第302話:面倒
「わきゃっ!? いっ!?」
あ、あいつが気絶したから魔法が解けて……!
うぅ……腰打っちゃったよぉ。
「よぉ、大丈夫か?」
「いちち……あ、うん……あの、助けてくれてありがと……ズィードさん」
「礼はいらねーよ。別にお前を助ける為にドアをぶち破った訳でも、こいつらをぶん殴った訳でもねぇ。全部たまたまだ」
あ、相変わらずこの人は……!
「とにかく! ありがとうございました!」
「な、なんで怒ってんだよ……」
「普通に"どういたしまして"って言えばいいでしょ!? もう!」
「は、はぁ?」
素直じゃないんだから!
まぁいいや……多分これ以上言っても無駄だし。
「で? ズィードさんがなんでここにいるの?」
「そりゃこっちの台詞だ。久々に会ったと思ったら縛られてるし……つか、お前なら余裕で倒せる相手だろ?」
「……町は苦手なの。特に建物の中はね。自然物がないでしょ?」
「あー……そういうことか。いい魔法なのに不便だな」
「そうなんだよね……って、そうじゃなく!」
「はいはい分かったって……俺は知り合いに会う為にこの町へ来てたんだよ」
「知り合い?」
「ああ。依頼でこっちに来る必要があってな。で、そいつは大抵北にいるから、久々に酒でも飲もうと思って連絡したんだ。本当はコールドシューズで待ち合わせてたんだが、あの野郎待ってるのに飽きたんだろうな……俺を待たずに先へ行っちまったんだよ」
……ん?
なんかどっかで聞いたような……。
「この町に行くってのは最初から決まっててよ。多分このカジノだろうと思って来てみたら、案の定というかなんというか……ここの3階にあるスロットでバカ勝ちしててな。んで、しょうがなく隣で待ってたら、支配人とその手下に囲まれちまったって訳だ。まぁ、勝ち方が尋常じゃなかったから怪しまれたんだろう」
「な、なるほど」
私と同じか……。
「あ、でもさ、ズィードさんなら裏に連れてかれる前にどうとでも出来たんじゃ……?」
「店ん中で暴れるのは立場上まずいんだよ。それに、多分あの馬鹿は魔法を使ってた。だから、若干の負い目がな……」
「えっ? だって腕輪……あれ? ズィードさんつけてないじゃん!」
「ん、ああ……俺のは隣でひと暴れした時にぶっ壊した。うるさかったんでな。だが、あの野郎の魔法なら……多分鳴る前に外すことが出来る」
「そ、そんなこと出来るの!?」
「そういう魔法なんだよ。多分あいつがバカ勝ちしてたのも、スロットの中を弄って当たりやすくしてたからだろうな。じゃなきゃ、いかに高レートとはいえ……スロットで1000万も勝てねぇさ」
1000万か……なんか大したことないように感じてる自分が怖い。
「んで、2人揃って隣の部屋に連れて行かれたまではいいが、あの野郎……1人でとんずらしやがったんだよ! 魔法使ってな! 俺残して! 俺は悪くねぇのに!」
「そ、そういうこと……」
「だから俺もあの馬鹿が許せなくてよ……連中に手を貸そうと思って色々話してたんだが、なんか距離が近いなと思ったら……段々とオネェ言葉が出だして……」
あ……そういえばさっき……隣の連中はそういう趣味だとかなんとか……。
「いきなり全員が俺を抱きしめようと……あークソがッ! 思い出しただけで鳥肌が……と、とにかく! それで全員ぶっ飛ばして部屋から出たんだ……」
「それは……災難だったね……」
「本当にな……で、隣にも似たような部屋があったから、ひょっとしたらここに隠れてるかもしれねぇと思ってな。怒りを込めてドアをぶん殴ったら……お前がいたって訳だ」
「はは……よっぽど怒ってたんだね」
あの雄叫びはそういうことか……。
「マジで頭にきたからな……普通逃げるか!? 友達置いて1人でよ! ったく、おまけにムキムキで髭面のおっさんどもに……! はぁ……あれの相手をするくらいなら、まだ竜王とやり合ってた時の方がマシだったぜ……」
えっ!?
「ズィ、ズィードさん! 竜族との戦争に参加してたの!?」
「な、なんだよ急に……参加してたけど?」
そっか……ギリシア奪還に手を貸したSSSランク冒険者って……ズィードさんのことだったんだ。
「あ、ひょっとして……ロードのことか?」
「そ、そう! 無事なのは知ってるけど……怪我とかは!?」
「あー……そういやぁボロボロだったなあいつ。右腕はヨルムンガンドに喰われちまうし、ティタノマキアには記憶を消されちまうしで……」
「み、右腕っ……記憶消さっ!?」
何それ!?
どういうこと!?
「お、落ち着けって……どこまで聞いてんのか知らねぇが、もう記憶も戻ってるし、右腕は伝説の義手がくっついてる。別れる頃にはピンピンしてたぜ?」
「そ、そっか……よく分からないけどよかった……」
「つか、世間じゃ一応俺ってことになってるが、竜王ヨルムンガンドを倒したのもロードだしな。あいつがいなかったら……多分俺は死んでた」
「えっ!? ズィードさんでも……」
竜王ってそんなに強かったんだ……。
「俺の魔法との相性もあったが……っていうかよ、とりあえずここから離れようぜ? こいつらの仲間が来たら面倒だし、続きは後にしようや」
「そうだね……あ!」
やばっ!
アスナとディンさんのことすっかり忘れ――――
「ズィードさん私の……!」
「待て……誰か来る」
「えっ……?」
ズィードさんにそう言われて耳をすますと、確かに廊下から走る音が聞こえてくる。
それも……複数の。
「……俺の後ろに下がれ」
私は無言で頷き、ズィードさんの背後から部屋の入り口をじっと見つめる。
そうして、音が段々と近付いてきて――――
「ティア!」
「無事か!?」
「ア、アスナ! ディンさ……!?」
ぽっかり空いた部屋の入り口に、慌てた様子の2人と……。
「ほ、ほら……! 嘘じゃなかったでしょ!? ウゲホゲホァッ……だ、だからもう許してくらはぁい! お金は払いますからぁ!」
恐らくディンさんによってボッコボコにされた支配人が……うわぁ……。
「黙ってろ! おいてめぇ!」
直後、ディンさんの鋭い視線が、支配人からズィードさんへと移っていた。
やばい……ディンさん勘違いしてる!
「ディンさん違ッ……!」
「さっさとティアから離れッ……んん!?」
あ、あれ? なんか様子が……。
「……なーんであんたがここにいんだよ」
「ズィ、ズィードじゃねぇか! てめぇこそなんでここに……!」
「へ? し、知り合いなの?」
「ん、ああ……前にバーンの紹介で、ニーベルグの依頼を受けた時に会ったからな」
「あ、そうだったんだ」
「ティア、こいつは一体どういう……あっ!」
その時、支配人がディンさんの手を振りほどき、部屋の隅にうずくまってガタガタ震えだした。
「お、お金は払いますぅ! い、いや! 払わせてくださぁい! だから殺さないでぇ……!」
「……ディンさんやりすぎ」
「だ、だってよぉ……」
私は彼の元へ行き、震える肩にそっと手を置く。
「ひぃっ……!」
「私はイカサマなんてしてません」
「は、はいっ! 分かっておりまぁす!」
「でも、もう面倒くさいのでお金はいりません。その代わり、賭けたお金を返してください」
「え、あ、ひゃい! お、おいくらですか!?」
「5万」
「あ、それなら持ってまぁす!」
そう叫びながら、支配人は懐から財布を差し出す。
私はそれを受け取り、ディンさんへと向き直った。
「とにかく話は後! さ、脱出しよ!」




