第390話:白
「――――以上だ」
「……」
なんと言えばいいか……分からなかった。
全く知らない物語を、目の前で一気に朗読されたような……そんな感じとでも言えばいいのか……。
「……現実味がねぇな」
そう……私も同じ感想を抱いた。
"無能"という概念。
ティタノマキア。
勇者ロイの真の姿。
北の戦乱。
誰も知らぬ間に動き始めていた魔族。
神の使いを自称するフェンリル。
竜族の侵攻。
そして、シュメールの闇。
どれもが驚愕の内容だった。
そのほとんど全てに、ロードさんが関わっていることも含めて。
ただ、今挙げたのはまだ理解というか、想像出来なくはない範囲……いや、だからといって、勿論すぐに飲み込める話ではない。
けれど、最後に聞いたそれは、理解とか飲み込めたとかそういうレベルではなく、全く考えたこともないというか……。
「えっと……神様はいっぱいいる……あ、いや、いたんですか?」
私にとって神様とは……魔法を与えてくれる偉大な存在。
神様はただ神様で、複数いるなんてことは考えたこともなかったし、なんかこう……違う次元?
いて当たり前で、あって当然で、なくてはならないもので……とにかく、神様について深く考えたことなどなかった。
「どうやらそうらしい。今どうなっているかは分からないが、少なくとも2人はいるみたいだな」
えっと……フェンリルの頭から話しかけてきた女と、竜王ヨルムンガンドの前に現れたハデス……だっけ?
私は名前を聞いてもピンとこないが、かつて聞いたことがある人は思い出すこともあるらしい。
そもそも、世界から神様の名前を消すことなんて出来るのだろうか?
……神様だからなんでも出来るの?
というか、千年前に神様同士の戦争があって、それで今の状態に?
"無能"も千年前に生まれた概念らしいから、何か関わりがある?
……私の頭では、まだ理解出来そうもない。
「ま、とにかく今言ったことが現状だ。勿論今すぐに理解しろなんて言わねぇ。それより、今一番重要なのは……ティアとアスナのことを含めた、このシュメールの闇をどうするか、だ。まずはそこから始めよう。後の話は追い追いでもいい」
確かに……今考えなければならないのは2人のこと……。
それ以外は、とりあえず頭に置いておくだけにしよう。
「話は……まぁ、大体分かった。シュメールのことも含めてな。だが、今回のティアとアスナの一件……シュメールがやったとは限らねぇんじゃねぇのか?」
あ、確かに……。
「言っとくが、別にシュメールを擁護したい訳じゃねぇ。もしそういったもんを生業にしてる奴等が他にいた場合、ティアとアスナを助けんのが遅くなる。そいつはまずいんじゃねぇか?」
「その点については俺も考えた。あんたの言ってることも正しい……が、もし仮に俺がそういう奴等なら、まず冒険者は狙わない。特に今なんか、他国からの観光客がわんさかいるしな。そっちを狙った方が遥かに楽だろう」
「……一理あるな」
「ああ。恐らく、冒険者の失踪が多いってことは、冒険者じゃなきゃならねぇ理由があるんだろう。それが何かは分からないがな。とにかく、まずはシェリルから話を聞きたい。その当時の状況をな。そこから見えるもんもあるだろう。頼めるか?」
「あ、はい……分かりました。えっと、あれは今から1……時間くらい前だったと思います。私達は採取の依頼を受けて、それが群生している地域へと向かって……」
―――――――――――――――――――――
「んぎぎ……ぷはぁっ! や、やっぱり触れないよぉ! なんでぇ!?」
「へっへっへっ……すげーだろー?」
前を歩くティアとカレンから、そんな会話が聞こえてくる。
まったく、また魔力を無駄遣いして……。
「カレン! ほどほどにしときなさい! 肝心な時に魔法が使えなくなるわよ!」
カレンの魔法は強力だけど、それに比例してか魔力消費が通常より多い。
加えて、魔法を使えるようになってから日が浅いこともあり、まだまだ魔力の使い方が下手だった。
「わぁってるっての! ったく、あんたあたいのお母さんかよ!」
「おかっ!?」
ひ、人が心配して言ってるのに……!
「まぁまぁ……これも練習だと思ってさ。大目に見てあげようよ」
「アスナ……」
甘いわね……甘い。
そんなこと言ってると……。
「あ! なんかさ! アスナの方がお母さんっぽいね!」
ほらね。
調子に乗るのよ。
「……ティアァァァァアッ!?」
「わー! お母さんが怒ったぁー!」
「おっかねー! 逃げようぜ!」
「あ! こらぁー! あんまり離れないのー! 待ちなさーい!」
「……ふふっ」
こんな日がずっと続いていけばいい。
素直にそう思う。
だからこそ、今苦しんでいる人を救ってあげたい。
"あなたも一緒に行こう"って……そう言ってあげたい。
たとえそれが、どんなに難しいことであっても。
―――――――――――――――――――――
「あったぁ?」
「こっちにもなーい」
そんなやりとりを繰り返しているうちに、私達は目的の場所であるシュメール南東の森へと辿り着いついた……のはいいのだが……。
「赤と緑と黄色の花びらだっけ?」
「違う違う。赤と青と紫だよ。その花の草が必要なんだって。んで、生えてるのは、こういう木の根元らしーよ」
カレンの問い掛けに、ティアがそう返す。
それを受けて、カレンが再び辺りを見回すが……。
「あー……まぁ、どっちにしろねーや」
どれだけ探しても、目的の薬草が見つからない。
ミュンさんはすぐ見つかると言ってたけど……。
「おかしいなぁ……場所あってるよねぇ?」
そう言いながら、アスナが地図を広げる。
私も横から覗いてみたが……うん。
やはり場所は間違っていない。
それに、もう一つおかしいことがあった。
「つかよ、まだ魔物にも遭ってなくね?」
「あ……そういえば、強い魔物がそれなりにいるから気を付けてって……ミュンさんそう言ってたよね?」
そう……それもおかしい。
そもそも、採取であるにも拘わらず、この依頼がBランクなのは、一定の強さを持った魔物が多く出現する地域に目的の薬草があるからだ。
「ええ。森に入ったら、絶対に気を抜いちゃ駄目よって言ってたわね」
「んー……とりあえず、もうちょっと奥に行ってみよっか。手前に生えてたのは、もう取られちゃったのかもしれないし」
「確かに……あり得るね」
「つーかよ、ティアの魔法でどうにかなんねーのか? 自然魔法ならなんか分かるんじゃねーの?」
「うーん……そういう魔法じゃないからなぁ……風に乗った魔力の匂いを感じたりは出来るんだけど、その薬草の匂いを知らないし、そもそも魔力があるのかも分からないし……」
「とにかく、ないんだから進むしかないね。ほら行くよ。いざとなったら、ティアに飛んでもらえば帰り道は分かるし」
「そうすっかぁ」
そうして、私達は更に森の奥へと進んでいった。
しかし、やはり薬草は見つからず、魔物の姿もないまま……と、その時――――
「ん? あ! あれじゃない!?」
その声に反応し、私達は一斉にティアが指差す方向へと視線を向ける。
すると、少し開けた空間の真ん中に、カラフルな色をした花が大量に咲いているのが見えた。
「赤、青……紫! あれだ!」
「ふー……やっと見つかったなぁ」
「そうね。ん? でも、確か生えてる場所って……」
何か引っかかる。
なんだろう……この胸のざわつきは……。
「いっちばーん!」
「あ! そうはいくかー!」
そう言って駆け出したティアを追い、アスナも一緒に走り出す。
「ちょ、ちょっと待っ……ッ!?」
次の瞬間、視界が白に覆われた。




