第379話:裏
「…………マジ?」
俺とバーンさんからここまでの経緯を聞き終え、しばらく呆然とした後、ブランスさんはやっぱりそう言った。
因みに、今いるのはブランスさんの家で、既にアスクレピオスによるアプルさんの治療は始まっている。
「マジだ」
「あー……いや、なんか凄いことになってんだろうなーとは思ってたよ? でも……あー……」
ブランスさんにはまだちゃんと話してなかったからな……こうなるのも無理はない。
「ん……で……その銀髪の……蒼い目をしたねーちゃんが……?」
「バハムートだ。宜しく頼む」
「マジかよ……クソ可愛いんだが」
「フ……その言葉、有り難く受け取っておこう」
そう……バハムートさんの提案とは、"分身体を一緒に行動させて欲しい"というもの。
当然断る理由もなく、むしろバハムートさんという強い味方が増えることは大歓迎だった俺達は、その提案を二つ返事で了承し、空間転移が出来る杖であるティエレンの力を使い、みんなでこのシュメールへと戻っていたのだった。
「んじゃ、ここまではいいな?」
「え? あ、いや……まだ全部は飲み込めて……」
「まずは、今回俺がレアに潜入して掴んだ情報から話そう」
「聞く気がないなら聞くんじゃねーよ……」
ブランスさん……。
「結論から言おう。既にレアは……ティタノマキアの手に落ちている」
「なッ……!?」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、間違いない。アリスの目で"視た"からな。恐らく今いる王族……というか、主な要職についてるほとんどの人間達は、フェイクって奴が作った偽物だろう」
フェイク……イストに現れたあいつか。
それにしても、アルメニアに続いて国を二つも……なんて奴らだ……。
「因みにバーン様……レアは今どんな状況なんですか?」
「……酷い有様だよ。財産は没収、男は強制的に徴兵され、女子供は食料と武器の生産……で、それに逆らった奴は公開処刑。かつて平和を謳った国の面影は微塵もない。今はただの戦争国家になっちまってる」
「……恐ろしい連中だな。僅か数人で国を意のままに……」
「ああ……恐らく相当慎重に、そして用意周到に、それなりの時間をかけてゆっくりと乗っ取っていったんだろう。そう考えると、奴らが一旦姿を消したのも頷ける」
あ……そうか。
バーンさんと最初に話した時、そこで俺はティタノマキアの存在を知った。
で、バーンさんはその時、"数ヶ月は大人しかった"って言ってたっけ。
多分、その間に国を……。
「まぁ、とにかくだ。北の戦乱を招いたのはティタノマキア……それは間違いない」
「いったいなんの目的で……」
「そこまではまだ分からねぇ。チャンスはあったんだがな……」
「チャンス?」
「ああ。ある程度情報を集め終わった段階で、ザワンの奴が公開処刑を止める為に暴れちまったんだ。で、そろそろ潮時と判断し、レアを脱出しようとした矢先……奴らと戦闘になった」
バーンさん達がティタノマキアと……!
「ザ、ザワン様はご無事で?」
「フッ……あいつは殺したって死なねぇよ。今はアリスと一緒にニーベルグ城にいる。ニーベルグ王には、あいつらから話が伝わっている筈だ。じゃ、話を戻すぞ。俺達が交戦したのは4人。さっき言ったコピー使いのフェイク、名前は分からねぇが、でかい獣の姿をした奴、平面を移動する力を持つジェイドって男、それから……驚異的な再生能力を持つ、チャムリットって女だ。で、ロードに伝えなきゃなんねぇことがある」
「俺に?」
「ああ。そのチャムリットが持ってた剣についてな」
「剣……ですか?」
「奴はそれを"リーダーから貰った"と言っていた。そして、禍々しい魔力を放つそいつを……魔剣フルンティングと、そう呼んだ」
えっ……ま、まさか!?
「メル……!」
俺はすぐさま黒い手帳へと魔力を込める。
やがて現れたメルは、真剣な表情を浮かべて俺に頷いた。
「魔剣フルンティング……ここから出て行った内の一つだよ」
「や、やっぱり……ってことは、ティタノマキアとフェンリルは繋がって……!」
「前にそう聞いてたから、チャムリットに"フェンリルって知ってるか?"って聞いてみたんだ。だが、あの様子から察するに、マジで知らない感じだった」
「え……」
ど、どういうことだ?
あの時奪われたものだというのは間違いない……ということは、リーダーであるクロスだけがフェンリルと?
「とにかく言えることは、神の使いであるフェンリルと、ティタノマキアにはなんらかの関係があるってことだな。あと気になるのは、奪われた魔剣の内、奴らが俺に対して1本しか使わなかったってとこだ。出し渋ってる感じもなかったし、チャムリットにしか与えられてなかったっぽいが……」
「フルンティングは持ち主の身体に破滅をもたらす代わりに、絶大な力を与える諸刃の剣……確かに再生能力持ちなら、これ以上ないってくらいにもってこいの武器かも。他の魔剣にも結構キツいデメリットがあるから、そこらへんが上手く噛み合わなかったのかもしれないね」
「なるほど……つか、あの手帳にも魂があったんだな」
「あ、紹介が遅れました。この子は手帳の魂で、名前は"納める者"……通称メルです」
「ほー……メルちゃんか。つか、君可愛いね」
「か、かわっ……!」
「俺ブランス。よろしく」
「あ、えっと……中からいつも見てるから、みんなのことは知ってるよ。よろしくね!」
「じゃ、自己紹介はいらないな。で、メル。他の魔剣もあれくらい厄介なのか?」
「う、うん……使い過ぎれば危ないけど、上手く使えばとんでもないことになると思う。対抗出来るのは、伝説の武具を持ってるロードくらい……だと思ってたんだけど、バーンさんってやっぱり強いんだね」
「まぁ、お前が無事ってことは、そういうことだもんな」
「まぁな……フェイクには逃げられたが、獣の姿をした奴の両腕は落としたし、ジェイドって男は顔面に拳をぶち込んで倒した。で、チャムリットは心をへし折って、捕らえる寸前までいったんだが……そこにクロスが現れてな」
「ク、クロスが!?」
「敵の大将が直々にか……で、やったんだろ?」
「……そのつもりだったんだがな。引かざるを得ない事情が出来ちまった」
引かざるを得ない事情……あっ……。
「ひょっとして……それがバーンさんが闘技大会にいた理由ですか?」
「そうだ。奴は俺に"手を引け"と言った。当然従うつもりはなかったが、クロスは続けてこう言ったんだ。"シュメールに仲間がいる"……とな」
「マジかよ!?」
「ロ、ロード様……!」
「……うん」
奴らの仲間がこの町に……まずいな。
顔を隠していたとはいえ、やっぱり闘技大会に出たのは間違いだったかもしれない。
「なるほどな……それでお前は手を引いた訳だ。シュメールの民が犠牲とならぬように」
「そういうことだ。まぁ、今もいるかは分からないがな。それともう一つ……奴がその後に言った言葉も重要だった」
「ク、クロスはなんて言ったんですか?
「……"シュメールには裏がある"。奴はそう言った」




