38 爆弾魔捕まえた〈解決編〉
「貴様ら生徒会は、審問と称して学園生徒の個人情報を聞き出していたのか」
「ち、違います! こいつが怪しいので詳らかに審問しなければならなくてですね……それで……」
「……私は学園で何が起ころうと口出しはしない。しかし、いつまでも黙っているわけではない。生徒会長にも伝えておけ」
「は、はいぃ……」
王子の助けが入ったおかげで、わたしは審問から逃れることができた。
助かった……。とはいえ、王子と二人きりになってしまい窮地再来!
仮面の下の正体を暴かれたくないのはあなたですよ、ガレット王子!
「……シャルロットは元気か」
「は、はい! 楽しく学園生活を過ごしております!」
「そうか。ならいい」
それだけ言うと、王子はわたしを問い詰めることなく去っていった。
わたしとしてはありがたい限りだけど……。王子の心境は今どうなってるんだろ。こんな怪しい仮面をつけた不審者を助け、守ろうとするなんて……。
いや、今はそんなこと考えなくていいか。とにかく事件のことだけ考えよう。
その日中に、全生徒140と余名への審問は終わった。
……犯人は見つからなかったらしい。
「はっ! 生徒会の奴ら、あれだけ大騒ぎしたのに犯人見つけられなかったのかよ」
「嘘を吐いても見過ごされたんじゃないかしら?」
「いや……あれは魔法だった。確実にバレるよ」
「じゃあ、犯人は生徒以外……?」
「もしくは罪を罪とも思わない下衆野郎か……」
「罪と思わない…………あっ、そうか!!」
「うわ、なんだ!? 急に大声出して」
「わかった、わかったよ! 犯人は自分が犯人だと気づいてないんだ!」
「はあ!? そんなことあるわけ……」
「一人いるよ。すべての謎に解を示す、犯人が……!」
わたしたちは空き教室に彼女を呼び出した。
夕暮れが赤く染め上げる。
「一般クラス一年、プディングちゃん。あなたが学園爆破事件の犯人だ」
「ほぇ……? えっ、ええぇーーー!?」
予想通りの反応。やはり彼女は自分が犯人だと気づいていない。
「何故犯人の自覚がないのか……。それは事件発生当時、あなたはいつも寝ていたからだ!」
「えー!? ま、待ってよ! 確かに座学とかだとすやすやしちゃってるけど、だからって犯人だなんて……!」
「プディングちゃんは、ダリオル先生のことどう思う?」
「え、ダリオル先生……? そりゃあもう、かっこよくて優しくて……うへへ。いつも見惚れちゃうよ〜」
「……わたしもね、時間割を見る時、真っ先にダリオルの名前が目につくんだ。それで今回の事件発生時間と時間割を見比べて、まず思ったの。『一般一年がダリオルクラスの時には、爆破は起きてない』って」
「えっと、それが……?」
「あなたはダリオル先生の授業中、起きていた。だからダリオルクラスでは爆破は起きなかった」
「え、え……? でも、わたしが起きてることと、爆破が起きないことに関係あるの……?」
「おそらくね……。ここからは推測だけど、あの爆破の正体は魔力暴走。そして引き起こしたのは、あなたの居眠りなんじゃないかなって」
眠ることがきっかけなのか、うとうとした状態で無意識に魔力が漏れたのかは定かではない。
だが状況から見て「眠り」が関係しているのは確かだ。
「爆破が起きるのは教室の外。あなたは窓際の席だから、外を見ながらうとうとしていた。その結果、座標指定が狂って外で爆発が起きたんだ」
「でもよ、爆破が起きてない日もあるよな。プディングは毎日欠かさず爆睡してたはずだ。そこはどう説明がつくんだ?」
「魔法実技だよ。最初に時間割をまとめた時は気づかなかったけど、爆破が起きてない水曜と金曜は午前中に魔法実技があったよね」
「う、うん……」
「爆破には一定量の魔力が必要だ。だから午前の実技で魔力欠乏になった日は、その後居眠りしても爆破が起きなかったんだよ」
「うぇ……? で、でも、それなら他のクラスメイトだって魔力欠乏になってたりするよ……? それだけでわたしが犯人って証拠には──」
「プディングちゃん、前に言ってたよね。『午後の魔法実技はボロボロ』……って」
「はっ……!」
「これってさ、午前中に無意識で爆破して魔力欠乏を起こしたからじゃないの? だからその日の午後の魔法実技では成果を出せなかった」
「そうか! 一日一回しか爆破が起きないのも、その一回きりで魔力が切れるからか!」
「わ、わたしが……犯人…………」
膝から崩れ落ちるプディングちゃん。
わたしは彼女に、そっと手を差し伸べた。
「大丈夫だよ、プディングちゃん。このことは生徒会には内緒にしておくから」
「で、でも……! このままじゃわたし、また授業中に居眠りして学園を爆破させちゃうんじゃ……」
「ちゃんと夜に寝ればいいだろ……」
「大丈夫! もし眠っても魔力暴走しないよう、わたしの能力でうまく設定すれば──」
「転移魔法!!」
知らない声が、呪文を叫んだ。
次の瞬間。わたしとシューとシャルロットと、プディングちゃんしかいなかったはずの教室に、あいつが姿を現した。
「よくやった、フィナンシェよ。犯人を突き止めてくれるとはな」
「はい、カヌレ様〜。犯人はこの平民ですっ」
「せ、生徒会長……!?」
いつの間にか教室入り口に立っていたフィナンシェと呼ばれる美人さん。この人も生徒会メンバーだっけ。
彼女が唱えた転移魔法は、確か貴族たちが不夜城に行く際に使っているとかいう魔法だったはず。
まだ授業では習ってないが、恐らく座標さえわかれば近距離なら瞬間移動できる、といった魔法だろう。
「くそっ、俺らのこと見張ってたのかよ……」
白煙をまとい不敵に登場した生徒会長は、わたしたちのことなど目にも留めずプディングちゃんの元へ歩み寄った。
「貴様がショコラを傷つけた犯人か」
「あっ……ああ、あ…………」
「ま、待ってください生徒会長! その子には悪意があったわけでは──」
「黙れ。貴様に用はない」
会長の眼光に気圧され、竦んでしまう。
その場にいる誰もが、次に会長は何をするのか固唾を呑んで見守っていた。
事と次第によっては、会長の頭を殴って脳震盪を起こし、プディングちゃんと逃げ出すつもりだった。
しかし、会長の行動は意外なものだった。
「……本当は貴様をこの手で処してやりたい。しかしショコラの希望通り、貴様への罰はなしだ」
「えっ……?」
「行くぞ、フィナンシェ。事件が解決したことをショコラに教えてやろう」
「はい、カヌレ様〜」
突然の生徒会乱入で一時は流血沙汰も覚悟したが、何事もなく平和に終わった。
腰が抜け、へたり込んでしまったプディングちゃんの傍にそっと寄り添う。
「うっ、ぐすっ……怖かった〜……! もう、殺されちゃうんじゃないかって……」
「会長のこと徹底的な差別主義者だと思ってたけど、人間らしいところも多少あるんだね。とにかく無事でよかったよ」
「俺のことはボコボコにしたくせに……」
「ねえ、プディングちゃんはいつも徹夜で魔法を開発していたんじゃないかしら?」
「えっ! どうしてそれを……?」
「魔法の属性混合は適切な配分にしないと爆発しちゃうのよ。私も親に認めてもらいたくて新しい魔法を作ろうとしてたことがあるから、よくわかるわ」
「うん……。わたし、魔力少ないし、いい成績取ろうとして頑張ってたんだけど……そのせいで他の授業までダメになってたら本末転倒だよね。これからはちゃんと授業受けるよ」
プディングちゃんは生活習慣を改めるよう決心したし、これにて一件落着!
怪我人は一人出ちゃったけど、早い段階で事件を解決できてよかったよかった。
「そうそう、よければプディングちゃんのお悩み解決しちゃうよ。わたしのスキルクラフトでね!」
「スキルクラフト……?」
「シャルロットにも教えておくね。わたし、色々あって他人にスキルを与えられる能力を持ってるの」
「な、何それ……!? まるで女神様みたい……やっぱりパティスリエは女神の生まれ変わりなのね……!」
「やっぱりってなんだよ……」
それから試行錯誤の末、うとうとしても魔力が漏れないスキルと、新しい魔法を安定させるスキルをプディングちゃんに与えた。
彼女はスキルが三つになり困惑していたが、とても喜んでくれた。
勿論、スキルを作った件は内緒にしてもらう。まだ教会に反旗を翻すには仲間が足りていない。
でも、この調子で学園生徒たちの悩みをスキルクラフトで解決していけばいつか、教会に認められ、ガストリエとしてノワール家の玄関を跨げる日が来るだろう。
このまま、何事もなくいけば──。
翌日。
朝から騒々しい学園内。
裏門から入ったわたしたちは長廊下を通り抜け、校舎正門側に向かった。
「昨日、この学園を騒がせ生徒会メンバーを傷つけた爆破事件の犯人が見つかった。一般クラスの一年だ。あろうことか、平民が貴族を傷つける事件がこの学園内で起きてしまった……これは由々しき事態だ」
正門を通って登校してくる貴族たちに向け、生徒会長は訴えかける。
プディングちゃんへの罰はないと、会長は確かに言った。しかしそれは、個人への罰はないという意味だったのだ。
「犯人は平民一人だが、これは平民全体の反貴族感情が原因で起きた事件だ。我々生徒会は、我が物顔で学園を闊歩する身の程知らずの平民たちを断固として許さない! ここに徹底した身分社会の実現を約束しよう!」
会長がそう宣言すると、聴き入っていた聴衆たちは大いに沸き立った。
平民の犯行という大義名分を得て、会長はいよいよ平民の弾圧に乗り出したのだ。
学園は大きく変わろうとしていた。悪い方向に……。




