第303話:偶然
「ふぅ……とりあえずはこれで一安心ってところか」
あの後、私達は支配人の案内で裏口からカジノを脱出し、人目を避ける為に町のはずれへと向かった。
そうして、身を隠すのに丁度よさそうな寂れた宿を見つけた私達4人は、ようやくそこで一息つくことが出来たのだった。
「だね。それにしても、下手に勝っちゃった所為でえらい目に遭ったよ……」
「しっかし、まさかルーレットで2700万とはな……お前才能あんじゃねぇか?」
「やめてよズィードさん……あんなのたまたまだし、もし才能があったとしても……もう二度とやりたくないね」
「あんな目に遭っちまったらなぁ……」
「はは……ディンさんの所為じゃないってば」
あれは運が悪かっ……いや、良過ぎたのかな?
どっちにしろ、もうカジノはこりごりだよ……。
「すまねぇ……で? まだ聞けてなかったが、ズィードはなんでこの町にいたんだ?」
「あ、それならさっき聞いたよ。依頼を受けてこっちに来て、そのついでに友達と会う予定だったんだってさ」
「え? お前の友達って……」
「あんたもよく知ってると思うが、俺がカジノにいたってことは……ま、そういうことだ」
「まさか……スカークか!?」
「「えっ!?」」
ズィードさんもスカークさんを!?
「な、何をそんなに驚いてんだよ……俺とあいつが同期なのは知ってんだろ?」
あ、そっか……スカークさんもズィードさんと同じ"黄金世代"だったっけ。
それにしても……。
「こんな偶然あるんだねぇ」
「あ、ディンさん……ということは、スカークさんがコールドシューズで待ってたのは、私達じゃなくてズィードさんだったんじゃないですか?」
「なるほど……そういうことか」
「あん? どういうこった?」
「実はね、私達もスカークさんを探してたの」
「……なんだって?」
私はディンさんの許可を得て、フロストでのことやそれからのことをズィードさんに話した。
「……で、今はスカークさんと私達の友達を探しながら、オトリスに向かってるって訳。レアの兵士に見つからないようにね」
「まーた厄介なことになってんなぁ……」
「まぁな。で、丁度いいからお前も手伝え」
「あー……」
お、いいぞーディンさん。
「ズィードさんがいたら百人力……いや、千人力なんだけどなぁ……」
「その顔やめろ……つか、手を貸したいのは山々なんだが……今は駄目だな。依頼を受けちまってるし」
「そっか……残念」
「悪いな」
「因みに、どんな依頼なんですか?」
「一応守秘義務が……まぁ、お前らならいいか。今受けてるのは、行方不明の女の子を探して欲しいって依頼だ」
行方不明の女の子を探す依頼……か。
なんかこんなこと言ったらあれだけど、ズィードさんが受ける依頼にしては……。
「らしくねぇか?」
「へっ?」
「顔に書いてあんぞ。俺らしくねぇってな」
「あ、あはは……そ、そんなことないよ?」
な、なんで分かるのよ……。
「ハッ……まぁ、実際俺もそう思う。本来なら、もっとそれに適した魔法を持ってる奴を探せって断ってたとこだ。だが今回は……ちと思うところがあってな」
「思うところ?」
「俺が依頼を受けるか否かは、依頼主がどれだけそれを叶えたいか……その想いで決める。金なんざどうだっていいし、今更ランクを気にすることもねぇからな。とはいえ、俺の元には毎月とんでもねぇ量の依頼が舞い込んで来る。その全てをいちいち確認してたらキリがねぇ。だから、俺はいつも山積みになった依頼の手紙に手を突っ込んで、そこから無作為に何枚かを抜き出す。それが一番公平だからな。んで、直接依頼主に会って話を聞き、そこで最終的に受けるかどうかを決める訳だ。最初はさっき言ったように他を当たれって断わろうとしたんだが、ある単語が出たことで気が変わった」
「ある単語……?」
「その行方不明の女の子な……どうやら"無能"だったらしい」
「……えっ?」
む、"無能"……!
「ほ、本当なんですか!?」
「話を聞いた限りではな。魔法を授かった日から様子がおかしくなり、彼女は半ば引きこもっていたそうだ。で、依頼主である両親やその友人達で説得し……ああ、この時点では"無能"だとは思わず、ただ心配だったからそうしたって言ってたな。まぁ、その説得によってなんとか部屋から出てきたまではいいが、そこで自分は"無能"だと……そう彼女に告げられたらしい」
引きこもって家族に……なんか……私と似てる。
「依頼主である両親は、正直なところ……それを聞いた瞬間頭が真っ白になっちまったそうだ。その様子に絶望したんだろうな……彼女は両親を突き飛ばし、家から飛び出しちまったらしい。両親はそれをずっと後悔していた。何故受け止めてあげられなかったのか、何故もっと強く抱きしめてやれなかったのか……ってな。それから3年間ずっと探し続けたが、彼女の行き先はついに分からなかった。で、そうこうしている間に、依頼主が住んでいた……アルメニアが滅んだ」
「アルメニア……それって、ティタノマキアに滅ぼされた……」
「そうだ。因みに、今依頼主はギリシアに身を寄せている。ずっと娘のことを想いながらな」
通常、"無能"だと分かった人間がいた場合、その人に対する凄まじい嫌悪感が生まれる。
私の場合はお母さんが受け止めてくれたけど、この子はきっと裏切られたような……。
でも、本当はずっと想い続けていたんだ。
やっぱり……親の愛って偉大なんだね。
私ももっと感謝しなきゃ。
「その想いと"無能"という単語が、この依頼を受けた理由だ。ロードにティア……それから、こいつはバーンから聞いてるが、ロイに魔法を奪われて、"無能"と呼ばれちまった……アスナ」
「ッ! ……はい」
アスナ……。
「これだけ周りにいると、俺ん中ではもう他人事じゃなくてな。ま、そういうこった」
「そっか……ふふっ!」
「な、なんだよ……」
「あ、いや……やっぱりズィードさんっていい人だなと思ってさ」
「う、うるせぇ!」
照れてる照れてる……こういうところは可愛いんだけどな。
「あの、因みになんて名前なんですか? その子」
「ああ、その子の名前はシェリル=ラピードって……」
「「「ええっ!?」」」
「な、なんだよ!?」
そんなまさか……!
「ねぇ! その子の髪って赤くて長い!?」
「瞳は橙色ですか!?」
「な、なんで知って……お前ら会ったのか!?」
「私達が探している友達っていうのが、そのシェリルって子なの!」
「はぁ!? マジかよ……ど、どこで見た!?」
「最後に会ったのはニーベルグのフォッケンで、魔力の匂いを辿って探してたんだけど……」
私は更に細かく、これまでのことをズィードさんに話した。
フォッケンのバーで襲われていたシェリルを助けたことや、置き手紙に"北へは行くな"と書かれいて、様子がおかしかったから探すことにしたこと。
そして、これまでのことから、あまりよくない組織に属しているんじゃないかということを。
「そうか……つかよ、スカークといいシェリルといい……どんな偶然だよこれ……」
「本当だよね……あ、でさ、ズィードさんはなんで北に? 何か情報があって来たの?」
「あ、いや、むしろ情報を得る為にここに来た。この町には人買いを生業にしてるクズもいるからな……まずはそこら辺から探ろうと思った訳だ」
「あ……そういうことか……」
「ああ。胸糞悪い話だが、"無能"はある意味希少価値が高い。おまけに逃げ出す心配もないからな……特に、若い女の場合は高値がつく。誰の援助もなしに生きられるとは思えねぇし、どっかで捕まってこっちに……なんてこともあり得るからな」
「……嫌な話だね」
「まだそうと決まった訳じゃねぇけどな。とにかく情報を集めていくしかない」
「うん……」
結局何も分からずじまい……か。
でも――――
「とにかくこれでズィードさんも仲間だね。スカークさんやシェリルは私達も探してるんだし、一緒に行動しようよ」
「ん……まぁそうだな……」
「やった! じゃ、まずはその人買いの……」
「いや、その必要はねぇ」
「えっ?」
見ると、ディンさんは額に人差し指を当てながら、険しい顔で床を見つめていた。
「……どういうことだよおっさん」
「ズィード、お前さっき……探しているのはシェリル=ラピードだっつったよな?」
「え? ああ……それが?」
「ふー……厄介なことになったぜこいつは……」
「ディンさん……?」
「ティア達からは名前しか聞いてなかったからな……最初にその名前を聞いた時も引っかかってはいたんだ。だが、そんな偶然はないと思ってたんだが……俺はシェリル=ラピードを知っている」
「えっ!?」
「ど、どういうことですか!?」
「こいつはロードがケルト王に報告し、そこからアディード様に伝わった話だ。アルメニアが滅んだ際、そこの騎士団長が瀕死の状態でギリシア城の前に転がっていたらしい。助けたのはドラグニスって話だが、まぁ今はとりあえず置いておこう。でだ、その傷を完全に癒したのがロードで、アルメニアの騎士団長は……ロードにある情報を伝えたんだ」
「ある情報……?」
「アルメニアには"無能"と呼ばれた少女がいた。そして、アルメニア王には……"無能"の少女を嬲る趣味があったと」
「な、何それ!?」
「お、王様が!? そんな……ひどい……!」
「ちッ……それでアルメニアをティタノマキアが……ん? おいまさか……!」
「そうだ。ティタノマキアは王を殺し、"無能"の少女を連れ去った。その少女の名前が……」
「シェリル……!」




