第300話:イカサマ
ルーレットの中で勢いよく回っていた白い球が、やがて少しずつそのスピードを落としていく。
そうしてみんなが見守る中、球は何度かへりにある突起にぶつかって――――
「「「うぉぉぉぉぉぉおぉお!?」」」
私の賭けた0へと入った。
「やったぁー!!」
「ティアすごっ!」
「あ、当てやがった!!」
「ディーラーがカラー外しにきたのを読んだのか!?」
「大金賭けたのは……誘いだったって訳かよ!」
「し、しかも0単独だからストレートアップ……36倍だぞ!」
「ティ、ティア! 36倍だって!!」
「えええ!? さ、36倍ってことは……いくら?」
「お、おいディーラー! さっさと計算して……」
「……ん? お、おいコイツ……立ったまま気絶してるぞ!」
えっ!?
そんなにショックだったの!?
な、なんか悪いことしちゃったかな……。
「えっと、7500ゴールドの36倍だから……」
「あのよ嬢ちゃん……さっきもそんなこと言ってたが……桁が違うぜ」
「へ?」
「100チップは1枚1万ゴールドだ」
「…………はい!?」
「ほ、本当ですか!?」
「はは! マジで知らなかったのかよ!」
「は、はい……」
え……ちょっとまって?
1枚1万……ってことは……!
「じゃ、じゃあ私達が賭けたお金って……」
「75万ゴールドよ」
「ひっ……ひえぇぇぇぇぇっ!?」
「じゃっ……じゃじゃじゃあ配当金は……!」
「ディーラーが潰れたから俺が計算してやるよ。えーっと、75万の36倍だから……すっげ……は、配当金は……2700万ゴールドだ!」
「「に……にせんななひゃくまん!?」」
い、家買えちゃうじゃん!!
やだ怖い!!
私死ぬの!?
「ア、アスナどうしよう!? どうなるの!? どうしたらいい!? 分かんない!!」
「おおお落ち着いて! え、えっと……とにかく落ち着いて!」
「あんたも落ち着けや……つか、こりゃどのみちディーラークラスじゃ駄目だな。支配人を呼ばねーと……」
「人が集まってきたなぁ。ま、当然か……ルーレットじゃ史上最高額だろう」
にせんななひゃくまんごーるど……しじょうさいこうがく……こわい……。
「あ、あの……お客様? これはいったい……」
「お! あんた支配人を呼んできてくれ。この子らがルーレットで2700万当てたんだ」
「……はい!?」
「あ、当ててすいません!!」
「え、あ……しょ、少々お待ちを!」
そう言って、従業員さんは慌てて店の奥へと消えていく。
どうしよう……とんでもないことになっちゃった。
何もしないでうろついてると、お店の人に怪しまれるからってディンさんが言うからやってただけなんだけど……まさかこんなことに……。
あーもー!
ディンさんも教えてくれればいいのに!
ってことは、最初に貰ったチップだけで5万ゴールドだったってことでしょ!?
いきなりそんな大金ポンと渡さないでよ!
言ってよ!
うぅ……怖いよぉ……。
「ティア私……ディンさんを探してくる!」
「え!? や、やだ! 1人にしないで!」
「大丈夫! すぐ戻るから!」
「ア、アスナぁ!」
ああ……行っちゃったぁ……。
「お客様」
「ひゃいっ!?」
背後からかけられたその低い声に振り返ると、そこには黒いスーツをビシッと着込んだ男の人が立っていた。
いかにもって感じだ……。
「私、当カジノの支配人を務めさせていただいております……ジジョーと申します。ルーレットで2700万の配当金があったとのこと……お間違いないでしょうか?」
「は、はい……一応……」
「本当だぜ! ディーラーは気を失ってるが、俺らが証人だ!」
「腕輪も鳴ってなかったわ。魔法を使用してないのは明らかよ」
カジノに入る際、お客さんはみんなカジノから渡される腕輪をつける決まりになっていて、私の右腕にもそれがついている。
この腕輪には魔石が埋め込まれており、魔法を使おうとするとその魔力に反応し、もの凄い音を鳴らす機能があるらしい。
また、無理に外そうとしても鳴るらしく、これによって魔法での不正を防止しているとのことだった。
「変な動きもなかったし……つか、この嬢ちゃんはカジノ初心者だ。怪しむ要素はねぇよ」
「……お話しは分かりました。ですが、額が額です。また、ディーラーから話が聞けない以上、こちらとしても事実確認を行わせていただく必要があります。映像魔石によるチェックを致しますので、申し訳ありませんが事務所までご足労願えますでしょうか?」
「ひゃ……ひゃい……」
事務所……なんて怖い響き……。
「心配すんな嬢ちゃん。ただの確認だよ」
「お、おじさん……」
「カジノ側とすりゃ当然のことだ。例えば俺ら全員がグルで、どうにかして不正を働いたっていう可能性があるから、それを検証するってだけさ」
「もちろんそんなことはないし、あなたは何もしてないんだから堂々としてればいいのよ? 本当におめでとう」
「み、みなさん……初めて会ったのに……」
「同じテーブルにつきゃ戦友よ! それに、いいもん見させてもらったからな!」
「ああ! 久しぶりに興奮したぜ……! ありがとよ嬢ちゃん」
「あ、いえ! こちらこそありがとうございます!」
「あ、支配人さん。嬢ちゃんには連れがいるんだ。人を使って探してやっちゃくれねぇか?」
「承知致しました。お客様のお名前は……」
「あ、ティアといいます! 連れはアスナとディンです!」
「かしこまりました。では、とりあえずティア様はこちらへ」
「は、はいっ!」
私が支配人さんに続いて歩き出すと、周りにいた人達から沢山の拍手と歓声が沸き起こった。
は、恥ずかしい……。
「ふふ……カジノではよくあることです。勝者は称えられ、羨望の的となります。そうして皆様は、次の勝者となるべく再び……さ、参りましょう」
「あ、はい……」
なんだろう……今一瞬……。
「ん? どうかされましたか?」
「あ、いえ! 大丈夫です!」
……気のせいかな。
とにかくちゃっちゃと終わらせないと。
はぁ……現実感ないなぁ……。
―――――――――――――――――――――
支配人さんに連れられ、カジノの裏にある薄暗い通路を通ると、目の前に鉄製の扉が見えてくる。
なんだか物々しい雰囲気が……まぁ、簡単に入れたら意味ないし、多分金庫とかあるもんね。
これくらい当然か。
「では、こちらへお入りください」
「はいっ……あ、あれ?」
何この部屋……壁が全部鉄で出来ていて……窓がない。
おまけに家具も何も置いて――――
「やれやれ……今日は厄日だな。まさか立て続けに2件とは……おまけに1匹には逃げられちまうしよぉ。上にバレたら殺されちまうぜ」
「……えっ?」
し、支配人さん……?
「で? どうやったんだ?」
「は、はい? い、いきなり何を……」
「とぼけんじゃねぇ!!」
「ひっ!?」
な、なんなの!?
さっきと様子が全然……!
「あんな勝ち方あり得ねぇんだよ。イカサマなしで1回も外さずに当て続けるなんざ、どんな人間にも不可能だ。おまけに75万をストレートアップだぁ? あからさまにも程があるってんだよ……ったく、うちのカジノも舐められたもんだぜ……!」
あ、これ……疑われてる!
「い、いやいやいや! 私は何もしてません!」
「ハッ! ま、そう簡単に認めるわきゃねーわな。なら、こっちのやり方でやらせてもらうぜ」
支配人さんがそう言って扉を叩くと、部屋の中にぞろぞろと男の人達が入ってきた。
「……ッ!」
「てめぇら……こいつがどうやってイカサマしたかを吐かせろ」
「へい」
「かしこまり!」
「吐かせるまで絶対に殺すなよ? 方法を聞き出して対処しなきゃなんねぇんだからな」
「分かってますって……ひっひっひっ……」
……もう何を言っても無駄っぽいね。
てか、かなりやばい……ここには窓がないから風も入らないし、操れる自然物がない。
おまけに出入り口は塞がれてる……状況は最悪だね。
「小娘だからって手ぇ抜くと思うなよ? いや、むしろてめぇみてぇなのが相手じゃ……こいつら逆に張り切り過ぎちまうかもなぁ? クックックッ……」
「いやぁ、マジでラッキーだったっすよぉ! あっちの男とか、逃げた野郎を追うのに回されなくて!」
「まぁ、あいつらは喜んでたけどな。そういう趣味だし。防音だから何も聞こえねーけど」
叫んでも無駄って訳ね……。
「油断するなよ? 映像を見た感じ、恐らく人間を操るタイプの魔法だ。ディーラーがぶっ倒れてるしな」
「なるほど……腕輪が鳴らなかったってことは、入り口で魔法を使って従業員を操り、偽物にすり替えたってとこっすかね?」
「ま、確かめりゃ分かる。違ったら違ったで吐かせるまでさ」
……仮に腕輪を鳴らしても、イカサマをしていない証明にはならないってことか。
普通にやってただけなんだけどなぁ……。
「じゃ、俺はこいつの仲間の対処にあたるから、あとはてめぇらでやっとけ。もう逃げられる訳にはいかねぇ……クソがッ! しくじるなよ!?」
「りょ、了解です……!」
あの2人は大丈夫……だから今は――――
「じゃあなお嬢ちゃん。次はもっと上手くやることだ。ま、次はもう……ねぇけどな」
ここをなんとか……切り抜けるしかない!




