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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第431話:穴

 

「や、やばいことになるっぽい……具体的には!?」


「あ、いや、詳しくは分かんないけど……なんか魔術回路が大量に描いてあって、それが全部コスモに繋がってんのよ! で、大量の火薬がコスモの下にある箱に詰まってて、そっちにも繋がってるわけ! だから多分……!」


「つまり、コスモ様を引き抜いたら……爆発する?」


 当初の予定では、レヴィが拘束後、スカークが中に侵入してコスモに触れ、そのまま透過魔法ですり抜けさせて救出する、という手筈になっていた。

 だが、ここにきて事情が変わる。


「多分ね……どう考えても自爆用って感じだよコレ……ど、どうしよっか?」


「……構いません。やってください」


「えぇ!?」


 しかし、それでも選択肢は一つしかなかった。


「このまま封じ続けることは不可能です。私の魔力にも限りがありますし、ここでもたついていると……ロード様の邪魔をすることになりかねません」


「そ、そりゃそうかもだけど……オイラとコスモは透過魔法でかわせるからいいよ!? だけどレヴィちゃんは……!」


 火薬の量から見るに、レヴィがいる地点は爆発の範囲内。

 最悪の場合、死ぬ可能性もあった。

 距離を取ろうにも、そうすれば今度は鎖の射程範囲を超えてしまい、コスモの拘束が解けてしまう。


「それを感じた瞬間に、全力で後退します。だから……やってください」


「で、でも……!」


「早くッ!」


「ッ!」


 既に覚悟を決めたレヴィの気迫に押され、スカークはそれに応えることを選択した。

 四肢を切断されたコスモの身体。

 一回りも二回りも小さくなったそれに触れ、スカークが魔法を発動した……次の瞬間。


「やっぱり!?」


 コスモの身体が解き放たれた刹那、内部にびっしりと描かれていた魔術回路が赤く光り輝いていく。

 それはまるで導火線のように伸びていき、火薬が詰まった箱へと辿り着くと――――


「レヴィちゃん逃げッ……!」


 スカークの叫びをかき消すように、凄まじい爆音と爆炎が辺りを覆い尽くしたのだった。


「クッソ! レヴィッ……レヴィちゃぁん!!」


 その透過魔法により、全ての事象をすり抜けたスカークは、コスモを抱えたまま、爆炎の中で彼女の名前を呼び続ける。

 しかし、それに対する返答はなかった。


「ッ! やばッ……!」


 その時、足場にしていた巨大な吊り橋が、嫌な音を立てながらどんどんと沈んでいくことに気付く。

 人造魔石機兵(ハイゴーレム)の爆発により、巨大な橋は今まさに崩れ落ちようとしていた。

 スカークはコスモを抱え直すと、傾いた橋を一気に駆け上がっていく。

 しかし、彼の予想よりも早く――――


「マジかよ!?」


 橋がへし折れ、彼の身体が浮遊感に包まれていく。

 無論、落下しても彼にダメージはない。

 だが、落ちた先にはロード達がいる。


「邪魔になっちまうのはッ……!」


 そう考え、スカークがコスモだけでもと動いた……その時だった。


「スカーク様ッ!」


「ッ!」


 まだ残っていた橋の上から聞こえた彼女の声を受け、スカークは瞬時に魔法を解除した。

 直後、身体が何かに締め付けられるような感覚に、彼は安堵のため息を吐くのだった。


「ふぅ……よかった……」


 そしてゆっくりと引き上げられ、残った足場に手をついて顔を上げたスカークの前に――――


「……よう」


「バイザー……!」


 鎖を引き続けるレヴィと、地面に座ったまま、肩で大きく息をするバイザーがいた。

 スカークが完全に上りきると、レヴィもまた崩れるように地面へと座り込んだ。


「バイザー様が……はぁ……はぁ……ば、爆風を相殺してくれたんです……」


「なる……ほどね……はぁ……つか、あんた大丈夫かよ? 死にそうな顔してんじゃん」


「ハッ……もうすっからかんだ……馬鹿野郎が」


「ははっ……オイラも大体おんなじさ。てか、どこにいたんよ? 階段にはいなかったじゃん」


「ああ……出来るだけ雑魚を引き連れて、あそこから離れる為に上へ向かってたんだよ。そしたら、槍持った女が来てな。そいつのおかげでなんとかなった。そのまま行っちまってもよかったんだが、やっぱ気になってな……戻ってきたらこんな感じだったって訳だ」


「なるほどね……つか、槍持った女ってなんなんよ」


「知るか」


「恐らく……ロード様の魔法で人の姿を得た、武具様のお1人かと。その方はどちらに?」


 バイザーは何も言わずに下を指差した。

 轟音と爆音が、何度もこだまするその場所を。


「……とにかく、我々はここを離れましょう。コスモ様とブランス様は私が。スカーク様はバイザー様を……」


「いらん……歩くくらいは出来る」


「だってよ。んじゃ、オイラがブランスを担ぐよ」


「分かりました。お願いします」


「そいつ……生きてるのか?」


 バイザーは気を失ったコスモを見つめながら、レヴィにそう尋ねた。


「ええ。必要な措置はとられているようです。動力源として、簡単に死なれては困るのでしょう。また、手足も問題ありません。エクスカリバー様がおりますので」


「便利だねぇ……てか、人造魔石機兵(ハイゴーレム)全部に人が入ってんだよね? ひょっとして……」


「はい。ロード様は全てを元に戻すとおっしゃられるでしょう……そういう方ですから」


「かー……ま、手伝うけどね。うん、マジで」


「お願いします。では行きま……」


 その時だった。


「「「ッ!?」」」


 凄まじい光が、真下から彼女達を包み込む。

 更にその直後、立っていられないほどの大きな揺れが襲った。


「こ……れは……!」


「何が起きてんのよ下でぇッ!?」


 やがて揺れが収まると、3人は立ち上がり下を覗き込む。

 一面噴煙に覆われたそこは、爆炎が放つ赤い光と混ざり合い――――


「……地獄ってのは、こういう場所なんかねぇ」


 そう形容するしかないような、そんな光景が広がっていた。


「……とにかく上へ行きましょう。空間は閉ざされているようですが……ロード様がなんとかしてくださる筈です」


「だね。おいしょっ……ぐっ……ち、ちっせーくせにおめぇぞブランス……!」


「まだ多少残ってるから注意しろ。なるべく戦闘は避けるぞ」


「はいよ……あーだっる……ほら、レヴィちゃん行くよー」


「あ、はい! ……ロード様、ご武運を」


 下から響く戦闘音を背に、レヴィ達は地上への帰還を始めた。

 その時下層では、彼女達の想像を遥かに超える……言葉通りの激戦が繰り広げられていたのだった。



 ―――――――――――――――――――――



 時は少し遡り――――


『アーハッハッハッハッハァッ!!』


「くッ……!」


 巨神から響く笑い声と、その攻撃に耐え切れず、いたるところで上がる爆発音が、焦るロードの鼓膜を絶えず揺らしていた。

 七影のほとんどは地に伏せ、大型人造魔石機兵(ハイゴーレム)も無力化した今、残る敵はロード達の前にいる3人に絞られていた。

 しかし、ロードがそれを知る由もなく、仲間の安否に気をやりながらの戦闘は、彼の精神を否応なしに削っていく。


 そして何よりも、彼が対峙しているのは全長100メートルの超大型人造魔石機兵(ハイゴーレム)……ゴッドロバート。

 それは、巨体から繰り出される強力無比な攻撃だけでも厄介な上に、"完全魔力遮断装甲"という鉄壁を誇る、まさに完全無欠の移動要塞。

 加えて、内部には"燃料"とされている生きた人間が多数存在している。

 ロードが強い焦燥感を覚えるのも無理はなかった。

 そして、彼には他にもやらなければならないことがあり、それもまた彼が苦戦を強いられている要因の一つでもあった。


「やっぱり弾かれるか……!」


 宙を駆け回り、巨神の拳をかわして打ち込んだ雷神の槍。

 何物をも貫くそれが、まるで反発するかのように弾かれてしまう。


『んー!? 今何かしたかなぁ!? ああ、大変だ! こんなところに小さな小さな傷ができちゃったよぉ!! じゃあ、お返しだぁッ!』


「ッ!」


 そうして振り下ろされた巨神の鉄槌。

 巨体に似合わず、かなりの速度で放たれるそれが地面に深く突き刺さると、再び地下空間に巨大な爆発音を轟かせた。


『あーもう! ちょこまかちょこまかッ……ハエか何かかい君は!!』


「ふぅッ……考え方を変えないと……!」


 巨神の背後へ移動していたロードは、やはり真正面からやり合っても無駄だという確信に至る。

 そんな彼の真下では、もう一つの戦いが繰り広げられていた。


「なんなんだこいつのッ……!」


「……おせぇなぁ」


 リナリアの掌握魔法が作用するよりも速く、バーンはその懐へと潜り込む。

 そして放たれた豪腕の一撃が、かろうじで防御した彼女の両腕に突き刺さった。


「うごッ……!」


 膂力に耐え切れず、小さな身体が宙を舞う。

 しかし、空中で態勢を立て直すと、リナリアは足から着地してバーンを睨みつけた。


「ほぉ、折れねぇのか。なんかやってんな」


「貴様……何故その剣を使わんッ!?」


 バーンの両手には、自身の身長を超える黒く幅広の大剣が握られていた。

 しかし、彼はこれまでの攻防の中で、一度も刃の部分を使用していない。

 今の一撃も、剣を握ったまま拳で殴りつけただけである。


「こっちにも……事情があんだよ」


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