第321話:円盾
「昨日の夜は曇っていたので心配だったのですが……いいお天気になってよかったですね」
「ああ……暗くなってもいいからやらせろ! ……って、昨日も散々言われたしな。これ以上伸ばしたら何を言われるか……」
「ふふっ……無事に試合を行えそうでよかったです。んしょ……」
レヴィはそう言いながらベッドから降り、ゆっくり窓へと近付いていく。
日差しに照らされた彼女もまた――――
「んー! 風が気持ちいいです……」
レヴィが窓を開けると、爽やかな風が部屋の中へと入ってくる。
太陽の光と芝生の匂い……木々が揺れる音……そして、レヴィの後ろ姿。
「ああ……そうだね……」
五感全てが、今日という1日の始まりを喜んでいるような気がした。
「あっ、ところでロード様? 2回戦の組み合わせはどうされますか?」
「あー……」
武具達の息抜きに始めた闘技大会。
1回戦は全て終わっており、今日から2回戦が始まる。
勝ち上がったのは9名。
デュランダル、トライデント、ドラグヴァンディル、ゲイボルグ、ヘラクレス、ゲイボー、ガラドボルグ、ミョルニル、エクスカリバーだ。
「9人だからどうやっても1人余るし、こればっかりはしょうがないかな」
「そうですね……まぁ、運も実力のうちと言いますし、昨日と同様にくじ引きでよろしいかと」
「うん。とりあえず朝ごはんを……っと!」
「あ、ロード様ッ……!」
ベッドから降りようとした際、アガートラムを外していたことをつい忘れ、バランスを崩して床に倒れそうになってしまった。
「ご、ごめんレヴィ……ありがとう」
「いえ、謝らないでください。私はあなた様の……右腕ですから」
すぐにレヴィが支えてくれたおかげで助かった。
もう何度目だろうか。
「さ、お手を」
「……ありがとう」
アガートラムは眠る時だけ外している。
別に付けていても違和感はないのだが、なんというか……気持ちの問題で。
「ん? これは……」
「あ、またっ……!」
レヴィの手を借りて着替えを済ませ、2人で部屋から出ると、屋敷の中になんだかいい匂いが漂っていた。
恐らく彼女の仕業だろう。
「アガートラム様!」
2人で1階へと降り、そうしてリビングの扉を開けると……もう1人のメイドがニヤニヤ笑いながらこちらを見ている。
これもまた何度目だろうか。
「あ、おはようございます。どうかされまして?」
短い黒髪に銀の瞳。
整った顔立ちを斜めに傾け、メイド服姿のアガートラムはそう言いながら、やはり無邪気な笑顔をこちらに向けていた。
「どうかされまして? じゃありません! 家事は私の仕事だと何度言えば……!」
「あら? そうでしたっけ? まぁ、そんなことより……ロード様ぁ!」
「ちょっ……!」
「さ、させませんっ!」
咄嗟にレヴィが俺とアガートラムの間に入り込むと、2人はお互いの手を掴んで睨み合う。
そういや、初めてギリシアで生命を与えた時もこんなんだったっけ……。
「ちょ、ちょっとレヴィさんっ? なんで毎回毎回邪魔するんですのっ……!」
「ロ、ロード様が困っているからにっ……決まっているでしょう! 何故あなた様はいつもそうっ……!」
「わたくしはロード様の右腕なのですよっ!? くっついていたいのは当たり前ですわっ! そ、それから……わたくしのことは"ラム"と呼んで欲しいと……何度言えばっ……!」
「あのー……2人ともその辺に……」
「「ロード様は黙ってて!」」
「あ、はい」
なんだかんだ気が合ってるような気も……。
見た目は正反対なんだけどな。
髪の長さも体型も……スカートの長さも。
「朝っぱらから元気だねぇ」
「ん、ああ……おはようアイアス」
「おう。あ、まぁ言うまでもないだろうが特に異常なしだ。こいつを使う必要もない……静かないい夜だったぜ」
アイアスは自身である茶色い革の円盾を俺に見せながら、そう言ってニッと笑う。
彼もアガートラム同様、夜の見張りをお願いした武具のうちの1人だ。
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アイアス 斬無の革盾
天界に存在する聖獣の革で創られた伝説の円盾。
数千枚の革が重ね合わされているこの盾の前には、この世全てのあらゆる斬撃が無効化される。
ただし、打撃や魔法には弱い。
武具ランク:【SS】
能力ランク:【S】
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「そうか……ありがとな。ところで他の2人は?」
「あ、そういやいねぇな。さっきまで庭で話してたんだが、いつの間にかいなくなっ……」
「ラム様! これ味が濃すぎます! そもそも朝からこんなに重たい物を……!」
「ロード様はまだお若いのよ!? 濃い味付けがお好みでしょうし、朝からステーキだってペロリですわ! それくらい察してあげたらいかがかしらっ!?」
「なッ!? そ、それはあなた様の主観であって……!」
まだやってる……。
味が濃すぎるのは嫌だなぁ……ステーキは確かにペロリだけど。
「……こりゃ当分終わらねぇな。今のうちに2人を探すとするか」
「あ、俺も行くよ。だいたいの場所は分かるし」
仲良く喧嘩する2人を残し、俺とアイアスはリビングを後にする。
さて、近いのは……。
「この感じ……カフヴァールは多分屋根の上だ」
「あー……そういやあいつ太陽の光が好きとかなんとか……」
カフヴァールは太陽の光を集めて創られた兜だからな……日の光を浴びるのが好きなのかもしれない。
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カフヴァール 太陽の兜
神が生み出した伝説の兜。
太陽の光を集めて創ったというそれは、所持者に仇なす敵の目をことごとく潰したという。
太陽の出ている時間帯でなければ力を発動出来ないという制約があり、また、防具としての防御力は皆無である。
武具ランク:【S】
能力ランク:【S】
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「つか、そもそもカフヴァールは太陽が出てる時間しか効果を発揮出来ないんだろ? 夜の見張りにゃ向いてねーよなぁ」
「そうなんだけど……前に呼び出した時が昼間で、その時に今度は夜の世界が見たいって言っててさ。今なら4人出せるし、余裕のあるうちに叶えてあげようかなと……ギリシアのダンジョンでは世話になったしね」
「あ、そういうことか。んで、もう1人はどこだ?」
「んー……ちょっと待ってな……」
屋敷にはいない……外……あ、これは……。
「裏の森の中だな。少しずつこっちに近付いてるから、多分戻ってこようとしてるんじゃないかな?」
「なんでまた森に……ほんっと伝説の武具って変な奴多いよな」
「はは……」
……アイアスもその1人なんだけどな。
最初に会った時、"剣がへし折れ、嘆き悲しむ相手の顔を見るのが最高の愉悦"……とか言ってたし。
まぁ、とりあえず……。
「じゃ、屋根の上から見にいこうか」
「あいよ」




