第364話:立場
本年も大変お世話になりました。
来年もどうぞ宜しくお願い致します。
申し訳ありませんが、色々と行事が詰まっておりますので、次回更新は来年1月7日の月曜日とさせていただきます。
これを書き始めてもうすぐ3年……早いものですね。
完結までゆっくりやっていきますので、今後とも宜しくお願い致しますm(_ _)m
それでは皆様、よいお年をお迎えください(´∀`)
決着の瞬間、大勢の人間がいる筈の会場内に、カローナが地面に叩きつけられる音だけが響いていた。
その圧倒的な静寂の中、ブランスはマントを翻すと、自身が出てきた扉へ向かって歩き出す。
『てッ……!』
その時、ようやくキャロルが我に返った。
『鉄ッ! 拳ッ! 炸裂ゥゥゥゥウッ! しょ、勝者ァッ……ブランスッ! グリュックッ! ブライトシャフトォォオォッ!』
「「「「ウ、ウォォォォォォオォッ!?」」」」
キャロルの咆哮によって、観客達の思考を覆っていた霧が晴れる。
だが、戸惑いは消えない。
目の前で起きたそれは、彼らの想像していた未来とは全く別のものであったから。
結局、彼に対する世界の評価は親の力であり、権力と金によって得たものだと……彼らは本気でそう思っていたのだ。
無論、ブランスがそれを否定しなかったことや、実際に彼が戦う姿を見たことがなかったというのもあったが、何よりも彼の過去がそうさせたのは言うまでもない。
加えて、つい先日起こったコスモとの出来事も、彼らがそう確信する要因の一つだったのだろう。
だが、全てはひっくり返った。
有名なSランク冒険者であるカローナが、ブランスにはまるで歯が立たなかったという事実。
そして、ブランスから発せられた強大な魔力は、彼の実力が本物であるという何よりの証拠。
その追いつけない現実に、彼らはただ黙ってブランスを見送ることしか出来なかった。
「や、やった! ロードさ……ん……?」
喜びの声を上げるソフィアに対し、ロードは浮かない表情で試合場を見つめ続けていた。
正確に言うと、試合場に倒れているカローナを、である。
彼は最初からほぼ間違いなくブランスが勝つだろうと、そう思っていた。
そうして、ブランスのことをよく理解していない国民達が、彼の実力に触れることにより、その考えを改めることになるだろうと。
ただ、試合前にソフィアへ語ったように、彼には一抹の不安があった。
そして、その不安が現実のものとなってしまう。
「ふッ……ふざけんなぁッ!」
勝ったまではいい。
だが、相手と勝ち方がまずかった。
「女の顔を思いっきり……てめぇそれでも男かぁッ!」
「カ、カローナの顔に傷が残ったらどうするつもりだ!?」
「やっぱりアイツはクズ野郎だ! 普通じゃねぇよッ!」
「い、いかれてんだよ! シュメールの恥晒しもいいとこだッ……!」
思考が現実に追いついた時、観衆から溢れたのは、女性の顔面を躊躇なく殴ったことに対する非難の声であった。
だが、それをこの場で非難するのは、本来ならあり得ないことである。
確かにカローナは女性であり、その美貌は彼女の売りでもあった。
だが、こういう事態になる可能性があったことは、闘技大会に自ら出場を決めた時点で彼女も理解していた筈である。
事実、彼女も覚悟の上で試合に臨んでいたのであり、それについて非難するのはお門違いもいいところであって、むしろこれは彼女に対する冒涜であると言っても過言ではない。
しかし、今の彼らにはそれが見えない。
理由は至極単純。
"ブランスを認めたくないから"である。
先述の通り、オルグレンやシュメールを除く国々がなんと言おうが、彼らは今の今までブランスが本当は弱いと……本気でそう思っていた。
もちろん過去の行いの所為もあったが、彼に対する怒りにも似た嫌悪感は、そういった卑怯さに対するものが大きい。
それが消えた今、彼らは自分達が間違っていたことを認めざるを得ないのだが、それは絶対に出来ないし、する訳にはいかなかった。
これはある種、"無能"だと思っていたロードが、実は違っていたことを認められなかった……あのフウロと同じだったのかもしれない。
そこに現れた"女性の顔を殴る"という、今のような状況下でなければ許されない愚行。
彼らはそれにすがったのだ。
自分達の自尊心を……守る為に。
「そ、そんな……だってこれ試合……!」
同じ女性であり、そして冒険者でもあるソフィアは、この状況がおかしいことを理解していた。
しかし、誤解されている人間が立場を変えるには、誰も正せない正論が求められる。
ブランスにとっての正解は、圧倒的な力の差を見せつけて降参を促すか、彼女を場外へと放り投げるなど、全てにおいて文句のつけようがない勝ち方。
もしこの場にアプルがいたならば、恐らくブランスはそういった選択をしただろう。
だが、彼女はいなかった。
故に、これは必然だったのかもしれない。
「……ソフィア、手帳を。ちょっと医務室に行ってくる」
「えっ?」
「こうなってしまったのはもう仕方がない……だからせめて、カローナさんの傷を完璧に治してくるよ。そうすれば、多少はこれがおさまるかもしれない」
「あ、なるほど……ど、どうぞ」
「ありがとう。ソフィアはここにいてくれ。なるべく早く戻らなきゃな……多分、次の試合もすぐ終わる」
そして、ロードのこの予想も……やはり的中することとなるのだった。
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「「「「ウォォォォォォォォオッ!?」」」」
「やっぱりか……」
それは、ロードがアスクレピオスを呼び、ベッドに横たわるカローナと、同じ部屋で瀕死の状態になっていたフォーメイトの治療を開始した直後だった。
『しゅッ……瞬殺ゥゥゥウッ! 開始から僅か1秒ォッ! 瞬きする間もない電光石火の一撃により……バルケット選手戦闘不能ッ! よって勝者ァッ! コスモッ……リヒカイトォォォッ!!』
「あらら〜……予想的中ですね〜」
「だな……急いでくれアスクレピオス」
「はいは〜い。2人とも気を失ってるので、暴れられなくて済みそうですね〜」
因みに、もともと彼女らの治療に当たっていた救護班は、ロードが"魔法を見られたくない"と話したことから、既に部屋の外へと出ている。
ソフィアを完璧に治療した実績もあってか、それは特に問題なく認められた。
「さて……」
アスクレピオスが治療を施している間に、ロードは迫るバイザーとの戦いに備えて思考を巡らせ始める。
予備動作もなく、広範囲に及ぶ爆発攻撃だけでも厄介なのだが、バイザーはまだ本気を見せていないと、彼はそう考えていた。
とはいえ、それでもいくつかの策は浮かんでいた。
ただ、問題はそれが通用するかどうかである。
そして、問題はもう一つあった。
「アプルさん……なんとか来てくれるといいんだけど……」
未だに現れない、ブランスの妹アプル。
彼女が来ない限り、恐らくブランスは……と、そこまで考えて、彼は一旦それをやめた。
「……今はバイザーさんとの試合に集中しなきゃ。ミュンさんの為にも……必ず勝つ」
様々な想いが交錯する中、シュメールの闘技大会は今……終局を迎えようとしていた。




