第348話:実況
『国王陛下ァァァァアッ! 素晴らしいお言葉の数々ッ……ありがとうございましたァァァァァァアッ!!』
「んっ!?」
「おや?」
未だ鳴り止まぬ歓声を引き裂くように、今度は女性の大きな声が闘技場に響き渡った。
そして、聞き覚えのあるその声に、2人は同時に顔を見合わせる。
「これって……」
「ええ……どこかで聞いたような……」
『さァて! それではここからの司会進行! そして実況はこの私ィッ! キャロルがお送りいたしまァすッ! よろしくッ……ねッ!』
「「「うぉぉおおぉぉぉおぉぉおッ!!」」」
「やっぱり!」
かつてロードが参加した、ニーベルグ闘技大会。
その実況を務めていた者こそ、このキャロルであった。
「これは驚きました……ということは、ニーベルグ専門という訳ではないんですね」
「みたいだな……にしても、相変わらず凄いテンション……」
キャロルはフリーランスの実況、及び司会者として、文字通り世界各地を回っている。
そんな彼女のファンは意外と多く、また、実力についても、闘技大会の実況で右に出る者はいないとまで言われていた。
『オッケェェェェェイッ! 私を知ってる人がいてよかったァー! 心折れずゥッー! さァて! ここで解説をしていただくゥ……超特別ゲストをご紹介致しまァす! なんとッ! 世界にたった10名しかいないSSSランク冒険者ァ……その中のお1人ッ!』
「ま、まさか……!」
『冒険者みんなのお父さんッ……オルグレン=ファータァァァァァアッ!』
「「「うぉぉぉぉぉぉぉおッ!!!」」」
「び、びっくりした……バーンさんかと……でも、確かオルグレンさんって……」
「ええ……冒険者ギルドのグランドマスターで、SSSランクのまとめ役……稀代のリーダーシップを持つお方、それがオルグレン様です。しかし、まさか彼を招聘出来るとは……やはり、オリンポスとの繋がりは相当強いみたいですね」
今現在、冒険者ギルドの本部はオリンポスにある。
オルグレンはそこに常駐しており、オリンポス王の許可なく離れることは許されていない。
つまるところ、勇者ロイと同じく、自身の護衛として考えているのだ。
これについては越権行為であるとの批判もあったのだが、オリンポス王ザディアックが聞く耳を持つ筈もなく、結局は彼の意向通りとなっていた。
「あの男といい、オルグレン様といい……どうにもオリンポスの影がちらつきますね。オリンポス王の姿はないようですが……」
「どこかで観てたりしてな……分からないけど」
そんな会話をしている2人の視線の先では、シュメール王とオルグレンが壇上で固い握手を交わしていた。
「シュメール王も大きいけど、オルグレンさんはもっと……」
「シュメール王は185センチ、オルグレン様は210センチあります。ジーク様より大きいですね」
『オルグレン様ァー! こちらですこちらァッ! そこから右下の……そうですこっこでーすッ!』
王と挨拶を交わしたのち、オルグレンは大きな身体を揺らしながら、キャロルがいる実況席へ向けて階段を降りていく。
そうして実況席に座ると、あまりの大きさの違いからか、会場がどよめき始めた。
『い、いやァ、近くで見ると……やっぱり大きいですねッ!』
『はっはっはっ! まぁ、よく言われます。改めまして、オルグレンと申します。今日はよろしくお願いいたします』
『あ、ご丁寧にどうも……こちらこそッ! よろしくお願いしまァすッ!』
『なにぶんこのような場は初めてでして……上手く出来るかはわかりませんが、精一杯務めさせていただきます』
『謙虚ッ……! 私もッ! 改めて身が引き締まる思いですッ! 頑張りますッ! さァて! 無事にオルグレン様と合流出来たところで! Aランクの部、予選の試合形式を発表させていただきますッ! 試合形式はァ……皆さん大好きバトルロイヤルゥッ!!』
「「「うぉぉぉぉぉぉぉおッ!!」」」
「ん、やっぱりか」
「まぁ見ていて楽しいですし、時間的にも最適ですからね」
『既に冒険者の皆様には、5色のバッヂが配られているかと思いますッ! それがそのまま組み分けとなりますので、まずは赤いバッヂの方のみ試合場にお残りくださいッ! 後の方は用意されたお席へどうぞッ!』
キャロルの説明に合わせ、冒険者達が移動を開始する。
そうして試合場には、50名弱の冒険者達が残った。
その中には――――
「あ、ソフィアも……」
「初戦か……あと、何人かバイザーさんの取り巻きもいるな」
『それではルールをお伝えいたしますッ! 基本的なルールはお渡しした用紙に書いてある通りですが、この予選ではもう一つルールが追加されますッ! 皆さまッ! そのバッヂを胸につけてくださいッ! それが皆さまの命の代わりとなりますッ!』
『ほう、命の代わり?』
『はいッ! 予選敗退となるのは以下の4つッ! 場外に出てしまった場合ッ! 気絶などの戦闘不能状態になった場合ッ! ルール違反を冒した場合ッ! そして最後が……そのバッヂを奪われた場合となりますッ! 故に命ッ! バッヂは自分ッ! 因みにッ! 奪った他人のバッヂをつけることは禁止となりますのであしからずッ!そして、それら全てを乗り越え、最後まで試合場に立っていたお2人のみがッ! 決勝トーナメント進出となりますッ!』
『なるほどなるほど』
「いくら強い人でも、隙を突かれてあれを奪われたら終わりって訳か。それにしても、この中からたった2人……」
「あー……胃が痛くなってきました」
「……大丈夫?」
『さァてッ! 間もなく開始となりますが、皆さま準備はよろしいでしょうかッ!?』
キャロルの声に合わせ、冒険者達は一斉に構えをとった。
試合場に残った冒険者達は、試合形式の発表前から互いに距離を取っており、皆バトルロイヤルを想定していたことを窺わせる。
ソフィアもまた、事前にレヴィと打ち合わせした通りの位置へと移動していた。
100メートル×100メートルという、通常ならば広い空間。
しかし、50人近い人間がいれば話は別。
加えて、目に入る全てが敵となれば、勝負は最初の数秒で決まると言っても過言ではない。
『……皆さまよろしいようですね』
凄まじい緊張感の中、キャロルの声だけが闘技場内に響く。
直後、ソフィアは深く息を吸った。
そして――――
『それでは予選1組目……試合開始ィッ!!』
彼女の運命を決める戦いが、今始まった。




