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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第330話:聖魔

 

「動かないでくださいね〜」


 椅子に座るエクスカリバーの足に、アスクレピオスの杖が優しく触れる。


「手間をかけるな」


「いえいえ〜じゃあいきま〜す」


「お、おお……痛みが和らぐ……」


 エクスカリバーの傷口が、段々と埋まっていく。

 これにより、人型の状態ならば、アスクレピオスの力が武具にも効果があることが分かった。


「しっかしさぁ……やっぱりエクスカリバーは強いね! あのガラドボルグに勝っちゃうんだもん!」


「フッ……」


 メルが興奮気味にそう言うと、エクスカリバーは少し笑った後に顔を伏せる。


「まぁ、素直には喜べぬがな」


「えっ? なんで?」


「ひょっとして……ガラドボルグは本気じゃなかったのか?」


 ロードの言葉に、エクスカリバーは静かに頷いた。


「確かに全力ではあったやもしれぬが、それはあくまで殺さぬ範囲でのもの。もし兄上がその気なら、この首が跳んでいた可能性は高い」


 エクスカリバーはそう謙遜したが、実際のところは分からない。

 仮にガラドボルグがその気であれば、彼女の戦い方もまた変わっていただろう。


「そうなんだ……でも、とにかくかっこよかったよ! エクスカリバー!」


「あっはっはっ! そうかそうか……では、その賛辞は素直に受け取っておこう」


「あ、終わったよ〜どうかなぁ?」


「ん、うむ……問題ない。礼を言うぞアスクレピオス」


 アスクレピオスによる治療が終わり、エクスカリバーは椅子から立ち上がって頭を下げる。


「ほんと? 効果があってよかったぁ〜」


「ありがとなアスクレピオス。また呼ぶよ」


「は〜い! じゃあ頑張ってね〜中から見てるよ〜」


「うむ。さらばだ」


 笑顔で手を振るアスクレピオスから魔力を抜き、ロードはメルに彼女を手渡す。

 そして、代わりに黒き魔槍を受け取った。


「結局残ったのは……お主ら2人という訳だ」


「我としては、貴公とも是非戦ってみたかったのだがな……トライデントよ」


「ふふ……褒め言葉として受け取っておこう。さて、ぬしどの。ルールは先と同じでよいのかな?」


「ん、そうだな。今更元に戻す訳にもいかないし……まぁ、一応ゲイボルグにも聞いてみよう」


 ロードが魔力を込めると、黒き魔槍は人型へと形を変え、彼らの前にすっと降り立つ。

 そして――――


「当然制限はなしだ」


 開口一番、満面の笑みを浮かべながらそう言ったのだった。


「だよな……」


「たりめーだろ? なぁエクスカリバー」


「フッ……後悔するなよ?」


「ひっひっひっ……てめぇがな」


 両者の身体から魔力が迸る。

 初めは単なるいがみ合いであった。

 互いに気に入らない。考え方が合わない。ただそれだけのこと。

 しかし今、2人の想いは少しだけ変化していた。


 無論、いけ好かないことには変わりない。

 だが、手帳越しに見たその戦いぶりに、両者はある種の真摯さ、または気高さを感じたのだ。

 表面には現れなかったそれが、互いの印象を僅かに好転させたのである。


「……じゃあ、2人とも中央へ」


 2人のやりとりに険悪さがないと気付き、ロードは静かにそう言った。


「ねぇ……どっちだと思う?」


 ロードについて歩く2人の背を見つめながら、メルは囁くように2人へ問い掛ける。

 トライデントは「そうさな……」と呟きながら、その細い指を顎へと当てた。


「制限がなくなった以上、エクスカリバーに遠距離攻撃は意味をなさない。特に、ゲイボルグの槍はガラドボルグのそれと違い、そうそう連発出来るものではないからな。魔槍が放つ必殺の一撃は、完全に封じられたと言っても過言ではなかろう。つまり、ゲイボルグが勝つ為には……地力であれを超えねばならんという訳だ」


「あのエクスカリバーに……」


「ええ。ですが、ゲイボルグ様の速さはエクスカリバー様を大きく上回っています。また、戦いのセンス、とでも言えばいいのでしょうか……あの発想力と対応力は驚異です。いかにエクスカリバー様とはいえ、簡単に御し切れる相手ではない……正直なところ、どちらが勝ってもおかしくはないと私は思います」


「うむ。わらわも同じ意見だ。総合力は五分と五分……故に、勝敗は天のみぞ知る、といったところであろう」


「うーん……どっちが勝つのかなぁ……」


 メル達が見つめる中、試合場の中央に立った両者は、微かに笑みを浮かべながら武器を構える。

 遂に辿り着いた最後の試合が、いよいよ始まろうとしていた。


「これで最後だ。2人とも……悔いのないようにな」


「元はといやぁ……こいつはあたいらから始まったいくさだ」


「うむ。我らが残ったのは、ある意味必然だったのやもしれん」


「ひっひっひっ……感謝するぜぇ。必然によぉ」


「フッ……我もだ。ゆくぞ……ゲイボルグ」


「きな……エクスカリバー」


 直後、両雄の身体が微かに沈む。

 膝を軽く曲げ、重心を前へと落とし、顔からは険が消えていた。

 脱力から生まれる推進力。

 それを、己が好敵手へと全力でぶつける為に。

 そうして、ロードの右手が空へと上がる。

 その時、なんとも心地よい……爽やかな風が吹いた。


「……始めッ!」


 瞬間、両雄の後方に芝生混じりの土が舞う。

 身体は限界まで地面に近付き、倒れぬように最短で足を前へと出す。

 待ち焦がれたその刻に、身体は自然と最短距離を選択していた。

 先に届いたのは漆黒の魔槍。

 それは、踏み込んだ足から伝わる力を腰へと送り、そこで更に捻りを加え、両腕を押し出すように繰り出されたゲイボルグ最速の一撃。

 だが――――


「あれをくぐるか……!」


 トライデントから漏れた、嫉妬に近い驚愕の声。

 ブロンドの前髪に刃が触れた刹那、エクスカリバーは右へと傾きながらそれを躱し、一気に懐へと潜り込んでいた。

 手にした聖剣は地面と平行に並び、そのままゲイボルグの右脇腹を引き裂かんと唸りを上げる。

 最速を放つ為の深い踏み込み。

 ゲイボルグには、カウンターを躱す距離も時間もない。

 故に魔槍は、その場で地面を蹴った。


「と、跳んっ……!」


 刹那の選択。

 メルの声が響く中、引くことも受けることも出来ないと判断した彼女は、垂直に跳んで膝を抱いていた。

 直後、先刻まで身体が在った場所を聖剣がすり抜ける。

 その時、両者の視線が空中で交わった。

 そうして、互いに同じことを思う。

 "なんと楽しそうに笑うのか"……と。

 エクスカリバーはそのまま駆け抜け、ゲイボルグは槍を地面に突き刺し、反動を利用してその場から離れた。

 間合いが開き、2人は同時に振り返る。


「……やるな」


「フッ……貴公も」


 言葉を交わした刹那、両者は再び大地を蹴った。


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