第388話:繋
「――――それで、私はティタノマキアのメンバーに……なったんです」
「そういうことか……」
それにしても、これで彼女の名前に聞き覚えがある訳が分かった。
竜族の侵攻が起こる前、俺はギリシアで療養中だったアルメニアの竜狩り騎士団団長であるマリアナさんから、アルメニア王に酷いことをされていた"無能"……シェリルの名前を聞いていた。
「あの日差し出された……血に塗れたジェイドの手……私には、それを掴むことしか出来ませんでした」
「俺も同じ立場なら……多分そうしていたと思う。君は悪くない」
……俺は運がよかっただけなんだろう。
同じような絶望の中で、クラウンさんと……レヴィに会えたから。
「……ありがとうございます。それで、私のティタノマキアのメンバーとしての日々が始まりました……最初はただ楽しかった。歳が近い女の子もいて、その子のおかげで久しぶりに笑えて……でも、初めて与えられた任務が、このカレンを連れてくるというものだったんです」
「じゃあこの人も……」
「はい。元"無能"です」
「やはり……ティタノマキアには、人を探すような力を持つ人物がいるんですか?」
「あ、います。名前はムム。千里眼魔法の使い手で、それとは別に予知夢という能力があります」
千里眼魔法に予知夢か……そっちはスキルだな。
「千里眼魔法は、1ヶ月以内に見た人物を1日に1回だけ、どこにいても見ることが出来る力です。予知夢は、今の自分、ないし仲間にとって、必要なものや人物などの情報を夢という形で見られるとか」
「なるほど……だとすると、顔を隠していても無駄ってことか」
「あ、今はロードさんのことを見失っています。メンバー全員に、ロードさんを見つけたら報告するようにと通達がありましたから。なので、予知夢で見られない限り、居場所がバレることはありません」
「そうか……まぁ、まだ一応隠しておこうかな。この町に奴らがいる可能性もあるし」
「あり得なくはないですね」
「それでシェリル様? あなたはどうしてティアやアスナと?」
「あ、はい。では、話の続きを……」
彼女にとって、初めての任務。
それは、名前は勿論、正確な居場所も分からない"無能"を見つけ出し、仲間に引き入れるというものだった。
手がかりは、ムムというメンバーが見た予知夢。
そこには、ニーベルグ第二の都市であるフォッケンが映っており、どうやらその近辺にいるらしいということだったそうだ。
そして、シェリルはそこで……ティアとアスナに出会った。
「私が下手を打って、ガラの悪い連中に拉致されそうになっていたのを……2人が助けてくれたんです。私は毒か何かを飲まされた所為で気を失って……次に目を覚ますと、そこはティアとアスナが借りた宿の一室でした。それから、いろんな話を2人としました。ただ、その時は……2人は陽の当たる世界の住人で、とにかく眩しくて……羨ましく思ってました。ティアとアスナも"無能"と呼ばれてたなんて……全然知らなかったから。それで、2人が寝たあと、仲間が私を見つけてくれて、私は書き置きして部屋から出ました。もう二度と会うこともないだろうと思って……けど、そうじゃなかった」
その後の話をまとめると、シェリルの中にあった迷いを感じ取った2人は、今度は彼女を追って北へと向かった。
その道中、ニーベルグの騎士団長であるディンさん……ケルトで会ったことがある人だな。
それからズィードさんとも合流……それが伝言にあった"強い味方"か。
で、4人は紆余曲折あってオトリスへと辿り着き……。
「ティタノマキアに入り、一度はそういうことを決意した私に、何も言う資格なんかないことは分かっています。けど、カレンを強引に連れ去って檻に閉じ込めた時……分からなくなったんです。自分の中にあった微かな迷いが、抑えきれないくらいに大きくなって……そんな時、2人が目の前に現れたんです。ディンさんとズィードさんも一緒に」
「そうか……それでティタノマキアから君は……」
「しかし、よく抜け出せましたね。オトリスこそが奴らの本拠地だった訳ですよね? いかにディン様とズィード様がいたとはいえ……」
「運がよかった……としか言えません。脱出作戦を決行する直前、クロスを含めた主要メンバーが城を離れたんです。レアに侵入者がいて、それを排除する為に」
レアに侵入者……あ……!
「ひょっとして……城から脱出したのは2ヶ月くらい前のことか?」
「えっ……そ、その通りですが……」
「やっぱり……レヴィ、多分その時にバーンさんは奴らと……」
「なるほど……確かにそうかもしれませんね」
「バーンって……"神殺し"の?」
「うん。バーンさんとは連絡を取り合ってる仲なんだ。ティタノマキアとやりあったっていうのは聞いてたから……」
「あ、だったら間違いないです! その日、クロスは"神殺し"が侵入者だと言ってましたから。ムムが予知夢で見たらしくて……それで彼らは動いたんです」
色々なことが裏で繋がっているような……果たして全部偶然なのか?
「ありがとう……そこまではよく分かった。あとは、なんで4人だけで……そして、何故この国に来たんだ?」
「……ディンさんが立てた作戦は、ズィードさんが囮になるものだったので、あの人とはそのままオトリスで別れました。ディンさんとはニーベルグ領で。一度ニーベルグ城に帰らなければならなかったみたいです。で、私とカレンはムムに見られてますから、千里眼魔法をカレンの魔法で防ぎつつ、彼女の魔法の効力が切れるように少し遠回りをしてここへ。目的は……シュメールの"無能"を助ける為です」
「ッ! ロード様……!」
「ああ……残念だけどそうらしい」
疑惑が確信に……ブランスさんはキツイだろうな。
「あ、あの……ひょっとして知っていたんですか?」
「……いや、そうじゃないか、ってところだったんだけどね……因みに、シェリルはそれをどうやって知ったんだ?」
「わ、私はクロスからそう……」
クロスが……なら、もう間違いないのだろう。
シュメールは人を攫い、更に"無能"を利用して何かをしている。
確実に、よくはない何かを。
そして、ティアとアスナはそれに巻き込まれた。
救わないと……絶対に……!
「アヴァ……いや、もうロードでいいな」
「あ、はい……」
「今の話……俺にも詳しく聞かせろ」
……バイザーさんもシュメールで生まれ育った人だ。
無関係ではないし、事情を話せば協力してくれるかもしれない。
「そうですね……分かりました。なら、今からブランスさんの家に行きましょう。ティエレン!」
手帳から、流転の杖を引き抜く。
「この杖には、一度行った場所になら一瞬で転移出来る力があります。さっきもこれを使ってここへ来ました」
「あ……だからあんなに早かったのね」
「はい。じゃ、みんな俺に掴まってください。シェリル、カレンの手を握ってくれ。そうすれば一緒に移動出来る」
「わ、分かりました」
「ミュン、お前は残れ」
「え!? な、なんでよ!?」
「これは俺の想像だが、多分かなりヤバい話だ。だから……頼む」
「う……」
以前見た、バイザーさんの鋭い視線。
だが、今のそれは少し違っていた。
「ミュンさん……俺もその方がいいと思います」
「…………分かった」
「ん、ありがとな」
「でも! 約束して! 必ずみんなで帰ってきて! いい!?」
「はい、勿論です」
「……必ず戻る」
「絶対だからね!」
そうして、少し涙目になったミュンさんを残し、俺達はブランスさんの家へと転移したのだった。




