第305話:初撃
「さっさと出てこいや!」
「ここにいんのは分かってんだッぞらぁッ!」
「舐めたマネしてんじゃねぇアァンッ!?」
普段は静かな町の外れに、ガラの悪そうな男達の怒号が飛び交っていた。
彼らはその寂れた宿屋を包囲したまま、中にいるであろう不届きものへ向けて更に声を張り上げる。
「サマやった奴がどうなるか……今からたっぷり教えてやんよぉ!」
「出てこねぇんなら店ごと焼くぞコラァッ!」
「ちょっ……店は勘弁してくだ……!」
「うるせぇ! つか、別にいいじゃねぇか。謝礼は弾むって言われてんだろ? この際建て直せよこんなオンボロ」
「え、いやぁ……その……」
「あ? なんか文句あんのか?」
「め、めっそうもない! ははは……!」
ティア達のことをジハードへと密告した宿屋の主人だったが、彼らの関係はあくまで暴力の上に成り立っている。
この町で生きる以上、誰も彼らには逆らえない。
ジハードの不都合は、そのまま彼ら住民へと向けられる為である。
「にしてもよぉ……マジであのズィードなんかね?」
既に彼らは支配人のジジョーや、その手下達からおおよその経緯を聞いていた。
その中で上がったズィードの名。
いかにジハードの構成員とはいえ、その名が意味するところは大きい。
「ハッ! おめぇ馬鹿か? んなもんあいつらのでまかせに決まってんだろうが。てめぇのミスの言い訳に適当こいてるだけだっての」
しかし、ミスがそのまま失脚、ないし処分へと繋がるのが彼らの常。
故に、それを軽減しようとする嘘や言い訳は日常茶飯事であった。
「だ、だがよぉ、あのビビり方は普通じゃ……」
「だーかーらー! SSSランクが都合よくこんな町にいる訳ねぇだろ! ピュアか!? まぁ、多少できる奴らなのは間違いねぇが、人数がこんだけいりゃ喧嘩にすらならねぇよ」
「いや、まぁ……」
「ごちゃごちゃ考えんな。俺ら下っ端は上のいうこと聞いてりゃいいんだよ。さっさと終わらせて、酒飲みながらポーカーの続きでもやろうぜ?」
「そ、そうだよな……うん……」
「おい……何をくっちゃべってやがる」
「「「「「ピ、ピリオドのアニキ……!」」」」」
ジハード傘下の暗殺ギルドは数多くあり、今宿を取り囲んでいるのは、その中の一つである"エンドポート"に属する者達であった。
ピリオドはそのギルドマスターであり、ジハード全体においても名の知られた猛者である。
「こんなもんに時間掛けてる暇はねぇんだよ。出てこねぇんなら……さっさと燻り出せ」
「へ、へいっ!」
「今すぐに……!」
「ちッ! どこのアホだかは知らねぇが、こっちはそれどころじゃねぇんだよ……クソがッ!」
通常、ピリオドほどの男がこのような場に立つことはまずない。
しかし、彼には……というよりも、今のジハードには、全てにおいてしくじることの出来ないある事情があった。
それ故に、ジハードという巨大組織からすれば、ほんの些細な出来事であるこの場に、わざわざピリオドが出向いたのである。
「ア、アニキ……?」
「な、何かあったん……」
「るせぇッ! とにかくさっさと引きずり出して、これ以上ないくらいに痛めつけろ! メスガキでも容赦すんじゃねぇぞ! 俺らを舐めたらどうなるか……この世全てに分からせるようになぁ!」
「は、はいッ! おいッ! 早く炎系の奴らを集め……!」
「出てきたぞ!」
瞬間、ピリオドを含めた全員の視線が、寂れた宿の入り口へと向けられる。
現れたのは2人の男。
巨剣を背負った1人は顔を隠し、茶色い服を着たもう1人は、気怠そうな表情で辺りを見回していた。
「あ……やっぱりあの顔……あれ本物じゃ……」
「うるせぇぞ馬鹿! アニキ、情報通りです。奴らに間違いありません」
「他に女が2人いる筈ですが、姿が見えませんね」
「裏口は?」
「既に固めてあります。逃げ場はありません」
「フン……女を庇う為に出てきたか。おいてめぇら!」
「あん?」
応えたのは茶色い服を着た男。
彼は腕を組んだまま、その鋭い視線をピリオドへと向けた。
「派手にやってくれたなぁ? もう情状酌量の余地はねぇぞ……庇ってる女もな! 殺してくださいと泣き叫びながら懇願しようが、俺らは絶対にてめぇらを許さねぇ。クックックッ……生きたまま地獄を味あわせてやるよ」
「ハッ……いかにも三下が吐きそうな台詞だな」
「……なんだと?」
「分かりやすく言ってやろうか? "雑魚に用はねぇ"、"さっさと上を連れてこい"、"お前じゃ話にならねぇよ"……これだけ言や分かるか?」
一瞬生まれた静寂に、プチッ……と、何かが切れる音がした。
「……潰せッ!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」」」」
100を優に超える男達の咆哮が、2人の男へと全て向けられる。
大気と地面は激しく揺れ、それがそのまま彼らの怒りを表していた。
「じゃ、おっさん左な」
「あいよ」
魔法を発動させ、剣や斧を振りかざす男達が雪崩のように迫る中、彼ら2人は静かに魔力を滾らせる。
そして――――
「「「あばッ!?」」」
「「「おどふッ!?」」」
直後、大量の人間が宙を舞うのだった。
「……は?」
放たれた魔法はことごとく消失し、振りかざした刃は彼の前でその動きを止める。
ズィードの無力化魔法の前に彼らの攻撃は意味を持てず、返しの拳が容赦なく複数の鳩尾へと叩きこまれていた。
また、隣に立つ男へと向けられた魔法は、何かに弾かれ空へと消える。
直後、彼の拳が虚空を穿つ。
誰にも触れていない筈のその拳は、屈強な男達を軽々と吹き飛ばしていた。
「な、なんッ!?」
「こ、こいつら……!」
先程までの勢いはあっさりと2人の拳によってかき消され、一気に不穏な空気が彼らを包む。
「おっさん……やり過ぎんなよ?」
「ハッ! これでも加減してんだよ。剣を抜かないだけありがたく思ってもらいたいもんだぜ」
2人は同時に足を前へと出す。
その分だけ、男達は後ずさっていた。
既に分かってしまったのだ。
どれだけ人数がいようとも、この2人には勝てないと。
「あ……な、何をびびってやがるッ!」
そしてそれは、ピリオドも同じであった。
故に吼える。
「てめぇらはジハードの一員なんだぞッ!? さっさとそのクソどもを……!」
「ア、アニキ……やっぱりあれ……本物っすよぉ! 俺見ましたもん! 情報誌であいつの顔ぉ!」
「隣のやつもやばいっすよ! に、人間をあんな……あんな簡単に……!」
「魔力の桁が違い過ぎる……無理だ……勝てっこねぇ!」
「う、うるせぇ! 本物だろうが偽物だろうが! それがどんだけ強かろうが! ジハードにたてつくやつぁぶっ潰す! 特に今は……!」
「い、今はって……?」
「ッ! いいから早くやれッ! それとも……俺に殺されてぇか……!」
「「「……ッ!」」」
「おーい」
「あぁッ!?」
「やるの? やらないの?」
再びブチッ……と、何かが切れた。
「こッ……のぉ……殺せぇぇぇぇえッ!!」
夏休み……欲しい……。
という訳で、次回更新は来週の水曜日となります。
ご了承ください……!




