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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第5章:それぞれの戦場で

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第202話:先

 

「じゃあ、レヴィも"様"はやめ……」


「お断り致します」


「えぇ……」


「これだけは譲れませんから」


 このやり取りもなんだか懐かしい。

 地下から出たあの時もこんな風だった。

 ……今はこれでいい。


「ずるいなぁ……」


「ふふっ……あ、ロード様、少々お待ちを。ソロモン様!」


 私が声を掛けると、部屋の扉がゆっくりと開き、そこからソロモン様が顔を出す。

 なんだかニヤニヤしている……。

 どうやら聞き耳を立てていたらしい。


「もういいのかい?」


 聞いていたくせに……。


「レヴィ……この人は?」


「あ、はい。この方はソロモン様……ロード様の生命魔法で身体を得た、伝説の武具様のお1人です」


「この人が……」


「……またよろしくな。旦那」


「あ、はい……よろしくお願いします」


「うへぇ……! 旦那に敬語使われるとなんだかムズムズするわ! 頼むから普通にしてくれ!」


 そういえば、私には最初から敬語じゃなかった気がする。

 ……今更だがちょっと嬉しい。


「え、あ、はい……じゃなかった……よ、よろしくな……ソロモン」


「ん、それで頼む。じゃ、レヴィちゃん。次はこいつだね?」


「ええ、ありがとうございます。ソロモン様」


 ソロモン様から黒い手帳を受け取り、私はそれをロード様の前へと差し出す。


「これは……さっき言ってた?」


「そうです。伝説の武具様が納められた手帳……神具"納める者"。通称メル様です。どうぞ」


「あ、うん……って重っ!? 危うく落とすとこ……あれ?」


 む、やはり駄目か……。


「これ、開かないんだけど……」


「どうやら……レヴィちゃんの考えは当たってるみたいだね」


「ええ。今のロード様ならあるいは……とも思いましたが、やはり記憶が戻らない限り……」


 メル様は動けない……その可能性が高いということだ。


「えーっと……どういうこと?」


「今ご説明を」


 私は昨日ソロモン様と話したことをロード様に説明する。

 恐らく、今メル様は力を貸したくても貸せない状況にあり、それはロード様の記憶が戻らない限り……元のようにはいかないだろうと。


「なるほど……」


「まぁ、今は仕方ありません。とりあえず、記憶が戻るまではしまっておきましょう」


 とはいえ、これはかなりまずい状況だ。

 ティタノマキアがロード様を狙っている以上、奴らがいつ仕掛けてきてもおかしくはない。

 伝説の武具様達はロード様の重要な力……それが失われたということは、その分危険が増したということ。

 今はジーク様を始め、強い方々が周りにいるから大丈夫かもしれないが、ロード様をずっとお守りしてもらえる訳でもない。

 それに私も……いや、今はよそう。

 とにかく現状を把握しなければ。

 実は、ロード様の鑑定結果に少し気になることがあった。

 私の杞憂ならよいのだが……。


「次は魔法とスキルを確かめてみましょう。ではこれを」


 私はエディ様からお借りした短剣を手渡す。


「ん、これ……普通の短剣だよね?」


「ええ。どこにでもある普通のものです。ちょっと振ってみてください」


「わ、分かった」


 ロード様は椅子から立ち上がると、重心を下ろし、短剣を逆手に構えた。

 まるでそれが当たり前のように。


「ふッ!」


 ……速い。

 流れるような動作で繰り出された斬撃は、風切り音を上げながら流麗に虚空を切っていく。

 力強く、美しい剣筋だ……思わず見惚れてしまう程に。

 どうやら武芸百般は失われていないらしい。

 となると……。


「うおっ……と!」


「ロード様!」


 突如体勢が崩れ、倒れそうになったロード様をなんとか受け止める。


「あ、ごめん……なんかバランスが……」


「右腕がありませんからね……まだ身体が慣れていないのでしょう」


「そっか……こいつにも慣れなきゃだね」


「……申し訳ありません」


 私の……。


「それ禁止」


「む……」


「言ったろ? 君が無事だったならそれでいいって。今の俺がそう思うってことは、前の俺はもっと強くそう思っていた筈だ。だから落ち込むの禁止」


 この人は本当に……いちいち泣かせにくる。

 でも、ありがたい。

 少し心が楽になった。


「……はい、ロード様。二度と申しません」


「ん、それで……次はどうしたらいいかな?」


「そうですね……武芸百般が残っているのは分かりましたので、次は生命魔法を試してみましょう。魔法の使い方は分かりますか?」


「いや全く……人間が神様から魔法を貰っていたことは知ってる。でも、自分が使っていた記憶はないんだ。だから、どうやったら魔法を使えるのか……」


「なるほど。では、まず魔力の練り方からお教えします。手を前に出してください。手のひらを上に向けて」


「こう?」


「そうです。今ロード様の身体の中には、確かに魔力が存在しています。目を閉じ、それを意識してみてください」


「……あー」


「分かりますか?」


「なんか……暗い世界にキラキラした煙みたいなものが見える」


 これも懐かしい。

 地下でも似たようなことをロード様は仰っていた。

 魔力の感じ方は人によって違いがあり、私の場合は赤い水が渦を巻いているような感じだ。


「それです。それが魔力です。では次に、それを自分の意思で動かしてみましょう」


「動かす……」


「どんな風にでも構いません。大切なのはイメージすることです。当たり前のように動かせると。さ、やってみてください」


「んん……分かった」


 記憶はなくとも身体は覚えている筈だ。

 魔力を練るということに関しては、恐らくそう時間は掛らないだろう。

 問題は……私に"視えて"いるロード様の情報。

 "武芸百般"と"飲まず食わず眠らず"は、以前と同様……変わらずに"視えて"いた。

 しかし、魔法の欄は……。



 ――――――――――――――――――――――



「ぐっ……!」


 やはり駄目か……。

 嫌な予感が当たってしまった。


「……ロード様、今日はここまでに致しましょう。すぐに使えるものでもありませんから」


「そっか……分かった。うーん……途中まではよかったんだけどなぁ……」


 やはり身体が覚えていたのだろう、魔力を練り上げることは問題なく出来ている。

 だが、物質に生命を与えることは出来なかった。

 というより、魔法自体が……。


「最初にしては順調ですよ。後は継続するだけです。ですが、やり過ぎは禁物……続きはまた明日ということで」


「分かった……また明日も見てくれるか?」


「はい、もちろんです。私はロード様のメイド兼魔法の師匠ですから」


「そっか……ありがとう」


「はい……ロード様」


 私はロード様を"視る"。

 最初は気が付かなかったが、やはり間違いない。

 魔法の欄だけどこか薄いのだ。

 存在が希薄になっているというべきか、ロード様との繋がりがないようにすら……。

 記憶とともに魔法にも何かをされたのだろうか?


 寝言の件や言動から察するに、恐らくロード様には記憶が残っている。

 つまり、完全に記憶を奪われたという訳ではないのだろう。

 記憶を封じられている……そんな感じかもしれない。

 その過程で魔法も使えなくなった……だとすると、ソロモン様が今この場にいるのはいったい……。

 考えられるとすれば、そうなる前に存在していたから影響を受けなかった……そんなところだろうか。

 うーん……駄目だ分からない。

 とにかく諦めては駄目だ。

 もしかしたら使えるようになるかもしれないし、今はやれることをやるしかない。


「……レヴィちゃん。誰か来る」


「む……」


 その時、部屋の扉がノックされた。



 ――――――――――――――――――――――



「……俺は手を出すなと言った筈だが」


 オトリス城の一室。

 机の上に1つ置かれたランプが照らすだけのその部屋に、男の低い声が響く。

 その声は、僅かに怒気をはらんでいた。


「たまたま目の前に降ってきたもので……つい」


 女は悪びれる様子もなくクスクスと笑う。

 クロスとアナは同じタイミングで一つため息をつくと、その女をやはり同時に見つめた。


「たまたま……ですか」


「ええ、そうですよアナ様? それに、大したことはしていません。少し弄っただけですから」


「弄った?」


「ふふふ……記憶を少し。ついでに魔法も」


 その言葉に、クロスは眉をひそめる。


「魔法を? そんなことが出来るとは初耳だな」


 クロスはその女が記憶を操れることを知っていた。

 といっても自由自在に操れる訳ではなく、ある程度限定的にということも。

 しかし、魔法云々は聞いていない。


「ふふふ……まぁ、副産物のようなものですわ。魔法はその者の身体に刻まれているのではなく、記憶に刻まれているのです。魔法とは、すなわち神の知識なのですよ。ですから違う魔法を教えられた我々は……かつて"無能"と呼ばれた訳です」


「なるほどな……だが、ロードには仲間がいるだろう?」


「ええ……"生命魔法"という単語は知るでしょう。ですが、魂と記憶の繋がりが断たれた今の状態では……」


「魔法を使えない……か」


「そういうことです。なので普段、私はこの力を使いません。あまり実入りがないですから。それに、私の魔法は生物に対して効果が薄いので、かなり弱っていないと使えませんしね。情報収集ならフェイクの方が何倍も優秀ですし、私がわざわざ使う必要もないので」


「なら、今回それを使った理由はなんだ」


「単純ですよ。その方が都合がよかったからです。騒ぐことなく、自ら歩いてついてきてくれる……こちらに着いたら拘束した後で戻せばいい。そうすれば問題ないでしょう?」


 クロスは再びため息をつく。

 彼女はティタノマキアの中でも上位の存在である。

 今クロスの隣にいるアナは副リーダーという地位にはいるが、その魔法はあまり戦闘向きのものではなく、基本的にクロスの側を離れることはない。

 それに対し、彼女は常に前線に立っていた。

 更に彼女は、ジェイドと並んでクロスに近い力を持つ者。

 それ故に、今回のように暴走することが時折あった。


「なので、今なら比較的簡単に……」


「手を出すな」


 クロスの声は先程より強くなっていた。

 その言葉に彼女は眉をひそめる。


「……何故ですか?」


「今はその時ではない……それだけだ。もう下がれ」


「…………では」


 女が出ていった後、クロスは椅子の背もたれに身体を預ける。


「困ったものです……」


「まぁな……だが、仕方あるまい。ジェイドは復讐という檻の中にいるからまだいいが、あれはそうではない」


「我々とは少々成り立ちが違いますからね。既に成っていたと言うべきでしょうか」


「ああ。しかし、だからこそとも言える」


「確かに……」


「それにしてもロードは……まぁ、今ではない。だが、いずれ……」


 その時はくるだろうと、クロスは分かっていた。

 やがて雌雄を決する……その時が。


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