第237話:一輪
迫るロードに対し、ヨルムンガンドは溢れ出る冥界の魔力を口へと集中させる。
そうして開かれた口は漆黒に染まり、直後彼へと向け、黒炎とは全く違うその息吹が解き放たれた。
それは、全てを飲み込む冥界の魔力を凝縮した一撃。
触れたものの魂を奪い去り躯と化す、絶対が込められた"死"そのもの。
放たれたそれはロードを飲み込まんと瞬く間に広がっていき、彼の視界からヨルムンガンドの姿を奪い去った。
だが、ロードは逃げない。
己が示した道を武具達が導こうとしてくれた以上、ここで躱すことはその道を曲げることになる。
全てをねじ伏せ、闇を超え、ヨルムンガンドと解り合い、そうして辿り着くその未来。
至る道は見えている。
そして、至る為にすべきことも。
絶対の"死"が視界を闇へと塗りつぶす刹那、ロードの左手が握る青い剣が光を放つ。
それはデュランダルの兄弟剣であり、彼とは逆に"形なきものを斬る"という伝説の剣。
その名は――――
「"触れ得る為の青き尊剣"ッ!!」
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ジュワユーズ 尊剣
神が創りし伝説の青き剣。
空気や魔力など、通常の剣では斬れないものを断つ力を持つ。
神剣デュランダルと同じ材質から創られているが、生み出した神が違う為に能力が変わったらしい。
ただし、物質は斬ることが出来ない。
武器ランク:【SS】
能力ランク:【SS】
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輝きを放つ青き尊剣は冥界の闇を引き裂き、再びその瞳に竜王の姿を映し出す。
直後、断たれて左右に広がる黒い魔力を置き去りに、空を駆け抜けたロードの右腕が天へと向けられていた。
その魔銀の義手が握るは黒き神剣――――
「はぁぁぁぁあッ! "断ち斬る為の黒き神剣"ッ!!」
ジュワユーズが断ち切った、冥界が生み出す漆黒の闇。
その間隙を縫うように放たれたデュランダルの一太刀が、ヨルムンガンドの眉間へと刹那叩き込まれた。
『ガッ……!』
硬い竜鱗はいとも容易く断ち斬られ、堅牢な鎧に守られていた竜王の脳天に凄まじい衝撃が走る。
その時生まれた一瞬の硬直。
「今ッ……!」
ここが好機と判断したロードは、瞬時にデュランダルを手放し魔銀の義手を振り上げる。
ジュワユーズが斬り開き、デュランダルが斬り裂いたその突破口。
己が意志を拳に宿し、そしてそれをヨルムンガンドに伝えんと――――
『……ギィィォォォォォオッッ!!』
「うッ!?」
瞬間鼓膜を突き抜ける竜王の咆哮。
まるで直接脳内で鳴き叫ばれたかのようなそれに、ロードの顔が苦悶に歪む。
時間にして1秒にも満たないその一瞬、ヨルムンガンドの身体がロードの視界から露と消えていた。
「ごあッ!?」
直後全身を駆け巡る凄まじい衝撃。
頭上から繰り出された竜王の豪脚が、動きの止まったロードの身体を完全に捉えていた。
その重い一撃に、ロードの意識が飛びかける。
「はっ!?」
地面へと叩き付けられる直前、ほぼ無意識に繰り出したアガートラムの拳によりなんとか激突は避けたものの、受けたダメージに視界が歪み膝が折れる。
ヨルムンガンドはその隙を逃さず、地面に降り立ったと同時に放った尾の一撃が、地面ごとロードの身体を薙ぎ払った。
「う……ぐッ……!」
掠れた視界でそれを捉え、アガートラムでなんとか受け止めたものの、踏ん張りが利かずに後方へと吹き飛ばされる。
「ロード様ッ!」
「ッ!」
レヴィの声に反応したロードは、空中でなんとか体勢を整え、両の足で地面を捉えて着地する。
しかし勢いを殺し切れず、そのまま後方へと地面を削りながら流されるロードの歪んだ視界に、身体を大きく仰け反らせる竜王の姿が映っていた。
彼のすぐ後ろにはレヴィ達がおり、左手に持ったジュワユーズだけでは彼女達を守り切れる保障はない。
「ぐッ! アイギ……!」
「ぬぅぅぇぇいッ!」
『ギッ!?』
女神の絶対防御を発動せんとその名を呼びかけた刹那、アイアンハートの一撃が轟音響かせヨルムンガンドの脚を弾く。
冥界の魔力が口へと集中していたおかげで攻撃は通ったものの、ヨルムンガンドの矛先はバランスを崩しながらも未だロードへと確実に向けられており、開いた口はやはり深い闇に染まっていた。
そうして再び冥界の息吹が――――
「「うぅぅおぉぉりゃぁぁあっぁぁああっぁあああッッ!!!」」
『グッ……ガッ!?』
二つの雄叫びと同時、青い雷光がヨルムンガンドの顔面を穿ち、黒き刃がその胴体へと叩き込まれていた。
顎に蓄えられていた魔力は霧散し、その巨躯が大きく揺れる。
「雷神の槌をッ……!」
「破竜剣をッ……!」
「「舐めるなよッ!!」」
先程の攻撃で折れたのだろう、ミョルニルの左腕はだらりと下がったまま動かず、彼女は右手一本で雷神の槌を振り回す。
バルムンクの受けた傷もまた深く、口角の両端から血の筋が途切れることなく流れ出ていた。
それでも2人は前に出る。
それが、主人の意志に応える唯一の方法なのだと。
「ロードッ! がふッ……わ、私達で時間を稼ぐからッ……あんたはこいつをなんとかする方法をッ!」
「きっひっひっ! 長くはもたねぇ……! 早いとこ頼むよッ!」
「てめぇら少しは下がれ! マジで死ぬぞ馬鹿どもッ! ったく! つー訳だ……任せたぜ大将!」
「みんなッ……!」
ヨルムンガンドはロードを狙うことをやめ、迫る武具達を駆逐せんと再び黒い魔力を身に纏った。
それにより武具達の攻撃は弾かれ、返しの一撃が容赦なくその魂を削っていく。
「ぐッ……ぬぁぁぁぁあッ!」
「そんなもんじゃ折れねぇぞコラァッ!」
だが、何度叩き潰されても武具達はその都度立ち上がり、臆することなくその足を前に出す。
彼女達はただひたすらに信じているのだ。
この絶対的な闇を前にしても、己が主人ならば絶対になんとかしてくれる筈だと。
その想いはロードへと伝わり、彼の心臓が激しく高鳴る。
だが、魔力を打ち消すゲイジャルグも、断ち斬るジュワユーズも完全には通じなかった今、彼には答えが見つからない。
だが、それでも――――
「……うぉぉぉぉぉおッ!」
ロードの身体から溢れ出る魔力は金色に輝き、その全てが魔銀の義手へと叩き込まれる。
それは、自身の闇を振り払った力。
穢れを知らないその美しい魔力は、戦場に咲く一輪の花のように清く輝き、ロードの意志をその場にいた全ての者に一瞬で悟らせる。
"全てを救う"。
それがどんなに幼稚で傲慢なものであったとしても、真なる覚悟を持ったその誓いは、決して愚かなどではない。
語ること、想うことだけならば誰にでも出来る。
重要なのはその意味を理解し、そして成し遂げる為に何を懸けられるかということ。
ロードは全てを懸け、彼の決めた彼の道を歩んでいる。
そこに紛れはなく、ただただひたすらに。
だから届く。
人が奇跡と呼ぶ、その瞬間に。
「ッ!?」
その魔力に呼応するかのように、黒き手帳がひとりでに浮かび上がる。
そうしてロードの胸の前で開かれたそのページから放たれる眩い光が……彼へとこう告げていた。
―――――"我が名を呼べ"と。
「…………ありがとう」
その名前と伝説を彼は知っていた。
最初の大戦で武勇を誇った大英雄ヌァザ。
ロードの右腕となった魔銀の義手をかつてその身に纏い、その剣を振るった大英雄は戦場で一度たりとも敗れることはなく、故に無敗の王と呼ばれた。
ヌァザが握るその剣は常に輝きを放ち、その光は悪しき者を断罪する聖なる光として相対する魔族や竜族を震え上がらせたという。
その名は――――
「クラウ……ソラスッ!」




