第250話:到着
「いいだろう……! 我と貴公……どちらが真の強者か! 今ここで決めようではないかッ! 槍を抜けゲイボルグッ!」
ああ……。
「ひっひっひっ! 吐いちまったなぁエクスカリバー……もう後戻りは出来ねぇぜ? 魔槍に貫かれる聖剣……シャレになんないと思うけどねぇ!?」
まさかこんなことになるとは……。
「ぬかせゲイボルグッ! 貴公の全てを斬り伏せてくれるわッ!」
「ハッ! あんたのとろっちぃ剣なんざ……掠りもしねぇよッ!」
それにしても今日はいい天気だ。
「お2人とも落ち着いて下さ……ロ、ロード様! 遠くを見つめている場合ではありません!」
「まぁ待てお主ら」
……お?
「クラウソラス様……」
「せっかくだ。お主ら2人だけではなく、いったん手帳に戻って有志を募り、真の最強を決めてはいかがかな?」
「クラウソラス様!?」
ああ……。
「ほう、望むところよ……!」
「そいつぁいいねぇ! めちゃくちゃ滾るじゃねぇか!」
「クックックッ……私としても気になるところでな。果たしていったい……誰が一番強いのか」
「み、皆様っ……ああ、もう! ロード様! なんとかして下さい!」
ごめんレヴィ……こうなったら多分もう駄目だ。
ああ……出来ることなら時間を巻き戻したい。
この町に着いた……ほんの数時間前に。
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「見えたし!」
「おっ」
まだ新しい木と革の匂いがする馬車の中に、エポリィの元気な声が響き渡る。
後方に開いた半円の景色を眺めていた俺は、その声を聞いて身体を前へと向けた。
「あれが……シュメールか」
馬車は小高い丘の頂上で止まり、こちらを向きながら笑顔で指を差すエポリィ越しに、今回の目的地であるその町が見える。
これまで見てきた町は色や形に統一性があり、ギリシアなら白く荘厳で、ケルトは石レンガの重厚な雰囲気を上手く醸し出していたように、どれも力強く美しい町並みばかりだった。
対してシュメールは色や形に統一性はないものの、翡翠色や赤や黄など、様々に彩られた多種多様な建物が多く見える。
これはこれで悪くない……いや、むしろかなり好きかも。
なんだか見ているだけで楽しくなる町並みだ。
「わぁ……噂通りの美しい町ですね」
「だね。それに、想像してたよりもかなり大きいな」
さすがにニーベルグ程ではないが、少なくともギリシアくらいはありそうに見える。
もう中堅国家の域を超えているんじゃないか?
「ええ。なにせ今やティーターンに代わり、5大国家の一つとすら呼ばれている程ですからね。常に拡張工事を続けていて、年々町が大きくなっているそうです」
「冒険者業と観光業、あとは商業なんかで得た財をそのまま町の拡張に使ってる訳か」
「ですね。オーランド様も仰っていましたが、それもあってかシュメール王はかなり質素な生活をされているみたいですし、私服を肥やすどこぞの愚王とは大違いのようです」
俺達はギリシアからティエレンを使って一旦ケルトに飛び、そこでオーランド様にギリシアの現状や今気になっていることなどを報告していた。
神についてはオーランド様も探ってくれるとのことで、とりあえずはその報告を待ってから動くことになるだろう。
また、この後シュメールに向かうつもりだと伝えると、オーランド様からシュメールについての情報を色々と聞くことが出来た。
とにかく悪い噂が全くない国で、直接シュメール王と話したこともあるらしいのだが、まだかなり若いのにも拘らず、民のことを一番に考える非常に素晴らしい人物だったとのことだ。
若くして王になったという点ではオリンポス王と同じだが、どうやら考え方は正反対みたいだな。
「一度話してみたいけど、簡単には会えないだろうからなぁ。今まではたまたまというか……」
「そうですね……まぁ、とにかくまずはブランス様のところへ参りましょう。その後はロード様にお任せします」
「ああ」
「じゃ、とりあえず厩に行くし」
「ん、頼む。さて、今のうちに人を増やしておくか」
これまでのことから推察すると、ティタノマキアの中に居場所を探れる魔法か何かがあるのはほぼ間違いないだろう。
それが単純に居場所だけを特定するものなのか、それとも遠く離れた場所を見ることが出来る力なのかは分からない。
あとは、見たり感じたりが常に出来るのかどうかも不明。
そもそも来るのかどうかすら分からないが、なんにせよ味方は常に多い方がいい。
それに、恐らく2人組の男女で探している筈だから、人数を増やせば多少は鼻を鈍らせることが出来るかもしれないしな。
っと、その前に……。
「フェブズルング」
「はいな。異常なしっす」
俺が彼の名を呼ぶと、屋根の上からそう返事が返ってきた。
魔法をかけている俺ですら、意識しなければその存在を忘れてしまいそうになる。
側から見れば、恐らく屋根の上には誰も乗ってないように見えるのだろうが、彼は間違いなくそこにいるのだ。
「分かった。これから町に入るが、フェブズルングは少し離れて俺達についてきてくれ。もしも怪しい奴がいたら合図を頼む」
「了解っす」
「任せた。あとは……エクスカリバー、ゲイボルグ」
なんとなく頭に浮かんだその2人を呼び出し、俺はすぐに生命を与える。
そうして現れた聖剣と魔槍だったのだが……。
「ん? ど、どうしたんだ2人とも……怖い顔して……」
「「……別に」」
思い当たる節はないが、2人の機嫌が悪いのはすぐに分かった。
ひょっとしてあれか?
ヨルムンガンドとの戦いで使わなかったから……?
「あ、あの……」
「貴公は何も悪くない。案ずるな」
あ、違うのか。
じゃあいったい……。
「そうそう。悪いのはなぁ……頭の固いどこぞの騎士様さぁ。ご主人様は気にしなくていいぜ?」
おや……?
「ほう、ひょっとしてそれは……我のことを言っておるのか?」
こ、これは……。
「いんやぁ? あたいはそんなこと一言も言ってねぇけどぉ? 自意識過剰なんじゃねぇか?」
「ふむ、勘違いか。いや何……今我は、どこぞの頭が緩過ぎて阿呆になった戦闘狂に悩まされておってなぁ……そやつの所為で気が立っておるのだ。過敏に反応してすまなかったな阿呆……あ、いや、ゲイボルグよ」
「……あ?」
空気が軋む。
危険を察知したフェブズルングの気配は完全に消え、さっきまで騒いでいたエポリィは無言で馬車を走らせていた。
ちなみに、レヴィは俺の背に隠れて震えている。
ついでに、俺の震えも止まらない。
「まぁ、とにかくだ。今は我が主人の命に応えることが先決……違うか?」
「……いんや? それでいいぜ」
「うむ。では、仲良くやろうではないか」
「ああ。望むところだぜ……」
そう言って、2人は固い握手を交わす。
目を血走らせながら。
「はっはっはっ」
「ひっひっひっ」
何これ怖い。
いったい2人の間に何が……。
「つ、つつつ……着いたひ!」
「お、おお! ありがとうエポリィ! つ、疲れたろぉ? 手帳に戻って休んでくれ! な! ……何があったか調べてきてくれ。また後で呼ぶ」
2人に聞こえないよう、そっとエポリィに耳打ちする。
「へ、あ、ちょ、超疲れたしぃ! お言葉に甘えちゃおっかしなぁ……分かったし」
語尾がおかしくなった彼女を手帳に戻し、ヴァンデミオンと馬車を厩へと預けた。
そうして手続きをしている間にも、背後で激しく闘気がぶつかり合い、時折凄まじい殺気が俺の肌をざわつかせる。
とにかく今はエポリィに時間を与えて情報を探り、この2人を下手に刺激しないようにしなければ……。
俺達が生き残るにはもうそれしかない。
平常心平常心……。
「さ、町に入るぞ。レヴィもフードを被ってな」
「あ、はい!」
俺はグラウディさんから貰ったマスクをつけ、フード付きの黒いマントを羽織る。
レヴィもマスクこそしないが、同じようなマントを羽織ってフードを被った。
そうして俺達は、マントを羽織ろうがフードを被ろうが関係なしに感じるその闘気と殺気を背に……シュメールの町へと足を踏み入れた。




