第257話:重み
「では、私達はこれで失礼致します」
「色々と助かりました。みなさんによろしくお伝え下さい」
荷物を運び終え、彼らを見送った後に中へと入る。
その瞬間――――
「う……おぉ……」
光が俺達を包み込んだ。
「相変わらず……なんとまぁ……」
「新築じゃねぇのかこれ……」
「え? だってまだ数分しか……どうなってんだし……なんか怖い」
床から壁、天井に至るまでピッカピカ。
カビや埃は一切なく、匂いすらも……ゲイボルグの言う通りまるで新築のようだ。
エポリィが怖がるのも無理はない。
俺だって少し怖い。
「あ、皆様……もうお荷物が届いたのですか?」
その時、玄関の目の前にある大きな階段からレヴィが下りてくる。
ニコニコと微笑む彼女の手にはほうきが握られ、もう片方の手には雑巾が入ったバケツが握られていた。
何の変哲もないあれらでどうやってここまで……何度見ても不思議で仕方がない。
「あ、うん。さっき着いたんだ。それにしてもさすがだね……レヴィ」
「ふふっ……ありがとうございます。大体終わりましたが、まだ細かいところが残っておりますので……とりあえずはリビングでおくつろぎ下さい。そちらのお荷物も私がやっておきます」
「え? わ、分かった……」
大体終わった?
このでかい屋敷を数分で?
前より速くなってない?
「なぁ、主人。我は時折……彼女のことを恐ろしく思うよ」
「奇遇だなエクスカリバー……俺もだ」
「じゃ、じゃあ私はこの辺で……」
「あ、そうだな。ありがとうエポリィ。助かったよ」
いろんな意味で。
「うん! またいつでも呼ぶし! ……平和な時に」
彼女は最後にボソッとそう付け加えると、本来の姿である茶色い籠手へと戻っていった。
平和な時……か。
協力してくれたエポリィの為にも、そして、怯えるアイギスの為にも……手帳の中のそいつを取り戻さないとな。
「うひゃー! 見てみなよご主人様ぁ! アホみてぇに広いぜ!?」
玄関からすぐの扉を開きながら、ゲイボルグが興奮気味にそう叫ぶ。
そんな彼女に続いて中へ入ると――――
「えっ? な、何これ……」
高い天井。
豪華絢爛な家具の数々。
床一面に敷かれた茶色い毛皮の絨毯。
でかい暖炉。
そしてなによりも……。
「ひ、広い……」
ここだけでイストにある俺の家の殆どが入りそうな気がする。
確かに今まで泊まらせてもらったお城も豪華ではあった。
けど、なんだろう……それとはまた異質な……。
「なんだよこのソファー! こんなでっかくて、しかもふっかふかだぜおい! ひっひっひっ!」
暖炉の近くに置かれたソファーの一つに飛び乗り、目のやり場に困るものを揺らしながら、ゲイボルグは子供のようにはしゃぎまくる。
「やれやれ……貴公はそれでも……」
「ま、まぁまぁ……エクスカリバーも座りなよ。疲れたろ?」
「……分かった。主人の命は絶対だからな」
エクスカリバーは眉尻を下げながら微笑むと、近くにあった安楽椅子へと腰掛ける。
肩肘を突いて足を組み、どこを見るでもなく佇むその姿は――――
「絵になるなぁ……」
「ん? ふふ……まぁ、せっかくのお言葉だ。ありがたく頂戴しておこう」
「なんだよなんだよぉ……あたいは絵にならねぇってのか?」
ゲイボルグはソファーに寝そべり、片足を背もたれに掛けながら不貞腐れた表情を浮かべる。
「はは……それはそれで、ゲイボルグらしくていいと思うよ」
「……褒めてねーだろそれ」
「あ、奥はキッチンになってるんだなぁ」
「おいっ!」
なるほど。
暖炉回りの半分がくつろぐスペースで、もう半分が食事をする場所ってことか。
ブランスさんのお屋敷にもあった長いテーブルがここにも置かれている。
前から思ってたけど、なんでこんなに長くする必要があるんだろう?
普通のテーブルじゃ駄目なのかな。よく分からない。
っと、そんなことよりクラウソラスを……。
「貴公……いい加減股くらい閉じたらどうだ。見苦しくてかなわん」
「はぁん? テメェが見なきゃいいだけだろうが。あたいに指図すんじゃねぇよ」
あ、やば……。
「意識せずとも視界に入るのだよ……貴公の醜態はな」
「うるせぇ。つかよ、あんたがどんだけ偉いってんだ? あ? あんたより上だっているだろうが」
「そんなことは言われなくても知っている。ただ、貴公は目に余ると……そう言っているのだ」
方や安楽椅子を揺らしながら。
方やソファーに寝そべりながら。
交差する視線上で火花が散る。
空気が重い。
互いの手が得物に伸びかけているのが分かる。
こうなったら一か八か……。
「ほぉ……じゃあ、どうすんだよ」
「決まっている。言って分からぬのなら……」
「ふーん……エクスカリバーより上がいるのか?」
「えっ? あ、ああ……」
「ゲイボルグよりも?」
「へ? あ、いや、会ったことはねぇけど……多分?」
こうなった以上、恐らくいくらなだめたところで意味はない。
だったらもう……普通に接してやる。
内心ドキドキだけど。
「それって例えば……クラウソラス」
「ぬ……」
俺の呼び掛けに応え、手帳から光り輝く白い剣が姿を現わす。
やはり握っただけで感じる。
言葉では言い表せない……その存在の重みを。
エクスカリバーとゲイボルグも、表情から察するにどうやら俺と同じ感覚を覚えているようだ。
「……ああ。そいつとかだな」
「ん? とかってことは……他にもいるのか?」
「うむ。他にも数名な。我ら伝説の武具に限らず、およそ全ての武具は作り手の力量によってその性能が決まると言っていいだろう。無論、使い手の力量により、その性能が発揮出来るかどうかとなる訳だが……まぁ、今そのことはいいか。つまり何が言いたいのかというと、我らの強さは生み出した者によっておおよそ決まるということだ」
「あたいとこいつは神に創られた訳だけど、中には人間に作られた奴もいるだろ? まぁ、手帳の中にいる奴らは人間の中でも特に優秀な奴が作ったもんだからそんなに差はねぇが……平均で見りゃあ、やっぱ神が創った奴らの方が力は上だろうねぇ。ま、中にはヘラクレスみたいな奴もいるけど。で、ご主人様が握ってるような……そいつを始めとする数人はモノが違う」
「モノが?」
「格がちげぇってこった。実力云々は置いといてな。同じように神に創られたとしても、あたいらとそいつらじゃ創り方が違う」
「クラウソラスは神の魔力をその身に収めている。故に、その力は神そのもの。我らは所詮道具だが、そやつを始めとする数人は神の一部だと言ってもいい。故にその力は絶大……それは、使用した主人にも分かるであろう?」
確かに。
そうか……この存在の重みこそが神の……。
「手帳の中にはそういった者が他にもいるのだ。まだ主人に手を貸してはいないようだが」
「なるほどな。じゃ、ちょっと聞きたいこともあるし、力を貸してくれたことのお礼もしたいから生命魔法を……あ、多分魔力をかなり使うから、何かあったら頼むな」
「心得た」
「ちょっとドキドキすんなぁ……」
ふぅ……とりあえずここまでこれたか。
一旦喧嘩も収まったし、このままクラウソラスに話を聞こう。
それにしても……どんどん魔力が吸い込まれていくな。
アガートラムが動かせるくらいには残るといいんだが……。
「お……!」
俺の魔力が半分程失われたところで、もともと光を放っていたクラウソラスが更に輝きを増していく。
そうして俺の手元から離れた光の剣は、白い光の中で人の身へと姿を変えた。




