ロドニーの招聘
作ったのは揃いのブローチだった。
鳥が羽を広げているデザインで、ドレスの胸元のラインにも映える。
片方にはピンクダイヤを、もう片方にはダイヤモンドをあしらってある。
比翼のデザインは、共にあることの証。
祝宴の夜会用にはエルネストがネックレスとイヤリング、ブレスレットを贈ってくれるという。
与えられた愛情だけじゃなく、自分の意志で立ちたいから。
「素敵な意匠のブローチですね、お嬢様。ご自身でお考えになられたとか」
「ありがとう。アイデアを伝えて、デザイナーが考えてくださったものよ」
鳥は片翼だけでは飛べない。
だから両翼で支え合う。
ロドニーから登城するようにとアンリエッタに要請が来た。
「祝宴の舞踏会には、諸外国からのお客様がお見えになります」
侯爵家に使いとしてやってきたのは、王子付きの侍従。
「殿下は未だ外交を経験していらっしゃらない。相手国の歴史、風習、王族や高位貴族の名前等、覚えるべきことが沢山あります」
「はあ」
要するに、そのサポートを頼みたいと言ったところか。
というか、教育官は何をしているのだろう。
「殿下はご自身が興味を持たないものには酷く冷めていらっしゃる。しかしアンリエッタ様がいらっしゃると、余程良い所をお見せしたいのでしょう、勉学も捗りまして」
王子だけでなく、周囲もアンリエッタに甘える始末である。
げんなりしつつも、臣下である侯爵家としては断るわけにはいかない。
(良い所を見せたいというのなら、私が居なくてもちゃんとできるんだという所を見せてくださればいいのに)
そこまで考えた時、侍従は困ったような顔で微笑んだ。
「侯爵家御令嬢には御足労をおかけいたしまして申し訳ございません。ただ、それも殿下が御令嬢にお会いするための口実なのだろうと思っているのです」
王族は何でも許されているように見えて、実は不便だ。
仲良しの友達がいても、自由に遊ぶことはできない。
予定を管理され、その中で選ばれた者とだけ交流する。
そんな中で、口実として許された相手。
宰相の娘であり、躾も行き届き、しかも優秀な頭脳の持ち主。
王子に良い影響を与えるならばとエゼルキナ侯爵も承諾していた。
決してロドニーが無理を言って傍若無人な振る舞いをするのではない。
ただ、一つだけ譲れないものがある、それだけだった。
アンリエッタ自身も王子と過ごすのは負荷に感じたことはない。
王子教育に付き合うのは自分自身の新しい知識として新鮮に感じたし、普通の淑女の教育の中では得られない知識が多々あった。
だから成人として認められる年齢になった時に、ただ一緒に楽しく過ごすだけではいけなくなったという線引きをされた。
昨日の続きの筈の今日が、実は連続しているものではなくてはっきり区切られたものだと突き付けられた。
アンリエッタはそれを呑み込めたが、ロドニーがそうできなかった。
だからこそ執着は歪みをもってロドニーを絡め捕った。
王宮に呼ばれると、まずアンリエッタは図書室に行く。
予め学習する内容を頭に入れておく。
そして王子と授業を受けた時には確認の作業をしている。
そうすることで、嚙み砕いてロドニーに説明することが可能になるからだ。
その日の図書室には珍しく先客がいた。
見覚えのある人。
あの人と同じ、銀色の髪の…
(アンデル小公爵様)
図書室には魅力的な本が沢山あると薦めたのはアンリエッタ自身だ。
だから来たのだと考えるのは何も不自然なことではない。
けれどこの日、このタイミングでというのはちょっと出来過ぎた偶然ではないか。
彼が許可を得て此処にいるのなら、別に問題はないのだが。
セルジュ自身は、妹のメルローサが第一王子の婚約者となった時点で王子の側近候補からは外れている。
代わりに側近候補に上ったのがアンリエッタの兄のセドリックだった。
だから本来ならば、セルジュは王宮にはさしたる用事もない筈だった。
図書室に来るというのが目的というのなら別の話だ。
アンリエッタは静かに本を選び、それを抱えてテラスに向かう。
セルジュの前を通るときに軽く目礼した。




