第360話:自警団
『きっ……きき、決まったァァァァアッ! 強烈な一撃が炸裂ゥゥゥッ! モーガン選手ピクリとも動かなァいッ! 勝者ァッ……アヴァンッ! ドロォォウィィィンッ!!』
「「「「ウオォォォォォォォォォオッ!?」」」」
直後、会場内が驚愕混じりの大歓声に包まれていく。
そうなるのも無理はなかった。
『一撃ッ……ま、まさか、あのモーガン選手がッ……一撃で倒されるとは思いもよりませんでしたッ!』
見ていた者達は、皆キャロルと同じ感想を抱いていた。
よもやあのモーガンが、一撃で倒されるなどとは夢にも思わなかったのだ。
『オルグレン様これはッ……!』
『……』
『オ、オルグレン様?』
『あ、失敬。つい考え込んでしまいました。んー、ですが正直なところ……私にもよく分かりません。かなり特殊な魔法のようでしたが……』
現在、ロードの生命魔法で取れる対象は、エクスカリバーに一つ使用している為に三つであり、また物質に生命を与えるには、彼を中心とした半径3メートルの距離にまで近付かなければならない。
その為、ロードはモーガンが殴りかかってきた最初の時点で既に鎧とズボン、そして彼の蹴り足である右の靴に生命を与えていた。
そうして、再び接近した瞬間に魔法を発動。
彼から自由を奪った後、生命を与えた鎧に命じて無防備にし、加速をつけた渾身の一撃を急所に叩き込んだのである。
『ただ、とにかく言えるのは、あのモーガン選手の動きを簡単に止めたことや、勝負を決めた最後の一撃を見ても……彼が只者ではないということです』
『確かにッ! やはりこの男ッ……噂通りの実力者だったァッ! 午前の部はソフィア選手がダークホース的な存在でしたが、午後の部ではこのアヴァン選手が鍵になりそうな……そんな予感がしておりますッ!』
『そうですね。 これからの展開が非常に楽しみです。また、敗れはしましたが、モーガン選手の動きも決して悪くはありませんでした。彼の今後にも期待しましょう』
『ですねッ! 皆さまッ! 素晴らしい試合を見せてくれたアヴァン選手とモーガン選手に、今一度大きな拍手をお願いいたしますッ!』
十万人以上の観衆が鳴らす拍手の音を受け、ロードは頭を下げた後、会場内から出入りする扉へ向けて歩き出す。
対するモーガンの意識は未だに戻らず、10人がかりで持ち上げられると、そのまま医務室へと運ばれていった。
勝者と敗者には明確な差異があり、今起きているこの拍手も、ほぼ全てがロードに向けられていると言っても過言ではない。
敗北は、その者から色々なものを奪う。
自信、誇り、立場、評価……場合によっては、より大事なものを。
「……!」
ロードの向かう先に、その男は立っていた。
彼もまた、ある種の敗北により、二度と得られない大切なものを失っていた。
だから彼は――――
「お優しいことだな。そして……残酷でもある」
「……残酷?」
『さてッ! それではどんどん参りましょうッ! 第2試合を戦うまず1人目はァッ……シュメールの"精密機器"ッ! フォーメイト=ブリリアンッ!』
「「「「ワァァァァァァァァァアッ!」」」」
もう片方の扉から現れたフォーメイトに、会場内が大歓声に包まれていく。
その様子を眺めながら、バイザーは更に言葉を続けた。
「目が覚めた時、怪我をさせぬように気を遣われたと……あの男はそう思うだろう」
「そんなつもりは……」
「なら聞くが……その腰にぶら下がっているものは飾りか?」
「……」
「だから腰抜けだと言っている。確かにお前は強い。あの男とお前に、明確な力の差があるのは誰が見ても明らかだ。だが、もし奴がそう思わなかったら? ……まぁいいさ。お前がそれを望むなら……」
『対するは……"爆蓮"の二つ名を持つこの男ォッ! 今大会優勝候補筆頭ッ! バイザー=アッシェヴェルメェッッ!!』
「「「「ワァァァァァァァァァアッ!」」」」
「その時になって……後悔すればいいだけだ」
バイザーはそう言い残し、ロードに背を向けて歩き出す。
「あなたがそうだったように……ですか?」
そして、その背中をロードの言葉が止めた。
「……何を聞いたかは知らんが、好きに思え」
止まった背中が再び動き出す。
失ったものを、振り返らないように。
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1年前――――
シュメール冒険者ギルドは、かつてない程の賑わいをみせていた。
丁度この頃、シュメール王自らが発案し、更に交渉にまで乗り出していたオリンポス、ケルトとの越境合同依頼案が無事に通り、シュメールは両国でくすぶっていた冒険者達の受け皿として機能し始めていたのである。
結果、町は冒険者達で溢れかえり、同時期に制定された税金免除政策で増えた宿屋もほぼ満室。
料理屋や酒場も常に満席と、それらを営む国民にとってはまさに良いことづくめであった。
だが、人が増えれば問題も増えるのが世の常。
現在のシュメール王であるロバートが即位してから、もともと上昇傾向にあった住民の数は一気に倍近く膨れ上がり、犯罪率もそれに比例して増えていた。
中でも住民達を悩ませていたのが、一部のタチが悪い冒険者達。
昼間から酒を喰らい、殴り合いを始め、女に手を出し、所構わず町を汚す。
これらはたちまち大きな問題となり、多くの苦情がシュメール政府へと寄せられることとなる。
しかし、膨れ上がった冒険者の数がもたらすそれらの問題は、既に憲兵だけで対処出来る範囲を超えていた。
また、問題を起こしていたのは腐っても冒険者。
力は言わずもがな、度胸においても、既存の憲兵程度では御し切れる筈もない。
そこで政府は、シュメール冒険者ギルドのマスターであるウルフリックと案を練り、冒険者に冒険者を監視させる自警団を設立する。
そして、そのリーダーに抜擢されたのが、当時Sランク冒険者で、実力も人望も兼ね備えた……バイザーであった。
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「ウルフリック、酒場で暴れてた馬鹿どもは黙らせてきたが……他に連絡は?」
「ウルフリック"さん"だ。何百回言ったら分かるんだてめぇは……まぁいい。次はシッチんとこの宿だな。泥酔した阿呆が踊ってるらしい」
「分かった。行ってくるわ」
「あー、ちょい待てバイザー」
「あん?」
「俺が言う義理もねぇんだがよ……その、ミュンとはどうなんだ?」
「はぁ? どうって別に……つか、んなことあんたにゃ関係ねぇだろ」
「いやまぁそうなんだが……てめぇを自警団のリーダーに推薦しちまったからな……悪い」
「あ? なんで謝んだよ?」
「いや、ただでさえ依頼で方々飛び回ってるだろ? 加えて自警団の仕事もある……ミュンも30手前だし、てめぇも今年34だ。そろそろ身を固めてもおかしくねぇってのにこう忙しくちゃ……」
「ハッ……天下の"王翼"も焼きが回ったか? つか、50手前の独身貴族が人の心配してる場合かよ」
「う、うるせぇ!」
「ははっ! まぁ、あんたに心配されなくてもちゃんと考えてるさ。ただ、今はまだ冒険者として国にな……それはミュンも分かってる筈だ」
「そうか……」
「ん、じゃあ行くわ」
「ああ……頼んだぞ」
1年前のある日。
彼ら2人の間には、そんな会話が確かにあった。
全ては上手くいっていたのだ。
バイザーは当時からSランクの枠を超えた力を有しており、当然SSランクへの昇格や、次期ギルドマスターの話まで出ていた。
そんな彼が率いる自警団は優秀で、住民達からはもちろんのこと、流れてきた冒険者達にも一目置かれる存在であった。
しかし、中には彼を憎む者もいたのだ。
かくして、その日はやってきてしまう。
全てが変わってしまった……忌むべき日が。




