第242話:劣等
「能力が……なかった?」
それって……。
『そう、故に劣等種。お前たちの世界でいうところの……』
「……無能」
『そうだ。まぁ、それは人間達を調べていくうちに最近知った概念だがな。知った時は妙に親近感を覚えたものだ。我と似たような者が人間の世界にもいるのだな……と』
最近ってことは……やっぱり無能なんて概念はもともとなかったんだ。
レヴィは以前、少なくとも千年前にはなかったと言っていた。
となると、何者かがこの千年の間にそれを生み出したのは、もう間違いないと考えていいのかもしれない。
それにしても……。
「そうか……お前と俺は……同じだったんだな」
『む? どういう意……まさか……』
「ああ。俺はかつて……無能と呼ばれていた。多分、お前と似たような境遇だったと思う。世界に絶望した俺は一度死を選び、それをレヴィともう一人の恩人に救ってもらったんだ。そのおかげで今俺はここにいる」
『そう……だったのか……』
「だから今、心の底から思う……お前と解り合えてよかったってな」
そう言うと、ヨルムンガンドは目を伏せて何度か頷いた。
『フッ……さて、話を戻そう。先程も言ったように、本来天竜種は最初から特別な能力を持っている。だが、我には何もなかった。それは天竜種としてはあり得ぬこと。言ってしまえば一族の恥だ。それ故に、我は他の竜族と接点を持つことを禁じられ、そして、他の3匹から罵られ、侮蔑されて過ごした』
「そんな……」
『……今思い出しても耐えがたい屈辱の日々よ。とはいえどうしようもない。基本的な能力では負けていなかったが、他の3匹に能力がある以上……我に勝ち目はなかった。そして、今より2千年前……竜族、魔族、人間が激突した大きな戦があったのは知っているな?』
「ああ……二度目の大戦だな?」
一度目は1万年前。
竜族と魔族の戦いに巻き込まれた人間は滅びかけ、それを哀れに思った神様が人間に魔法を与えた。
それにより、人間は二つの勢力を撃退し、このヴァルハラを手に入れる。
そして、平和な時代を築き上げた……まぁ、実際は人間同士の争いが続いていたけど。
「私もその戦に参加しています。酷い戦いでした……多くの命が失われ、ヴァルハラの半分が焼け野原になりましたから。それでも我々は当時の竜王と魔王を打ち破り、このヴァルハラを守り抜くことに成功します。因みに、その時人間の指揮を執っていたのが……」
「クラウンさんか……」
「はい。クラウン様はその後、戦後の領地配分で争う各国を次々と平定していき、100年かけてヴァルハラを統一しました。丁度それが終わる頃でしたね……クラウン様がメル様を受け取ったのは。そこでクラウン様は隠居され、数百年かけて伝説の武具様達を集められました。そして今より千年程前……クラウン様は私と共に完全に俗世から離れ、あの時に至るという訳です」
俺と出逢ったあの時に……か。
「なるほどな……」
戦争が終わり、伝説の武具が役目を終えたと判断したのだろう。
だから神様は、それをクラウンさんに託した訳か。
クラウンさんは見事それに応え、全ての武具を1人で集め切った。
そして、もう自分の役目は終わったと判断し、レヴィと一緒に世界から距離を置いたんだ。
ん、でも待てよ?
また新たな戦争が起こる可能性もあった筈だ。
現に竜族は攻めてきたし、魔族も攻める気があった。
ひょっとして、人間同士の争いを防ぐ為だったとか?
伝説の武具達を巡っての争い……無くはないな。
『クラウンか……我は戦っていないが、話だけは聞いたことがある。竜だろうが魔物だろうが、近付くだけで首が飛んでいったらしい……一瞬でな』
「あの方は規格外なので……」
やっぱり全盛期のクラウンさんって……めちゃくちゃだったんだろうな……。
『まぁ、クラウンがいようがいまいが、負けて当然だったのだと今ならば思う。当時の竜王とはまさに名ばかりで、全ての種族を恐怖で強引にまとめ上げただけの独裁者に過ぎなかったからな。恐らくまともに協力などしていなかったのだろう。結束力の強い人間はおろか、魔族にすらまともに勝てぬのも道理よ。で、ドラゴニアへと逃げ帰った竜族は、今度はドラゴニア内で激しい争いを始めた』
「え……な、なんでだ?」
『知れたこと……竜王が死んだからよ。それに加え、生きて帰った2匹も深い傷を負っていた。つまり他の種族にとっては、天竜種の支配から逃れるまたとない好機……ヴァルハラが手に入らなかった以上、せめてドラゴニアだけでもその手中に収めようとした訳だな』
「そういうことか……」
『で、我ら3匹は応戦しながら逃げ回り、なんとか追っ手を振り切って岩樹の森へと身を潜めた。その時だった……奴が我の前に現れたのはな』
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なんとか追っ手を振り切ることは出来たか……。
『スゥ……スゥ……』
『ちッ……!』
熟睡しおって……いい気なものだ。
しかし、あれだけ粋がっておいておめおめと逃げ帰ってくるとはな……我ならその場で死を選ぶわ。
しかも、他の種族に反旗を翻される始末……下手に抵抗した所為で、奴らはもう収まりがつかないだろう。
傷が治ればとでも考えておるのだろうが、貴様らの能力だけではドラゴニアを支配することなど……まぁ、我が言えたことではないか。
『クックックッ……』
どうやら、我の命もこれまでのようだな。
まぁ、別に構わんか。
これ以上、己に絶望したくは――――
『ぬ……』
何かがいるのを感じ身構える。
それは、今までに感じたことのない魔力だった。
間違いなく竜ではない。
だが、今ここに竜以外いる訳が……。
「よぉ」
『ッ!』
「あー……落ち着けぇ。お前とやり合う気はねぇんだぁ。とりあえず、後ろの2匹に起きられると面倒だぁ……ついて来いやぁ」
『貴様は……いったい……』
「いいから来いよぉ。俺はお前の味方だぁ……」
突如現れたその男はそう言うと、我に背を向けて歩き出す。
一見すると伝え聞く人間に思えるが……なんなんだこの魔力は。
こんなおぞましい魔力を……我は知らぬ。
「お前が今のままでいいんなら来なくてもいいがなぁ……もう嫌なんだろぉ? 自分に絶望すんのがよぉ……」
『な……』
何故……それを……。
「ヒッヒッヒッ……さぁ、行こうぜぇ」
どのみち死ぬ運命……か……。
『……いいだろう』
男はニヤリと笑って頷くと、紫色の長い髪を揺らしながら再び歩き始める。
その後を続いて歩くこと数分……そこで男は足を止め、我と少し距離を置いて向かい合った。
「ここらでいいかねぇ。それじゃあ話そうかぁ……ヨルムンガンドォ」
我の名も知っているのか……。
『……で、話とはなんだ』
「単刀直入に言うぜぇ? 竜という存在史上、お前は最強の竜になれる。その素質がお前にはあんだよぉ」
『……は?』
な、何を訳の分からぬことを……。
「お前は劣等種なんかじゃねぇ……ただ、自分の力を使いこなせていない愚か者ではあるがなぁ」
『どういう意味だ……そもそも貴様はなんなのだ!?』
「おっとぉ……まだ名乗ってなかったなぁ。俺の名は……ハデスという」
『なッ!?』
ハ、ハデス……だと?
まさか……い、いや、あり得ない。
し、しかし、この魔力と雰囲気は……。
「ヒッヒッヒッ……もっとはっきり言ってやろうかぁ? 俺は……冥界の神だぁ」
――――――――――――――――――――――
「め、冥界の神……? 本当に……そう言ったのですか?」
レヴィは動揺をそのまま口に出す。
俺は声すら出せなかった。
まさか神が出てくるなんて……思わなかったから。
『事実だレヴィよ。先の戦い、我の身体から溢れ出す冥界の魔力を見たであろう? あれはハデスの力よ。奴から受け取った魔力の塊を体内に入れたことで、我は強大な魔力を手に入れた。それにより自身の能力……"敵意の逆転"を使いこなすに至ったのだ』
「ってことは……神がお前に力を貸したってことか? な、何の為に?」




