第251話:爺
「わっ……やっぱり人が多いですね」
「ああ。しかも、見た感じほとんどが冒険者だな。鎧とかローブを着ている人ばっかりだ」
シュメールも他の町同様、魔物や竜の侵攻を防ぐ為に巨大な壁が町の周囲を覆っており、そこに開いた巨大な門をくぐった先は多くの冒険者で溢れかえっていた。
門から道が三方向に分かれていて、入って正面にある大通りはもちろんのこと、左右にある道にも多くの人の姿が見える。
世界の現状を考えれば無理もないが、やはりここに冒険者がかなり集中しているようだ。
ケルトよりも多い気がする。
「まずは、この町の地図が欲しいですね」
「うん。ブランスさんの家を探さないと」
ブランスさんの手紙についていた地図は、ケルトからシュメールまでの道のりが示された大きめのものだった。
誰かに聞けば分かるかもしれないが、暫く滞在することになりそうだし、やはり地図はあった方がいいだろう。
「主人。向こうに雑貨屋らしき店が見える。そこに行ってみてはどうだろうか?」
「ん、ああ……」
「あっちにも見えるぜぇ。あたいはあのでかい店のがいいと思うけどなぁ?」
「……貴公」
「……あんだよ」
激しい火花が散っている。
誰か助けて。
「よう」
「え? あ! ブ、ブランスさん!?」
背後から掛けられたその声に振り返ると、何故かそこにギリシアで別れた時同様、白銀に輝く鎧を着たブランスさんが立っていた。
今日着くとか言ってない筈なんだが……。
「ブランス様……ご無沙汰しております」
「うん。2人ともわざわざあんがとな」
「いえ、それはいいんですけど……な、なんでここに?」
「ん? そりゃケルトから来ればこの門に着くから……」
「あ、いや、そうじゃなくて……なんで今日だって分かったんですか?」
「んんー……なんとなく。ま、いいじゃんか会えたんだし。あっちに馬車を停めてあるから、それで俺んちまで行こう」
「は、はい……」
なんとなく……いや、まさかな。
「んで、そっちの2人は初めて見るけど……もしかして武具?」
「あ、そうです。エクスカリバーとゲイボルグっていいます」
「エクスカリバーだ。よろしく頼む」
「あたいはゲイボルグ……よろしくな」
「俺ブランス。よろしく。にしても、どっちもくっそ美人だな……なんか腹立ってきた。可愛いメイドだけじゃ足りねぇってのかこの野郎」
「あはは……そんなんじゃ……」
「おい、あれ……SSランクのブランスじゃね?」
ん?
「あ、ほんとだ……やば」
「"箍無し"だ……おい、さっさと逃げようぜ……!」
ちょ……。
「近付くだけでブン殴られるらしいからな……」
「私の知り合いなんか、見ただけで魔力を奪われたって言ってたけど」
「"箍無し"がギルドに来たらシュメールが崩壊するらしいな」
「いや、存在してるだけでやばいだろ」
「くわばらくわばら……」
えぇ……。
めちゃくちゃ言われてる……。
「……あぁん!? 聞こえてんぞコラァッ!」
「ひっ!」
「ねぇ逃げよう!?」
「馬鹿っ! 押すなって!」
「う、うわぁぁ!」
「ぎゃぁぁぁあ! お母さぁぁぁぁあん!」
「み、見ちゃいけませんッ!」
ほんの数秒。
あれだけいた町の人々はあっという間に消え、辺りが一瞬で静寂に包まれる。
ブランスさん……あなた過去に何をしたんですか?
「ちっ……普段町に出ねぇから忘れてたぜ。ま、どうでもいっか」
あ、あんまり気にしていない……!
「ほれ行くぞ。道が出来たし丁度いい」
……そういえば、ズィードさんも言ってたっけ。
SSSランクになれないのは、実力が足りないからじゃないみたいなことを。
きっと何かをしてきたんだ……色々と。
でも、ブランスさんはこんな感じで気にしなかったのだろう。
そうした積み重ねが……。
「おい、どうした?」
「あ、はい! 今行きます! 行こうレヴィ!」
「え、ええ! ただ今!」
俺達はブランスさんの後に続き、誰もいなくなった町を歩き出す。
ふと道の両端にある店に目をやると、どの店の中にも人が大量に入っていて、皆怯えた目で俺達を見ている。
いったい何をやればこうなるのか……。
「あの男……やはり相当出来るな」
「ああ。間違いなく過去の英雄クラスだ。それがこの扱いってこたぁ……よっぽどだな」
「そうらしい。やれやれ……どこぞの阿呆と同じか……」
「……あ?」
「何か?」
後ろは後ろで……。
はぁ……この町に着いてから気が休まらないな。
なんとか片方だけでも戻したいが、今はエポリィが中で聞き回ってる筈……とにかく耐えるしかない。
「ん、あれだ。爺!」
ブランスさんが指差す先に、2頭の白馬が繋がれているかなり大きめの馬車が見えた。
すると、その側にいた年配の男性がブランスさんの声に反応してこちらを向き、俺達に向けて深々と頭を下げる。
俺達もそれに合わせて頭を下げ、その人の下へと歩み寄った。
「皆様、長旅お疲れ様でございました。この度は我が主人の願いをお聞き下さり、心より御礼申し上げる次第にございます。私の名はビウス……ブライトシャフト家に仕える執事頭にございます。ご用命の際はなんなりとお申し付けを」
白髪に執事服、そして口髭がよく似合っている……まさに執事といった印象だ。
背も高いし、なんだかかっこいい。
「初めまして。俺の名前はロードっていいます。こっちはレヴィで、後ろの2人はエクスカリバーとゲイボルグといいます。宜しくお願いします」
「宜しくお願い致します。ビウス様」
「ご丁寧にありがとうございます。皆様、どうぞ宜しくお願い致します。それと、レヴィ様。そのお姿から察するに、恐らく私と同業の方とお見受け致しますが、今あなた様は我が主人のご客人……どうか私に"様"はお付けにならないでいただけると……」
「あ、申し訳ありません……無礼でした。では、ビウスさん……で、よろしいでしょうか?」
「はい。ありがとうございます」
メイドと執事だからこそ分かる何かがあるのかな。
それにしてもこの人……かなり強い。
動きに無駄がないし、隠しているみたいだけど凄い魔力を感じる。
「爺」
「はい。では皆様、どうぞ馬車にお乗りください。お屋敷までお送りさせていただきます」
ビウスさんに促され、俺達はその大きな馬車へと乗り込んだ。
「わっ……広い」
「美しい装飾ですね。立派な馬車です」
確かこれはラドータイプ……だったかな。
王族や貴族の人がよく使う馬車だ。
向かい合わせに乗る馬車で、ブランスさんが前に座り、俺達4人はその向かいに座った。
エクスカリバーとゲイボルグは俺とレヴィを挟んで両端に座り、互いに窓から外を眺めている。
フェブスルングは……上に乗ったみたいだな。
「それでは皆様お乗りになられたようですので……これより出発致します」
ビウスさんが上を見てる……。
もしかしたら気付いているのかもしれない。
やっぱり只者じゃないな。
「あ……」
そうして馬車が走り出した瞬間、周りの店から一気に人が溢れ出す。
馬車が少し離れる頃には、町は再び元の喧騒を取り戻していた。
「ちっ……」
「ふふふ……だから私がお迎えにと申し上げましたのに……」
「え?」
「爺。余計なことを言うな」
「ここ数日。毎日ここまで馬車を走らせ、皆様のご到着を今か今かと……」
「爺……!」
「そ、そうだったんですか?」
まさかとは思ったけど……。
「……さぁな」
「このようなブランス様を見るのは初めてのことにございます。それだけ今回の依頼が大切な……そしてそれは、私達執事も同じにございます」
そういえばまだ聞いてなかった。
ブランスさんの頼み……。
「その……依頼というのは?」
ブランスさんは俺の質問に一つ息を吐くと、ゆっくりと俺の方を向いた。
「…………俺にはな……妹がいるんだ」




