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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界

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第529話:収縮

 

「もう頑張らなくていいよ……今、終わらせてあげるからッ!」


 言うや否や、ティアは開いた両手を閉じ始める。


『ッ!!』


 その直後、バフォメットが感じたのは、あまりにも強大な圧力であった。

 閃光を放つどころか、己の形を保つことすら困難なその力。

 うめき声1つ上げられず、身じろぎ1つ出来ないという、まるで何かに身体中を握りつぶされているような、そんな感覚に、彼の中にまた1つ、新たな感情が芽生え始めていた。


「分かる? あなたは今、自然の一部になったんだよ」


 ティアはだんだんと力を強めていく。

 それに合わせ、バフォメットの全身を覆う氷が、内へ内へと収縮を始めた。

 やがて、振り上げたまま固まっていた腕や、大きく開いていた足が、徐々に胴体へと強引に近づけられていく。

 無理矢理捻じ曲げられていく身体はその力に耐えきれず、身体中の至るところから血飛沫が溢れ出した。

 だが、バフォメットは魔力ある限り、身体が勝手に修復される。


『ッ!?』


 しかし、もはやそれに、何の意味もありはしなかった。

 再生した身体はすぐに氷によって押し潰され、そしてまた再生し、再び破壊される。

 何度でも何度でも、バフォメットはティアの力の前になす術なく、同じ結末を繰り返し続けた。

 そうして、30メートルはあった巨大な氷の塊が、ティアの身体と同じ大きさの球体となった頃、彼もまたその中央で、小さく丸められていた。

 もはや戦う意志も何もかも失った彼の心の中は、ただ1つの感情によって支配される。


「じゃあね。次は戦う相手を……間違えちゃダメだよ」


『……! …………ッ………………』


 最後に得た"恐怖"というその感情。

 もっと早くそれを知っていれば、彼はもう少しだけ、長く生きられたのかもしれない。

 遂に氷塊は、ティアの手のひらに収まるほどに収縮し、彼女はそれを引き寄せると、そのまま優しく握り潰した。

 暴れに暴れ回った神獣、山羊頭の超越者(バフォメット)

 その最期は、実に静かなものであった。


「……凄い。あのバフォメットを……」


 ルカは驚きを隠せなかった。

 確かに、ドラグニス、ルカ、そしてティアと、バフォメットは3人の強者との連戦であり、魔力の使い方が下手な彼は、ティアと戦う前から既にかなり消耗をしてはいた。

 だが、それを差し引いてなお、ティアの強さは圧倒的であった。

 それ故に彼女は、その力が自分たちと比肩するか、それ以上であると、そう感じていた。


「ティアは強いですよ。あの子は全部を力に変えるんです」


「全部?」


「ええ。境遇も、環境も、想いも、何もかも全部。この1年ほど、私たちは凄まじい鍛錬を重ねました。ほんとに泣きたくなるというか、まぁ実際泣いてたんですけど……とにかくそれくらい辛かったんですが、ティアは泣き言1つ言吐かない。全部飲み込んで消化しちゃうんですよ彼女は。だから、ティアは最強なんです」


 誇らしげに彼女を語るアスナに、ルカは笑顔を見せる。


「……少し、羨ましいですね彼女が。それだけ想ってくれる、あなたのような友人がいて」


 それを聞いて、アスナもにっこりと微笑んだ。



 ──────────────────



「……よし。さぁて、次はあっちだね」


 ティアの視線の先。

 眼下に広がる50万人の操られた民。

 ゆっくりと、確実に、彼らはベンディゴへ向けて進軍を続けていた。


「ティア!」


 アスナに呼ばれ、ティアはいったん彼女たちの元へと向かう。

 そのまま地面に降り立つと、親指を立てて笑顔を見せた。


「お疲れ様。まだいけるよね?」


「当然! まだまだ余裕だよ!」


「分かった。私たちはいったんベンディゴに行くね。ディーさんとルカさんを休ませてあげたいし、現状を詳しく知りたいから」


「了解! こっちは任せて!」


「うん、任せる。じゃ、また後でね」


「はーい!」


「やばそうだったらあたいらも手伝いにくるわ」


「ティア、やり過ぎないようにね。あと、通信魔石はすぐ取れるようにしておいて」


「わーかってるって! じゃ、行ってきまーす!」


 風を纏い、ティアは再び空へと向かう。

 仲間たちは彼女の背中を少しだけ眺めた後、ベンディゴへ向けて歩き始めた。


「さて……どこから始めようかなぁ」


 ティアは大軍の正面に移動し、改めて上空から全体像を把握しにかかった。

 それはまさに異様な光景で、一糸乱れぬ行軍を再開した彼らは、ベンディゴを覆う正方形に造られた壁の一辺、約10キロに広がり、ただ黙々と足を前へ運び続けていた。

 緑の絨毯のようだった平原は、彼らが進む度に土の色へと塗り替えられていき、舞い上がる土埃と、全く同時に鳴り響く行軍の足音と相まって、それがまたその光景の異様さを際立たせていた。


「これをよく止められてたなぁ……やっぱりSSSランクはすごいね。よしっ! 私もがんばろっ! やるぞぉー!」


 しかし、そんな光景をみてもなお、ティアは笑顔を崩さない。

 以前の彼女ならば慌てふためいていたところであろうが、今の彼女にそれはない。

 身につけた圧倒的な実力は、彼女に強靭な精神力をもたらした。

 そして、それは間違った自信ではない。


「ぬんっ……ぬぬぬぬぬぅ……!」


 両手を広げ、ティアは魔力を解放する。

 やはり大気が震えるほどのそれは、この戦場にいた全ての人間が、思わず一瞬手が止まるほどの強大な力。

 そして、比喩でもなんでもなく、大軍の数百メートル先の地面が、大きく震え出した。


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◆新作を書きました◆ 読んでいただけたら泣いて喜びます。 よろしくお願いします。 落ちこぼれの宮廷魔導師、元英雄を飼う~私が拾ったのは、かつて世界を救った最強の人でした~
― 新着の感想 ―
これこれ、こういう展開とても好き~。努力が結実した事を自覚できる瞬間、無駄じゃあなかったと誇れる瞬間、やはりスカッとしますね!
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