第380話:失踪者
「シュメールに……裏……?」
……待てよ。
奴らが関わっているということは、それってつまり――――
「……気付いたかロード」
「ええ……奴らが関わっている以上、その先には……"無能"と呼ばれる人がいる筈です」
「……おいおい、嘘だろ?」
「そう……そして、奴はシュメールという国の名を出した。特定の個人ではなくな」
「つ、つまり、"無能"と呼ばれる人を……国ぐるみで利用――――ッ!?」
俺を止めるかのように、ブランスさんの拳が机を強く叩いた。
「お、俺の国が"無能"を……アルメニアのようにか!? 冗談じゃねぇぞッ!」
「……落ち着けブランス。まだ完全にそうと決まった訳じゃない」
「ハッ! 聞いてた限り、お前がレアを離れてから大分時間が空いてるよなぁ!? んで、ロードや俺に協力しろってことはだ……ある程度根拠があるってことだろうが! 長い付き合いだから分かってんだよッ! そうなんだろ!?」
「……まぁ、な」
「クソッ!」
「ブランスさん……」
そうだよな……。
自分の国が裏で非道を働いていたとしたら、やっぱり悲しいだろうし、きっと同じくらい……悔しいだろう。
俺だってニーベルグがそうだったら……裏切られたと……。
「聞かせろよ……それ」
「ああ……だが、本当に"無能"が関わっているかについては分かってないんだ。それだけは最初に言っとくぜ」
……つまり、"無能"が関わってるかどうかは別として、何かがあるのは間違いないってことか。
ケルト王であるオーランド様は、確かシュメールのことを"悪い噂のない国だ"って言っていた。
シュメール王のことも褒めていたし、いったいこの国で何が……。
「気ぃ使わなくていいからよ……さっさと話せや」
「分かった。まぁ、手がかりと呼べるものが何もなかったから、小さな異常を見つける為に、とにかく色々調べてみた。人口の推移から犯罪率、あとは冒険者の出入りや、近年改正された法律なんかをな。で、引っかかったのは二つ。一つは、この国の成長率だ」
「成長率……国がでっかくなったことか?」
「そうだ。5年前、先代シュメール王の死とともに、長男で王位継承者だった現国王のロバートが後を継いだ訳だが……シュメールはそこから急成長を遂げている。首都であるこの町の敷地面積は、5年前に比べて約1.5倍。しかも、そのほとんどがここ1、2年で増設されている。はっきり言って異常だ」
「確かに……あまりにも早過ぎますね」
「ああ。とはいえ、こっちにはまだある程度の説明がつく。例えば有事の際……まぁ、有り体に言えば、どっかの国と戦争になった場合とかだな。その時に使用する予定にあった蓄えを回したとか、冒険者誘致の政策が思いのほか上手くいき、そのおかげで資金に余裕が出来たとか……あとは、これはあくまでも俺の推測に過ぎないが、ロバート王はオリンポス王であるザディアックと仲が良い。だから、表には出ない形での資金援助を受けていた可能性もある」
なるほど。
確かにあり得そうな話だ。
「まぁ、それにしたって莫大な金が動いてるのは事実だ。その出どころが不明瞭な以上、怪しいと言わざるを得ない」
「そう言われると……確かにな。で、二つ目は? お前的にはそっちのが引っかかってんだろ?」
「ああ。二つ目は、この国に関連する……失踪者の数だ」
失踪者……その言葉に、俺はすぐさまソフィアのことを連想していた。
彼女の両親も、半年ほど前に忽然と姿を消して……まさか、何か関係があるのか?
まだ本調子じゃないから、家で休むように言って出てきたが……。
「さっきも言ったように、俺はこの国に関することをかなり細かく調べた。これはよろしくない常識になっちまってるが、国がでかくなると人口が増え、それに比例するように犯罪率も上がる。罪を犯すような連中は、人が多く集まる場所に金の匂いを感じるんだろう。で、この町も御多分に洩れず、人口の増加ともに犯罪率が爆発的に増えた。だが、それを見事に抑え込んだ奴がいる」
「あ、バイザーさん……ですね」
「そうだ。シュメール3本指の1人……"爆蓮"のバイザー。後の2人は言うまでもないな」
シュメール冒険者ギルドマスター、"王翼"のウルフリックさんと、今ここにいるブランスさん。
3人とも、シュメールでは最高のSSランク冒険者だ。
「バイザーの力は絶大だった。犯罪者に対する一切の慈悲を持たない姿勢……やり方はともかくとして、結果的に犯罪は激減し、町には平穏が戻った。だが、国が変わり始めた時から今に至るまで、全く変わらなかったものがある」
「それが、失踪者の数……ですか」
「そうだ。現在、シュメールの人口は約100万人。で、ニーベルグ領にフォッケンって町があるんだが、こっちは大体300万人ってとこかな。そのフォッケンで出された失踪者の捜索依頼は、1年間でおよそ200件。表に出ていないものもあるだろうから、実際にはその倍以上とみていいだろう。だが、そのフォッケンより人口が少ない筈のシュメールで出された捜索依頼は……年間で400件を超えている」
「よんひゃっ!?」
「分かってるだけで倍かよ!?」
バーンさんはこくりと頷く。
これは……確かに異常だ。
「とはいえ、さっきも言ったように、人口が爆発的に増えれば様々な問題が溢れ出す。だからこの数字は、まだまだ落ち着いていないからだとも考えられる。だが、今言った数字はあくまで一般から出されたものだ。つまり、冒険者の数は含まれていない」
「え? あ、それって……」
「フォッケンの冒険者ギルドが把握している未帰還依頼……冒険者が依頼に出たまま、ギルドへ戻らなかった数な。それが年間で約100件。それに対しシュメールは……約500件だ」
「えぇっ!?」
そんなに……!
「ただ、そもそもシュメールとフォッケンでは冒険者の数も違うし、依頼のレベルも違う。越境合同依頼案が成立している今、ここにはオリンポスやケルトから、それなりに難易度の高い依頼が舞い込んでくるからな」
「それにしたって多過ぎ……す、少なくとも500人が……ってことですよね?」
「いや、こっちの場合はまた別だ。未帰還ってだけで、実際には逃げ出している場合もある。"未帰還イコール死"って訳じゃない。それに、パーティを組んでる場合もあるから、正確な人数は分からない」
「あ、なるほど……」
「因みに、ケルトでの未帰還依頼は年間で約150件程度。オリンポスも似たようなもんだ。シュメールより依頼の数も難易度も上でこの数字だから、どちらもかなり優秀だと言えるな」
「そりゃ……その2国には各地で名を上げた奴らが集まってっからな。今この国に来てんのは、そこら辺からあぶれた連中だ。多少質が悪いのは当然だし、逃げ出す奴が多くても不思議じゃ――――」
「そう……それだ」
「あ?」
「そ、それだって……どういう意味ですか?」
「冒険者ギルド本部は、毎月各支部から報告を受けている。シュメールの数字は、本来なら監査が入っていてもおかしくないものだ。しかし、それにも拘わらず、未だになんの調査も行われていない」
「そ、そりゃ……まさか……」
「ああ……理由の一つとして考えられるのが、さっきブランスが言ったことを、そのまま本部にいる連中も考えてるってことだ。失踪者が多いのは、"人が爆発的に増えたから"であり、未帰還依頼が増えたのは、"依頼に冒険者の質が追いついていない"からだと」
……あり得る話だ。
事実、俺もそう思った。
バーンさんは俺達がそう考えるように、意図的に話していたんだ。
そして、それはそのまま……未だに調査が入っていない理由になる。
「……みんな理解したようだな」
沈黙が、そのまま答えとなっていた。
そして、バーンさんは静かに言葉を続けた。
「俺は……シュメールが今の状況を意図的に作り出したと、そう考えている。そして、失踪者の中には……シュメールに攫われた人間がいるとな」




