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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第364話:立場

本年も大変お世話になりました。

来年もどうぞ宜しくお願い致します。

申し訳ありませんが、色々と行事が詰まっておりますので、次回更新は来年1月7日の月曜日とさせていただきます。

これを書き始めてもうすぐ3年……早いものですね。

完結までゆっくりやっていきますので、今後とも宜しくお願い致しますm(_ _)m

それでは皆様、よいお年をお迎えください(´∀`)

 

 決着の瞬間、大勢の人間がいる筈の会場内に、カローナが地面に叩きつけられる音だけが響いていた。

 その圧倒的な静寂の中、ブランスはマントを翻すと、自身が出てきた扉へ向かって歩き出す。


『てッ……!』


 その時、ようやくキャロルが我に返った。


『鉄ッ! 拳ッ! 炸裂ゥゥゥゥウッ! しょ、勝者ァッ……ブランスッ! グリュックッ! ブライトシャフトォォオォッ!』


「「「「ウ、ウォォォォォォオォッ!?」」」」


 キャロルの咆哮によって、観客達の思考を覆っていた霧が晴れる。

 だが、戸惑いは消えない。

 目の前で起きたそれは、彼らの想像していた未来とは全く別のものであったから。

 結局、彼に対する世界の評価は親の力であり、権力と金によって得たものだと……彼らは本気でそう思っていたのだ。

 無論、ブランスがそれを否定しなかったことや、実際に彼が戦う姿を見たことがなかったというのもあったが、何よりも彼の過去がそうさせたのは言うまでもない。

 加えて、つい先日起こったコスモとの出来事も、彼らがそう確信する要因の一つだったのだろう。


 だが、全てはひっくり返った。

 有名なSランク冒険者であるカローナが、ブランスにはまるで歯が立たなかったという事実。

 そして、ブランスから発せられた強大な魔力は、彼の実力が本物であるという何よりの証拠。

 その追いつけない現実に、彼らはただ黙ってブランスを見送ることしか出来なかった。


「や、やった! ロードさ……ん……?」


 喜びの声を上げるソフィアに対し、ロードは浮かない表情で試合場を見つめ続けていた。

 正確に言うと、試合場に倒れているカローナを、である。

 彼は最初からほぼ間違いなくブランスが勝つだろうと、そう思っていた。

 そうして、ブランスのことをよく理解していない国民達が、彼の実力に触れることにより、その考えを改めることになるだろうと。

 ただ、試合前にソフィアへ語ったように、彼には一抹の不安があった。

 そして、その不安が現実のものとなってしまう。


「ふッ……ふざけんなぁッ!」


 勝ったまではいい。

 だが、相手と勝ち方がまずかった。


「女の顔を思いっきり……てめぇそれでも男かぁッ!」


「カ、カローナの顔に傷が残ったらどうするつもりだ!?」


「やっぱりアイツはクズ野郎だ! 普通じゃねぇよッ!」


「い、いかれてんだよ! シュメールの恥晒しもいいとこだッ……!」


 思考が現実に追いついた時、観衆から溢れたのは、女性の顔面を躊躇なく殴ったことに対する非難の声であった。

 だが、それをこの場で非難するのは、本来ならあり得ないことである。

 確かにカローナは女性であり、その美貌は彼女の売りでもあった。

 だが、こういう事態になる可能性があったことは、闘技大会に自ら出場を決めた時点で彼女も理解していた筈である。

 事実、彼女も覚悟の上で試合に臨んでいたのであり、それについて非難するのはお門違いもいいところであって、むしろこれは彼女に対する冒涜であると言っても過言ではない。


 しかし、今の彼らにはそれが見えない。

 理由は至極単純。

 "ブランスを認めたくないから"である。

 先述の通り、オルグレンやシュメールを除く国々がなんと言おうが、彼らは今の今までブランスが本当は弱いと……本気でそう思っていた。

 もちろん過去の行いの所為もあったが、彼に対する怒りにも似た嫌悪感は、そういった卑怯さに対するものが大きい。


 それが消えた今、彼らは自分達が間違っていたことを認めざるを得ないのだが、それは絶対に出来ないし、する訳にはいかなかった。

 これはある種、"無能"だと思っていたロードが、実は違っていたことを認められなかった……あのフウロと同じだったのかもしれない。

 そこに現れた"女性の顔を殴る"という、今のような状況下でなければ許されない愚行。

 彼らはそれにすがったのだ。

 自分達の自尊心を……守る為に。


「そ、そんな……だってこれ試合……!」


 同じ女性であり、そして冒険者でもあるソフィアは、この状況がおかしいことを理解していた。

 しかし、誤解されている人間が立場を変えるには、誰も正せない正論が求められる。

 ブランスにとっての正解は、圧倒的な力の差を見せつけて降参を促すか、彼女を場外へと放り投げるなど、全てにおいて文句のつけようがない勝ち方。

 もしこの場にアプルがいたならば、恐らくブランスはそういった選択をしただろう。

 だが、彼女はいなかった。

 故に、これは必然だったのかもしれない。


「……ソフィア、手帳を。ちょっと医務室に行ってくる」


「えっ?」


「こうなってしまったのはもう仕方がない……だからせめて、カローナさんの傷を完璧に治してくるよ。そうすれば、多少はこれがおさまるかもしれない」


「あ、なるほど……ど、どうぞ」


「ありがとう。ソフィアはここにいてくれ。なるべく早く戻らなきゃな……多分、次の試合もすぐ終わる」


 そして、ロードのこの予想も……やはり的中することとなるのだった。



 ―――――――――――――――――――――



「「「「ウォォォォォォォォオッ!?」」」」


「やっぱりか……」


 それは、ロードがアスクレピオスを呼び、ベッドに横たわるカローナと、同じ部屋で瀕死の状態になっていたフォーメイトの治療を開始した直後だった。


『しゅッ……瞬殺ゥゥゥウッ! 開始から僅か1秒ォッ! 瞬きする間もない電光石火の一撃により……バルケット選手戦闘不能ッ! よって勝者ァッ! コスモッ……リヒカイトォォォッ!!』


「あらら〜……予想的中ですね〜」


「だな……急いでくれアスクレピオス」


「はいは〜い。2人とも気を失ってるので、暴れられなくて済みそうですね〜」


 因みに、もともと彼女らの治療に当たっていた救護班は、ロードが"魔法を見られたくない"と話したことから、既に部屋の外へと出ている。

 ソフィアを完璧に治療した実績もあってか、それは特に問題なく認められた。


「さて……」


 アスクレピオスが治療を施している間に、ロードは迫るバイザーとの戦いに備えて思考を巡らせ始める。

 予備動作もなく、広範囲に及ぶ爆発攻撃だけでも厄介なのだが、バイザーはまだ本気を見せていないと、彼はそう考えていた。

 とはいえ、それでもいくつかの策は浮かんでいた。

 ただ、問題はそれが通用するかどうかである。

 そして、問題はもう一つあった。


「アプルさん……なんとか来てくれるといいんだけど……」


 未だに現れない、ブランスの妹アプル。

 彼女が来ない限り、恐らくブランスは……と、そこまで考えて、彼は一旦それをやめた。


「……今はバイザーさんとの試合に集中しなきゃ。ミュンさんの為にも……必ず勝つ」


 様々な想いが交錯する中、シュメールの闘技大会は今……終局を迎えようとしていた。


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