34 甘いの甘いの召し上がれ②
翌日、放課後。中庭に即席の会場を設け、苺パーティが開かれた。
と言っても大層なものではなく、苺を使ったお菓子の試食会みたいなものだ。
宣伝も虚しく集まったお客さんは少なく、結果的にちょうどいい規模感に収まった。
「本日は苺の会にお越しいただきありがとうございます! 苺を愛してやまないフレジエさんが育てた苺たちを使い、パティシエのシューが腕によりをかけて絶品スイーツに仕上げました。どうぞご堪能ください!」
わたしの音頭を皮切りに、お客さんたちは次々にスイーツを口に運んでいく。
「美味しい……! 苺が瑞々しくてとても新鮮だわ! まるで口の中を爽やかな春風が吹き抜けるみたい!」
「苺の酸味がクリームの甘さと調和し、スポンジ生地に挟まれ味に奥行きが生まれていますの。見事な一品ですの」
「ぱくっ! ふわっ! うまあっ! こんなお菓子、食べたことない!」
集まってくれたほとんどがシューのクラスメイトで、みんな美味しそうに頬張っている。
喜んでもらえてよかった。隣ではフレジエさんが大号泣していた。
「ぐすっ、わたしの愛しい苺たちぃ……! みんなのこと絶対忘れないから……天国から見守っててね……!」
……思ってた感動とは違ったけど、食べた人をこれだけ笑顔にできたんだ、苺たちもさぞかし喜んでることだろう。
会場の隅の方に、事の発端であるフェーヴちゃんの姿があった。日傘を差しながらだと片手でうまく食べれないようで、皿の上のスイーツと格闘している。
やれやれしょうがないなあ。わたしが食べさせてあげよう。
代わりに切り分け、フォークを彼女の口元に近づけると、フェーヴちゃんは遠慮なんて一切なくあんぐりと口を開け甘やかされ態勢に入っている。あつかましい……!
「んふ、おいしい……」
フェーヴちゃんは相変わらずの鉄仮面だが、念願の苺にありつけてご満悦だ。うん、かわいいから許す!
苺の会は終始和やかな雰囲気に包まれ、各々談笑したりお菓子を楽しんだりと自由に楽しんでいる。
フレジエさんもフェーヴちゃんも満足そうでよかった。会は大成功と言っていいだろう。
みんなの様子を見守り頷いていると、隣にシューがやってきた。
「よかったな、評判よくて」
「これもフレジエさんの苺とシューのおかげだよ、ありがとう! あとごめんね、病み上がりに働かせちゃって」
「お前一人じゃ心配だったからな。俺もしばらく菓子作りしてなくて腕が鈍ってたしちょうどよかったよ」
不夜城で大怪我を負わされたシューはプロフィトロールの看病の甲斐あって完全回復を遂げたものの、疲労や痛みは取れないみたい。
お菓子を作ってる間もつらそうな場面があり、その時はわたしが補助に入った。
「そういやプロフィトロールってやつ、学園内どこ探しても見つからないんだよなー。看病してくれたお礼とか言いたかったんだけど」
「えっ!? そ、そうなんだ……。まああの子は神出鬼没だからね」
「ふーん。もしあいつのこと見かけたら代わりにお礼言っといてくれ」
「わかった、伝えておくよ」
シューはいまだに黒猫と人間のプロフィトロールが別物だと思っている。偶然名前が同じなんてあるわけないのに。
まったく、これだから鈍感シュー君は……。
将来はいろんな女の子を勘違いさせてやきもきさせてるんだろうな。やれやれ。
「にしても、よくあんなスイーツ思いついたよな。学園にある材料だけであそこまで苺を際立たせるなんて」
「ああ、あれね。ショートケーキって言うんだよ。素材を楽しむにはシンプルが一番だよね」
「ショートケーキか……。いいな、店に戻ったら季節限定のメニューに加えるか」
シューにお菓子のことで誉められるとすごくうれしい。
もっと誉めてもらおうとおねだりしていたら、背中に恐ろしい熱気を感じた。
この熱は、シャルロット……!
「……パティスリエ。そちらの殿方とはどういったご関係?」
「こっちはシュー。わたしがパティスリーで働いてた時の先輩だよ」
「へー……。そうなんだ、へー……」
シャルロットはわたしに隠れながらシューに挨拶を済ませた。最近の豹変で忘れてたがそういえばシャルロットは人見知りだった。
せっかく学園に復帰したことだし、シャルロットにはわたし以外の友達も作ってほしいな。
「ねえシャルロット! このケーキ作ったのシューなんだよ。すごいでしょ?」
「なんでお前が誇らし気なんだよ」
「だって、シューの才能が認められるのがうれしいんだもん〜」
「ははっ、なんだそりゃ」
「…………悔しいけど、美味しい……。私もお菓子作りができれば、パティスリエに誉めてもらえるのかしら……」
「ん? そういやシャルロットって名前、よくパティスリエが話してたな」
「えっ……」
「初めてできた友達で、すごくいい子だとか言ってたな。あれってあんたのことだったのか」
「私のいないところでも私のお話を……!? もう、パティスリエったら……! もうもう……!」
シャルロットはわたしの背中をぺちぺち叩いている。
なんだかよくわからないが、貴族育ちで舌の肥えたシャルロットも美味しいと感じてくれてよかったよかった。
てっきりわたしとシューの仲に嫉妬してるのかと思ったが自意識過剰だったかな。
賑わうパーティ会場。そこから少し離れたとところに見知った顔が見えた。
「あ、クレープちゃん!」
「げっ……」
遠くからこちらを覗いていたクレープちゃん。もしやパーティに参加したかったのかな。
まだ残ってた苺スイーツをあげると厳しい顔つきは喜色満面に破顔した。かわいい。
クレープちゃんは手に何か持っていた。恥ずかしそうにもじもじしてから、勇気を振り絞ってわたしに渡してくれた。
「これは?」
「シャルロット様を救ってくださったお礼です。パティスリエは平民のくせに髪が綺麗なので似合うかと思い急いで侍女に用意してもらいました。平民相手に感謝する必要などないのですがそうしないと私の気が収まらないので。ああ、本当なら誰もいない時に渡したかったのに……」
「わあ、かわいい髪飾り……! ありがとうクレープちゃん、大好き!!」
「ちょっと、急に抱きつかないで……はっ! ち、違うんですシャルロット様!? これは決してパティスリエに色目を使ったとかそういうのではなく……!」
「……酷い、クレープちゃん」
「あああああもう離れてください! パティスリエなんて嫌いです!!」
クレープちゃんは苺みたいに顔を真っ赤にし、走り去ってしまった。なんでこんなことに……。
パーティは30分ほどでお開きとなり、みんな満足そうに帰っていった。
フレジエさんも苺たちとの思い出に区切りをつけ、卒業後も苺を育てていく決意を固めたようだ。またいつか食べられたらいいな。
フェーヴちゃんはフレジエさんと熱い握手を交わしている。元が農園主と泥棒とは思えない清々しい絵だ。
「パティスリエ」
不意に呼ばれ声のする方を向くと、そこにいたのはガレット王子だった。
楽しかった空気が一転、緊張に包まれる。即座に逃げようとするわたしを王子は呼び止めた。
「待て、もう貴様の素性を明かそうとは思っていない」
王子が敵じゃないアピールをしてくる。信じていいものか……。
まあシャルロットがいる前だし、急に切りかかってきたりなんてしないか。
「今日の集まりはフェーヴのために催してくれたものだろう。妹に代わり私から礼を言わせてくれ」
「い、いえ、みんなの笑顔が見たかっただけですので」
「ほう……立派な志だな。もしパティスリエが貴族であれば、この学園もより良いものになっただろうに」
……まさか、わたしがガストリエだと気づいてる!?
王子はガストリエを守ってくれたとことがあるみたいだけど、わたしを射抜く眼光が怖い!
やっぱり逃げるか……。
「あら、ガレット王子! お久しぶりでございます」
「シャルロットか、会えてよかった。もう学園に戻っても大丈夫なのか?」
「はい、パティスリエのおかげですっかり元気です!」
王子がこちらを見ている。誰の言葉も届かなかったシャルロットを外に連れ出したわたしが何者なのか尋ねたそうだ。
シャルロット、あまり王子を刺激しないでね……?
「私の愛するパティスリエが、私と二人ベッドの上、私に永遠の愛を誓ってくれたのです。はあ……私は今、幸せの絶頂にいます……」
「…………これはどういうことだ、パティスリエ」
「あれ? パティスリエは?」
「あいつなら顔真っ青にしてどっか走っていったよ」
結局その日は夕暮れまで茂みの中に隠れ、誰にも見つからないよう祈る羽目になった。
王子はわたしの思ってるような人ではなく、きっと味方なのだろう。わたしへの殺意なんてないし、これで和解できたら仮面を外せると思ったのに……!
まだしばらくは、この仮面をつけたままになりそうだ。




