第530話:やり過ぎ
"実戦で使うとなれば、効率から考えて数百人規模の部隊にする必要があったからのぅ。そんなに都合よく、我が国に土系の魔法を使える者が集まるわけもなかった。まぁ、1人の天才がおればそんな部隊を作る必要すらないわけじゃが……それこそ、望むべくもない"
これは、先にズィグラッドがレヴィへと語った、土系の魔法のみで構成された部隊についての言葉である。
数百人の鍛え抜かれた部隊に勝る"1人の天才"。
ズィグラッドが、望むだけ無意味だと言ったその存在こそ────
「はぁぁぁ……どりゃああああッッ!!」
彼女、ティア=エレメントである。
「……うそ…………」
ベンディゴに向かう中、その凄まじい魔力に振り返ったルカは、思わずそう呟いた。
それも無理はない。
何故なら視界の半分が、巨大な土の壁で覆われていたのだから。
「か、彼女は本当にっ……あれはどうやって!?」
「ッ!? ぐ、首がじまるっ……!」
カレンの背負われていたルカは、片方の腕を彼女の首にかけ、身を乗り出すようにして振り返りながら、興奮したようにそう叫んだ。
「あ、あれは……あんな大量なっ……あんなことは、ベアトリーチェにも不可能ですよ!?」
「お、落ちづいでぐだざいっず……!」
「ルカさん、ティアの使う魔法は"自然魔法"……風や木、雷など、自然に存在するものを操る力を持っています」
アスナが説明を始めたところで、カレンの首を絞めていた力がようやく弱まり、彼女はふぅと1つ息を吐いた。
それを見てニヤニヤと笑うシェリルに、カレンは怒りの眼光で応える。
「自然魔法……あ、だから土も!」
「はい、その通りです。確かに、ベアトリーチェさんが使われている操作魔法でも似たようなことは出来ると思いますが、操る過程が違うので、あのように大規模なことは出来ないのだと思います」
「操る……過程が違う?」
「ええ。一般的に操作魔法とは、自身の魔力を対象に流し、外側から操る力だとされています。それに対しティアの場合……あ、これは彼女から聞いたことですが、操るといっても"お願いする"という感覚らしいんです」
「お願い……」
「彼女の感覚を言語化すると、"対象の自然物に魔力を譲渡し、自身の思う通りに動いてもらう"という感じですね。ですから、動きを強制させるために魔力を必要とする操作魔法よりも、使う力が少なくて済む……まぁ、もともとティアは魔力が多いので、それこそあのように────」
アスナが指し示す先、そこにそびえ立った10キロ以上にわたる巨大な土の壁。
高さはゆうに50メートルを超えるそれが、そのまま彼女の力の強大さを表していた。
「なるほど……合点がいきました。素晴らしい力ですね……実に見事です」
「ふふっ。後で本人に言ってあげてください。きっと喜ぶと思いま────」
だが、そこで何かに気づいたアスナの眉間にシワが寄る。
「……ちょっとすみません。ティアに連絡をいれます」
「え? あ、はい」
彼女はルカにそう言いながら通信魔石を取り出すと、すぐさまティアへとそれを繋ぐ。
すると、魔石からすぐに声が聞こえてきた。
『ア、アスナぁ〜……』
「あー……やっぱり……」
先ほどまでとは打って変わり、情けない声を上げるティアの様子に、アスナは自身の考えが杞憂ではなかったことを悟る。
『でっかく作り過ぎちゃったよぉ……力を抜いたら多分崩れちゃう……』
「あーあー……だから言ったのに」
側で聞いていたシェリルが、苦笑しながらそう言った。
「まぁ、気合い入ってたからなぁ……しゃあねぇよ」
『ごめぇん……』
「大丈夫だよティア。どっちにしろ、ティアにはここにいてもらうつもりだったし」
『えっ!? そうなの!?』
「うん。今歩きながら色々聞かせて貰ってたんだけど、ティタノマキアのメンバーの中で、戦闘不能になったのはジェイドだけみたいなの。チャムリットやリセルは逃げたけど大きな怪我はしてないらしいし、まだフェイクとかアナの姿は見てないって。もちろん、リーダーのクロスもね。だから、ティアがそこにいてくれた方がいいの。その壁を守るためにね」
『な、なるほど……あ、じゃあ……!』
「あ、でも、やり過ぎたから後でおしおきだよ」
『ぎゃっ……』
「「ご愁傷様」」
「とにかく、ここは任せるから。よろしくね」
『はい……がむばります……』
「ん、しっかりね」
『あい……』
魔石をしまい、アスナがティアの方へ視線を向けると、遠くで肩を落としている彼女に気づき、アスナはクスッと笑った後────
「さ、行くよ。ちょっと急ごう」
「「了解」」
ベンディゴへ向け、彼女たちは再び歩き出した。
──────────────────
ティアたちが到着する少し前。
北の戦場では────
「ぬうりゃあッ!」
「くッ……!」
レヴィとズィグラッドの戦闘は、互いに一歩も引かぬまま、徐々に激しさを増していた。
距離を取り、様々な方法で少しずつダメージを与えていくレヴィに対し、ズィグラッドは一撃必殺。
両の手に持った巨大な得物を叩き込まんと、前へ前へと突き進む。
「ちぃッ……やるのう」
「フー……」
額の汗を拭い、レヴィは大きく息を吐いた。
今し方の攻防も、レヴィは彼の攻撃を紙一重でいなし、なんとかことなきを得ていたものの、何かを1つ彼女が誤っていれば、勝敗は決していたかもしれない。
それ故か、レヴィは今一歩踏み込めずにいた。
だが、いつまでもそうしてはいられない。
東からは強大な力の衝突を幾度も感じ、実際にこの北の戦場まで轟くほどの凄まじい破壊音も聞こえていた。
今のレヴィに東で何が起きているかを確認する余裕はなかったが、それとは対照的に、ズィグラッドは髭に仕込んだ通信魔石で味方とやり取りをしており、それもまた彼女に焦燥感を抱かせる要因となっていた。
そして、何よりも問題だったのは────
「ぐッ……ぬぅぅぅッ!!」
ケニシュヴェルトの限界が、もうすぐそこにまで迫っていたことであった。




