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病弱令嬢のスキルクラフト!  作者: 鏡石渚
第1章

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6 屋敷の上空で愛を叫ぶ

「なにこれ……こわい……! 助けて…………」

「シャルロットちゃん!」


 周囲の反応から察するに、シャルロットちゃんは緊張からか魔力暴走を起こした模様。

 わたしはシャルロットちゃんを助けるため咄嗟に屋敷に入り、階段を駆け上がる。

 最近は体力作りに励んでいるとはいえ、すぐに息が上がった。それでも足を止めることなく二階のベランダへと出る。

 欄干に登り、【スキスキップ】で彼女のとこまで届くか目算する。しかし、さっき見た時よりもシャルロットちゃんは高く浮いていた。

 いや違う。浮いているんじゃなく、浮き続けて(・・・・・)いるんだ……!


 魔力が強すぎるのか、留まることなく空へと上昇している。どこまで行くかもわからず、このまま落下しないとも限らない。

 わたしは深呼吸をして息を整え、覚悟を決める。


「ダリオル」

「……お呼びでしょうか、お嬢様」

「シャルロットちゃんを助ける。スキルで空中移動できるから、ダリオルは私をとにかく高く飛ばして」

「危険です、お嬢様。それに世間的に貴方はスキルを持っていないと思われている。これだけの衆人環視でスキルを使えばよくない噂が立つかもしれません」

「じゃあ誰がシャルロットちゃんを助けてくれるの? みんなただ空を見上げるだけで何もできない。私しか、助けられない……!」

「落ち着いてください。今の彼女は魔力暴走を起こしているだけで、魔力が尽きれば自ずと落下してきます。そうしたら我々の魔法で救助を──」

「シャルロットちゃんは怖がってる! だから今すぐ助けに行く! いいでしょ?!」


 わたしの圧に屈したのか、溜め息を吐いたダリオルはわたしを担いで魔力を込め始めた。


「お嬢様はまず自分の心配をしてください」

「大丈夫! 危なくなったらダリオルが助けてくれるでしょ?」

「全く……。無鉄砲なお方だ」


 ダリオルは魔法を唱えながら、膂力でわたしを上向きに打ち上げた。

 一気に高度を伸ばし、気圧の変化で耳がキーンとなった。地面から離れるほどに不安が募る。

 それでも! この世界で初めて友達になってくれたシャルロットちゃんを……助けたい!

 上昇が止まると、わたしは【スキスキップ】で空中に立つ。地面から離れた状態で使うのは初めてだったが、しっかり発動してくれた。流石おじじパワー。

 前後左右、上下すら見失ってしまいそうな空間でシャルロットちゃんを探していると、ちょうどわたしと同じくらいの高度に浮かんでいた。


「シャルロットちゃん! 魔力操作できる!?」

「だめ……! 怖くて、うまくいかないの……」

「オッケー。今行くから待っててね……!」


 涙を地上に落とすシャルロットちゃん。よく見ると、青い鳥がパタパタと羽ばたき、彼女を下ろそうと頑張っている。

 わたしは空を歩き、シャルロットちゃんへと近づいていく。

 このスキルは、宙に作った空気の板に乗り、下から風で押し上げることで空中歩行を実現している。

 試行錯誤の末、両手両足で支えることで体重を分散し、安定感を得ることができた研究の賜物である。

 思っていたより不恰好なスキルだ。本当は翼が生えたりジェット噴射で飛びたかったけど、当初の目的は達成してるので文句はない。

 ただ問題点がある。このスキルには、綱渡りのようなバランス感覚を要求されること。そして──。


「シャルロットちゃん! 手を伸ばして!」

「ああ……! ガストリエ……!!」


 互いに伸ばした手は指先に触れることなく空を切る。シャルロットちゃんはさらに上昇を続ける。

 わたしは為す術なく、空中で立ち尽くすしかできなかった。


 【スキスキップ】のもう一つの問題。それは平行移動(・・・・)しかできないこと……!

 スキル化する前──魔法として空を飛んだ時は、板の下から押し上げる風力を調節することでわたし自身も昇降できていた。しかしスキルにした途端、魔力による調整を受け付けなくなったのだ。

 この辺はスキルのシステム的問題だと結論付けた。

 スキルというのはパソコンのF(ファンクション)キーのようなもので、スキル発動後は予め設定しておいた効果を発揮する。ショートカットと自動化という点では便利だが、それ故に融通の利かない部分もある。

 この難解なシステム、説明なしでもわたしなら理解できるとおじじは踏んでいたらしい。スキルだと微調整はできないが、魔力操作なしで安定して飛ぶことができるのは求めていた素晴らしい効果だ。


 わたしが呆然としている間にも、頭上のシャルロットちゃんはますます高度を上げ続ける。恐怖に満ちた目が高い空からわたしを見下ろす。

 わたしはこれ以上、高度を上げられない。一体、どうすれば……。


 ふと、おじじの言葉が呼び起こされた。

 スキルとは、「できることができる」もの……。

 だったら、「できない」を「できる」にすれば、なんだってできる……!

 試しにわたしは右足だけ(・・・・)スキルを解除してみる。そして右足を空中に持ち上げ、スキルを再発動。新たな板を出現させた。

 同じ要領で左足、右手、左手と続けていくと、壁をよじ登るように上昇することができた。三点支持の要領だ、前世でやっていたクライミングの経験がまさかこんな上空で活かされるとは。


 【スキスキップ】の元になった魔法は、手だけでなく足からも放出することで成り立っている。足で魔法を操るのは苦労したがベッドで寝転びながらみっちり練習した。

 両手両足完全独立型の空飛ぶ魔法のスキル、それが【スキスキップ】だ。順番に手と足のスキルをオンオフするくらい容易い。

 シャルロットちゃんは上昇を続ける。わたしはスキルでクモのように空をよじ登り、その距離を詰めていく。


「が、ガストリエ……! あとちょっと……!」

「くっ…………届け──!」


 手を伸ばすがまたも届かず。あと一歩、あと一歩なんだ……!

 最後の力を振り絞れ……全身全霊で駆け上がれ……。魂を、解放しろ──!

 ……前世では、好きだった作品を「子どもっぽい」とバカにされたのがトラウマだった。他人にどう思われるかばかり気にし、自分の好きなことも言えずひた隠しにしてきた。

 好きなものを訊かれたら嘘を吐き、心に蓋をする。そんな臆病な人生……。

 ──でも! わたしは転生し、生まれ変わった! もう自分に嘘はつかない!

 今のわたしなら! 心の内を、思いっきり叫べる!!


「好きだーーーーー!! シャルロットーーーーー!!」

「えっ……」

「わたしに掴まれーーーーー!!」


 必死に伸ばした手はついに彼女に触れた。互いの指が触れ、絡み合う。そのまま引き寄せると、シャルロットはわたしの胸にすっぽり収まった。

 離れてしまわないよう力強く抱き締める。


「大丈夫……。わたしが絶対守るから……!」

「ほぇ……!?」


 ノワール邸、はるか上空。二人の令嬢が赤と白のドレスを靡かせ、熱い抱擁を交わす。シャルロットの帽子が風に煽られひらひらと舞い落ちた。

 さて……。勢いのままここまで来たはいいが、これからどうしたものか……。

 魔法を解除できそうか訊こうとシャルロットの顔を覗くと、シャルロットは幸せそうな顔で鼻血を流し気絶していた。

 しっかりしてシャルロット……!? くっ、これが魔力欠乏の症状なのか……!


 シャルロットの魔力暴走が収まったことで、わたしたちは急速に落下を始めた。やばいやばいやばい……!

 わたしの【スキスキップ】では二人分を支えるなんて到底できない。魔法を使おうにも、長時間のスキル使用でかなり魔力を使ってしまっていた。

 地上からの声が聞こえる高度まで落ちてきた。やばい、これもうダリオルですらどうにもならない落下エネルギーなのでは!?

 ガストリエちゃんには傷ついてほしくない……! でも、シャルロットのことも守りたい……!

 しかし今のわたしにできるのは、ただシャルロットの細い身体を抱き締めることだけだった。


炎よ昇れ(ファイア・アップ)……!」


 ふわりと浮き上がる感覚とともに穏やかな熱が全身を覆う。意識を取り戻したシャルロットが魔法を唱えてくれた……のか。

 わたしたちは落下速度を緩め、ふわふわと舞い降りていく。どこからか「女神様……!」なんて声も聞こえてくる。

 そして、地上にいた大人たちの魔法でゆっくりと着地し、わたしとシャルロットは無事帰還することができた。

 まだ足元がおぼつかずにいると、お母様がヒールを脱ぎ捨て駆け寄ってきた。


「ガストリエ! もう、あなたって子は……!」

「すみませんお母様。ご心配をおかけしてしまい……」

「本当よ! みんなあなたを大事に思っているの。もう危ないことはしないで、わかった? ……はあ、二人とも無事でよかったわ……」


 泣きじゃくるお母様を押しのけ、ミルフィーユ様が抱きついてきた。


「シャルロットちゃん〜! ガストリエちゃんも! お怪我はない? あら、鼻血が出ているわ! ジャンブレット! 早く治療して!」

「シャルロット様。治療しますのでその方からお離れになってください」

「……シャルロット?」


 わたしは既に手を離しているのだが、シャルロットはわたしに抱きついて離れなかった。余程怖かったのだろう。

 侍女によって引き剥がされたシャルロットは寂しそうにこちらを見ていた。


「ごめんね……シャルロット。助けるとか言ってかっこつけたくせに、結局わたしが助けられちゃった。ありがとね」

「え、あ……! わ、わわ、私こそ! あ、あり──」


 かわいい彼女の言葉を聞き終わるよりも先に、わたしの視界がぼやけてくる。

 意識がぼんやりとする……この感覚はあれだ……。

 また……魔力欠乏…………。


 今日は無茶をしすぎた。誰も怪我しなかったのはよかったけど、これだけ魔力を使えば倒れて当然だ。

 それでも次に目を覚ました時には、ふかふかなベッドの上で、心配してくれるみんながいて……それで、またいつもの日常が始まるんだ。

 ……そう、思っていた。

 丸一日すやすやと眠っている間に、わたしを取り巻く環境が一変しているなんてついぞ知らずに。

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