第324話:槌
「ゲイボルグ様とミョルニル様……言われてみると……」
「ふふ……まぁ、互いに気性が激しい部類ではあるな」
「確かにちょっと似てるかも……あ、今呼ぶね」
メルはすぐにページを開き、蒼き雷の槌を手帳から呼び出す。
ロードはそれを受け取ると、2つの伝説に魔力を込めた。
直後、蒼い光と黒い光が同時に輝き――――
「冗談じゃねぇ! こいつのどこがあたいと似てんだよ!?」
「私だってこんなんと一緒にされたかないねぇ!」
「「あぁん!?」」
やはり似ている……と、彼女達2人以外の全員がそう思ったのだった。
「このピカピカ野郎が……覚悟しな。穴だらけにしてやるぜ」
「……ほざきなゲイボルグ。あんたこそ、消し炭になる覚悟はあるんだろうねぇ?」
「ちょ、ちょっと2人とも……!」
今にも戦いが始まりそうな雰囲気に、ロードは慌てて2人の間に割って入る。
「……一応聞くけど、ルールは覚えてるよな?」
「あ? 死んだら負けだろ?」
「殺したら勝ちだよなぁ?」
「はぁ……もう1回説明するからよく聞いてくれ」
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ルール
1、勝敗はどちらかが負けを認めるか気絶した場合、あるいは決着に値する寸止めなど、審判が止めた際に決する。
2、場外に出た場合はその時点で失格。
3、試合時間は5分。それが過ぎた場合、両者敗北となる。
4、準決勝からは時間無制限。
5、危険だと判断した場合、強制的に魔法を解除する。その場合は両者敗北となる。
6、能力の使用は1試合につき1回まで。破った者は即失格となる。
以上
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「いい?」
「ああ」
「了解だぁ」
「はぁ……」
一切視線を逸らさない両者に、ロードは再びため息をつく。
危うければ即止めると、そう心に決めながら。
「じゃ、2人とも中央へ」
ロードに連れられて移動した両者は、試合場の中央で距離を置いて向かい合う。
既に互いの身体からは魔力が迸り、手にした伝説からは殺気が漂い始めていた。
「お祈りは済んだか? ミョルニルよぉ……」
「ハッ……あんたもクラウソラスの話を聞いて色々思い出したんじゃねぇのか? 祈りを捧げる神なんざ……もういねぇだろうが」
「ひっひっひっ……そうだったなぁ」
「んなことよりさぁ……きっひっひっ!」
直後、手にした雷の槌が蒼白い光を放ち始める。
小さな稲光りが彼女の周囲にいくつも走り、徐々に身体が前へと沈んでいった。
「……ああ。今はただ……この戦いを……!」
それに呼応するかのように、ゲイボルグの槍が黒い魔力に覆われていく。
彼女もまた前傾姿勢を取り、全身に力を溜めていた。
そして――――
「始めッ!」
「「楽しもうやッ!」」
刹那、ゲイボルグの槍が空気を引き裂き、ミョルニルの槌が大地を砕いていた。
右脇に柄を抱えるように放たれた槍のひと突きはミョルニルの左こめかみを擦り、右上段から繰り出された槌の一撃が半身に構えたゲイボルグの頬を撫でる。
「ぬぐッ!」
「ぐぉッ!」
互いに初撃を紙一重で躱した後、両者は示し合わせたかのように額と額をぶつけ合う。
長槍と大槌。
互いに中距離を得意とする性質上、間合いが近ければ肉弾戦となる。
それは、半ば必定であった。
「がぁッ!」
「うらぁッ!」
互いに空いていた左の拳が、ほぼ同時に顔面へと叩き込まれる。
だが――――
「う……くッ……!?」
「きっ……ひっひっ!」
速さではゲイボルグが圧倒的優位に立つが、力ではミョルニルに軍配が上がる。
結果、ゲイボルグの顔は大きく仰け反り、彼女の視界が霞んで歪む。
「ふんッ!」
後退するゲイボルグに合わせ、ミョルニルは大きく前へと出た。
地面に埋まっていた雷の槌を力任せに引き抜くと、そのまま斜め上へと薙ぎ払う。
「ッ!」
歪んだ視界でなんとか反応し、ゲイボルグはそれをしゃがんで回避する。
そのまま転がるように後退した彼女は、ミョルニルを睨みつけながら立ち上がった。
「ちッ……」
「きっひっひっ……無様だねゲイボルグ。逃げんのに必死かい?」
「うるせぇ! 最後に立ってりゃそれでいいんだよバーカ!」
「そうかいそうかい。だったら……」
「ッ!」
瞬間、空気が破裂したかのような衝撃波が辺りに広がる。
ミョルニルから発せられる圧倒的な魔力に、ゲイボルグの表情から余裕の色が消えていた。
「さすがは雷の神の愛用品……といったところか。妾と遜色ない魔力を放っておるわ」
「や、やっぱりミョルニルって凄いんだね……」
「愚問ぞ。神が帯し武器であったミョルニルと、神が生み出したとはいえ、人の手にあったゲイボルグとでは格が違う。もっとも、妾もつい最近までそんなことすら忘れていたのだがな」
「やはり……トライデント様も記憶が?」
「……うむ。妾もかつては海の神が帯し武器であった故、エクスカリバーやゲイボルグといった、人の手にありし武具よりは記憶が残っていたのであろう。しかし、それは非常に脆弱なものでな。確信が持てぬから尚のことたちが悪い。だが、クラウソラスの話を聞き、ある程度は思い出せた。まぁクラウソラス同様、肝心な部分が未だに思い出せぬからあまり意味はないがな。天界で何があり、前の所有者である海の神がどう消えたのか……そこが分からぬ。まったく……腹立たしいことよ」
「うーん……あたしも全然分からないんだよね。でもさ、こんなことが出来るのはやっぱり神様しかいないと思うんだけど……」
「で、あろうな。妾達だけではなく、人間全てが神の名を忘れるなど、どう考えてもあり得ぬことよ。つまり、天界で何かがあったのはもう間違いない。それこそ、神同士の争いといったレベルの何かがな。その際に我らの……いや、この世界の理ごと、全てを変える必要があった。もしくはそれこそが目的だったのではないかと……妾はそう睨んでいる」
「理……?」
「要するに、全ての者は巻き込まれたのだ。我ら武具も、人も、魔族も、竜族も……そして、恐らく"無能"と呼ばれた主どのも……おっと、続きは後にした方がよさそうだ」
「えっ?」
膨れ上がったミョルニルの魔力が、全てその手に持つ雷の槌へと注がれていく。
能力の発動は1度きり。
つまり、ミョルニルは次の一撃で決めると……そう言っているのだ。
「すご……」
「奴の上を見よ」
「こ、これは……!」
レヴィ達が空を見上げると、ミョルニルの上空に巨大な黒い雲が浮かんでいた。
「……雷雲を呼び寄せたようだな。どうやら本気でゲイボルグを消し炭にする腹づもりらしい」
「ゲイボルグ様……」
「だ、大丈夫かなぁ……」
ゲイボルグは、ただ黙ってミョルニルを見つめていた。
無論、攻撃する時間は存分にあったのだが、彼女のプライドがそれを許さなかったのである。
相手の全力を、全力を持って叩き潰す。
そして勝利する。
そうでなければ意味がないと、彼女は魔槍に魔力を込めた。
「一応言っとくが、こいつはマジにやべぇぜ? 空から雷をしこたま落とす必殺の一撃……いや、乱撃かな。ゲイボルグよぉ……覚悟はいいかい?」
その清純で可愛らしい顔からは、全く想像もつかない程の低い声で、ミョルニルはゲイボルグにそう言い放つ。
「ひっひっひっ……たまんねぇなぁ……たまんねぇよオイ!」
相対するゲイボルグもまた、その美しい顔を極限まで歪ませ、全身を震わせながらそう叫んだ。
「ハッ……この変態が。だったら焦げて……悶えてぇッ! 消えちまいなぁぁぁあッ! "天より堕ちる雷の槌"ッッ!!」




