したのである。
そう、ズィグラッドの放った手練れたちに、囲まれていた彼女は今────
「あーはっはっはっはー!!」
ギブライ軍のすぐ後方。
彼らが避けて通ったその場所で、黒き魔槍が猛威を振るっていた。




