60 生徒会長救出隊!
固く閉ざされた教会本部の門扉が吹き飛ぶ。
砂埃が晴れると、そこには六人のガストリエ救出隊が並んでいた。
「もうちょっとスマートな潜入はできないものですかね」
「致し方ないでしょ、正面からだと止められちゃったんだから」
彼らは本部に潜入すると、ガストリエのいる塔の最上階を目指した。
生徒会長パティスリエを支える生徒会のメンバー四人、シャルロット、クレープ、シュー、フェーヴ。
ガストリエの執事、ダリオル。
そして、ガストリエの姉、コンフィズリ。
ダリオルを先頭に邪魔する信徒を薙ぎ倒しながら、六人は階段を駆け上がった。
目的は皆同じ、ガストリエ(パティスリエ)のため──。
学園内でゴーフル・ボーテにパティスリエを誘拐された、その後。
お嬢様を守れなかったダリオルは自責の念に駆られるも、すぐにガストリエ救出へと動こうとした。
そこへ、ガストリエの気配が絶ったことを察知したコンフィズリが爆速で駆けつけ、一人で救出に向かおうとしていたダリオルは思い止まる。
ダリオルはコンフィズリに事情を説明し、学園でパティスリエを支えていた生徒会メンバーにも協力を仰いだ。
全員、二つ返事で了承した。こうしてガストリエ救出隊が結成された。
「ガストリエ・ノワール、侯爵令嬢ですか……。え、私だけですか!? あの人の素性を知らなかったのは」
「そうだよ」
「お前信頼されてなかったんじゃねーの」
「なっ……! ……いえ、構いません。パティスリエだろうがガストリエだろうが、私はあの人を信頼していますので」
クレープは泣きそうになるのを耐え、階段を強く踏み締めた。
一応教師として生徒の口喧嘩を宥めるべきか見守っていたダリオルは、杞憂に済んだことに生徒の成長を感じほくそ笑んだ。先生が板についてきた。
「にしても、そっか。コンフィズリ先生もガストリエもどっちもノワールで、姉妹だったのか」
「素性を知った上で気づかないとは、なんとも勘の悪い人ですね」
「はあ? 俺以外にも気づいてないやついたはずだって。なあ」
「シューを超える鈍さはなかなか見ないけどね……。まだプロフィトロールのことも気づいてないみたいだし」
「……罪な男」
「フェーヴまで……。一体なんの話だよ、今はプロフィトロール関係ないだろ」
鈍感なシューに呆れる生徒会の面々。
その様子を殿から眺めていたコンフィズリは、微笑ましく思った。
病弱で外出すらままならなかったはずの妹ガストリエに、今やこんなにも楽しい友達ができたことを。
「ダリオル先生がパティ……、ガストリエの執事だったのも驚きました」
「あの自由奔放なパティスリエの執事が務まるなんて、ほんとマジですげーんだよな、ダリオル先せ……」
「──止まってください」
先頭のダリオルは部屋に出た。後続も次第に追いついてくる。
開けたその部屋には、すでに権者の一人が待ち構えていた。
「…………師匠……?」
「おお、ダリオルか。元気してたか」
ダリオルはそこに、かつての師匠の“色”を見た。
千の名を持つ殺し屋、ニュール。ダリオルの殺し屋の師匠であり、ダリオルに生きる術を教えた恩人である。
色だけではない。声も、気配も、独特なにおいも、すべてがダリオルの記憶を呼び覚ます思い出の鍵となった。
しかし、それはあり得なかった。
「……皆さん、ここは私が引き受けます。先に進んでください」
「で、でも先生! 俺だって戦えます、人数が多い方が有利なはず……」
「シュー。相手が悪すぎる、あなたを守りながら戦う余裕はなさそうだ」
その言葉で、シューはダリオルの意図を汲んだ。
速やかにガストリエを救出することこそが、何よりも最優先なのだと。
五人が部屋を抜けていくのを大人しく見送ると、ダリオルの心を乱すその相手は懐かしい顔で笑った。
「サシでやり合うのは特訓してた頃以来だな。にしても大きくなったな〜、見違えたぞ」
「……あなたは、私がこの手で殺したはずだ」
「おいおいダリオル! お前は相変わらず何も見えてないんだな〜」
「何……?」
「俺は千の名を持つ殺し屋だ。……ニュールは、そのうちの“一つ”でしかないんだ」
それを聞いて、ダリオルの複雑な心境は解きほぐされていった。
懐から、師匠譲りのナイフを取り出し逆手に構える。
「殺す前に訊いておきます、あなたの名前は?」
「そうだな、『Null』とでも呼んでくれ!」
ダリオルと別れ、五人は先へ進む。
再び開けた部屋に出ると、同様に権者が一人待ち受けていた。
睨み合いながら部屋の中心に立つ老人の出方を見る。
すると、老人は床に魔法陣を浮かび上がらせ、短い詠唱の魔法を部屋全体に唱えようとする。
「……間に合った」
フェーヴの日傘が老人の頭上に咲き、すんでのところで詠唱を止めることができた。
もし魔法が発動していたらどうなっていたか。五人は震えた。
「行って。わたしがこの人を止める」
「ありがとうフェーヴちゃん! 気をつけてね!」
四人が行った後、日傘の陰で固まっていた老人が徐ろに動き出す。
日傘がぽとりと床に転がった。
「私はタタン。それが私を表す名前です」
「……わたしはフェーヴ」
「あなた、嘘つきだ。王族ともあろう人が嘘をついてはいけませんねぇ」
タタンが魔法を唱えると、魔法陣の外枠を囲むように連なった鏡が下から伸びてきた。
フェーヴは表情を変えず冷静に、部屋を取り囲む鏡を見回した。
そこに映っていたのは、ガレット・デ・ロワの姿だった。
タタンと相対するガレットは剣を抜き取り、すぐさまタタンの胸を貫いた。
しかし、それは鏡だった。割れた鏡像がにやにやと笑い崩れ落ちる。
「それが、あなたの真実なのですね!」
「……ああ、そうだ」
「そうか、そうか……。先程のあの少女は何者なのか興味がありますね! さらに深掘りしてみましょうか!」
「あれはフェーヴ、私の妹だ」
「嘘つきですねぇ!」
タタンは鏡の中を反射しながら移動し続けた。
取り囲んでいた鏡はその間隔を狭め、徐々にガレットに近づいてくる。
そこに反射する姿は、やはりガレットでしかなかった。
ガレットは深く目を閉じ、息を吐いた。
「妹は…………フェーヴは、死んだ」
身体を一回転させ剣を振るい、周囲の鏡が同時に割れた。
飛び散る破片の中で、タタンは興味深そうにガレットを舐め回す。
「死んだ妹の魂を取り込んだのですか! これが王子の姿か!? なんと悍ましいことをしてくれたのでしょう……!」
鏡が崩れた室内で、タタンは光を反射しながらガレットの背後に迫った。
その時、日傘が咲いた。
ガレットを仕留める、あと僅か数センチのところで、タタンは日傘に取り込まれた。
「妹は死んだ。だが私の中で生きている。……それだけで十分だ」
「嘘、だ……! 何故、妹の、力を…………こんなの、真実じゃ、ない……」
「何が正しいのか、決めるのは貴様ではない」
日傘の陰に捕らえられたタタンを、ガレットは突き刺した。
タタンからは無限とも思える量の血が溢れ出した。それは明らかに人間一人分の血液ではなかった。
冷たいガレットの視線に見守られながら、タタンは最後の最後まで動くことを許されず血を垂れ流し、死へと向かい続けた。
次の階層に辿り着いた瞬間、シューは剣を抜き、飛んできたナイフを弾いた。
待ち受けていた権者はパートシュクレと名乗り、ぽりぽりと頭を掻いている。
「女は嫌いだ……。お前らも、ガストリエとかいう新入りも……」
「ガストリエ……! ここにいるのね、無事なの?!」
「……知りたければ私を倒していけ。もっとも、勝てたらの話、だが」
パートシュクレは両手に剣を持ち、誰も通さない威圧感で立ち塞がっている。
腰に差した四本の鞘がガチャガチャと音を立てる。
女性陣が魔法で吹き飛ばそうするも老人は平然としていた。俊速の剣が魔法を斬り、その軌跡を残している。
「ようやく俺の出番みたいだな……」
少し恐怖の入り混じった声で前に出るシュー。
そんなシューの肩を、クレープは叩いた。
お互い身分も価値観も異なる二人、口を開けば喧嘩になる二人。
その二人は言葉を交わさず、目線で意思を交わした。
コンフィズリが目眩しに光を放ち、その隙に部屋を抜けようとする。
止めようとするパートシュクレの前に、シューが立ち塞がった。
「俺は剣一本しかないけど……相手してくれるよな……?」
「……はあ、三人も通してしまった。早く貴様を殺して追いかけねば……」
パートシュクレはだるそうにぼやき、シューに斬りかかる。
双剣が息つく暇もなく襲いくるが、シューはダリオルとの特訓を思い出し、剣撃を華麗に捌き続けた。
「先生の方がよっぽど速かったぜ!」
隙を突いたシューの剣がパートシュクレを貫く。
シューは確かに手応えを感じた。
しかし、頭に穴を開けた老人は間合いに入ったシュー目掛けて剣を振るった。
「ぐっ……! 化け物かよ……」
咄嗟に離れたシューだが、二対の剣を喰らってしまう。
スキル【治癒】で傷を治そうとするシューに、さらに追撃が加わる。
身を捩って転がり、なんとか回避したシュー。
パートシュクレの剣は、それぞれ炎と氷を纏っていた。
「魔法剣……は、狡いだろ……」
シューは勝ちを捨て、この老人をここでなるべく足止めすることにした。
頭に穴を穿ち大量の血を垂れ流してなお擦り傷かのように立ち続けるパートシュクレに、シューは勝機を見出せなかった。
きっと誰かがパティスリエの元に辿り着いてくれるはず。そう信じて、長期戦にもつれ込ませようとする。
だが、容易に時間稼ぎできるような相手でもなかった。
震える剣を握りしめたシュー。
そこに、聞き慣れた鳴き声が聞こえてきた。
「にゃーん」
「……プロフィトロール!?」
シューの影から飛び出した黒猫が、シューの肩にへばりつく。
何が起きたか理解できないシューに、待ったなしに斬りかかるパートシュクレ。
避けきれない、シューはそう判断した。
だが、シューの体が浮くと、ふわりと後方一回転しながら鮮やかに敵の剣を躱していた。
「なんだ、今の……お前がやったのか、プロフィトロール……?」
「にゃーん」
シューは体内に熱が湧き上がり、身体が軽くなるのを感じた。
これなら戦える! 黒猫は少年に勇気をくれた。
そんなシューの様子を見ていたパートシュクレは、面倒そうに剣を持ちながら頭を掻き、靴を脱ぎ捨てた。
そして、新たな“手”で剣を抜き、四刀流の構えに出た。
「はあ!? なんで足が手みたいな形に……いや、手なのか、それ!?」
「人の体を愚弄するとは、さては差別主義者だな? 許されないなあ、斬ってやる……!」
炎、氷、風、雷の魔法を纏った剣が、縦横無尽に振り回される。
シューは肩に乗った黒猫を守るように後退り、攻撃の隙を伺った。
今だ! シューは踏み込むと、一気にパートシュクレの真上に舞い上がった。
剣先を脳天に定める。
「自由の効かない空中を取るとは、愚かだな。死ねぇ!」
パートシュクレの四剣がシューを狙って突き上がってくる。
シューはなんとか躱そうと、脚をもがいた。
すると足が空気に触れ、宙を蹴っていた。シューは頭を下に、ふわりと浮いたまま、敵の背後を取っていた。
剣を構える。
「しまっ──!」
「にゃーん!」
プロフィトロールの魔力を込めた剣が、パートシュクレの胸を突き刺す。
赤く燃え上がる剣は不死身の肉を断ち切った。
「火よ強く!!」
火は老体を覆い尽くし、断末魔を残してパートシュクレは跡形もなく消え去った。
ふわりと着地したシューは敵が死んだことを確認し、その場に倒れ込んだ。
この一戦で持てる力を全部出し切った。もう動けそうにない。
仰向けで天井を見上げるシューに、黒猫が寄り添う。
「頑張ったね、シュー……。あなたが夢を叶えるところ、遠くから見守ってるよ」
シューの目の前に、人型のプロフィトロールが現れた。
いや、違う。シューは即座に否定する。
この人は……。
「母……さん……?」
「シュー…………愛してるよ……!」
光に包まれる。シューは眩しくて目を閉じた。
次に目を開けた時、母の姿は消え、そこにいたのは一匹の黒猫だけだった。
猫は呑気に欠伸をして、シューの傍でくつろいでる。
黒猫にはもう、魔力は残っていなかった。人の姿になることはない、ただの猫。
昼も、夜も、これからずっと。その猫は猫であり続ける。
どこか喪失感を味わった少年は、なんとなく、黒猫を撫でた。
階段を昇る一向。
下から聞こえてくる激しい戦闘音が徒に気持ちを逸らせる。
「きゃっ!」
「大丈夫ですか、シャルロット様!?」
段差に躓いたシャルロットをクレープが労った。
ここまでかなりの高さを駆け上がってきた。疲労はとっくにピークに達している。
シャルロットに手を貸すクレープを、コンフィズリは離れて見守っていた。
次の階層に到達すると、またもや権者が居座っていた。
「我が名はオフレーズなり。なんと、三人も通したのか。他の権者は何をやっているのやら」
「……私が戦う。コンフィズリ先生とクレープちゃんは先へ」
「ですが……」
「恥ずかしい話、もう足が限界なの、あはは。ガストリエのためとか言って、ほんとダメダメね……私って」
「シャルロット様……」
「二人とも、ガストリエをお願いね」
オフレーズは上階への階段に向かう二人を阻止しようか考えたが、諦めて通すことにした。
一人でも足止めできたなら仕事としては満足だと、すでに達成感に満ちている。
「あとはウーヴリがなんとかしてくれるだろう。それまで私は、あなたと遊んであげようか」
「っ! な、何……!?」
シャルロットの足元から植物が生え、急速に成長し、花を咲かせた。
開いた花弁から泡が浮かび、シャルロットを囲む。
「それは記憶、あなたの心だ」
「心……」
「よーく見てご覧、醜い自分が鮮明に映っているから」
泡一つひとつに、シャルロットの歴史が刻まれていた。
勉強も習い事もダメダメで、公爵令嬢を名乗ることすら烏滸がましい小さな少女。
親に失望され、周囲に見放され、近い歳の貴族の子供に憧れ、嫉妬し、それでもどうにもならなくて、公爵家の肩書きが嫌になって脱ぎ捨てたかった。そんな惨めな人生が順を追って描かれている。
一際大きな泡には、彼女の心を救ったガストリエが浮かんでいた。
しかし、魅力的なガストリエの周りには同じように魅力的な人間が集まり、互いに高め合って彼ら彼女らはシャルロットを置いて成長していく。
シャルロットは、そんなガストリエたちの隣に居座り続ける自分の姿を見て、依存するだけでなんの役にも立たない自分に強い劣等感を抱いた。
最後に生まれた黒い泡は、今のシャルロットをよく表していた。
黒の泡が囁く。
私なんて、ガストリエから施してもらうだけの卑しい人間……。
私なんかがガストリエのためにできることなんて何一つない……。
私はガストリエにとって無価値で不必要で、どうでもいい存在なのよ……。
「いや、やめて……いやぁ!」
「自分と見つめ合うのは辛いことだ。特に、あなたのような生きている価値のない人間にはね……!」
「私は……わ、私は……なんの、ために…………」
「風よ強く!」
瞬間、部屋の中央で突風が巻き起こり、浮かんでいた泡は淡く弾けていった。
シャルロットが俯いていた顔を上げると、階段の方にクレープの姿が見えた。
「クレープ、ちゃん……?」
「……まったく、どうしてシャルロット様は自分に自信を持ってくれないんですか!」
一人戻ってきたクレープは、勢いのままシャルロットを抱きしめる。
「クレープちゃん、なんで……」
「私も足が痛いのを思い出したのでここに残ります。やれやれ、生徒会の要である我々が、二人揃って情けないですね」
オフレーズは、思わぬ収穫に笑顔を作った。
二人も足止めできたなら、仕事としては大成功で勲章ものだった。
クレープの足元にも泡を吐く植物が生えた。シャルロットの叫ぶ声よりも早く、クレープは魔法で植物を焼き払った。
だが、魔法を浴びた草は一層成長し、一瞬のうちにクレープの小柄な体に纏わりつく。
「クレープちゃん!」
蔓の巻きついたクレープの全身至る所に花が咲いた。
花弁の泡がふわふわと浮かび上がる。
侯爵家に生まれ、厳格な両親に躾けられたクレープは、貴族であるという強い自負を持って育ってきた。
貴族として恥ずかしくないよう勉学や芸事に励み、胸を張って誇れるような人であろうとした。
だがいつからか、努力の裏に傲慢さが芽生え始めていた。
身分ですべてが決まるこの社会では、生まれた家で勝ち負けが決定される。
クレープの生まれは侯爵家。身分は高いが、上の身分の人間には逆らえない。
しかし社交界に参加するようになってから、周りの貴族たちを見てクレープは思った。
侯爵である私より身分的には上なのに、どうです? 私より白痴で愚鈍な人間ばかりじゃないですか。
大人も子どもも関係なく、皆、貴族の身分に甘えて胡座をかいている。ただ生まれた家が良かっただけで何を偉ぶっているのやら。
クレープは他の貴族を見下すようになり、一方でそういった身分に笠を着るだけの貴族たちを反面教師に自分はますます努力を重ね、自尊心だけを高めていった。
そんなある日。家同士の繋がりでアムール家に招かれたクレープは、そこでシャルロットと出会った。
最初は当然、見下した。なんとまあ頭の弱いお嬢様なのだろうか、と。
喋るどころか同じ空間にいることさえ嫌気が差したが、貴族の令嬢として、家の繋がりを疎かにすることはできなかった。
クレープは嫌々ながらシャルロットと仲良くするふりをしていた。だが、お人形遊びをしている時のシャルロットの何気ない一言がクレープの人生を変えた。
まあ、クレープちゃん。おべんきょういっぱいできてすごいわ! よしよししてあげます、よしよし。
その日家に帰り、真っ暗な自室のベッドに入ってから、クレープは溺れるくらいに涙をこぼした。
初めてだった。自分の努力を誉めてくれた人は。
努力。それは高貴なる者の勤めであり、貴族として当然だと思っていた。だがそれをしっかり認識され、賞賛してもらえたことが何よりうれしかった。
そして初めて頭を撫でられて知った。人の手がこんなに温かいものだということを。
泡がどんどん吐き出され、クレープを包む。
シャルロットに誉めてもらいたくてより一層努力を重ね、その結果、シャルロットの心を閉ざしてしまい絶望に暮れる幼少のクレープが、泡の中で号泣していた。
シャルロットを追って入った学園。不安だらけの中話しかけてくれたパティスリエが人生初の友達になり、うれしくてその日の夜ずっと侍女に初めてのパティスリエの話をするクレープもいた。
図書室で、愛の告白をするクレープの姿も……。
恥ずかしくなって、クレープは体を悶えさせ泡を吹き飛ばした。
「失礼ですよ、勝手に人の人生を覗き見るなんて」
「これが私の趣味でして。さあここからが本番、もっと悪意を足していこう! 自分に絶望し、死にたくなるくらいにドロドロの自分を見せてあげる……!」
気味の悪い笑顔を浮かべるオフレーズを無視し、シャルロットはクレープに作戦を伝える。
それはシャルロットらしい、とても単純で、大胆な方法だった。
クレープは頷くと、これまで勉強してきた魔法学を振り返り、呪文を伝えた。シャルロットは大声で魔法を唱える。
「来て、ドラちゃん──!!」
室内に閃光が弾け、巨大なドラゴンが天井を突き破り召喚された。
学園地下深くに眠っていたドラゴンは、突然呼び出された見知らぬ部屋をゆっくり眺め、抱きついてきたシャルロットに頬ずりする。
いつの間にか植物も泡も消え去り、オフレーズはドラゴンに踏まれ痙攣していた。
「私にできることは少ないけれど、だからこそ、できることに自信を持って生きてくよ。ガストリエとかクレープちゃんみたいに、自分に自信を持てるように!」
「シャルロット様……! はい、応援しております! ……ところでこのドラゴン、どうやって戻すつもりですか」
「あっ」
シャルロットは誤魔化すようにドラゴンを撫で始めた。
その様子を見てクレープは破顔する。
ドラゴンで通行止めとなり、ここから上階へ向かうことはできない。
あとはすべて、コンフィズリに託すことになった。
教会の最上階。
待ち構えていたのはこの国で最高権力である教皇ウーヴリ、そして新たな権者ガストリエ。
「ここまで辿り着いたのは聖女一人か。しかも、またノワールの人間とはな! なんたる偶然か、いや宿命か?」
「……なんの話か知りませんが、ようやくです」
コンフィズリは息を切らしながら、ウーヴリの傍に付き従うガストリエを見据えた。
ここまで我慢してきた感情を一気に爆発させる。
「ガストリエ! 会いに来たよ……!」




