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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第5章:それぞれの戦場で

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第240話:儀式

 

『ガッ……ガガガッ!?』


 クラウソラスの純白が、冥界の漆黒を塗り替えていく。

 煌めく斬光は死の塊を霧散させ、その光はロードと共に、ヨルムンガンドの下へと遂に辿り着いた。


「お前が誰かは知らないッ! ただ! 邪魔をッ……するなぁッ!!」


 確かに感じたその気配に向け、ロードはクラウソラスを振りかぶる。

 そうしてヨルムンガンドの胸の中心に、光の剣《つるぎ》が深々と突き刺さった。


『ガァァァァァァァァァアッ!?』


「あぁぁぁぁぁあッ!」


 瞬間ヨルムンガンドの全身が光に包まれ、その瞳や牙の隙間から黒い魔力が一気に溢れ出す。

 それは、浄化の光。

 光の剣《つるぎ》は闇を打ち消し、冥界の力をこの世界から消さんと猛烈な光を放つ。


「闇が……消えて……」


「綺麗……」


 全員が空を見上げる。

 それは、この場にいるレヴィ達だけではなく、今ギリシアで戦う者全てがそうであった。

 戦の終焉を告げるかのようなその眩い輝きに、人も竜も振り上げたその手を自然と止める。

 そうして、世界を照らすその白く清い光だけを……彼らはただただ見つめ続けていた。


「おい、ミョルニル……あれは……」


「ああ……やっぱ……ただ者《もん》じゃなかったね……」


 ロードの下へと向かう途中、アイアンハートに抱えられたミョルニルがそう呟く。

 彼はそれに頷くと、誇るべき主人《あるじ》の下へと駆け出した。

 その先にある空は未だ白く煌き、尚その輝きを増していく。


『ガッ……ぐ……おぉぉぉおッ!?』


「ッ!」


 その時、赤黒く濁っていたヨルムンガンドの目に光が戻っていく。

 それに気付いたロードは、肺に目一杯空気を叩き込んだ。


「こいッ……ヨルムンガンドッ! まだ決着は……ついてないッッ!!」


『ッ!!』


 ロードは全ての魔力をクラウソラスへ流し込み、心の底からそう吼える。


「お前はッ……お前なんだろうッ!?」


『ぐッ! が……あッ……わ、我はッ……!』


「だったら……帰ってこいッ!!」


 瞬間、クラウソラスの光がギリシア全体へと広がり、それを見つめていた全ての者の視界を奪った。


「ぐッ!?」


「なんも見え……!」


「ひゃあッ~!?」


「ロ、ロード様ッ……!」


 目を開けていられない程の強烈な白い閃光。

 瞼越しでも強く感じるそれに、ギリシアの時が一瞬止まる。


「ん……」


 やがて光が弱まったのを感じたレヴィは、薄っすらとその目を開いた。


「あっ……」


 そうして映ったロードの背中に、彼女の口から安堵の吐息が漏れる。

 だが、すぐに口元をぎゅっと噛み締めると、彼女は彼の下へと歩み始めた。

 何故なら、まだ決着はついていないから。

 彼女の瞳に映る彼は、その前にいる者を静かに見つめていた。

 2本の脚で大地を捉え、その大きな黒い翼を広げる……竜王ヨルムンガンドを。


『……ロード』


 レヴィがロードの隣に立った直後、ヨルムンガンドが静寂を破る。

 冥界の魔力はクラウソラスによって消され、ヨルムンガンドは既に己を取り戻していた。

 しかし、一見無傷に見えるその身体は限界を超えており、それと同時にほとんどの魔力を失っていた。


『どうやら……我は貴様に……』


「ヨルムンガンド」


 そしてそれはロードも同じ。

 魔力のほぼ全てをクラウソラスに使い、もう新たな魔法は使えない状態にあった。

 だが、それでも彼は――――


「……決着をつけよう」


『ッ! クックックッ……貴様という奴は……』


「お互いに魔力はほとんどなし……条件は五分だ」


『ああ……そのようだな』


「レヴィ、下が……」


「お断りします」


「えっ?」


「私も……ヨルムンガンド様を救いたいので。ロード様と一緒に」


「レヴィ……」


『フッ……ヨルムンガンド"様"か……』


 竜王は笑う。

 竜族以外に初めてそう呼ばれ、なんとも言えない不思議な感覚を覚えて。


『……いいだろう。2人まとめて掛かってくるがいい。我は竜王ヨルムンガンド……貴様達に勝ち、我は竜族を導く。それが竜王としての……我が使命なり』


 既にヨルムンガンドは気付いていた。

 竜族の戦いはもう……終わったのだと。

 6匹の長は討たれ、既に戦《いくさ》は終局へと導かれている。

 だが、不思議と悔しさも憎しみもなかった。

 そして、目の前にいる人間ならば……いや、ロードならば構わないと。


「なら……それを俺達が止めてやる」


 ロードは拳を握り締める。

 レヴィもまた、彼の隣で拳を構えた。


『……強き者が真理。敗者はただ……勝者に従うのみ。それが、竜族の掟だ』


 期待通りのロードの言葉に、ヨルムンガンドはそう答える。

 戦《いくさ》だけではなく、彼らの決着もまた既についていた。

 故にここから先は、ヨルムンガンドの竜王としての矜持を守る為に、ロードが催した儀式に過ぎない。

 それら全てを理解し、ヨルムンガンドは全身に力を込める。

 そうして、彼もまた拳を握り締めた。

 その爪を……立てないように。


『さぁ……』


 長い戦いの全ては、今ここに到達する為だけにあった。

 勝負は一瞬。

 体力も魔力もない今、残る全てをその一瞬に凝縮するしかないと互いに理解していた。

 そうして微かな淀みの後、竜王の口が大きく開き――――


『我を止めてみよッ……ロードッ!』


 彼に"止めろ"と……そう言った。


「……ああ、止めてやる。そして、違う道を歩こう……ヨルムンガンドッ!」


『フッ……ぬかせッ!』


「いくぞレヴィッ!」


「はいッ……ロード様ッ!」


 刹那三つの足は同時に踏み込み、一切の迷いなくその拳を振りかぶる。

 レヴィは主人《あるじ》の先に立ち、ヨルムンガンドが全てを込めるその巨拳へ向けて大地を蹴った。

 彼女の魔力もまた、二発の超魔力弾を放ったことでそのほとんどが失われている。

 しかし、それはあくまで自分が扱い切れる範囲の話。

 海の王を圧倒したあの力は、まだ彼女の中で眠っていた。

 だから彼女は、それを強引に呼び覚ます。

 自分の為ではなく、背中にいる……愛する者の為に。


「うぁぁぁぁぁあッ!!」


『おぉぉおッ!!』


 瞬間、激突する二つの拳。

 それは、誰が見ても絶望的な差があるように見えただろう。

 たが――――


『ぎッ!?』


 嫌な音を立てたのは、ヨルムンガンドが放つ巨拳であった。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!」


 レヴィは右の拳に魔王の力を宿し、そうしてヨルムンガンドの全てを込めた拳を――――


「はぁぁぁぁあーッ!!」


『がッ……あッ!?』


 粉々に……打ち砕いた。


「ロード様ッ!」


 レヴィの雄叫びと同時、ロードは彼女の肩へと足をかけ、そのまま一気に空へと跳んだ。

 拳を粉砕されたヨルムンガンドの体勢は大きく崩れ、もはや立て直すことはかなわない。

 いや、仮にそれが可能であったとしても、ヨルムンガンドはやはりそれを受け入れただろう。

 ロードの想いが込められた……その魔銀の拳を。


『ロー……ドッ……!』


「……受け取れッ! ヨルムンッ……ガンドォッッ!」


 そうして、美しい銀色の輝きを放つその拳が、ヨルムンガンドの魂へと……確かに届いた。


「はぁぁぁぁあッ! "意志を貫く魔銀の義手(アガートラム)"ッ!」


『ごッ……おッ……!』


 打ち抜いた拳は竜王の牙を粉砕し、その巨躯を弾き飛ばす。

 竜王は地面を跳ねながら瓦礫の山へと叩き付けられ、それを背に顔を上げる。

 霞む瞳に映る……自身を打ち破りしその男。

 やはりその魔力は――――


『クッ……クックックッ……ああ……見事なり』


 彼の目にはただひたすらに……美しく輝いて見えた。



 ――――――――――――――――――――――



「はぁッ……はぁッ……ぐッ……」


 その時、倒れそうになる俺の身体を何かが包んだ。


「レ、レヴィ……」


「ロード様ッ……」


 ああ……温かい。

 やっぱり俺には……君がいなきゃ……。


「レヴィ……ごめんな。君を……傷付けて……」


「わ、私こそ……! 分かっていた筈なのにッ……あ、あなた様のことをッ……!」


「じゃ、じゃあ……仲直り……してくれるか?」


「ッ! うぅっ……ぐすっ……はいっ! はいっ……!」


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