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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第331話:最高

 

 やはりというべきか、先に間合いへと入ったのはゲイボルグであった。

 剣と槍。

 昨日行われたゲイボー対クルージン戦のように、その間合い差がある以上、先制する権利は槍側にある。


「オラオラオラァッ!」


「ちぃッ……!」


 先程とは違い、連続で繰り出される突きの嵐に、エクスカリバーの口元が微かに歪む。

 単純な話、剣の間合いで戦わなければ、ゲイボルグの勝ちは揺るがない。

 だが、先の1秒にも満たない攻防の中で、両者は互いに同じ思いを抱いていた。

 正攻法では届かない。

 勝利を掴む決め手は、如何にして相手の想像を超えられるかだと。

 事実、エクスカリバーはゲイボルグが放つ突きの連撃に対し、最初こそ受けに回っていたが、すぐに軌道を見切り、一撃必倒のそれを紙一重で捌きながら少しずつ前へと進み始めていた。

 それにより、攻撃している側のゲイボルグが逆に後退し始める。


「すっご……全然見えない……!」


「当たれば終わりの魔槍……あそこはまさに死地といえよう。だが、エクスカリバーに恐れはない。まったく……見事な技と精神力よ」


「はい……本当に驚嘆するばかりです。ゲイボルグ様の槍が当たれば、たちどころに槍は千を超える棘となり、その身体を貫かれてしまう。それにも拘わらず、迷いなく最短で足を前に……まさに心技体、その全てをもって敵を討つ……それを体現されていると言えましょう」


「ふふ……少々妬けるな」


 鳴り続ける剣撃の音。

 残響すら残らないその攻防に、彼女達3人も、ロードも、そして手帳の中にいる武具達全ても魅入っていた。


「ふッ……!」


 眼前に迫る魔槍を、聖剣の腹が捉える。

 "受け流される"。

 そう感じたゲイボルグが槍を引くと同時、聖剣が魔槍のつかを軽やかになぞった。


「うッ!?」


 その時、エクスカリバーの耳から鮮血が流れる。

 しかし、呻いたのはゲイボルグ。

 突きを受け流すのではなく、耳に刃が触れる程に最小の動きでそれを躱し、エクスカリバーは槍の上に剣を這わせながら一気に踏み込んだ。


「は、速い!」


「持ち手を狙うか……!」


 そう。

 両手で繰り出される槍の突き。

 エクスカリバーが狙ったのは、前に出た右手であった。


「ぐッ……!」


 咄嗟に右手を放し、後方へと跳んだゲイボルグだったが、僅かに遅く、その手首から赤い雫が滴り落ちていた。


「ちっ……はッ!?」


 ゲイボルグの視線が右手に落ちた刹那、エクスカリバーの放つ黄金の斬撃が空を駆ける。


「うッ……!」


 紙一重でそれを躱したゲイボルグだったが、斬撃から目を切った直後、その瞳が大きく見開かれた。

 目の前に広がる黄金の閃光。

 それは、彼女が誇る必殺剣――――


「はぁぁぁぁあッ! "栄光へ導く聖なる剣(エクスカリバー)"ッ!」


 完璧なタイミング。

 崩れた体勢。

 決して浅くはない右手の傷。

 もはや躱すことも、受けることも出来ない。


「……だったらッ!」


 故に彼女は、槍を地面に突き刺し――――


「なッ……がッ!?」


「ぎっ……い……いってぇなぁ……ひっひっひっ!」


 かつてゲイジャルグを捕えた無数の槍を地面から生やし、己の身体ごとエクスカリバーを貫いたのだった。


「そ、そこまッ……!」


「止めんなッ!」


「ッ!? ゲ、ゲイボルグ……!」


 直後ゲイボルグの指が鳴り、2人の身体から槍が抜ける。

 両者は地面に落ち、決して少なくはない血を流しながらそれでも立ち上がった。


「ま、まだ終わって……いないッ!」


「エクスカリバーまで……い、いやでも血が……!」


「こ、ここまで来て……相討ちじゃ終われねぇ……!」


「ああ……決着はつけるッ! なんとしてもッ!」


「2人とも……」


 血は流れ続ける。

 だが、2人の膝も、そして心も折れなかった。


「へっ……咄嗟だったんでなぁ……上手いことっ……いっつ……せ、制御が利かなかったぜ」


「フッ……ごふっ……い、いや、見事な返しだった。仮に我だけを狙っていればっ……その殺気に身体が……は、反応していたであろう」


「ハッ……だったら……最善手だったかな」


「うむ……で、どうする? いかに心の広い主人あるじとて、そう長くは待ってくれまい」


「なら一発だ……それで決めようや」


「……いいだろう。主人あるじよ、無理を承知で頼む。あと一撃……あと一撃だけ放つ時を我らにくれ」


「エクスカリバー……」


「あたいからも……頼む」


「……止めても無駄か」


主人あるじ……!」


「じゃ、じゃあ!」


「ただし、条件がある。もう二度と喧嘩はしないと約束してくれ。いいな?」


「「そ、それは……」」


「あ、なら……」


 ロードの手が2人に伸びる。


「わ、分かった分かった! もうしねぇって! なぁ、エクスカリバー!?」


「う、うむ! そうだとも! なんなら我がゲイボルグの髪をとかしてやってもよい!」


「……一発だけだぞ」


「か、感謝するぞ主人あるじよ!」


「よっしゃ! んじゃ……」


「うむ」


 ロードに礼を言った後、2人は互いに背を向け、開始位置までゆっくりと歩き出す。

 そこへ辿り着くと振り返り、同時に深く息を吸った。


「……鞘は使わぬ。この剣で……貴公の槍を断つ」


「へっ……なら、あたいも小細工はなしだ。この一投にッ……!」


 ゲイボルグは左手で槍を持ち、足を大きく開くと、身体を一気に捻りあげる。

 そうして、残る魔力全てを黒き魔槍へと叩き込んだ。


「全てを込めるぜッ……!」


 槍は黒い魔力に包まれ、ひりつく空気がエクスカリバーの肌を刺す。

 それにより、彼女の言葉が嘘ではないことを一瞬で分からせていた。


「ならば我も……はぁぁぁぁあッ!」


 それを受け、エクスカリバーもまた、己が聖剣にありったけの魔力を注ぎ込む。

 上段に構えたつるぎは金色に輝き、ぶつかり合う魔力によって大気が震えていた。


「……あたいの槍を弾ければ、てめぇの勝ちだ」


「ああ……我が貫かれれば貴公の勝ち。分かりやすくていい」


「ハッ……てめぇのこと……結構嫌いだったんだがな」


「フッ……我もだ。だが、今は……」


「ああ……んじゃ、いくぜぇッ!」


「こいッ……ゲイボルグッ!」


 武具達の長い戦い。

 その終焉を告げる一撃が――――


「うぉぉぉおッ! 全ッ……力ッ……のぉぉぉおッ!! "死を運ぶ黒き閃光(ゲイボルグ)"ッ!!」


 放たれた魔槍は分かれず、1本の槍のままエクスカリバーへと突き進む。

 それはまさに黒い閃光。

 瞬きする間もないゲイボルグ最強最速の一撃であった。

 だが――――


「今ッ……はぁぁぁぁあッ! "栄光へ導く聖なる剣(エクスカリバー)"ッ!」


 ここしかないというタイミング。

 そうして振り下ろされた光の聖剣が、黒い閃光を完全に捉えていた。

 瞬間、鋼が鋼を削るような硬質の金切り音が辺りに響き渡る。


「うっわっ……!」


「な、なんという魔力のッ……ぶつかり合い……!」


「まさに渾身……互いに掛け値なく至高の一撃よッ……!」


「はぁッ……はぁッ……!」


 全身全霊を込めた一撃。

 ゲイボルグは地面に膝を突き、己が槍の行く末をただ見守る。


「くッ……おッ……!」


 対するエクスカリバーも同じ。

 全てを込めた聖剣で、黒き魔槍を断ち切らんと力を振り絞る。

 だが、その身体からは鮮血が流れ、腕も膝も意思とは関係なく震えていた。

 そして、彼女の身体が徐々に後方へと押され始める。

 威力は互角だった。

 ただ、今のエクスカリバーには、それを弾き飛ばすだけの体力が残っていなかった。


「へっ……どうやらあたいの……ッ!?」


 しかし、ゲイボルグが勝利を意識した刹那――――


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!」


 エクスカリバーの魔力が、ここにきて一気に増大する。


「ま、まさか……この先があるってのかッ!?」


「わ、我が名はッ……聖剣エクスカリバーッ! 栄光へと導く……伝説のつるぎなりッ!! 故にこのッ……いくさぁぁぁあッ! 負ける訳には……いかぬッ! うぉぉぉぉおッ! 今一度ッ……光り輝けぇぇぇぇえッ!」


「う、うぉぉぉ……!」


 魔槍が纏う黒い魔力が、彼女が放つ黄金の魔力に飲み込まれていく。

 それに合わせ、エクスカリバーの足が一歩、また一歩と前へ出る。


「エ、エクスカリバー……てめぇはッ……!」


「ゲイボルグよッ! 貴公はまさにッ……はぁぁぁぁぁぁあッ……!」


 魔槍の魔力は完全に飲み込まれ、今はただ、黄金の魔力だけがそこにあった。

 そして――――


「はぁッ!!」


 聖剣は振り抜かれ、黒き魔槍が宙を舞う。

 弾かれた魔槍がゲイボルグの側に突き刺さるのと同時、聖剣がその眼前に差し伸べられていた。


「はぁッ……はぁッ……き、貴公は最高のッ……強敵であったッ!」


「……ハッ! そりゃどーも」


「勝負ありッ!」


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