第256話:喧嘩
「これが別荘……」
「金持ちってのはこれだからなぁ……普通に豪邸じゃねぇか」
ビウスさんに馬車で送ってもらい、俺達は町の中心から少し離れた位置にあるその別荘へと到着していた。
ゲイボルグの言う通り、ここが本邸でも全く違和感がない程の豪邸で、家自体もそうなのだが、芝生に覆われた庭もめちゃくちゃ広い。
闘技大会で貰ったニーベルグの豪邸が小さく見えるくらいだ。
「この辺りは別荘地でして、普段から住んでおられる方はほとんどいません。元々隣家も離れていますし、周りを気にする必要はないかと」
「ふふふ……これはやりがいがありますね……」
そんなビウスさんの話を聞いているのかいないのか、レヴィは舌なめずりをしながらニヤリと笑う。
彼女にとっては久々のご馳走だ……無理もない。
「当面の食料など、必要になるであろう物は既に手配済みです。もう間も無くこちらへ到着するかと。で、レヴィ様? 本当にお1人で……」
「ビウス"様"。ここからは……私の領域ですので」
目がマジだった。
「あの、ビウスさん……家事は彼女の生きがいなんで……」
「……承知致しました。ご無礼をお許し下さい」
「まずは居間から……次にお手洗いを……」
レヴィは家を見ながらブツブツと独り言を言い始める。
どうやらこちらの声はもう聞こえてないらしい。
「こちらこそご無礼を……あ、色々とありがとうございました。ブランスさんや、ブランスさんのお父さんにもよろしくお伝え下さい」
「とんでもございません。我が主人の大切なご客人なのですから、当然の務めにございます。また、あの件に関しましては追ってご連絡を。状況が状況ですし、恐らくは問題ないかと思います。お館様もそう申しておられました」
「あ、なんかすいません……軽い気持ちで言ったことが……」
「いえいえ。むしろ感服致しました。あなた様のような方だからこそ、ブランス様もお頼りになられたのだと思います。どうかブランス様とアプル様の件……よろしくお願い致します」
「はい……力になれるよう頑張ります」
ビウスさんはニコッと笑った後、深々とお辞儀をして去っていった。
ビウスさんも心配なのだろう。
なんとか上手くいく方法を考えないとな。
「ロード様。では早速……」
「あ、うん。俺達は暫くここで待ってるよ。掃除はレヴィに任せる」
「お任せを……ふふふ……」
邪悪な笑みを浮かべながらそう言うと、レヴィは凄まじい速さで家の中へと消えていった。
何が彼女をあそこまで……。
「あ、フェブズルング……いるか?」
「いるっすよ」
「ん、そのまま見張りを頼む」
「はいな」
よし、後は……。
「別にいいじゃねぇか治しちまえばよぉ……何をそんなにびびってんだか」
「人の心はそう簡単なものではない。まぁ、貴公には分かるまいよ。その短絡的な思考回路ではな」
「あ?」
「なんだ?」
「はぁ……」
以前ギリシアで2人を同時に呼んだことがあったけど、その時はこんな感じじゃなかったんだけどな。
まぁ聖剣と魔槍だし、もともと相性があまりよくないのかもしれないが、それにしたってこれはおかしい。
ここに来る前にアスクレピオスは手帳へ戻したし、そろそろエポリィを呼んで話を聞いてみるか。
何があったのか探ってくれと頼んでからかなり経つ……途中経過だけでも聞いておこう。
「ロードさん。こっちに馬車が来るっす」
「え? あ、もう来てくれたのか」
ビウスさんが言っていた、食料や必要な物を乗せた馬車だな。
よし、言い方は少し悪いが……利用させてもらおう。
「フェブスルングはそのまま周囲を。エクスカリバーとゲイボルグは荷物運びを手伝ってくれるか?」
「ぬ、承知した」
「へいへい」
「ありがとな。えっと……ん、おいでエポリィ」
手帳を開き、茶色い聖騎手の籠手を再び呼び出す。
「ん? 何故エポリィを呼ぶのだ? ヘラクレスでも呼んだ方が早かろうに」
「いや、エポリィに馬を見といてもらおうと思ってさ。そうすれば来てくれる人達の手が空くだろ? 多分乗ってるのはビウスさんの部下の人達だし、この別荘のこともよく知ってるだろうから、どこに何を運べばいいか聞きやすいかなって」
「ふむ。なるほどな」
よし、上手くいった。
ゲイボルグはともかく、エクスカリバーはこういうことに鋭いからな……下手に隠れて呼んだりすると勘繰られる可能性が高い。
「ご主人様。来たぜ」
敷地内に大きな馬車が入ってくるのが見え、俺はエポリィへと魔力を込めた。
そうして茶髪のポニーテールを揺らしながら現れたエポリィは、なんだかひどく疲れた表情を浮かべている。
やっぱり中で何かが起きているみたいだ。
「エポリィ、馬を頼む」
「あ、うん。分かったし」
そうこうしているうちに、4頭の馬が引く大きな馬車が俺達の目の前で止まり、中から数人の執事さんやメイドさんが降りてきた。
「ロード様。お待たせして申し訳ございません」
「あ、いえいえ。俺達もさっき着いたところです。わざわざすいません。助かります」
「馬は私が見るから荷物をお願いするし」
「かしこまりました。中のことには一切手を出すなとビウスから通信がありましたので、とりあえず玄関までお運び致します。その後に敷地内のご説明を」
「あ、はい。それでお願いします。じゃ、2人も頼む」
みんなで手分けして荷物を玄関まで運ぶ。
その合間を縫い、俺はエポリィへとこっそり近付いた。
「エポリィ」
「あ、うん。えっと……近くで聞いてたアイギスが言うには、最初は普通に話してたんだけど、だんだんと声が大きくなって……いつの間にか喧嘩になってたらしいし」
「うーん……内容は?」
「それが……アイギスは怖くてしょうがなかったみたいで、"早く終わってー!"って頭の中でずっと唱えてたからよく分からないんだってさ」
アイギス……かわいそうに……。
「そっか……他に聞いてた人はいない?」
「んとね、近くにクラウソラスさんがいたってアイギスが言ってた。初めて手帳の中で見たからそれだけはよく覚えてるって。だから私、クラウソラスさんを探してたんだけど、部屋に行っちゃったみたいで見つからなくて……」
「クラウソラスが? というか、初めて見たって……」
「ずっと部屋にいたみたいで、私は見たことないし。そういう武具は他にもいるよ」
そういえば、前にエクスカリバーもそんなことを言ってたっけ。
部屋からずっと出てこない者もいるって。
「多分、ロードに力を貸すことにしたから部屋の外に出てみようと思ったんじゃない? 私達は基本的に他の武具の部屋には入れない。だから、クラウソラスさんに話を聞くにはロードが呼び出した方が早いかもだし」
「なるほどな……分かった。ありがとうエポリィ。後はこっちでなんとかするよ」
「うん。じゃ、とりあえずこのまま馬を見てるし」
「ん、頼む」
エポリィから離れ、再び荷物を担いで屋敷の玄関へと向かう。
「やっぱり喧嘩か……うーん……」
とにかくクラウソラスに話を聞くしかないか。
ヨルムンガンドとの戦い以来手帳から出してないし、後で挨拶も兼ねて呼んでみよう。
それに、クラウソラスには他にも聞きたいことがある。
あれだけの力を有し、神の半身だという彼女なら、ひょっとしたら今の神について何か知っているかもしれない。
レヴィが"視た"彼女のランクはEX……これまでにはなかったものだ。
レヴィもそれについてはよく分からないと言っていたが、恐らく武具達の中でも高位の存在なのだろう。
本当はもっと早く呼び出したかったんだが、クラウソラスの力は尋常でなく、持った感じ生命を与える為に必要な魔力が他の武具達よりかなり多い。
復興を優先していたこともあり、それもあって彼女のことは後回しになってしまっていた。
「後は……どう呼ぶかだな」
また上手いこと理由を付けてやるしかないか。
みんなには仲良くしてほしいし……頑張ろ。




