第404話:急変
「くそッ……3番隊との連絡は!?」
「……駄目です! 反応ありませんッ!」
「た、隊長! 15番から17番も消失ッ! 東方面は……全滅ですッ!」
「ちぃッ……!」
守備隊の本部に、続々と悪い報告が上がり続ける。
それを指揮するガラッドは、複雑な心境で指示を出し続けていた。
聞かされていた作戦が、上手くいっているのは間違いない。
それはいい……のだが、現場にいる守備隊員達は、当然ながら全力を持って賊に対処している。
それにも拘わらず、賊を捕らえるどころか、相手の人数は勿論、彼らはその容姿すら捉えることが出来ずにいた。
"これが本物の襲撃であったなら"……ガラッドが、そういった感情を抱くのも無理はない。
また、ガラッドはこの作戦を聞かされた際、守備隊の警備を緩めることも可能であるとバーンに進言している。
だが、バーンは通常通りでよいと彼に返していた。
それに加え、"なんならいつもより厳重にしてもらっても構わない。防衛装置さえ解除してくれればな"……と、そう言ったのだ。
その時、彼の中に微かな憤りが生まれたのは想像に難くないが、無論バーンがそう言ったのは、下手に警備をいじれば、そこから怪しまれる可能性がある為であり、彼自身もそれを理解はしている。
それでも、彼には自負があったのだ。
これまでシュメール城を守護し続けてきたという、確固たる自負が。
しかし――――
「……認めざるを得ないな」
この惨状を見たガラッドは、誰にも聞こえぬよう……1人そう呟いたのだった。
『こ、こちら10番隊ベアードッ! 現在5階会議室付近……ぐわぁッ!?』
「どうした!? 10番隊応答しろッ! 10番ッ……た、隊長、恐らく5階までは全て……」
「……残っている戦力を、全てこの階に集中させろ。中央階段で賊を迎え撃つ」
「了解……!」
シュメール城は、全部で12の階層に分かれていた。
というのも、階によって天上の高さが違う為、あえて"階層"という表現を用いているのである。
因みに、守備隊の本部があるのは第10階層部分。
それより先は、王の私室や会食の間など、王族が使用する重要な部屋が割り当てられている。
第10階層までは東西に階段があり、どちらかのルートを使用して上へと向かえるのだが、それ以降は中央にしか階段がない。
故にガラッドは、残る全ての戦力を集中させ、賊が現れるであろう中央階段を死守することにしたのだ。
当然、これも作戦通りの流れである。
と、その時――――
「隊長! リナリア様より通信が……!」
「……分かった」
"そろそろだと思っていたよ"……と、心の中で呟いた後、ガラッドは部下から受け取った魔石を口元へと運んだ。
「代わりました……ガラッドです」
『状況は?』
余計な台詞はなく、リナリアは単刀直入にそう尋ねる。
「……芳しくありません。既に守備隊の半数以上と連絡が取れなくなっており、現在賊は5階会議室付近にいるものと思われます。これより残存戦力を集中させ、10階中央階段で賊を……」
『なんだ? エバンスから聞かされていないのか?』
「は?」
『ちッ……どこで油を売っているのか知らんが……まぁいい。とにかく、もう上部を守る必要はない。既に陛下は私室ではなく、より安全な場所へと向かっている』
「よ、より安全な? あの……リナリア様? それはどういう……」
これはガラッドの演技。
事前に"こうなるだろう"ということは聞かされている。
ただ、まだ本当にエバンスからは何も聞かされていなかったことと、バーンの作戦があまりにも上手く行き過ぎていたこともあり、そのおかげで自然に驚くことが出来ていたのだった。
『貴様達が知る必要はない。とにかく、陛下は我らが守護している。貴様達は陛下の身を案ずることなく、賊を討つことだけに集中しろ。いいな?』
「は、はっ……承知いたしました」
通信が切れ、すぐさまガラッドが指示を出そうとしたその時、守備隊本部の扉が開いた。
「隊長!」
「エバンス! お前今までどこに……!」
「言い訳はしません! とにかくお伝えしたいことが!」
「お、おいっ!?」
エバンスはガラッドの腕を掴み、部屋の隅へと移動した。
そして、彼の耳元へ手を当てる。
「……兄貴、いまんとこ上手くいってる。転送装置は陛下の私室だ。多分、もうブランス達は移動してる。それから、レヴィさんはロード君とこに向かった。ついでに、親父は既に退避済みだ。陛下は七影と一緒に恐らく地下へ」
「そうか……じゃあ、奴らはもう上の様子に気付けない訳だな?」
良くも悪くも、七影は孤高の存在であった。
有事の際、守備隊と連携を取ることになってはいたが、細かな指揮系統が設けられている訳ではない。
それは、城を守り、結果として王を守るという守備隊の理念と、王の身の安全のみを守護するという、親衛隊の理念の違いによるものである。
「ああ。連絡きたか?」
「さっきな。現状をあるがままに伝えてある。陛下の身を案ずることなく、賊を討つことに集中せよとのことだ」
「予定通りだな……怖いくらいだぜ」
「うむ。とはいえ、ぬるい指示は出せない。微かな疑いすら持たせる訳にはいかないからな。それに、不安に駆られた誰かが、直接リナリア達に指示を求める可能性もゼロではない。やはり作戦通り……眠ってもらうしかないだろう。俺とお前も含めてな」
それはつまり、バーン達によって倒されるという意味。
王を討った後も国は続く。
その時、やはり国を、そして新たな王を守る者が必要となる。
故に、いかなる理由があろうとも、彼らは反逆者になってはならないのだ。
バーンはそれを理解しており、そのように作戦を立てていたのだった。
「ああ……俺らがやられんのは最後だろ?」
「先にお前、最後に俺だ。リナリアに虚偽の報告をしてから眠る必要があるからな」
「了解だ。中央階段に向かうぜ」
「俺もすぐに向かう。出来れば衝突前にすれ違えるといいが……まぁ、ブランス達なら上手くやるだろう」
「ああ。俺らの仕事はここまでだ。後はあいつらに任せよう」
「よし……メランド! 残る全隊に通告! 中央階段を最終防衛地点とし、賊をそこで迎え撃つ! 急げ!」
「は……はっ!」
ブランスの兄達の支えもあり、バーンの立てた作戦は順調に進んでいた。
シュメール城の兵士達は、その多くが意識を失い、眠るように地に伏せている。
残る者達も、やがてバーン達の手によりそうなるだろう。
また、既にこの時、エバンスの読み通り、ブランスを始め、バハムート、バイザー、シェリル、カレンの5人は、王の私室へ転移を完了していた。
そして、それと時を同じくして――――
「レヴィ」
「ッ! ロード様……ハディス様……!」
七影に悟られぬよう、ゆっくりと1階へ移動していたレヴィと、ハディスの力を借り、シュメール城へ潜入していたロードが合流する。
「久方ぶりじゃのう。あのダンジョン以来か」
「ええ……あ、ロード様! 実はかなりまずいことが……!」
「……ああ、分かってる」
「あっ……生命の色で既に……!?」
ロードは個人によって違う生命の色を追い、こうしてレヴィと合流することが出来ていた。
つまり、彼には今、城の内部にいる全ての生命が見えている。
当然、一度直接対象を見て、その人物と色を照らし合わせなければ特定は出来ないが、最上階にいるブランス達が転移したことも、城の衛兵に怪我をさせないように進むバーン達のことも……地下へと向かって進むロバート王達のことにも気付いていた。
そして、その前に現れて"しまった"……よく知る人物の生命の色も。
「あ、あの子は今……!」
「どうやら……ロバート王と一緒みたいだ」
「ッ!? そ、それでは……!」
「多分……ソフィアは奴らに捕まった」




