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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第366話:大爆発

 

『おおっとッ! アヴァン選手がここで始めて剣を抜いたァッ!』


 リスクと引き換えに、ロードが得た情報は以下の三つ。

 一つは距離。

 追撃の爆発が収まったのは、バイザーからおよそ20メートルの地点。

 恐らくそれが彼の有効範囲だと考えられるが、これはあくまで推定であり、確定ではない。

 二つ目は精度。

 離れるにつれ、爆発の威力と正確さが僅かに低下していることにロードは気付いていた。

 これにより、近ければ近いほど、より正確で強力な爆発が放てると考えられる。

 そして三つ目は、爆発が起きるその前兆。

 爆発が起きる直前、バイザーの魔力が周囲に漂い、更にその場所の温度が急速に上がる。

 つまり、それさえ感じられれば、躱《かわ》すことは不可能ではない。


 対するバイザーも、ロードの動きをつぶさに観察していた。

 反応、魔力、身のこなし……全てが一級品。

 加えて、あえて作った逃げ場の罠にもかからない頭の良さ。

 "一筋縄ではいかない"。

 そんな思いが、組んでいた彼の両腕を地に垂らさせた。


「まずは……」


『先に動いたのはやはりアヴァッ……んッ!?』


 その時、バイザーも含め、ロードを見ていた全ての者が、彼女と同じような反応をしていた。

 それも当然である。

 バイザーへ向かうと思われたその足が、全く別の方向へと向けられていたのだから。


『ア、アヴァン選手ゥッ! いきなり明後日の方向にダァッシュゥッ! いったいどういうつもりだァッ!?』


 ロードは突如バイザーに背を向け、一直線に試合場の角へと向けて走り出していた。

 そうして、誰もが疑問を浮かべる中――――


「はぁッ!」


 左手に握ったその剣《つるぎ》で、試合場の角を切り落としたのだった。


『んなッ!?』


『ほう……』


 ロードに切断され、三角の形になった堅鋼石が、場外の地面へと転がり落ちる。

 彼はそれに手を伸ばした後、今度は反対の角へと向けて走り出した。


『堅鋼石の試合場を簡単にッ……さ、更にアヴァン選手ッ! もう片方の角へと向かっているようですが、いったい何をしているんだァッ!?』


『何をするつもりなのかは分かりませんが……凄まじい使い手なのは間違いありません。普通、堅鋼石をあんな風には切れませんからね』


 観客席がざわつく中、ロードはもう片方の角も同じように切り落とすと、やはりそれに手を向ける。

 そうして、ようやく彼はバイザーへ向けて歩き出した。


「クックックッ……己の力を誇示してるのか? それとも、恐怖のあまり気でも違ったか?」


「……どちらでもありません。来いッ!」


 瞬間、場外から2つの……いや、"2人"となったそれが飛び上がった。


「ッ!?」


『こ、これはァッ!?』


『石が1人でに……!』


 三角に切り取られた堅綱石。

 それらは、ロードの魔法により命を宿していた。


『石に手足が生えているゥッ!? しかも、飛んで走ってまるで人間のようにッ……こ、これがアヴァン選手の魔法なのかァッ!?』


「よろしくな。堅《けん》さん、綱《こう》さん」


 ロードの隣に立った2人は、彼の呼びかけを受けて嬉しそうに飛び跳ねる。

 その様子に笑みを浮かべた後、ロードはイアリスの切っ先をバイザーへと向けた。


「なるほど……それがお前の魔法という訳か」


「はい。俺はいつも、誰かと一緒に戦ってきました。ですから何よりも……繋がりが重要だと考えています」


「だから俺にも繫れと? エゴだろうそれは」


「……俺だけがそう考えているならそうでしょう。でも、そうじゃない」


 ロードはイアリスを更に強く握り締める。


「あなたの考えていることは分かります。あれは繋がっていたからこそ、"ああなってしまった"と……」


「……」


「けど、ミュンさんは……それでもあなたとの日々を望んでるッ!」


「ッ!」


 ロードの咆哮と同時、2人の堅綱石が走り出した。

 彼の生命魔法は、生命を与えた対象との意思疎通を言葉なしで可能とする。


「……ミュンは確かにそう言ったんだろう。だがッ! 他人のお前にッ……語られる筋合いはないッ!!」


 バイザーの両腕が、2人の堅綱石へと向けられる。

 ロードの推測には、いくつかの間違いがあった。

 その一つが――――


「消し飛べッ!」


 直後起きる大爆発に、堅綱石の姿が飲み込まれた。


「ッ!? まだ距離はッ……しかも威力が……!」


 2人の少し後を走っていたロードの足が止まる。

 彼が測れたのは、あくまで"腕を組んだ状態"のバイザーだった。

 しかし、爆炎魔法は腕をかざして操ることにより、その真価を発揮する。


「最初から全力を出す馬鹿がどこに……ッ!?」


 直後、バイザーの眉間に皺が寄る。

 爆炎魔法は、確かに彼ら2人を直撃していた。

 だが、彼らは堅綱石そのものなのである。


『爆炎の中から石達が飛び出したァッ! や、やはり、どんな姿でも堅綱石は堅綱石ィッ! 驚異の魔法耐性だァッ!』


『ええ。加えて、あの形状が功を奏したのかもしれません。あれが真四角なら、爆発の威力を正面からまともに受けてしまいますが、三角だったことにより、攻撃をある程度受け流せたのでしょう。恐らくアヴァン選手はそこまで考えて……!』


「……ちぃッ!」


 まだ爆炎が残る中、2人とバイザーの距離が縮んでいく。

 もはや遠距離爆破には意味がないと悟ったバイザーは、その腰に下がっていた剣を引き抜いた。

 そうして、渾身の魔力を叩き込む。


『ここでバイザー選手も剣を抜いたァッ! おおッとォッ!? け、剣がどんどん赤くなって……!』


 その時、2人のうちバイザーから見て右にいた堅綱石が、両腕を振り上げて彼に飛びかかる。


「石ころ風情が……図にのるなッ!!」


 大上段から振り下ろされた一撃。

 それが、ロードに綱さんと名付けられた彼の両腕と接触した刹那、今日一番の爆炎が上がった。


『だ、大ッ! 爆ッ! 発ゥッ! 試合場中央にッ……巨大な爆炎の華が咲いたァッ! し、しかしッ! これではバイザー選手自身もッ……!』


 距離が近ければ近いほど、爆炎魔法はその威力を増していく。

 更に、この魔法が強力な点として――――


『ッ! 爆炎から堅綱石が飛び出してッ……おおッとォッ! 両腕が砕け、身体がヒビだらけだァッ! 対するバイザー選手は……無傷だァッ!』


「マジか……!」


 ロードの口から、思わずそんな言葉が漏れていた。

 バイザーは、己の魔法で傷を負わない。

 爆炎はあくまで彼の魔力。

 自身に当たった爆炎は、そのまま彼の身体へと吸収される。

 故に、彼が爆発出来ない場所は存在しない。


「……近接戦ならどうにかなるとでも思ったか? だから甘いと……そう言っているッ!」


「うッ!?」


 この時、ロードは2人の堅綱石と、バイザー自身が上げた爆炎を目くらましに、大きく迂回して彼の背後へと回り込んでいた。

 つまり、バイザーには見えていない場所にいたのだが……瞬間、彼の魔力がロードの周囲を覆い尽くし、温度が急速に跳ね上がる。


「ま、まさかッ……!」


 ロードの推測の二つ目の間違い。

 それは距離。

 バイザーが本気を出せば――――


「俺に死角は……ないッ!」


 この試合場どころか、闘技場全てが攻撃範囲である。


「に、逃げ場が……くそッ!」


 ロードの策を読んでいたバイザーは、己の爆炎に乗せ、試合場全てに自身の魔力を散らしていた。

 つまりこれは、大量の魔力を消費する代わりに、ロードがどこにいようが必ず当たる……最強の一撃。


「死にたくなければ逃げるがいいッ! これが俺のッ……お前に対する答えだッッ!! はぁぁぁッ! 散れぇッ!!」


 瞬間、試合場全てが……巨大な爆炎に包まれた。


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