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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第333話:邪魔者

 

「おーソフィア! ようきたようきた! 元気そうじゃな」


「こんばんはマビーさん。リウル草を持ってきました」


 採取を終えて町に戻ってきたのは、もう日が落ちた後のことだった。

 魔物に遭遇しないようにやっていると、どうしても遅くなってしまう。


「ありがとうな。ふむふむ……量も質も問題なしじゃわい。これがないと困るでな。いつも助かっとるよ」


「よかった……あ、これ受領書です。サインをお願いします」


「んむ……しかし、いつも頼んでおいてなんだが……冒険者を続けるのは大変じゃろう?」


「え? あ、はい……まぁ……」


 確かに大変なことは多い。

 以前魔物に追い回された時は本当に死ぬかと思った。

 たまたま近くに他の冒険者の人がいて助かったけど、そうじゃなかったら今頃……。


「15歳の女の子がなぁ……ほれ、書けたぞい」


「あ、はい」


「ソフィア、深くは聞かんがな……なんか困ったことがあれば言ってくれ。ワシに出来ることなら力を貸すからの」


「……ありがとうございます。じゃ、また来ますね」


「うむ。また頼むのう」


「はい。それじゃ」



 ―――――――――――――――――――――



「あ……」


 マビーさんの病院を後にし、冒険者ギルドへと戻る道すがら、通りを歩く親子が目に入る。


「……いいなぁ」


 つい口に出たそれが、鼻をつんと刺激する。


「泣くな泣くな……泣いたら負けだぞ」


 お父さんもお母さんも冒険者だった。

 正確に言うと、お父さんは現役で、お母さんは元だけど。

 いなくなった日も、特に変わった様子はなかった。

 お父さんは冒険者ギルドに、お母さんは……なんだったかな……まぁとにかく、2人とも朝早くに家を出たのを覚えてる。

 ボクはお母さんが作ってくれた朝ご飯を食べながら、2人を見送ったんだ。

 "いってらっしゃい"って。

 で、2人は帰ってこなかった。

 それだけ。


 もちろん探した。

 冒険者ギルドにも行った。

 多分、ミュンさんはその時にボクを見て、あとでたまたま見つけて声を掛けてくれたんだろう。

 他にも、お母さんが買い物をする店にも聞きに行ったし、衛兵さんにも伝えて探してもらった。

 けど、何も分からなかった。

 意味が分からなかった。

 "なんで?"って――――


「ん……」


 いつの間にか、冒険者ギルドの前に立っていた。

 どうやら、考えている間に着いついていたらしい。


「おっと」


 危ない危ない……この時間だと、多分あの人達がいる。

 静かにドアを開け、こっそりと中を覗いてみる。


「やっぱりいたか……あー……ミュンさんがいない……」


 ミュンさんの前ではみんな大人しくなる。

 多分、あの人の前ではいい格好をしたいのだろう。

 つまり、今見つかったら間違いなく絡まれるという訳だ。


「ふぅ……」


 意を決して中に入る。

 出来るだけ気配を殺して受付に……。


「ん? よぉ……ソフィアじゃねーか」


 ああ……見つかった。


「こ、こんばんは……バイザーさん……」


 この町には、3人のSSランク冒険者がいる。

 言わずと知れた黄金世代の1人……"たがなし"のブランス。

 シュメール冒険者ギルドのマスター……"王翼(おうよく)"のウルフリック。

 そして、最後の1人がボクの目の前にいる……"爆蓮(ばくれん)"のバイザー。


 ブランスさんは滅多にギルドへ来ないし、ギルマスであるウルフリックさんは、何か問題でもない限り、3階にある自室から出てこない。

 つまり、このバイザーさんこそが、シュメール冒険者ギルドの実質的なトップにいるという訳だ。

 ここ最近、流れの冒険者が増えたとはいえ、SSランクの冒険者はそうそういるものではないらしく、結局その地位は揺るがなかった。


「クックックッ……依頼終わりか?」


「あ、はい……一応……」


「毎日毎日ご苦労なこったなぁ……お花摘がそんなに楽しいのかねぇ」


 う……始まった。


「はは……ボクにはこれくらいしか……」


「いい加減目障りなんだよ……このクズが」


「え……」


 直後、騒がしかったギルド内が静まり返る。

 そして、その場にいた全員がボクを見ていた。

 どこか……蔑んだ目で。


「あ、あの……ボクが何か……」


「……ギリシアのこともあってか、シュメールを根城にする冒険者が増えた。なんせ数だけならケルトにも匹敵するって話だ。となると、次に求められんのは……なんだか分かるか?」


「えっ……え、えっと……その……」


「質だよ」


「し、質……?」


「おいベニー、このクズにも分かるように説明してやれ」


「はい」


 Aランク冒険者のベニーさんは、バイザー派と呼ばれるグループの1人。

 バイザーさん自身はパーティを組んでいないが、彼の近くにいれば何かと都合がいいのだろう……そういった人は、ベニーさん以外にも少なからずいた。

 というより、そもそもシュメール冒険者ギルドには、バイザーさんに逆らう人などいない。

 グループに入っていなくとも、みんなどこか彼の顔色を窺っているのだ。

 正直、性格は最悪だけど……それだけの力がバイザーさんにはある。


「お前みたいな底辺冒険者は知らないだろうが、冒険者ギルドの支部にはランクがある。それは依頼の平均ランク、達成数、成功率、冒険者の数などで算定されるのだが、中でも重要視されているのが……所属している冒険者の平均ランクだ」


「平均ランク……」


「単純な話、冒険者の平均ランクが高ければ高いほど、そのギルドは優秀であるとみなされるんだよ。現在、シュメールの平均ランクはB−だ。因みに、ケルトの平均ランクはA。オリンポスに至ってはA+と、Sに近い数字が出ている。これだけ言えば……分かるだろ?」


「え……あの……」


「ベニー……お前優しいな。だが、それじゃこの馬鹿には伝わらねーよ」


「す、すいません……」


「いや、俺がはっきり言っちまえばよかったんだが、こいつと話してるとイラついちまってよ。さすがの俺も……小娘に手を出したくはねぇからな」


 ……怖い。

 心臓がきゅってなる。

 な、なんなの?

 ボクが何を――――


「お前さ、冒険者……辞めろや」


「……え?」


 や、辞め……?


「な? 分かってねぇだろ?」


「マ、マジかよこいつ」


「今の流れで分かるだろ普通……」


「バイザーさん……こいつ、いったいどんな思考回路してんすかね?」


「クックックッ……さぁな。真面目に生きてりゃなんとかなるとでも思ってんじゃねぇか? ……んな訳ねぇのによ」


 よ、よく分からないけど……!


「あ、あのっ……ボクは……」


「冒険者ギルドのランクっつーのはな、言っちまえば単なるブランドよ。だが、そいつがでけぇのさ。ケルトやオリンポスの冒険者ギルドと聞けば、誰もが"ああ、あの優秀な"と、口を揃えて言うだろう。冒険者も増え、依頼の数もそれに比例して増えちゃいるが、シュメールはまだまだ発展途上だ。所詮、オリンポスやケルトのおこぼれを貰ってるだけの2流ギルド……それが世間の評価。俺にはそいつが我慢ならねぇのよ。アルメニアが潰れ、ギリシアもあのザマ。ティーターンはレアに押されて慌てふためいてやがる。ま、レアはレアで国が1個潰れたりしてるみてぇだが……まぁ、とにかくだ。5大国家の均衡が崩れた今、シュメールはもはや強国と言っても過言じゃねぇ。だから、まずは数字で証明してやんのさ」


 その時、バイザーさんが椅子から立ち上がる。

 勝手に足が震えていた。

 怖くて前が見れな――――


「ひっ!?」


 気がつくと、目の前にバイザーさんが立っていた。

 そして、手を膝に置き、ボクにゆっくりと顔を近づけた。


「平均ランクを上げるにはどうすればいいか……分かるよな? 簡単な話だ」


「あ……」


「そうだ……下を切ればいい」


 そっか……そういうことか。

 ボクは馬鹿だなぁ……なんで分からなかったんだろう。


「ギルドカードを渡せ。邪魔なんだよ。お前みたいなクズに……冒険者を名乗る資格はねぇ」


 ……言ってることは分かる。

 確かにボクは底辺だ。

 魔法も弱いし、身体も貧弱そのもの。

 これから先、ランクが上がる可能性は……かなり低い。

 シュメールの冒険者ギルドにとって、きっとボクは邪魔者なんだろう。

 でも……。


「い、嫌……です……」


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