第431話:穴
「や、やばいことになるっぽい……具体的には!?」
「あ、いや、詳しくは分かんないけど……なんか魔術回路が大量に描いてあって、それが全部コスモに繋がってんのよ! で、大量の火薬がコスモの下にある箱に詰まってて、そっちにも繋がってるわけ! だから多分……!」
「つまり、コスモ様を引き抜いたら……爆発する?」
当初の予定では、レヴィが拘束後、スカークが中に侵入してコスモに触れ、そのまま透過魔法ですり抜けさせて救出する、という手筈になっていた。
だが、ここにきて事情が変わる。
「多分ね……どう考えても自爆用って感じだよコレ……ど、どうしよっか?」
「……構いません。やってください」
「えぇ!?」
しかし、それでも選択肢は一つしかなかった。
「このまま封じ続けることは不可能です。私の魔力にも限りがありますし、ここでもたついていると……ロード様の邪魔をすることになりかねません」
「そ、そりゃそうかもだけど……オイラとコスモは透過魔法でかわせるからいいよ!? だけどレヴィちゃんは……!」
火薬の量から見るに、レヴィがいる地点は爆発の範囲内。
最悪の場合、死ぬ可能性もあった。
距離を取ろうにも、そうすれば今度は鎖の射程範囲を超えてしまい、コスモの拘束が解けてしまう。
「それを感じた瞬間に、全力で後退します。だから……やってください」
「で、でも……!」
「早くッ!」
「ッ!」
既に覚悟を決めたレヴィの気迫に押され、スカークはそれに応えることを選択した。
四肢を切断されたコスモの身体。
一回りも二回りも小さくなったそれに触れ、スカークが魔法を発動した……次の瞬間。
「やっぱり!?」
コスモの身体が解き放たれた刹那、内部にびっしりと描かれていた魔術回路が赤く光り輝いていく。
それはまるで導火線のように伸びていき、火薬が詰まった箱へと辿り着くと――――
「レヴィちゃん逃げッ……!」
スカークの叫びをかき消すように、凄まじい爆音と爆炎が辺りを覆い尽くしたのだった。
「クッソ! レヴィッ……レヴィちゃぁん!!」
その透過魔法により、全ての事象をすり抜けたスカークは、コスモを抱えたまま、爆炎の中で彼女の名前を呼び続ける。
しかし、それに対する返答はなかった。
「ッ! やばッ……!」
その時、足場にしていた巨大な吊り橋が、嫌な音を立てながらどんどんと沈んでいくことに気付く。
人造魔石機兵の爆発により、巨大な橋は今まさに崩れ落ちようとしていた。
スカークはコスモを抱え直すと、傾いた橋を一気に駆け上がっていく。
しかし、彼の予想よりも早く――――
「マジかよ!?」
橋がへし折れ、彼の身体が浮遊感に包まれていく。
無論、落下しても彼にダメージはない。
だが、落ちた先にはロード達がいる。
「邪魔になっちまうのはッ……!」
そう考え、スカークがコスモだけでもと動いた……その時だった。
「スカーク様ッ!」
「ッ!」
まだ残っていた橋の上から聞こえた彼女の声を受け、スカークは瞬時に魔法を解除した。
直後、身体が何かに締め付けられるような感覚に、彼は安堵のため息を吐くのだった。
「ふぅ……よかった……」
そしてゆっくりと引き上げられ、残った足場に手をついて顔を上げたスカークの前に――――
「……よう」
「バイザー……!」
鎖を引き続けるレヴィと、地面に座ったまま、肩で大きく息をするバイザーがいた。
スカークが完全に上りきると、レヴィもまた崩れるように地面へと座り込んだ。
「バイザー様が……はぁ……はぁ……ば、爆風を相殺してくれたんです……」
「なる……ほどね……はぁ……つか、あんた大丈夫かよ? 死にそうな顔してんじゃん」
「ハッ……もうすっからかんだ……馬鹿野郎が」
「ははっ……オイラも大体おんなじさ。てか、どこにいたんよ? 階段にはいなかったじゃん」
「ああ……出来るだけ雑魚を引き連れて、あそこから離れる為に上へ向かってたんだよ。そしたら、槍持った女が来てな。そいつのおかげでなんとかなった。そのまま行っちまってもよかったんだが、やっぱ気になってな……戻ってきたらこんな感じだったって訳だ」
「なるほどね……つか、槍持った女ってなんなんよ」
「知るか」
「恐らく……ロード様の魔法で人の姿を得た、武具様のお1人かと。その方はどちらに?」
バイザーは何も言わずに下を指差した。
轟音と爆音が、何度もこだまするその場所を。
「……とにかく、我々はここを離れましょう。コスモ様とブランス様は私が。スカーク様はバイザー様を……」
「いらん……歩くくらいは出来る」
「だってよ。んじゃ、オイラがブランスを担ぐよ」
「分かりました。お願いします」
「そいつ……生きてるのか?」
バイザーは気を失ったコスモを見つめながら、レヴィにそう尋ねた。
「ええ。必要な措置はとられているようです。動力源として、簡単に死なれては困るのでしょう。また、手足も問題ありません。エクスカリバー様がおりますので」
「便利だねぇ……てか、人造魔石機兵全部に人が入ってんだよね? ひょっとして……」
「はい。ロード様は全てを元に戻すとおっしゃられるでしょう……そういう方ですから」
「かー……ま、手伝うけどね。うん、マジで」
「お願いします。では行きま……」
その時だった。
「「「ッ!?」」」
凄まじい光が、真下から彼女達を包み込む。
更にその直後、立っていられないほどの大きな揺れが襲った。
「こ……れは……!」
「何が起きてんのよ下でぇッ!?」
やがて揺れが収まると、3人は立ち上がり下を覗き込む。
一面噴煙に覆われたそこは、爆炎が放つ赤い光と混ざり合い――――
「……地獄ってのは、こういう場所なんかねぇ」
そう形容するしかないような、そんな光景が広がっていた。
「……とにかく上へ行きましょう。空間は閉ざされているようですが……ロード様がなんとかしてくださる筈です」
「だね。おいしょっ……ぐっ……ち、ちっせーくせにおめぇぞブランス……!」
「まだ多少残ってるから注意しろ。なるべく戦闘は避けるぞ」
「はいよ……あーだっる……ほら、レヴィちゃん行くよー」
「あ、はい! ……ロード様、ご武運を」
下から響く戦闘音を背に、レヴィ達は地上への帰還を始めた。
その時下層では、彼女達の想像を遥かに超える……言葉通りの激戦が繰り広げられていたのだった。
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時は少し遡り――――
『アーハッハッハッハッハァッ!!』
「くッ……!」
巨神から響く笑い声と、その攻撃に耐え切れず、いたるところで上がる爆発音が、焦るロードの鼓膜を絶えず揺らしていた。
七影のほとんどは地に伏せ、大型人造魔石機兵も無力化した今、残る敵はロード達の前にいる3人に絞られていた。
しかし、ロードがそれを知る由もなく、仲間の安否に気をやりながらの戦闘は、彼の精神を否応なしに削っていく。
そして何よりも、彼が対峙しているのは全長100メートルの超大型人造魔石機兵……ゴッドロバート。
それは、巨体から繰り出される強力無比な攻撃だけでも厄介な上に、"完全魔力遮断装甲"という鉄壁を誇る、まさに完全無欠の移動要塞。
加えて、内部には"燃料"とされている生きた人間が多数存在している。
ロードが強い焦燥感を覚えるのも無理はなかった。
そして、彼には他にもやらなければならないことがあり、それもまた彼が苦戦を強いられている要因の一つでもあった。
「やっぱり弾かれるか……!」
宙を駆け回り、巨神の拳をかわして打ち込んだ雷神の槍。
何物をも貫くそれが、まるで反発するかのように弾かれてしまう。
『んー!? 今何かしたかなぁ!? ああ、大変だ! こんなところに小さな小さな傷ができちゃったよぉ!! じゃあ、お返しだぁッ!』
「ッ!」
そうして振り下ろされた巨神の鉄槌。
巨体に似合わず、かなりの速度で放たれるそれが地面に深く突き刺さると、再び地下空間に巨大な爆発音を轟かせた。
『あーもう! ちょこまかちょこまかッ……ハエか何かかい君は!!』
「ふぅッ……考え方を変えないと……!」
巨神の背後へ移動していたロードは、やはり真正面からやり合っても無駄だという確信に至る。
そんな彼の真下では、もう一つの戦いが繰り広げられていた。
「なんなんだこいつのッ……!」
「……おせぇなぁ」
リナリアの掌握魔法が作用するよりも速く、バーンはその懐へと潜り込む。
そして放たれた豪腕の一撃が、かろうじで防御した彼女の両腕に突き刺さった。
「うごッ……!」
膂力に耐え切れず、小さな身体が宙を舞う。
しかし、空中で態勢を立て直すと、リナリアは足から着地してバーンを睨みつけた。
「ほぉ、折れねぇのか。なんかやってんな」
「貴様……何故その剣を使わんッ!?」
バーンの両手には、自身の身長を超える黒く幅広の大剣が握られていた。
しかし、彼はこれまでの攻防の中で、一度も刃の部分を使用していない。
今の一撃も、剣を握ったまま拳で殴りつけただけである。
「こっちにも……事情があんだよ」




