第389話:潜
「こ、これが……家? ……お城じゃないですか」
転移直後、シェリルが上を見上げたままにそう呟く。
最初に見た時は、俺も同じことを思ったな。
「やれやれ、これだから貴族ってやつは……」
「バ、バイザーさん……」
「目の前にいたら口には出さねぇよ」
く、口には……大丈夫かなぁ。
なんか不安になってきた。
「シェリル様、カレン様は私が」
「あ、すいま……ッ!?」
横たわるカレンをレヴィが軽々と抱き上げたからか、シェリルは目を丸くしていた。
魔族であるレヴィは、単純な腕力なら俺より上だ。
ただ、見た目は普通の女の子だからな……。
「シェリル様、歩けますか?」
「あ、は、はい……なんとか……」
解毒したとはいえ、まだ身体にダメージが残っているようだ。
念の為、あとでアスクレピオスに診てもらった方がいいかもしれないな。
さて、とりあえずバーンさんに……。
「レヴィ、俺が先に行って事情を話してくるから、ここでみんなと待っててくれ」
「かしこまりました」
―――――――――――――――――――――
「――――話は分かった。会おう」
シェリルから聞いた話を伝えると、バーンさんはそう言ってくれた。
「ありがとうございます。グラットンさん、いいですか?
「勿論だ。ビウス、部屋の用意を」
「かしこまりました」
「あ、ブランスさんは……」
「いいよ。バイザーと仲良くやれるかはしらんが」
……大丈夫かなぁ。
「そんなことより……連れ去られた2人が心配だな」
「……はい」
ティア、アスナ……早く……。
「その時の状況とか、攫った相手のことなんかはまだ聞いてないんだろ?」
「あ、俺が聞いたのは今話したので全部です」
「分かった。とにかく話を聞こう」
「じゃあ、すぐに連れてきます」
「ロード」
「は、はい?」
部屋から出ようとしたところで、バーンさんに呼び止められた。
「分かっているとは思うが、焦りは禁物だぞ」
「ッ!」
……本音を言えば、今すぐにでもシュメール城に乗り込みたかった。
いや、本当に城の地下にあるのかはまだ分からないが、今こうしている間にも、2人が何かされているんじゃないかと思うと……。
それを出さないように、なるべく考えないようにしていたのだが、バーンさんにはバレていたようだ。
「いけるな?」
「……はい。みんなを連れてきます」
「ああ」
部屋を後にし、長い廊下を歩く。
みんながいる玄関先までは一本道だ。
「2人が連れ去られたのはついさっき……」
あ、つい口に……やっぱり焦ってるんだな俺は。
まだ大丈夫……きっと大丈夫だ。
けど、もっと前に捕まった人達は、今この瞬間にも……どちらにせよ、急がなきゃならないのは間違いない。
バーンさんがどう考えているかは分からないが、出来ればここ2、3日の間に――――
「ロード様?」
「うおっ!? あ……」
気付くと、みんなを待たせていた場所まで戻っていた。
やばいな……少し落ち着かないと……。
「大丈夫ですよロード様……必ずまた会えます」
そう言って、レヴィはニコッと笑った。
「……ああ。そうだね」
ありがとな……レヴィ。
「で? 俺達はいつまで待てばいいんだ?」
「あ、すいません! 話は通しましたから行きましょう」
待ってろよ……ティア、アスナ。
必ず助けに行くからな。
―――――――――――――――――――――
カレンをこの屋敷の執事さんに預けた後、私達はロードさんの後に続き、赤い絨毯が敷かれた長い廊下を歩いていた。
ふと見ると、壁には高価そうな絵画が飾られ、通路の両端には、これまた高価そうな彫刻や鎧などが並べられている。
本物のお金持ちって感じね……。
「失礼します」
やがて辿り着いた大きな扉。
ロードさんは、二度ノックをした後にそう声を掛け、ゆっくりと扉を開いた。
するとそこには――――
「ッ!?」
こ、この人は……!
「こりゃまた……とんでもねぇ大物がいたもんだ」
か、神殺しのバーン……!
ロードさんが連絡を取り合ってる仲だって言ってたけど、まさかこの国に来てたなんて……。
「一応自己紹介しとくぜ。バーンだ。よろしくな」
「あ、は、初めまして……シェリルです。よろしくお願いします……」
「バイザーだ」
「よろしくな。あんたの噂は耳にしてるぜ」
「フン……どうせろくでもない噂だろ?」
「いや……あんたがいたから、この国は体裁を保てたと俺は思ってる。やり方はまた別の話さ」
「……そりゃどうも」
と、とんでもない魔力同士がぶつかり合って、頭がクラクラしてきた。
バーンさんとバイザーさんは勿論だけど、銀髪の女の人もやばいし、あっちの少し小柄な男の人も……。
「俺らも自己紹介しといた方がいいよな?」
「だな」
「俺ブランス。よろしく」
「ッ!」
……なるほど。
この人があの"箍無し"か。
バーンさんを初めとするSSSランクの顔は情報誌で見ていたが、ブランスさんのことは知らなかった。
噂は聞いていたから、もっと大柄でおっかない人を想像していたけど……なんだか可愛い感じなのね。年上だけど。
「ワシはグラットン。この屋敷の主で、ブランスの父だ」
「あ、よろしくお願いします」
「とりあえず、人数分の部屋は用意しておいた。警護の者も増員しておる。安心して過ごしてくれ」
「部屋を……?」
「まだその時の状況を聞いてないからなんとも言えないが、ティアとアスナを連れ去った奴らが、再び君達を狙う可能は高い。ギルドからここまではロードの力で転移してるし、仮に見張られていたとしても、今は見失っている筈だ。ここから動かない方がいい」
なるほど……確かにバーンさんの言う通りだ。
「では、そうさせていただきます」
「うむ。何かあれば遠慮なく言ってくれ」
「すいません……お言葉に甘えさせていただきます」
「ん、次は私か。というより……私もした方がよいかな?」
「あー……まぁ、一応しといた方がいいんじゃないか? 信じるか信じないかは任せよう」
「分かった。我が名はバハムート」
……ん!?
バ、バハムー……えっ!?
「バ、バハムートって……あのバハムートか?」
「ああ。この身体は魔力と血で作った分身体だ。竜の身体は別の場所にある。故あって、今はロードと行動を共にしていてな。此度のことにも協力するつもりだ。よろしく頼む」
……とんでもない面子ね。
でも、おかげで希望が見えてきた。
この人達が協力してくれるなら……きっと……。
「じゃ、自己紹介も済んだし、早速本題に入ろう。座ってくれ」
バーンさんに促され、私達はそれぞれ椅子に腰掛ける。
それと同時に、さっきカレンを連れて行ってくれた執事さんが、人数分のカップを手に現れた。
「執事頭のビウスだ。何かあれば彼に」
「ビウスです。よろしくお願い致します」
「あ、よろしくお願いします」
「カレン様はメイドに任せてきましたので、どうぞご安心下さいませ」
「はい。ありがとうございます」
「さて、まずは2人に、今俺達が置かれている状況を話そう。信じられないこともあるかもしれないが……ほぼ間違いないと思う。心して聞いてくれ」
「はい……」
そうして、バーンさんは語りはじめた。
この国……いや、この世界に潜む……巨大な闇を。




