第323話:似
ラムを右腕に装着し、3人を手帳に戻した後、レヴィと2人で屋敷の外へと出る。
うん……本当にいい天気だ。
「日差しは強いけど、そこまで暑くはないね」
「ですね。絶好の決闘日和といったところでしょうか」
「決闘日和か……言葉だけ聞くとなんか物騒だなぁ」
「ふふっ……確かにそうですね」
そんなことを話しながら2人で歩くと、すぐにレヴィが鎖で作ってくれた闘技場へと辿り着いた。
そのまま昨日と同じように設置されたテーブルへ行くと、抽選箱やティーカップ、クッキーなどのお茶請けが既に準備してある。
さすがはレヴィ。仕事が早い。
「じゃ、まずはメルを……よっと」
俺は腰にぶら下げてある手帳を手に取り、いつものように魔力を込める。
手帳から黒い光が溢れ出し、すぐに黒いワンピース姿のメルが現れた。
「ん……あ、おはようロード! レヴィも!」
「おはようございますメル様」
「おはようメル。今日も頼むな」
「うん! あ、そうそう、クラウソラスとトライデントから伝言があるの」
「伝言? 2人から?」
「えっとね、クラウソラスは自分を無理に呼ばなくてもいいって言ってたよ。魔力の消費も大きいし、他に出たい人もいるだろうからって」
クラウソラスがそんなことを……。
「そっか……なら、そうさせてもらおうかな」
確かにクラウソラスの言う通り、彼女に生命を与える場合、他の武具達の10倍くらい魔力が必要になる。
昨日は話を聞く為に呼び出したけど、彼女がそう言っているのなら今日は他の人に……。
「でね、トライデントは棄権するって」
「えっ? なんで?」
対戦相手だったブリューナクが棄権したから、まだ1回も出てないのに……。
「なんかね、そういう気分じゃなくなったんだってさ」
き、気分……まぁ、トライデントらしいといえばらしいか。
「そうか……あ、じゃあさ、クラウソラスの代わりにと言ったらアレだけど、トライデントを呼ぼうか」
「あ、それいいかも! 色々知ってる人がいた方があたしも助かるし! じゃあ呼ぶね! トライデントー!」
メルの呼びかけに応え、彼女が持つ手帳から青い三又の槍が姿を現す。
俺はメルからそれを受け取り、すぐに生命を与えた。
「……む、久しいな主どの。呼んでもらえて嬉しいよ」
確かになんだか久しぶりな気がする。
最後に会ったのはいつ――――
「むあっ!?」
「ふふ……こうするのもいつ以来か……」
ちょっ!? いきなり抱きっ!?
顔……柔らかっ……む、胸っ……!
「ト、トライデント様っ!」
「フ……そう喚くなレヴィ。たまにはよいではないか。お主はいつでも抱けるやもしれんが、妾はこういう時でもなければ……なぁ主どの?」
「むぐっ!?」
い、息がっ!
「うぅー……!」
「クックックッ……そう睨むなレヴィ。ほれ」
「ぶはっ!」
「ロ、ロード様!」
あ、危なかった……いろんな意味で。
「あまり待たせると後が面倒であるし、少々物足りなくはあるが……まぁこの辺にしておくとしよう」
ほっ……。
「ねぇねぇ、トライデントはレヴィみたいにロードのことが好きなの?」
「メ、メル様!?」
「ん? ああ……好いておるよ。まぁ、レヴィのそれとはまた違うがな」
「え? どう違うの?」
「ふむ……知りたいのなら教えよう。レヴィのそれは男と女の……」
「ちょっ! トライデント様!」
「ふふ……冗談だ」
今絶対本気だったろ……。
「えー!? なになにどういうこと!?」
「メルよ。人と関わり続ければ、いずれお主にも分かる時が来る。要するに、お主にはまだ早いということだ」
「むー……一応何千年も生きてるんですけど」
「生きた時が問題なのではない。想いとは育むものだ。そしてそれは、誰かと共に生きることで始めて理解出来る。お主は孤独だった……故に、今から学ぶのだ。主どのとレヴィを通してな」
「うーん……よく分からないけど分かった!」
「フ……今はそれでよい。疑問が消えれば興味が失せるでな。さて、では始めてくれ主どの。妾は観客として見届けることにする」
「あ、ああ……というか、本当によかったのか?棄権して」
「うむ。もとより妾はそう乗り気でもなかったからな。まぁ、せいぜいブリューナクと当たり、慌てふためく奴の顔を見たい……といった程度の興よ」
ブリューナクにいったいなんの恨みが……。
「それも叶ったことだし、勝ち上がった者が9名で1人余るとなれば……身を引くには十分な理由であろう?」
なるほど……そういうことか。
「ん、分かった。じゃ、折角だしゆっくりしていってくれ」
「そうさせてもらおう。レヴィ、妾は紅茶を飲みたいのだが……」
「あ、はい。かしこまりました。すぐに」
「感謝する。ではメルよ、今日は妾の膝を貸そう」
「ほんと!? わーい!」
トライデントが白い椅子に腰掛けると、メルがぴょんとその膝の上に飛び乗る。
まるで親子のようだ。
「ふかふかだぁ!」
「ふふ……うい奴め。さぁ主どの、引くがよい」
「ん」
トライデントが傾けてくれた抽選箱に左手を入れる。
残るは8名。
さて……最初は誰かな?
―――――――――――――――――――――
「1人目は……ゲイボルグだ」
「ほーい!」
魔槍の名を告げたロードに応え、メルは手にした手帳をめくっていく。
そうして――――
「おいでゲイボ……うわっ!」
「おっと!」
開かれたページから勢いよく飛び出した黒い槍を、瞬間的にロードの右手が掴む。
「あ、あぶっ……もー! なんか昨日もこんな感じじゃなかった!?」
「はは……やる気満々なのは変わらずか。もうちょっとだけ待ってろよゲイボルグ。今対戦相手を引くからな。じゃあ、これにしよう……えーっと2人目は……あー……」
「む、どうした主どの」
「あ、いやー……大丈夫かなって」
「大丈夫って……どういう意味ですか?」
「なんか似てる気がするんだよね。ゲイボルグとこの人……」
ロードはその名が記された紙をじっと見つめる。
彼は以前からそう思っていた。
笑い方やその……戦いが好きな性格が似ていると。
「まぁ、引いちゃったんだから仕方ないか……何かあれば……」
すぐに止めると、そう決めて。
「メル……ミョルニルを頼む」




