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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第322話:靴

 

「はへあぁぁぁ……」


 ……いた。

 すんごいだらしない顔と格好で。


「……何やってんだお前」


「のわっ!? ちょっ……!」


 アイアスの声に驚き、カフヴァールは慌てて起き上がる。

 あーあーよだれが……。


「仮にも女だろお前……こんなところで股広げて寝転がってんじゃねーよ。パンツ丸見えだったぞ」


「う、うるさいな! っていうか、見ないでよこの変態っ!」


「別に見たくて見た訳じゃねーよ」


「なっ……このっ! と、とにかく! これが私の至福のひとときなの! 太陽の光を浴びるのが! もうっ! 乙女の時間を邪魔しないでよね!」


 よだれを拭きながら乙女と言われても。


「で? なんの用?」


 ブロンドの短い髪についた寝ぐせを手でとかし、橙色のワンピースについたシワを叩きながら、カフヴァールは不機嫌そうに俺達を睨みつける。

 といっても、見た目が10歳前後なのであまり怖くはないのだが。


「わざわざ呼びにきてやったってのにこいつは……飯だよ飯」


「えっ!? ごはん!?」


 途端に目を輝かせるカフヴァール。

 見ていて飽きない子だ。


「ああ。今アガートラムとレヴィが準備……」


「それを早く言ってよー! そしたら怒鳴らなかったのにぃ!」


 はは……。


「てかヴィーザルは? もう下にいるの?」


「あ、いや、俺達も今探してて……」


「ん? おいロード……あれ」


「えっ?」


 アイアスにそう言われ、屋敷の裏手にある森へ視線を移すと、その入り口付近から巨木がにゅっと横に突き出ているのが見えた。


「な、なんだあれ……」


 そのまま見ていると、今度は巨木が上下に揺れ始め……というより跳ねてる……?


「俺っちの蹴りは〜なんでも壊すぅ〜カッチカチのガッチガチぃ〜っとぉ……」


 ……なんか変な歌まで聞こえてきた。


「おいヴィーザル!」


「うおう!?」


 アイアスの声に反応して、巨木の跳ね方が更に激しさを増していく。

 そうして、森から巨木が完全に姿を表すと……。


「おー! なんでぇおめぇら! そんな高いとこ登っちまってよぉ! 楽しそうだなおい!」


 片足で巨木を蹴り上げながら歩くヴィーザルが……そこにいた。


「ヴィ、ヴィーザル……何してるんだ?」


「おー旦那! 何ってそりゃ薪拾いでさぁ!」


「ま、薪……」


「へい! ちょちょいと蹴り倒してきやした!」


「け、蹴り……」


 た、確かに……ヴィーザルの力なら簡単なことかもしれないけど……。



 ―――――――――――――――――――――



 ヴィーザル 不壊の鉄靴


 神に創られた伝説の靴。

 天界にのみ存在する金属に、神が魔力を注ぎながら創られたこの靴には、絶対に壊れないという呪いがかかっている。

 また、この靴を履いただけで脚力が上昇し、巨大な岩をも一撃で粉砕出来るという。


 ただし、濡れてしまうと効力を発揮出来ない。


 武具ランク:【S】

 能力ランク:【S】



 ―――――――――――――――――――――



「俺っちの力なら朝飯前でさぁ!」


 それにしても……細身ですらっとしてて顔も整っている所為か、喋り方とのギャップがすごい。

 まぁそれは置いといて、そもそもこの屋敷は……。


「あんた……バカじゃないの?」


「ちょ、カフヴァール……!」


「あ、あんだとこの娘っ子! 俺っちのどこがバカだってんでい!?」


 ヴィーザルはそう言いながら、銀色の靴で巨木を蹴り上げ続ける。

 着ている白い服がかなり汚れてることからも、彼が頑張ってくれたことは分かるのだが……。


「この屋敷の動力は……全部魔石よ」


「はんっ!?」


 直後、巨木が彼の足をすり抜けて大地を揺らす。

 どうやら知らなかったらしい。


「ま、ませ……き……?」


「何よあんた……魔石も知らないの?」


「ば、ばっきゃろい! 魔石くらい知ってらぁ!」


「だったら分かるでしょ? 薪なんかいらないのよ。魔力を込めればちょちょいのちょいなんだから」


「……」


 ……黙っちゃった。


「分かったなら、それ邪魔になんないとこに置いてきなさい。いいわね」


「……はい」


「まったく……もうちょっと考えてから行動しなさい。そもそも、そんな大きい木を薪にするのはかなり面倒よ? 切るのも手間だし、乾かすのだって時間がかかる。てか、なんで枯れ木を選ばなかったの? あんたひょっとして……蹴り倒し甲斐がある奴を選んだんじゃないでしょうね?」


「あ、いや……その……」


「図星なのね? ダメよ木は大切にしないと。あんたそれがその大きさになるまでどれくらい……」


 ……なんかお母さんみたいだ。

 見た目は子供なのに。


「こっちも……長くなりそうだな」


「そうだねアイアス……」


「ちょっと! 聞いてんのあんた!」


「は、はいっ! 聞いてやす!」


 カフヴァールの説教が終わったのは、それから30分後のことであった。



 ―――――――――――――――――――――



「「「「いただきます」」」」


「「はい、召し上がれ」」


 色々あったが、やっと食事にありつけた。

 ……うん……やっぱり美味い。


「ロード様、お味はいかがでしょう?」


「ああ、美味しいよレヴィ。アガートラムもありがとな」


「いえいえそんなぁ……あ、それからロード様? わたくしのことはラムとお呼びくださいと何度も……」


「あ、ああ……分かったよラム」


「いやーん! 嬉しいです! はいっ! ロード様こちらもどうぞ!」


「あ、うん」


「……ラム様? ロード様はご自身のペースで召し上がられております。余計なちゃちゃを入れないように」


「あら……やきもち?」


「ラム様!」


 今までの武具達にはいなかったからな……こういう人は。

 あ、トライデントがいたか。

 タイプは全然違うけど。


「まったく……それにしてもロード様、左手でのお食事も慣れてきましたね」


「本当によろしかったのですか? わたくしを使わなくても」


「ん、ああ……大丈夫だよ。いい機会だし、左手も右手くらい使えるようになれば便利かなって。今までも、両手に武器を持つ機会が多かったから」


「なるほど……」


「そうでしたか。まぁ、なんにせよわたくしは嬉しいですわ。こうしてロード様と一緒にお食事が出来ますし」


「そっか。それなら良かったよ」


「はいっ! あ、言っておきますが、あなた方は食べ過ぎないように。ロード様の食べる分が減りますので」


「この対応の差よ……ま、うめぇからいいけど」


「なかなかね! おかわりちょうだい!」


「俺っちバカで……はぁ……うめぇっす……」


 ヴィーザル……まだ落ち込んでるな。

 あれだけボロクソに言われた無理もない。


「ロード様、2回戦はこの後すぐに?」


「ん、そうだねレヴィ。みんな待ってるだろうし、早い方がいいかな」


「分かりました。では、先に行って準備を」


「ありがとう。頼むよ」



 ―――――――――――――――――――――



「ふぅ……ごちそう様」


「お粗末様でした。では、食後の紅茶をお淹れしますわ」


「ん、ありがとう」


「あ、私らにもちょうだいよ」


 すかさずカフヴァールがラムにそう言う。

 私"ら"というあたり、なんだかんだ優しい子なんだなと思った。


「……仕方ありませんわね。お待ちなさい」


「やりぃ!」


「ナイスだカフヴァール。もうすぐ始まるみてぇだし、手帳へ戻る前の最後のお楽しみってとこかね」


「今日から2回戦だっけか? 誰が勝つんだろうねぃ」


 あ、そういえば……。


「4人とも参加してないけど、こういうのには興味ないのか?」


「んー……ねぇことはねぇが、俺らは武器じゃなくて防具だからな。武器連中とやり合ってもジリ貧なんだよ」


「そうね。例えば、私は相手の視界を奪えるけど、その後が続かないのよ。攻撃手段がないからね。そもそも私の場合、一発喰らったらそれで終わりだし」 


「俺も似たようなもんだ。斬撃なら防げるが、結局返しの一手がねぇ。つか、ヘラクレスとかトライデントに当たったら降参するしかねぇしな。やっぱ防具ってのは武器があってこそなんだよ」


「なるほどな……あ、でもラムとヴィーザルは?」


「俺っちはこの靴以外無防備だからねぃ。今勝ち残ってる連中なんかにゃ勝てねぇでしょうなぁ」


「わたくしもこの右手だけでは……」


 ラムはそう言いながら、魔銀の腕を左手で撫でる。


「それに、わたくしの力は"所有者の意思を力に変える"というものです。ですから、ロード様から離れている時点で満足に力を発揮出来ませんわ。鉄の板を打ち抜くくらいは出来ますが……」


「え?」


 十分だと思うけど……。


「ただいま戻りました」


「あ、おかえりレヴィ」


「準備完了です。いつでも始められますよ」


「分かった。それじゃ……闘技場に行こうか」


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