第301話:音
支配人が部屋から出た瞬間、3人の男の視線が同時に私へと向く。
「さぁて……始めるか」
「ひっひっひっ! たまんねぇなおい!」
「怖がらなくてもいいんだよぉ? おじさん達がやさぁしく……おっとよだれが……」
うへぇ……気持ち悪い……。
「にしても、人間を操る……か。精神操作系は厄介なんだよなぁ」
「だが、その分制約も多いだろぉ? 条件を満たさないように拘束しちまおうぜ。んで、あとはお楽しみだぁ……」
あーキモッ!
っていうか、全然違うんだけどね……。
でも、そう思ってくれていた方がやりやすいかもしれない。
相手の魔法は分からないけど……なんとかしてここから脱出しなきゃ。
「よし……俺の魔法でやる。囲め」
「あいよ」
「へいへい……俺らの魔法じゃ下手すると死んじまうからなぁ」
真ん中の奴が拘束に適した魔法で、左右の2人は単純な攻撃系かな……だったら……。
「それ以上近付いたら……操るよ」
「……!」
「ほぉ……」
3人の足が止まり、一気に表情が変わる。
警戒は増したけど、牽制にはなる筈だ。
「いい目してるねお嬢ちゃん……修羅場を潜ってきた目だ」
「効果範囲があるっぽいな。じゃなきゃもう使ってるだろ」
「ああ……あとは触れなくてもいけるかどうかだな。ハッタリの可能性もある」
「やっぱり一発ぶち込んじまうか。急所を外せば……死なねーだろ」
そう言った右の男から魔力が流れ出し、手から棘のようなものが飛び出した。
どうやらあれを飛ばして攻撃するっぽいね……もし当たっちゃったら終わりだ。
でも、逆にチャンスかもしれない。
「その方が確実か……だが、しくじるなよ? てめぇの巻き添いでジジョーさんにぶっ殺されたくはねぇからな」
よし……作戦は決まった。
勝負は一瞬……!
「分かってるって。ごめんよお嬢ちゃん。ちょいと痛いかもしれねぇが勘弁……なッ!?」
右の男の手がこちらに向いた瞬間、私は真ん中の男へ向けて走り出す。
直後――――
"キュインキュインキュインキュイーン!"
右の男へと伸ばした、私の手についている腕輪がけたたましい音を上げていた。
「ほ、本物じゃねぇか!」
「離れろ! 操られるぞッ!」
本当に魔法を使おうとしただけで鳴った!
よし、これなら……!
「こんのッ!」
「ば、馬鹿撃つ……がッ!?」
「ああっ!?」
右の男から放たれた棘が、しゃがんだ私の頭の上を通過して左の男に突き刺さる。
私は手を前へと伸ばし、再び魔力を練り上げた。
"キュインキュインキュインキュイーン!"
「うッ!?」
正面にいた男が動揺した隙を突き、私はその横を通り抜けて扉へ――――
「ッ!?」
なッ……か、身体が!?
「……ふぅ。念の為に張っといてよかったぜ」
「ぐッ……うぅッ!?」
だ、駄目……身体が全然動かない!
何かに縛られ……ッ!?
「こ、これは……!」
何かがキラキラ光って……い、糸!?
よく見ないと分からないくらい……透明な糸が身体中に……!
「んぎぎッ!」
「やめときな。そんだけ絡まっちまったらもう抜けられねぇよ。無理すっと、逆に嬢ちゃんの身体が切れちまうぜ?」
「あ、あんたの魔法は……!」
「魔法戦は何があるか分かんねぇからな……保険として、俺の背後に糸の結界を張っといた訳よ」
やられた……!
こいつら私なんかよりずっと慣れてる……人間同士の戦いに!
「おい、ブナイ。ベリーズは?」
「わ、わりぃ……刺さった勢いで吹っ飛んで、壁に頭を打ったみてぇだ。完全にのびちまってる」
「やれやれ……ま、拘束出来たからよしとしよう。で、お前は自由に動けるか?」
「え? あ、ああ……大丈夫みたいだ」
「ふむ……俺の方も問題ねぇし、あの距離でなんもないってことは……こりゃ精神操作系じゃなさそうだな」
や、やばい……。
「仮にそうだとしても、触れられなければ問題ないってとこかね。さっきの動きはフェイク……だろ? お嬢ちゃん?」
バレた……!
「残念だったなぁ……いい線いってたのに」
「しっかし、やっぱりただの小娘じゃなかったって訳ね。あの一瞬でここまで……危ねぇ危ねぇ……」
くッ!
本当に全然動かないぃ……!
「てかよ、こいつの魔法は結局なんなんだろうな?」
「それは分からねぇが……使う振りだけだったってことは、戦闘向きじゃないか、もしくは使えない状態にあったかのどっちかだろう。まぁなんにせよ、このまま吊るし上げて視界を塞いじまえばいい。それだけで大抵の魔法を封じることが出来るからな」
やばいやばいやばい!
多分2人が助けに来てくれるとは思うけど、私を人質にされたら手が出せなくな――――
「んんッ!?」
目と口に……あっ!?
か、身体が勝手に動いて……!
「ついでに口も塞がせてもらうぜ? そういう魔法もあるんでな」
「ひょー! いい格好だぁ! 最高にエロスだよッ! 手は天井に……足は床に繋がれてよぉ! あー! たまらねぇぜッ!」
「うるせぇなぁ……ほれ、さっさと剥いちまえ。ある程度弱ったところで尋問を始めよう。元気なうちに聞いても……無駄だからな」
「オッケー! 役得役得ってなぁ!」
や、やだやだやだ!
「ぐむー!!」
「無駄無駄……防音だって言っただろ? 誰も助けにきちゃくれねぇよ」
「心配すんなぁ……この棘でスパッと服を掻っ捌いて、ズバッとやっちまうからよぉ! 痛くない痛くない……ひっひっひっ!」
「う……」
嫌な記憶が蘇ってくる。
あいつの顔と声も。
思い出したくないのに。
やだ……やだよ……。
助けて……ロードさん!
「んじゃスパッと……」
「……ぁぁぁぁぁあッ! んッ!?」
えっ!?
「おわぁッ!?」
「なッ……なんッ!?」
私の服に棘が触れた瞬間、凄まじい音とともに誰かの雄叫びが聞こえてきた。
それは、どこかで聞いたことのある――――
「…………事情は分からねぇが、やることは分かった」
あ……。
「て、てめぇは!」
「なんでここにいやがる!? 向こうの連中をどうし……!」
「うるせぇぞ外道ども。まったく……やっぱこの町は好きになれねぇ」
……なんでここにいるのかは分からない。
けど、この人は間違いなく……!
「うぃーぶばん!」
「ぷっ……おいおい、ちょいと会わないうちに忘れちまったか? 俺はそんな名前じゃねぇよ」
こ、このぉ……!
「ばぁふぁー!」
「ハッ……馬鹿でもねぇよ。俺の名前はなぁ……ズィードってんだ」
「は、はぁ!? ズィおばッ!?」
ひっ!?
な、何かが砕けるような凄い音が……!
「み、見えなぼすッ!?」
ま、また……!
まさか……もう倒しちゃったの!?
こ、こいつらはそんなに弱く……やっぱりこの人――――
「今度は相手をよく見てから喧嘩するんだな。まぁ……次はねぇがよ」
強過ぎる……!




