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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第5章:それぞれの戦場で

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第238話:箍

 

 引き抜かれたその剣《つるぎ》はロードの魔力と同じ金色の光を放ち、彼の身体を温かく照らしていく。

 そして、その白い柄《つか》に触れただけでロードは既に確信していた。

 この剣《つるぎ》ならば……ヨルムンガンドを救えると。



 ――――――――――――――――――――――



 クラウソラス 光の剣《つるぎ》


 光の神が生み出した伝説の剣《つるぎ》。

 この世全ての闇を祓い、悪しきものを断つ力を持つ。

 光の神は自身の半身をこの剣《つるぎ》に宿したという伝承があり、握りし者は神と同格とされ崇められたという。


 大英雄ヌァザはこの剣《つるぎ》とアガートラムを使い、戦場で一度たりとも膝を突くことすらなく勝利を重ねた。

 故に、クラウソラスは"不敗の剣《つるぎ》"と呼ばれることもある。


 武器ランク:【EX】

 能力ランク:【EX】



 ――――――――――――――――――――――



「ぐッ!?」


 しかしその直後、ロードの顔が驚愕に歪む。

 まるで魔力を全て吸い込まれるかのような脱力感と、それに比例して膨れ上がるクラウソラスの絶大な力を感じて。


「こ、これは……!」


 クラウソラスは神の半身。

 繰り出す力はそれと同等であり、故に扱うにはそれ相応の力が求められる。

 闇を乗り越えた今のロードをもってしても、それは容易なことではなかった。


『……ッ!! ギォォォォォォオッ!!』


 ヨルムンガンドが……いや、ヨルムンガンドに潜むそれが反応していた。

 その剣《つるぎ》は危険だと。

 故にそれは武具達を無視し、ロードへとその矛先を向ける。

 冥界の魔力すら無に帰す光を、この世界から消し去る為に。


「いかせるかぁッ!!」


 ロードへ向けて大地を蹴った竜王の前に、アイアンハートが立ちはだかる。

 既に武具達には聞こえていた。

 "もう少し耐えてくれ"という……主人《あるじ》の声が。


「"後退なき不屈の剣(アイアンハート)"ッ!!」


『ゴァッ!』


 両者が激突した瞬間、その胸の中心にある赤い魔石が猛烈な光を放つ。

 アイアンハートはダメージを与えられない。

 だが、その代わりに彼もまた傷付くことはなく、痛みという概念を虚無の彼方へ消し飛ばす。

 全てを救うという主人《あるじ》の想いをより強く感じた今、アイアンハートはそれを叶える為に己が力を限界まで引き出していた。

 それは、傷付けることなく戦いを制すというアイアンハートの信念とも重なり、故に彼は竜王の攻撃を後退することなく受け止める。


「俺は……引かねぇぞぉッ!」


『グルッ!?』


「あぁぁぁぁあッ!」


 巨躯を弾き飛ばし、アイアンハートは更に前進する。

 その背中を追うように、2人の武具も大地を蹴った。


「よくやったぁッ!」


「ここは通さない……通せないッ!」


 3人の武具が死力を尽くしてヨルムンガンドを抑える中、ロードは深く深く集中していた。

 魔銀の義手が握りし光の剣《つるぎ》は更に輝きを増し、ロードの身体から魔力を吸い続ける。


「もう少し……!」


 あまりにも強大過ぎる力。

 一歩間違えれば自身すら飲み込まれそうになるそれを、ロードは必死に操ろうとしていた。


「がッ……あッ……!」


「ぬおッ!?」


 魔爪に弾かれたミョルニルの身体が宙を舞い、更にヨルムンガンドはアイアンハートの足を掴んで後方へと放り投げる。

 その力が発動する前になんとしても止めなければならないというヨルムンガンドの中に潜む者の強い意志が、彼の身体の限界を更に超えた動きを強制していた。


「くッ……!」


『ギォォォォォォオッッ!!』


 そうして、残されたバルムンクに冥界の息吹《ブレス》が―――――


「おぉぉぉらぁぁあッ!」


『ッ!?』


 尋常ならざる魔力を纏い、圧倒的な力を誇る黒き竜王。

 だが、その男は臆さない。

 何故ならそれが……彼の魔法だから。

 黄金の閃光は竜王のこめかみへと直撃し、その衝撃に巨躯が揺れる。


「ありゃ!? 逆転されねーじゃん!」


「ブランス様……!」


「やっと来やがったか!」


 とにかく一撃を入れて気を逸らそうとしたブランスだったが、攻撃が入ったことで逆に驚いていた。

 それは見ていた者も同じであり、ブランスが真の能力を知らない以上、これにより今現在"敵意の逆転"がないことを彼以外全員が知る。


「よっと!」


 見事ヨルムンガンドの顔面に一太刀を入れたブランスは、バルムンクの隣に着地するとすぐさま剣《つるぎ》を構える。

 既に戦況は人間側へと大きく傾き、統制のとれなくなった竜達は次々に後退し始めていた。

 その時、ファーブニルがいなくなったことで障壁が消える。

 それを見たブランスはすぐさまアディードに連絡をとり、許可を得てギリシアへと入ったのだった。


「あんたは……!」


「俺は何をすればいい!?」


「ッ! ……あいつを抑える!」


「任せな……!」


 瞬間、ブランスの魔力がより一層輝きを増していく。

 何故なら一太刀を入れて分かったから。

 この敵は……あまりにも強大過ぎると。

 しかし、だからこそ彼は強くなれる。

 恐怖をねじ伏せた先に、勇気は湧いてくるものだから。


「あんたの攻撃が通ったってことは、今のあいつに多分逆転の力はない! けど、纏っている魔力が桁違いで、息吹《ブレス》を吐く時以外攻撃が通らないわ!」


「おっけ……とにかく時間を稼げばいいんだな!?」


「そう! 後はロードがなんとかしてくれるから!」


「把握した!」


 言うや否や、ブランスは大地を蹴った。

 一歩踏み出す度にその速度は上がり、かつて全てに怯えていた男は強大な力に向けて迷いなく舵を取る。


「速いッ……!」


 まさに閃光。

 ブランスの身体能力は最大まで高められ、その動きは冥界の魔力を纏うヨルムンガンドすら凌駕する。

 後方へと流すように握った白銀の剣《つるぎ》は、まるで流星の尾のように彼の背後で美しくたなびき、その勢いそのままに繰り出された突きが――――


「おぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁあッ!!」


 ヨルムンガンドの足元を深く抉った。


『グッ!?』


 攻撃がくると身構えていたヨルムンガンドの身体が、抉れた地面に引きずり込まれるように傾いていく。

 その隙を狙い、ブランスは躊躇なく刃を振り下ろした。


「うおッ!? マジで効かねぇッ……!」


 足を狙って放った斬撃は弾かれ、ブランスはすぐに後方へと下がり距離を取る。

 だが、竜王もまたその隙を逃さない。

 刹那放たれた小さな黒い息吹《ブレス》。

 しかし、冥界の魔力が込められている以上、それがいかに小さくとも必殺であることには変わりない。


「舐め……んなぁッ!」


 繰り出すは黄金の斬撃。

 勇気を魔力に、そしてそれを刃へと変え、黒い息吹《ブレス》を見事断ち斬ったブランスだったが、その陰から本命の一撃が迫っていた。


「おおぅッ!?」


 まるで別の生物かのように動くその尾が、ブランスの立っていた場所を粉々に叩き割る。

 かろうじでそれを躱し、ブランスは再び前へと出るが、突如吹き荒れる突風によって押し戻されてしまう。


「ちッ……!」


 ブランスが見上げる先、ヨルムンガンドは上空から彼らを見下ろしていた。

 そうして誰にも邪魔されぬその場所で、彼は冥界の魔力を口へと集中し始める。

 無論、その矛先は――――


「やばい……!」


 ブランスとバルムンクはロードの下へと同時に駆け出す。

 辿り着いた時には、既にヨルムンガンドから膨大な魔力が溢れ出ていた。


「まだなのロード!?」


「もう少しッ……!」


 この剣《つるぎ》を使う魔力は足りている。

 だが、まだ何かが足りない。

 ロードはそれを必死に探していた。


「……俺がなんとかする。お前はロードの前に立ってろ」


 ブランスは2人の前に立ち、その切っ先をヨルムンガンドへと向ける。

 やはり迷いはなく、その勇気は尚燃え上がっていた。


「なんとかって……あれはあんたでもなんとかなるようなもんじゃ……!」


「そいつは誰が決めたんだ? 俺は自分の力を信じてる。今までも……そしてこれからも。それが、俺の魔法だ」


 ブランスはブレない。

 彼の心にはいつだって妹アプルがいる。

 だから引かない、臆さない。

 最高の兄に……そして、この世で一番勇気ある者になる為に。


「全力でいくぜ……!」


「うッ!? ま、まだ上がって……!?」


 迸る魔力がバルムンクの肌を激しく叩いていた。

 湧き上がる勇気がある限り、ブランスの力は決して失われない。

 だが、仮にそれを彼が失った時、その命はこの世から消える。

 それが勇気魔法のリスク。


「おぉぉおッ!」


 死の恐怖は常に彼の隣にあった。

 しかし、彼はいつだってその足を前へと踏み出す。

 だから人は、彼を"箍(たが)無し"と呼ぶのだろう。


『グゥゥゥオォォォォォォォォォオッッ!!』


 そうして今日一番の咆哮とともに、死の塊が解き放たれた。


改稿作業中の為、次回ちょっと短いです。

詳しくは後日の活動報告にてm(_ _)m

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