↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

375/563

第367話:証明

 

『ぎゃァァァァあッ!? あッつ! あッつッ! し、試合場がッ……とんでもないことになっているゥゥゥゥッ!!』


「はぁッ……はぁッ……クッ……クックッ……!」


 爆炎に覆われる試合場の中央で、バイザーは片膝を突き、荒くなった息を整えようとしていた。

 放った爆炎は、上述したように彼の中でも最強の一撃であり、その魔力消費量は並の冒険者数十人分にも相当する。

 裏を返せば、それだけロードを危険視していたということであった。

 先のことなど考えている暇はなく、この一瞬に全てを懸けなければ、絶対に勝つことの出来ない強敵。

 久しく抱いていなかったその感情に、バイザーは爆炎の中で1人笑った。


「さて、少しは魔力を回収して……お……か……!?」


 立ち上がり、振り返った瞬間だった。

 周囲はまだ爆炎に包まれている。

 だが、見えたのだ。

 そのあまりにも……巨大な影が。


『……え?』


『な……あ、あれは……?』


 続いて、実況席にいた2人が気付き、だんだんと観客達も気付き始める。

 そして、爆炎が消え始めた頃、その巨大な剣《つるぎ》が……太陽の光を浴びて輝きを放ったのだった。


『ドッ……ド、ド、ドッ……ドラゴンだァァァァァァァァあッ!!』


「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!?!?」」」」


 観客席から絶叫が上がる。

 それも無理はなかった。

 そこには、試合場にうずくまる……身体中から剣《つるぎ》を生やしたドラゴンがいたのだから。


『こ、これッ……どういうッ……!?』


『い、いやまさか……まさかこれも……! あっ! あそこ! ドラゴンの足元を見てください!』


 オルグレンの声を聞き、逃げ出そうと立ち上がったり、身体を抱えて隠れたりしようとしていた人達の動きが止まる。

 そして、バイザーを含めた全員の視線が、ドラゴンの足元へと集まった。


「……馬鹿な」


『アッ……アヴァン選手がいるゥゥゥゥッ!』


「「「「おぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉッ!?」」」」


 鋼鉄剣は生命を得て鋼鉄竜となり、ロードの危機を救っていた。

 いつかの……雨の日のように。


「ありがとなイアリス……大丈夫か?」


 ロードの声を受け、イアリスはスッと立ち上がると――――


「ギォォォォォォオッ!」


 空に向け、元気よくそう吼えた。


「ははは……そっか。けど、無理はするなよ? いくらお前でも、あの爆発をこれ以上……っていうか、また大きくなったなお前……」


「ギォッ! ギォッ!」


 イアリスの体長は既に30メートルを超え、頭から生えた剣《つるぎ》や尻尾を合わせた全長は50メートルに達していた。


「……アヴァン」


 その声を受け、ロードの視線が彼へと移る。


「それがお前の……繋がりか」


「……はい。共に死線を超えた戦友です」


「フ……一つ聞きたい。お前はいったい……何者なんだ?」


 それは、心から浮かんだ疑問だった。

 改めてあり得ないと思ったのだ。

 これ程の男が、Sランクで、しかも無名。

 そんな話がある筈がないと。


「すいません……今はまだ」


 ロードは、超えそうになった感情を抑え、そう言うに留めた。


「……そうか。いや、関係ない話だった。この……戦いには」


「ッ!」


 そう言って、バイザーは魔力を滾らす。

 実際のところ、彼の魔力はほとんど残されていない。

 だが、白旗を上げるわけにはいかなかった。

 というより、全てを出し尽くしたくなったのだ。

 久しく出会うことのなかった、本物の強者に。


「……イアリス、本気でいくぞ」


 ロードは、"ここまでにしましょう"と言おうとしていた自分を恥じた後、イアリスにそう声を掛け、左拳を強く握り締めた。


「グルッ!」


「フッ……いくぞアヴァンッ!」


 その数分後、ロード渾身の拳が……彼の顔面を打ち抜いたのだった。



 ―――――――――――――――――――――



「はっ!?」


 目を覚ました彼が見たのは、知らない天井であった。


「こ、ここは……うッ!?」


 起き上がろうとした彼の頭を、その手が優しく押さえ込んだ。


「……まだ起きちゃダメよ」


「ミュ……ミュン……」


 バイザーは再び枕へ頭をつけ、視線を天井へと戻す。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「負けたんだな……俺は」


「うん。凄いパンチだったわ。スカッとしたもん」


「……そうか」


「……うん」


 言葉は繋がらず、ベッドに横たわる彼と、そのすぐそばで椅子に座る彼女との間に長い沈黙が訪れる。

 たった1年で、2人の関係は変わってしまった。

 かつて、数珠繋ぎに連ねていた言葉の羅列。

 しかし、今は次の言葉が出ない。出せない。

 どれだけ距離が近くとも。

 失った命《それ》が、あまりにも大き過ぎたから。


「あのさ……」


 そして、それを打ち破ったのはミュンだった。


「私ね……もう30なの」


「……知ってる」


「うん……でね、そろそろほら……友達とかがね? みんな結婚してたりするのよ」


「……だろうな」


「うん……だからって訳じゃないんだけどさ……その……いい人いないかなってね……」


「……お前ならいくらでも見つかるだろう」


「ッ……な、なかなかいないのよ。私のお眼鏡に……か、叶う人ってさ。探しても探しても……」


「何が言いたい? 俺には関係……」


「あるッ!!」


 立ち上がった反動で、彼女が座っていた椅子が倒れる。

 カランカランと、乾いた音が部屋に響いた。


「わ、わたっ……私はッ! あんたと付き合ってたことを後悔したことなんて一度もないッ!!」


「お、おいミュ……」


「うるさい黙れ! だいたいなんなのあんた!? 勝手に人のこと分かったつもりになってさ! こっちは意味分かんないわよ! なんで側にいてくれないの!? しかもなんかツンツンしちゃってさぁ! 酷いことするし言うし! シュメールを守るぅ? 女1人守れない奴が……偉そうなこと言うなッ!!」


 ぽかんと口を開けたバイザーと、鼻息荒く肩を上下に揺らすミュンの視線が交わる。

 その直後、彼女の瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。


「わ、私のことッ……今少しでも……お、想ってくれてるならッ……まず私をッ……守ってよッッ!!」


 拳を握り締め、涙を流し続けながら、ミュンは1年間言えなかった言葉を出し尽くす。

 お互いに相手を想っていたのだ。

 だからミュンは、バイザーに今まで何も言えなかった。

 だが、今なら……彼が敗れ、僅かにでも"間違っていたかもしれない"と思った今ならと、ここしかないと、そう思ったのだった。


「だが、俺には……」


「知らないッ! 私はあんたがいい!」


「……ッ!」


「お、女にこッ……ここまで言わせて恥ずかしくないのッ!? それとも何!? もう私いらない!? じゃあもういいわよ! このまま1人寂し……ッ!」


 振り返り、部屋を出ようとした彼女の手を……彼の腕が掴んでいた。


「……何よ」


「あ、いや……」


 咄嗟に身体が動いていた。

 そして、手が離れなかった。


「何よ!?」


 鬼の形相を浮かべ、ミュンが振り返る。


「ッ!? お、俺が悪かった……!」


 そのあまりの威圧感に、バイザーから自然と謝罪の言葉が出ていた。


「で!?」


「え……その……」


「私ずっと待ってたんだけど!? 1年前から! あの言葉を!」


「ま、待って……言葉……?」


「"け"から始まる言葉よ!」


「けっ!? ……あっ! け……け、け、結……結婚……してくれ……?」


「くれ!?」


「ッ!? しっ……して! ください……」


 直後、ミュンの眉が八の字を描いた。

 そして、想いが再び……雫となった。


「はぁッ……はぁッ……うぅッ……ぐすッ……わ、私がどれだけ……ひっく……この1年……!」


「ッ! ミュン!」


 瞬間崩れ落ちるその細い身体を、バイザーの両腕が支えていた。


「俺が悪かった……すまん……!」


「ぐすっ……償って……一生かけて」


「……ああ」


 握った手が、それを真実であると……証明していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。