第365話:距離
明けましておめでとうございます(´∀`)
今年も宜しくお願い致しますm(_ _)m
『皆さまァッ! 大ッ変ッお待たせ致しましたァァァァアッ! それではこれよりッ……午後の部準決勝を始めさせていただきまァッすッ!!』
「「「「ワァァァァァァァァァアッ!!」」」」
小休止をとった後、キャロルの絶叫が会場内に響き渡ると、それに合わせて大歓声がこだまする。
残った参加者はいずれも強者揃いであり、その期待値が、そのまま歓声へと表れていた。
『さてェッ! 今大会も残すところあと3試合ッ! 果たして初代王者となるのは、突如現れた謎の凄腕冒険者かッ! またはシュメールを支えてきた英雄かッ! それとも黄金世代の嫌われ者かッ! はたまたオリンポスからやってきた最強の刺客かッ! それではッ! まずはこのお2人に登場していただきましょうッ……選手入場ッッ!!』
鳴り響くファンファーレとともに、2つの扉が同時に開かれる。
そして、試合場へと向け、2人がゆっくりと歩き出した。
『さぁッ! まずはこの方ッ! 己の前に立ちはだかるのならばッ! そこに一切の慈悲はなしッ! シュメールが誇るSSランク冒険者ァッ……バイザー=アッシェヴェルメェッ!』
「「「「ワァァァァァァァァァアッ!」」」」
大歓声に一切反応することなく、バイザーは無表情で歩き続ける。
視線の先にいる……その男を見据えたまま。
『対するはッ! あのモーガン選手を一撃粉砕ッ! 経歴は一切不明だが、やはり実力は本物だったこの男ォッ……アヴァン=ドローウィィィィンッ!』
ロードもまた、黒いフードとマスクの間から、その鋭い視線を彼へと向けていた。
因みに、彼らの共通認識として、ソフィアの一件はもう済んだこととなっている。
バイザーが何も言ってこないということは、つまりそういう意味であったから。
故に、ロードはもう一つの想いの為に拳を握る。
そうして、両者は見つめ合ったまま、試合場の中央で対峙した。
「今回は……誰にも止められない」
まず口を開いたのはバイザー。
確かに、ソフィアの一件は彼の中でも終わっていた。
だが、2人の因縁は終わっていない。
「ウルフリックさえ現れなければ、今お前はそこに立てていなかったということを……教えてやる」
立ちはだかるものに容赦はしない。
何があろうと。
それが、1年前に決まってしまった彼のルール。
自身の命以上のものを奪われた、彼にかけられしある種の呪い。
深く食い込んだその楔は、愛する者でも抜くことは叶わなかった。
しかし、解呪の方法はまだ残されていた。
それは――――
「バイザーさん……お願いがあります」
彼は強過ぎた。
それ故に、立ちはだかる全てを駆逐するというルール……己に課した呪いを守れて"しまった"。
つまり、それを解く方法はただ一つ。
「俺が勝ったら……ミュンさんと向き合ってください」
誰かが、彼のルールを破るしかない。
「……似たようなことを言った奴が、どうなったか知ってんだろ? 何やら裏で動いてたみてぇだが、聞かなくても分かる。身体の傷は癒えても……刻まれた恐怖は消えねぇ」
「……」
1回戦でバイザーと戦い、重傷を負ったフォーメイト。
アスクレピオスによって、彼の傷は完全に癒えていた。
だが、バイザーの言う通り、もはや彼の心は……もう元には戻らない。
「お前もそうなる。そして、俺は変わらない」
"刻まれた恐怖"という言葉。
恐らくそれは、フォーメイトだけを指しているのではないと、ロードはそう思った。
「ミュンさんは、今でもあなたを待っています。それに、あなたの為にも……」
「もういい」
「ッ!」
瞬間、バイザーの身体から、強大な魔力が溢れ出した。
「ミュンが話すと決めたなら、それはそれで別にいい。だが、お前のそのッ……何もかもが上手くいくと……そう思い込む甘さに反吐が出るッ!」
その怒りは、決して過去に触れられたからではない。
かつての己と重なったのだ。
全てが順調で、何もかも上手くいっていたあの頃に。
だからこそ気に入らなかった。
絶望を知らぬ、その瞳が。
しかし、バイザーは知らない。
「何もかもが上手くいくなんて……思ってませんよ」
彼がかつて……"無能"と呼ばれていたことを。
「けど、俺の手が届く限り……まだ間に合うなら俺はッ……!」
「ッ!?」
両者の魔力の邂逅が、陽炎のように景色を揺らす。
その光景に、見ている者全てが息を飲んだ。
「最後まで諦めない……それが、俺が選んだ道です」
「ガキがッ……!」
『あ、あのー……く、空気を読んで黙ってましたが……その……も、もう始めても……』
「さっさと始めろッ……!」
『は、はィィィッ! そ、それでは参りますッ! 準決勝第1試合ッ……!』
直後、両者の身体が、ほんの僅か前に沈んだ。
『始めェッ!』
1秒にも満たない時。
両者の間にあった空間が消える。
10メートルはあった間合いを2歩で詰め、ロードは固く握った左拳を――――
「ッ!」
瞬間、彼の肌が熱を感じた。
「くぅッ!」
眼前で上がる爆炎。
咄嗟に後退し、躱すことに成功したのもつかの間、それは彼を追うようにして次々と連鎖する。
バックステップで下がり続ける中、今度は彼の背後で華が咲いた。
「……ちッ」
爆発音に混じったのは、バイザーの舌打ちであった。
前後方からの挟撃。
捉えたと思ったバイザーだったが、背後で起きた爆発を、華麗な背面跳びで躱す彼の姿がそうさせていた。
構わず追撃を加えるも、常人とは思えない反応速度と運動神経によって、爆発の合間をするりと抜けられてしまう。
そうして、遂にロードは試合場の端へと辿り着く。
その時には既に、"爆蓮"は咲き終えていた。
『ア、アヴァン選手ゥッ! やはり凄ォいッ! あの連続爆破を全てッ……!』
『いやー……見事ですね。しかし、躱しているだけでは勝てません。勿論アヴァン選手もそれを分かっていて、最初の一撃に賭けたようですが……バイザー選手にその上をいかれてしまいました。ここまでの戦いを見る限り、アヴァン選手には遠距離攻撃がありません。ですので、あの爆発地帯をどう乗り越えるのかが鍵になってきます』
『んなるほどッ! バイザー選手は開始から動かず中央にッ! 対するアヴァン選手は試合場の端……両者の距離はおよそ50メートルッ! 果たしてアヴァン選手は、再びバイザー選手へ辿り着くことが出来るのかァッ!?』
「フー……一瞬でも気を抜いたら丸焦げだな……」
オルグレンが言う通り、確かに初撃で決まればとも思っていたが、まず間違いなく無理だろうと、彼はそう考えていた。
むしろ、直線的な攻撃はいい的であり、リスクの方が高いくらいであると。
それ程までにバイザーの魔法は厄介で、無策愚直な突破はまず不可能であった。
故に、リスクを承知で測りにいったのだ。
バイザーの魔法に、どれ程の力があるのかを。
「さて……今度はこっちの番だ」
そう呟いた後、ロードはイアリスを引き抜いた。




