45 生徒会長選挙②
生徒会長選挙が始まりました。
私はガストリエの愛人であり、選挙補佐です。彼女を勝たせるためならどんな手も尽くしましょう。
……と、意気込んではみたものの、私にできることといえばガストリエの傍にいることだけ。
邪魔だけはしないよう、大人しくしているだけ。
シューはガストリエを支え信頼し合っています。
クレープちゃんはその頭脳で策を練ってくれます。
黒猫さんは何もしてないけど、いるだけでみんなに好かれています。
では、私は……?
「ジャンブレッド。私にできることはないかしら?」
「シャルロット様は公爵令嬢ですので、身分を盾にぶん殴ればよろしいかと」
「それではカヌレたちと同じよ。はぁ、私に何ができるのかしら」
「大丈夫ですよ。貴方様にしかできないことがきっとあるはずです」
「そうだといいのだけれど……」
結局、力になれることも見つからず、翌日を迎えました。
私の仕事は誰にでもできるような補助ばかり。
ガストリエの傍にいたい。けれど、私にその資格はあるの……?
「おかしいですね……。現生徒会側が何も動きを見せません」
「けっ、何もしなくても勝てるって調子乗ってんじゃねーのか」
「実際そうだろうね。だったらわたしたちはその間に、いっぱい演説させてもらおう!」
選挙運動の方針について皆さんで話し合っていると、黒猫さんが言いました。
「生徒会長たちは不夜城で何か企んでるみたいだよ」
「ほんと?」
私たちが把握していない情報を、黒猫さんは知っているみたいでした。
きっと猫だからどんな所にも行けて、いろんな人から話を聞けるのでしょう。
「カヌレは何をするつもりなのかしら」
「……あなた、わたしの言葉がわかるの?」
「ええ。ちょっとね」
「そう……! じゃあ、あなたにいろいろ頼んじゃおうかな」
私と黒猫さんが話しているのを、ガストリエたちは不思議そうに見ていました。
「さっきからなに一人で喋ってんだ」
「えっ」
「シャルロットはどう思う? クレープちゃんの考えた馬車演説作戦!」
「いえ、私の案ではありませんが……」
「う、うん。いいと思う」
ガストリエが選んだ選挙補佐のうち、一人だけ知らない子がいました。
その子が黒猫さんことプロフィトロールちゃんだったのです。
なんで猫さんが選挙補佐? と思っていましたが、合点がいきました。
黒猫さんの正体はガストリエだけ知っているそうで、他の子には内緒にしてほしいと言われ、私は小さな猫の手と約束しました。
彼女から聞く話によると、この選挙では私たち以外にもたくさんの人が協力してくれているそうです。
どうやら皆さん、かつてガストリエに救われ、ガストリエの慈愛に感服し、婚姻の機会を狙っている様子。
彼女の人気なら存じているつもりではありましたが、まさかここまでとは……。
それでも、ガストリエを慕う気持ちなら誰にも負けない!
この選挙で、私こそガストリエの傍にいるに相応しいと証明してみせます!
選挙三日目のこと。
私が廊下を歩いていると、向こうから素敵なドレスのご令嬢がご機嫌な足取りでやってきました。
「あら、これはこれはシャルロットじゃない」
「えっと、あなたは……」
「フィナンシェ・シュシュ。去年同じクラスだったでしょ!」
「ああ、フィナンシェちゃん!」
そうそう、生徒会のフィナンシェちゃん。
私はすぐ学校来なくなったから同じクラスだった期間は一月もなかったけれど、私のこと覚えてくれていたのね。
彼女はいつも煌びやかで、誰よりもお嬢様らしい人です。苦手だけれど、少し憧れます。
しかし、黒猫さんから「イルとフィナンシェには気をつけて」と忠告されていたので、注意しながら探りを入れてみました。
「生徒会の皆さんは裏で行動されているみたいだけれど、フィナンシェちゃんは?」
「ふん、気づいてたのね。まあ選挙運動とでも言っておきましょうか」
そう言うと、フィナンシェちゃんは私を指差して宣言しました。
私は思わずビクッとしてしまいます。
「同じ公爵令嬢としてどちらが優れているのか見せてあげるわ、シャルロット!」
なんの話かよくわからず聞き返そうとしましたが、取りつく島もなくフィナンシェちゃんは足早に去ってしまいます。
彼女が何をしていたのかは、すぐ明らかになるのでした。
この日、学園内で平民による暴動が起き、貴族が襲われたそうです。
ガストリエたちが対応に追われる中、私とクレープちゃんは今後の準備を進めていました。
「これまで順調だったのに、ここで躓いてしまうとは……。平民たちも何故こんなことを……」
「……フィナンシェちゃんかもしれない」
「フィナンシェ様?」
「思い出したの。あの子、人の上に立って扱うのがとっても上手だったわ。暴動もフィナンシェちゃんが扇動したのかも」
「規約違反、ではありませんか。それに証拠がなければ追及もできませんし……」
プロフィトロールちゃんが金銭を配るフィナンシェちゃんを目撃していました。しかし猫が見ていた、と証言しても信じてはもらえません。
人の上に立つのが得意な彼女が、何故カヌレの下についたのかは不明ですが、生徒会にとって強力な補佐であることは確かでした。
選挙五日目。
今夜生徒会が不夜城で音楽会を開き、オペラちゃんを出演させることを発表しました。
オペラ・トーララは貴族の間ではかなりの有名人。
彼女の歌を聴けば、明日のパーティを待たず貴族票固めは揺るぎないものとなるでしょう。
私とクレープちゃんだけは、事の深刻さを理解していました。
ガストリエたちに訴え、生徒会への対抗策を絞り出そうとしますがどうにもなりません。
すると、プロフィトロールちゃんが私に囁きました。
私は黒猫さんの言うことを信じて準備を進めるのでした。
その夜。言われた通り校庭に人を集め、プディングちゃんを攫い、校舎屋上にまでやってきました。
待っていたのは人の姿をしたプロフィトロールちゃん。
彼女は鉄の塊のようなものを天高く蹴り上げ、プディングちゃんに抱きついてスキルを使うよう脅迫しました。
泣きながらスキルを発動させるプディングちゃん。すると、夜空に眩い光が弾けたのです。
理屈は難しくて私にはさっぱりでしたが、弾けた光は色鮮やかで、まるで空に咲く花のようでした。
プディングちゃんといえば学園爆破事件の犯人で、生徒会暴走の引き金を引いた人物です。
彼女は今、無限に魔力を与えられ続け、ガストリエからもらったスキルを絞り出しています。
可哀想ではありますが、むしろこれくらいの罰で済んでよかったのでしょう。
光の下で、私とプロフィトロールは成功の喜びを分かち合いました。
私はガストリエに作戦の成功を伝えようと校庭に走りました。
空には轟音とともに光の花が咲き誇っています。
私が空を見上げ、あまりの美しさに見惚れていると、光の一部がまっすぐに落ちてきました。
動けませんでした。魔法で防ぐことすら思いつかず、どうにもならない死を悟ったのです。
「シャルロット!!」
そんな私を、ガストリエが守ってくれました。
私たちの真上で光は最後の輝きを放ち、砕け散りました。
「大丈夫、シャルロット?! 怪我はない?」
「う、うん。私はなんとも……」
「あー、よかった……! それにしてもすごいよシャルロット! まさか花火を作るなんて……!」
ガストリエは私を誉めてくれました。
けれど、それは私ではなくプロフィトロールちゃんの発想とプディングちゃんの魔法によるものでした。
私はいつも、ガストリエに守られてばかりいます。
私が彼女のために何かできたことがあったでしょうか。
私に、彼女の傍にいる資格はあるのでしょうか……。
時折、どうしようもなく不安になってしまうのでした。




