第381話:証拠
なんとなく……途中からそうじゃないかとは思っていた。
でも、信じられない。
シュメールが、国というものが……そんなことをするなんて。
「おま……つ、つまり何か? シュメールはわざわざ……ひ、人攫いをする為に今の状況を作ったって……そう言いてぇと? んで……何百人も攫ったってのか!?」
「……全部が全部そうじゃない。マジに行方不明になってる人だっているだろうさ。ただ、人を攫ってるのは間違いない」
「いやいやいや! いくらなんでも発想が飛躍し過ぎだろ! た、確かに異常な数字だが……資金の時みてぇにある程度の説明はつくじゃねぇか!」
ブランスさんの言ってることも正しい。
でも、多分バーンさんには……。
「悪いが……こっちには、まだ話していない明確な根拠……いや、もはや証拠と言ってもいいもんがある」
「んなッ!?」
……やっぱり。
「しょッ……証拠ってなんだよ!?」
「いいかブランス……俺がある程度の調査を終えたのはな……あの闘技大会が始まる1週間ほど前なんだよ」
「はぁ? そ、それがいったいなんだって……」
1週間前に調査を終えて……つまり、バーンさんは明確な目的があって闘技場に潜入していたってことだ。
恐らくそれは、調査を裏付ける何かを得――――
「あっ……!」
その時、俺の頭の中に、ある人物のことが浮かび上がる。
俺はその人を治す為に医務室へと向かったのだが、既にその人は……いなくなっていた。
「コスモさん……」
「えっ? あ……そういやロードお前……コスモは城で……治療するとか……!」
「……そうだ。俺も直接何かを見た訳じゃない。だが、コスモは闘技場から忽然と消え、あいつに付き添っていた騎士団の連中もいなくなっていた。恐らく、強制的に連れ去られたんだろう。それだけじゃない。俺は事前に潜入し、参加者のリストを写してあってな……念の為、人を雇って確認させておいたんだ。闘技大会終了後に、"出てこなかった冒険者"がいるかどうかを。結果は……言うまでもないな?」
再び、部屋を沈黙が支配する。
その時、ブランスさんの肩が震えだし、机に置いた手がカタカタと音を鳴らした。
「い、いやお前……あの闘技大会を発案ッ……したのは……ロ、ロバート王だぞ!?」
「だから……そういうことだ」
「わ、わっかんねぇよ! はっきり言ってくれッ!!」
ブランスさん……。
「……闘技大会の目的。それは、シュメールをアピールする為でも……ましてや、世界に明るい話題を提供することなんかじゃない。開催した真の目的は、合理的に、かつ安全に、多くの冒険者を攫うことだ……シュメール国王の指示の下に」
「ッ!」
……なんてことだ。
け、けど、いったいなんの理由があってそんなことを……?
「因みに、消えた冒険者は全て他国の出身……それも、単独で入国している者に限られている。これならいきなり消えても気付かれにくい。そもそも、闘技大会の参加条件が緩すぎる時点で怪しかった。"一度でもシュメール冒険者ギルドで依頼を完遂していること"……こんなもん、他国出身者大歓迎って言ってるようなもんだ」
確かに……ニーベルグの場合は、自国出身者という制限があった。
まぁ、シュメールみたいに今更国をアピールする必要もないし、あくまであれは自国の発展を願ってという色が強い。
でも、シュメールの闘技大会は違う。
依頼のランクに制限がないから、どんな簡単な依頼でも完遂さえしてしまえば問題ない。
賞金も破格だし、もともとシュメールに来ていた冒険者は勿論、他国から更に冒険者が集まるのも当然だ。
「集めた後は簡単だ。目星を付けた冒険者が敗退したら、そっと近付いて声を掛けるだけでいい。"こちらで治療を"でもいいし、"敗退された方はこちらへ"なんかでもいいだろう。敗れたことによる憔悴や、戦闘による疲労や負傷……そんな中で、運営側にそう声を掛けられたら、警戒出来るやつなんかまずいない」
「確かに……」
「ロード様これは……」
「ああ……もう間違いないみたいだ」
目的は分からない。
けど、シュメールは確かに人を攫っている。
あ、ってことは……ひょっとしたらソフィアの両親も……?
「……で? お前はこれから……どうするつもりなんだ?」
ブランスさんの声は、いつもとは全く違っていた。
弱々しく……細い。
「外堀は埋まったからな……次は本丸を攻める。攫った人間をどうするつもりかは分からないが、一旦どこかに閉じ込めていると考えるのが自然だ。だから、そこを見つけ出す。まぁ……大体予想はつくがな」
「そりゃどこだ?」
「この町で事が起きている以上、この町のどこかにあるのは間違いない。で、人目につかず、騒いでも気付かれない広い場所……加えて、シュメール国家が先導しているということは、当然王自身も出入りしている筈だ。となると、絶対に見つかる訳にはいかない。そうなれば……答えは一つだ」
「…………シュメール城の地下ってとこか」
「恐らくな」
なるほど……確かに、それが一番安全な場所かもしれない。
けど、同時に諸刃の剣でもある。
「まずはそれを確かめる。というより、本当にそこにあれば、ほぼこっちの勝ちみたいなもんだ。シュメール城の地下に人が大量に囚われていたら、それがそのまま証拠となるからな。それで"気付かなかった"、"知らなかった"では話の筋が通らない。奴らも認めざるを得ないだろう」
「だな……つか、マジで人を攫ってるとして、目的はなんなんだ?」
「今のところは全く分からん。一応、ここ数年のシュメール関連の情報を集めて、それなりに考えてはみたんだが……いまいち決め手がない」
「たとえば?」
「そうだな……シュメールのすぐ隣にある中堅国家バビニア。お前も知ってると思うが、両国はあまり仲が良くなく、互いに競い合うようにして国を大きくしてきた……そうだな?」
「ああ。なんかしらんが仲が悪いな。あそことは。数十年前にでかい戦争をやって、結局決着つかずの痛み分けで終わってる。つか、国境付近での小競り合いは未だにあるし、ひょっとしたら終わってないのかもしんねぇな」
「まぁ、距離も近いし、国土も似たようなもんだからな。所謂好敵手ってやつなんだろうよ。さて、話を戻して……バビニアはもともと工業国家としての面が強かったんだが、ティーターンからの魔石供給が途絶え、工業が成り立たなくなっちまった。動力を魔石に頼ってたからな。そこで、バビニアは自国での魔石採掘に切り替える。まぁ、無かったら終わりの賭けだったんだが……ここでバビニアは、かなりの埋蔵量を誇る魔石脈を見事に掘り当てた。なんでも、向こう100年は軽く保つと言われてる」
ひゃ、100年!?
すごいな……。
「そうなると、当然シュメールは焦る。何故なら、バビニアが今まで魔石購入に費やしていた資金を、まるまる他のこと……それこそ軍事力の強化なんかに当てられるからな。そこで、シュメールはバビニアに対抗する為の新たな資金源の確保を目的に、冒険者業の強化に乗り出した……ってのが表の話で、実際はオリンポスとケルトという、二つの大国と連携を密にすることで、バビニアの攻め気を殺そうという狙いがあるって話だ」
「そんな思惑が……」
「あくまで推測みたいだがな」
「ふーん……で、それが今回の件となんか関係あんのか?」
「関係あるかは分からんが、実はシュメールもティーターンから大量の魔石を購入していたんだ。数年前からな」
「え、そうなん? でも……なんに使ってたんだ? うちは工業とかやってなくて、観光がメインだぞ」
「間違いなく購入してたのと、更に購入しようとしてたっていう情報は手に入ったんだが、何に使ってたかまでは分からなかった。とにかく一つ言えるのは、シュメールは魔石を欲しがっていて、バビニアにはそれが大量にあるってことだな。関係あるかは知らんが」
「あ、ひょっとしてさ……人を攫ってる理由って、魔石掘る為じゃね?」
「いや、その為だけに人を攫わないだろう。普通に人を雇って掘ればいいだけだ」
「……だよな」
うーん……だったら、バビニアから魔石を奪う為の何かに使おうとしてる……とか?
……いや、それも意味分かんないな。
そもそも、バビニアとか魔石が関係してるかすら定かじゃないし……。
「まぁ、とにかくだ……高いリスクを負ってまでやってるってことは、そうしなければならない理由があったってことだろう。なんにせよ、かなり嫌な予感がする」
「ですね……」
「よし、話は分かった。私も出来る限りの力は尽くそう」
「ああ、助かるぜ。あんたがいれば百人力だ」
「フ……あまり頼られても困るがな。今の私では、本来の約10分の一程度の力しかない。清々足を引っ張らないようにするさ。まぁ、正直なところ……あまり世界の歪みとは関係なさそうではあるがな」
世界の歪み……か。
確かにあまり関係なさそうにも思うけど、あのティタノマキアが絡んでいるというのがやっぱり引っかかる。
俺はなんだか、これが様々なことに関係しているような……そんな気がしていた。




