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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第370話:孤独

 

 開始直後――――


「ぐッ……!」


『ブ、ブランス選手ゥッ! いきなりぶっ飛ばされたァッ!』


 まさに光速。

 コスモの姿が消えた刹那、ブランスの身体が宙を舞う。

 だが、ブランスはあらかじめ両手で顔をガードし、その直撃を紙一重で防いでいた。

 とはいえ、攻撃が見えていた訳ではなく、ただ単純に腹部の防御を鎧に任せ、露出していた顔面を守ったに過ぎない。


「いぎッ!?」


 後方へ吹き飛ばされ、両足が地面に着いた直後、今度は彼の背中に衝撃が走る。

 前のめりに倒れそうになったのも束の間、それを無理矢理起こすように、光速の拳が彼の腹部に叩き込まれていた。


『コッ……コスモ選手の姿が見えないままにッ! ブランス選手の身体が何度も跳ねるゥッ!』


『これは……厳しいですね』


 体勢を立て直す隙すら与えない、光速の連続攻撃。

 ブランスは防御に徹し、なんとか耐えてはいたものの、その身体には確実にダメージが蓄積していく。

 このままではジリ貧であると分かってはいるのだが、反撃に転じようにも、喰らったと感じた瞬間には次の攻撃が彼を貫き、一瞬にして反撃の糸口さえ見えない状況に追い込まれていた。


「こ、このままじゃ……!」


「……おかしい」


 それを見ていたロードの口から、疑問の言葉が漏れていた。


「えっ? お、おかしいって……何がですか?」


「ブランスさんは今……間違いなくピンチだ」


『だ、駄目だァッ! やはり全く見えなァいッ! しかしッ! 凄まじい衝撃音とブランス選手の身体の揺れがッ……コスモ選手の力を雄弁に物語っているゥッ!』


「そ、そりゃあれだけやられてたら……あっ……」


「そう……ピンチなのに……魔法が発動してない」


 ロードの言う通り、ブランスは今、窮地に立たされていた。

 防御しているとはいえ、コスモの攻撃の威力は尋常ではない。

 凄まじい速さで打ち込まれるそれは、ブランスの防御を軽々と貫き、彼の身体に深いダメージを与えていた。


 既に攻撃を受け続けた身体は悲鳴を上げており、頭の中では絶えず金属音が鳴り響く。

 更に、骨が軋み、膝は笑い、防御している腕には、もはや力が入らなくなっていた。

 反撃も出来ず、立っているだけで精一杯。

 常人なら既に終わっていたであろう……窮地どころか、もう死地と言っても過言ではない状況である。

 だが――――


「足りないんだ……多分」


「た、足りない?」


「聞いた限り、"勇気魔法"はブランスさんの精神というか、その想いにかなり左右される魔法だ。1回戦の時は、これに勝てばアプルさんが来るかもしれないとか……そんな気持ちがまだあったんだと思う。でも結局……アプルさんは来なかった」


「……つまり、諦めちゃったってことですか?」


「うん……推測だけど、真の意味で"どうでもよくなってしまった"んじゃないかな。今ブランスさんは、なんの為に戦っているかすら忘れてしまってるんだと思う。だから、その迷いが、魔法の発動を止めているんだ。アプルさんがいなくても、その力を見せなければならない人がこれだけいるのに……」


 ロードの推測は、ほぼ全てが当たっていた。

 補足するならば、勇気魔法の発動条件は、実のところ二つある。

 一つは、ブランスが再三語っていたように、自身が窮地だと認識した時。

 そして、もう一つは、ブランス自身ですらしっかりと認識していない魔法の根幹。

 つまり、彼の勇気の源……アプルへの想いである。


 今ブランスは、アプルのことを信じられなくなっていた。

 自身がどのような想いでここに立ち、そして戦っているのか。

 それを理解している筈の彼女が、この場に来ることすら拒んでいる。

 それは、彼にとって何よりも耐え難い苦痛であった。

 彼の心の奥底で微かに芽生えてしまった、アプルに対する負の感情が、勇気魔法の発動を咎めていたのである。


「じゃ、じゃあこのままじゃ……」


「魔法が発動しない限り……ブランスさんは勝てない」


「うぅ……!」


 ロードは懐にしまっていた通信魔石を取り出し、強く握り締める。

 そうして、魔力を込めようとした――――


「うッ!?」


「あッ!」


 その時だった。



 ―――――――――――――――――――――



「がッ……はッ……な、なんで……!」


 発動しない魔法に、ブランスは焦りを募らせる。

 間違いない窮地。

 条件は整っている筈だった。

 だが、想いが足りない。

 彼の鍵《トリガー》である、アプルに対する想いが。


「ぐッ……だ、だったらッ!」


 背後から攻撃を受けた直後、ブランスは防御を捨て、右の拳を前へと突き出す。

 "使えないのならば、魔法など不要"。

 だが、その想いを込めた拳が当たらない薄皮1枚の距離で、姿を現したコスモが口角を吊り上げていた。


「ッ!」


「無駄ですよ」


「あがッ!?」


 コスモが放つ光速の蹴りが、ブランスの側頭部に直撃し、その身体が再び宙を舞う。

 ブランスは数メートル吹き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられると、力なくうつ伏せに倒れこんだ。


『クリーンヒットォッ! 凄まじい一撃にッ……ブランス選手遂にダウンッ!』


「やれやれ……やはりこの程度ですか」


 コスモは呆れたようにそう吐き捨てると、ブランスに向けてゆっくりと歩き出す。


「まぁ、初めから分かっていたことですけどね。所詮あなたは、なんの矜持もないならず者……力があると勘違いした、偽物の英雄という訳ですよ」


「くッ……そが……」


 なんとか起き上がろうとするブランスだったが、その手にはもはや、身体を起こすだけの力が残されていなかった。

 それでもブランスは、必死に起き上がろうと力を込める。

 アプルはおらず、もはやなんの為に戦っているか分からない。

 それでも、身体が勝手に動いていた。

 だが――――


『ちょッ!?』


「がッ!?」


「無様ですね……」


 その頭を、コスモは躊躇なく踏みつけていた。


「さぁ、負けを認めてください。そうすれば終わりますよ? あなたの言う……無駄な試合がね」


「て……めぇ……!」


「そして、世界は知ることになる。黄金世代は決して最強ではなく、我ら五剣帝こそが……真の強者であると」


「く、くだらねぇ……な……」


「……あなたにとってはね。ですが、私にとっては……重要なことなんですよッ!」


「がぁぁあッ!?」


 コスモは更に力を込め、ブランスの頭を踏みつける。


「上にいたあなた達には分からないッ! 我々は、ずっとこうして頭を踏みつけられてきたんですよ! ですから……今は最高の気分です。さぁッ! 負けを認めろブランスッ! 私の方が上だとッ! その口から許しの言葉を吐けッ!」


 拒んだところで、魔法が発動出来なければ勝機はない。

 そもそも、もう身体が言うことを聞かなかった。

 更に、観衆からはブーイングを浴びせられ、戦う姿を見せたかった妹は現れない。

 孤独。

 そんな言葉が、彼の心を支配する。


「……も……う……いい」


「ん……なんですか? はっきりとお願いします」


 彼の世界は、アプルのおかげで広がった。

 家から出られたのも、国から飛び出せたのも、世界へと至れたのも、全ては彼女の自由の上にある。

 だから、彼女がそのままでいいと言うのならば、もう戦う意味は存在しない。


「お、俺の……」


 そうして、ここで終わりにしようと、彼はその言葉を――――


『負けないでッ……おにいちゃぁぁぁあんッ!!』


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