第304話:ジハード
「そうだ。で、シェリルは仲間と行動していると……そう言ってたんだよな?」
「は、はい……そうですけど……」
「あっ……!」
ちょ、ちょっと待って?
じゃあ、シェリルは……!
「ということは、彼女は今……ティタノマキアと行動を共にしていることになる」
「そ、そんな!」
シェリルが……ティタノマキアと!?
「……その推察は、恐らく間違ってねぇな」
「ズィ、ズィードさん……」
「シェリルはアルメニア王に酷い扱いを受けていた……そして、ティタノマキアは元"無能"の集団だ。奴らに助けられたのなら、仲間になる理由としては十分過ぎる」
「そ、そりゃそうかもしれないけど……ティタノマキアはアルメニアを滅ぼしたんだよ? アルメニアはシェリルの故郷じゃん!」
「まぁな……だが、故郷や肉親を想う以上にシェリルが憎しみを抱えていたとすれば……そうなってもおかしくはねぇ」
「そ、それは……」
その言葉に、私は過去を思い出していた。
あの男に対する怒りと憎しみ……それに支配された自分の行いを。
ロードさんのおかげで踏みとどまれたが、それがティタノマキアだったら……恐らく私はホルスを殺していただろう。
そう思うと、シェリルがそうなったことも……。
「まぁ、操られてるとか洗脳されてるって可能性もあるが……シェリルはどんな様子だった?」
「う、受け答えは普通だったよ? でも、どこか影があるというか……」
「あ、そうか……ねぇ、ティア。シェリルは悩んでたんじゃないかな?」
「悩んでた?」
「そう。ティタノマキアに助けられて仲間に加わったまではいいけど、彼らの活動を知るうちに……本当に今のままでいいのかなって」
あ……!
「そうだよ! きっとそう! 私達が感じたのはそれだよ!」
「なくはねぇな。恩があるから抜けられないし、仮に抜けたとしても……どう生きればいいのかが分からない。だから、どうすることも出来ずに今の自分を正当化しようとしている……自分の本心を知りつつも。その迷いをお前らは感じ取ったって訳だ」
「うんうん! そんな感じ!」
「……ねぇ、ディンさん。ティタノマキアが最後に現れたのっていつですか?」
「んー……こっちが把握してる範囲になるが、アルメニアの件以降、これといった動きはないな」
「じゃあ、まだ暗殺とかは行われていないってことですよね?」
「多分な」
「ティア」
「うん……やっぱり、もう一度会って話をしなきゃ。今ならきっとまだ間に合う」
シェリルは迷ってる……まだ一線は超えていない筈だ。
だから、早く違う選択肢もあるってことを教えてあげなきゃ。
私がロードさんに……そうしてもらったように。
「よし、とりあえず今後の方針を……」
「つか、その前に……スカークはどうする?」
「「「あ」」」
す、すっかり忘れてた……。
「えっと……カジノから逃げちゃったんだよね?」
「ズィードさん連絡取れます?」
「通信魔石は一応あるが、多分俺がキレてると思って無視するだろーな。ほとぼりが冷めるまで。そういうやつだから」
えぇ……。
「ったく、あの馬鹿……!」
「この際だしほっとくか? 別にあいつじゃなくてもいいんだろ?」
「あー……まぁそうだな……お前がいりゃ問題ねぇか」
「じゃ、無視で」
えぇ……。
「そ、それはそれでなんか可哀想な気が……」
「「自業自得だ」」
はは……。
「大体あの馬鹿はいつもそう……ッ!?」
その時、窓から外を見たディンさんの動きが止まった。
何か様子が……。
「ちっ……どんくらいだ?」
「えっ?」
「……100ってとこか。見える範囲でだが」
「えっ? えっ? なになにどういうこと?」
「どうやらこの宿……奴らの領域だったらしい」
ディンさんはそう言いながら、人差し指を額に当ててため息をつく。
「領域……?」
「要するに、俺達の居場所がバレたってことだ」
「ええっ!? もう!?」
「見てみろ。こっそりとな」
「あ、うん……うわぁ……」
2階にある部屋の窓から外を覗くと、ガラの悪そうな人達が大量に見える。
こっわ……。
「宿屋の主人と奴らが繋がってたんだよ。全部が全部そうじゃねぇだろうが……奴らはこの町の支配者だからな。ちょいと甘く見てたなズィードよ」
「ああ……しっかし、まさかこんなボロ宿まで手を回してるとはな。さすがというかなんというか……」
「そ、それじゃ……どこにも逃げ場はないってこと?」
「そういうこったな」
「今俺らを追ってるのは、この町を仕切ってる暗殺ギルド……ジハードだ」
「ジハード……?」
「大元は暗殺ギルドだが、金さえ稼げればなんでもいいっていう犯罪組織だよ。北の大地の町には大抵奴らの支部がある。そうと分からないようにな。因みに、"賞金首名簿"の団体枠ではSSSに位置付けられていて、ランクの上ではティタノマキアと同格だ」
「ええっ!?」
ティ、ティタノマキアと!?
そんなやばい組織なんだ……っていうか……!
「お、お金は要らないって言ったのにぃ……」
「奴らは何よりも面子を重視する。結果がどうあれ、カジノを荒らされたことには変わりない。だから、俺らをこのままにはしておけねぇんだろうよ」
「うぅ……じゃ、じゃあどうするの!?」
「まぁ、選択肢は二つだな。この町から逃げ出すか……奴らを叩き潰すか」
「た、叩き潰すって……!」
「因みに、構成人数は5万人以上と言われてる」
「「ご、ごまんにん!?」」
無理無理無理!
多過ぎでしょ!
もう国の軍隊じゃん!
「に、逃げよう! そんな暇ないし!」
「だが、奴らなら何かしらティタノマキアの情報を持ってるかもしれねぇぞ?」
「……え?」
「ど、どういうことですか?」
「奴らにとってもティタノマキアは目障りな存在なんだよ。ちょいと前までは、ジハードと言えば誰もが震え上がるもんだったが、最近じゃどこもかしこもティタノマキアの話題でもちきりだ。しまいには、ジハードは人数が多いだけ、まともにやりあってもティタノマキアの方が強い、なんて言われてる始末……ジハードとすりゃ、今の現状を許せる筈がねぇ」
「おっさんの言う通りだ。つまり、ジハードはぽっと出のティタノマキアを潰したいと考えてるってこった。実際、そういう噂も聞く。世界のこととは関係なく、てめぇらの面子の為にな」
な、なるほど……うーん……。
「で、でもさ……世界中が探してるのに、誰もティタノマキアの居場所を知らないんでしょ? だったらジハードだって……」
「蛇の道は蛇……ティタノマキアが暗闇にいるのなら、同じ暗闇にいる奴らの方が俺らより近い」
「奴らはアンダーグラウンドの主だ。俺みたいな正規の軍人には使えないルートも平気で使う。居場所は分からないにしろ、何かしら知ってる可能性は高いぜ」
「う、うーん……」
情報は欲しいけど、もう普通には教えてくれないよね……。
「もちろん地道に探すっていう手もあるが、どっちみち奴らは追ってくる。だったら今……」
「戦って……聞き出した方がいい……」
「そういうこった」
「はぁ、カジノで勝たなければなぁ……今更だけど」
「ま、全部を相手にする必要はねぇ。幹部連中を叩きのめせばいいだけだ。おっさんもいるし、どっかでスカークを見つけて巻き込んでもいい。案外なんとかなるんじゃねぇか?」
「ああ、俺に考えがある。上手くやりゃ、上の連中を引きずり出すのはわけない。それになティア……奴らは極悪人の集まりだ。さっきズィードが言ってたように人買いも平気でやるし、手段の一つとして当然のように殺しも使う。奴らの所為で苦しんでいる人は大勢いるんだ。誰も手を出せないのをいいことにな」
「人買い……殺し……」
そうだよね……私が知らないだけで、きっと大勢の人が苦しんでるんだ。
この2人と協力すれば、私達でそれを終わらせられるかもしれない。
それに、きっとたくさんの"無能"と呼ばれた人が……あれ?
ティタノマキアはそういう奴らを暗殺してるんだよね……だったらなんで……。
「ん、どうした?」
「あ、いや……ディンさん、ズィードさんはそれでいいの? 今後のお仕事とか……」
「俺はニーベルグの騎士団長だから軽々にゃ動けなかったが、今この場にいる以上……奴らをぶっ潰してぇってのが本音だ」
「めんどくせぇが……こうなった以上、やっちまってもいいぜ。インヘルムに比べたら大したことないねぇだろ?」
た、確かに……。
「うー! ねぇリーダー! いいよね!?」
「はぁ……じゃ、それで……」
「よっしゃ! リーダーのお許しが出たな」
「あん? お前がリーダーなのか?」
「2人が勝手に言ってるだけです……」
うだうだ考えるのはやめ!
こうなったらぁ……!
「ジハードをぶっ潰して情報を聞き出す! みんなやるよ!」
「へっへっへっ……久々に暴れられるぜ」
「おっさんは顔隠しとけよ。お前らもな」
「ズィードさんは?」
「俺はいい。守るもんもねーし」
「とりあえず、まずは外にいる人からですね」
「最初は俺とズィードが出る。後ろは任せたぜ?」
「うん!」
よーし……やるぞ!




