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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界

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第527話:義勇軍

 

「はっ!? あ……がッ……!」


 気配を感じてルカが振り返った直後、バフォメットの巨大な足が、彼女の小さな身体をくの字に曲げる。

 なす術なく吹き飛ばされた彼女たちは、空中で離れ離れになった後、地面に叩きつけられた。


「あぐっ……うっ……くうぅ……いや……ディーさ……」


 地面に倒れたまま、彼女は必死に彼を探す。

 限界を遥かに超え、今の一撃で骨も砕けた彼女に、もう起き上がる力は残されていなかった。

 そうして、霞んだ視界の中、彼女は数メートル先に横たわるディーを見つけると、その手を彼へと伸ばす。


「まだ……一緒にっ…………あなたとっ……!」


 歯を食いしばり、涙を流す彼女の頭上で、バフォメットは静かに口を開いた。

 最後までそれに固執したのは、相手に対する敬意でもなんでもなく、単なる獣の意地だろう。

 だが、なんにせよ、それは2人にとって、確実な死を意味していた。

 眩い光が降り注ぐ中、それでもルカは必死に手を伸ばし続けた。

 決して届かない、そのか細い手を。


 そうして放たれた青き閃光。

 目が眩むような光の中、もはや熱も、痛みも、音さえも消えた世界で、ルカは最後まで彼を見続けていた。

 着弾するまでの1秒にも満たないその世界は、間違いなく、彼女たち2人だけのものだった。

 ────しかし、天運はまだ、2人を見捨ててはいなかった。


「…………えっ……」


 光が消え、ルカ視界にまたディーの姿が映った。

 困惑しながら、またそのことにホッとしながら、彼女は回らない頭を必死に回転させる。

 そこでようやく、まだ自分が生きていることを把握した、その直後────


「ギリッギリ……間に合ったみてぇだな」


 声が聞こえ、ルカはゆっくりと視線を向ける。

 そこに、腰ほどまでに伸びた黒髪を靡かせる、見知らぬ女が立っていた。


「これもお前の寵愛じゃねぇか? ……シェリル」


 バフォメットを睨みつけたまま、カレンは隣に立つシェリルにそう言った。


「……かもね。少しだけ、感謝してあげようかな」


 ツインテールに縛った赤髪を後ろへと手で払いながら、シェリルは少し不満げにそう答えた。


「まーだ根に持ってやがんのかぁ? いい加減、自分の力だって認めてやれよ」


「冗談じゃないわ。この力のせいでどんな目にあったか……あなただって知ってるでしょ?」


「ハッ! ケツの穴の小せえ女……」


「はぁ!? あなたは本当にッ────」


「ねぇ」


 びくりと、2人が同時に首をすくめる。


「いつまでやってるの? ……あんたたち」


 ブロンドのポニーテールが逆立つ程の怒気を放ちながら、アスナは笑顔で2人の背中に語りかける。

 彼女は既に、ディーの介抱を始めていた。


「……すません」


「気をつけます……」


 2人は前を向いたまま、気まずそうに謝罪の弁を口にする。

 普段は優しいアスナだが、怒らせるととんでもなく怖いことを、2人はニーベルグで共に過ごしたこの1年あまりで嫌というほど理解していた。


「まったく……真面目にやって。うん……よし、なんとか大丈夫そう。あの人に貰った秘薬が間に合ってよかった。カレン、そっちの……」


「あ、おう。えーっと……意識はあるみてぇだな。大丈夫か? お嬢ちゃん」


「おじょっ……」


 明らかな歳下に子供扱いされ、ルカの眉間に思わずシワが寄る。


「カレン……ちなみにだけど、私が介抱しているのがSSSランク冒険者のディーさんで、そちらの方も同じSSSランクのルカさんだよ」


「えっ!?」


「……どうも」


「あ、いや、すんません! てっきり……あ、あたいはそのー……」


「申し訳ありませんルカさん……ベンディゴ軍の方からある程度の戦況は伺っていたのですが、カレンは人の話を聞かない子なんです……」


「シェリルてめぇ……!」


「カレンうるさい。とにかく、ご無事で何よりです。あ、ルカさんもかなり消耗を……アスナ、アレ貰える?」


「うん。渡してあげて」


 シェリルは赤い液体の入った小瓶を受け取ると、蓋を開けてルカに差し出した。


「体力と魔力が回復する秘薬です。多少副作用はありますが、飲まれた方がよろしいかと」


「あ、はい……」


 ルカは受け取った小瓶を口に当て、それを一気に飲み干した。


「うっ……ご、ごれは……?」


「……中身は知らない方が身のためかと思います」


「……わ、分かりました。ありがとうござい……あ……えっ? なんだか身体が……痛みも……」


「めっちゃ効きますよ。まぁ、アレっすけど」


「アレ……」


 未だ事態を飲み込みきれていないルカではあったが、強い安堵感を覚えていたことだけは間違いなかった。

 それは、ディーが助かりそうであることはもちろんのこと、彼女たちの普段通りであろう振る舞いのおかげで、気持ちが和らいだということもあったが、もう1つ大きな理由があった。


「み、みなさん改めまして……助けてくださってありがとうございます。と、ところであなた方はいったい……あと、あの空にいる方は……」


 彼女たちが話している間、バフォメットは動かず、ただじっと"それ"を見つめていた。

 ここにきて彼はまた1つ成長し、警戒するということを覚えたのである。

 そう。

 バフォメットは動かなかったのではなく、動けなかったのだ。

 腕を組み、凄まじい眼光で己を睨みつける、その少女を警戒して。


「聞こえてますよルカさんッ! では、名乗らせていただきますッ!!」


 肩ほどまで伸びた茶色い綺麗な髪を振り乱しながら、少女は戦場全体に響く程の大声でそう叫ぶ。

 まるで、他にも聞かせたい人がいるかのように。


「我らはニーベルグ所属の義勇軍ッ! 名を……アーヴァイン遊撃隊と申しますッ!! そしてッ!!」


『ッ!!!』


「なッ────」


 少女は、瞬時に己の魔力を開放する。

 直後、ルカも、そしてバフォメットすらをも驚愕させるその力により、大気が激しく揺れ動いた。


「私の名はティア=エレメントッ!! 後は私たちに……任せてくださいッッ!!!」


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◆新作を書きました◆ 読んでいただけたら泣いて喜びます。 よろしくお願いします。 落ちこぼれの宮廷魔導師、元英雄を飼う~私が拾ったのは、かつて世界を救った最強の人でした~
― 新着の感想 ―
うん、うん。ここからが反撃だぁ
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