執着色のドレス
王宮の祝宴の為にアンリエッタのドレスを贈ろうと、バスティアン公爵家では王都の王侯貴族御用達のデザイナーが招かれていた。
エルネストよりも寧ろ母親のマリーナ公爵夫人が張り切っている。
「一着だけ作るのなんて勿体ないわ。そのうち婚約の披露の夜会も開くことだし、婚礼の衣装も考えなきゃ」
広げられた生地を見比べて、一番ウキウキしてるのはマリーナ夫人だ。
「そうそう、エルネストの髪の色のシャンパンゴールドはアンリエッタ嬢の淡いピンクゴールドの髪によく映えるわ。彼女の空色の瞳と相まって、まるでお日様の妖精のようになるでしょうね」
宝石も似合うだろうが、花で飾ったら本当に妖精の様だろうなとエルネストも想像する。
「主役はアンデル公爵令嬢なんだから、あんまりアンリエッタが目立っては失礼になるのではないですか、母上」
「まあ、何を言うかと思ったら!」
一瞬呆れたマリーナ夫人が、その次にはころころと笑い出した。
「そうね、目立ってしまってアンリエッタ嬢の愛らしさを他の殿方に見染められてしまっては大変だと心配するのはわかりますわ。でも、女の子は好きな殿方の前では精一杯美しく可愛らしい姿を見てもらいたいと思うものなのですよ」
「…」
その懸念はしている。
アンリエッタの着飾った姿に鼻の下を伸ばしそうな男はすぐに頭に浮かぶ。
「僕だけがアンリエッタを見ていられたらいいのに」
「アンリエッタ嬢の隣に並ぶのは貴方ですよ。堂々として、他の殿方が付け入る隙を与えないように大切なお日様の妖精姫をエスコートするのです」
舞踏会でアンリエッタをエスコートするのは初めてだ。
婚約自体を伏せていたので、二人並んで出席することはなかった。
会場で会うことはあっても、今まではアンリエッタは兄のセドリックにエスコートされていた。
これからは堂々と自分の婚約者としてアンリエッタを伴うことができる。
しかも自分の色を纏わせて。
同時に怖くもある。
第一王子は多くを望むような方ではない。
その方が唯一執着する相手。
欲しいものを手に入れたいという気持ちは誰にだってあるだろう。
(けれどアンリエッタはものじゃない)
告白したのは自分から。
それでも彼女も自分の意志でエルネストを選んでくれた。
断られたのなら諦めるつもりではいた、そうしなければならいのはわかっていた。
彼女を苦しめたいわけではなかったから。
幸せになる方法を考えてもらって、それが自分の横に並んでくれることだった。
だからこそエルネストは主となるだろう王子に譲るわけにはいかない。
自分にとっての幸福が、他の誰かを――彼を苦しめることがあると知りながら。
「…権力を持つ者が正しいとは限らない。だったら僕は」
小さく呟いたそれは、マリーナ夫人の耳には届かなかった.
同じ頃、アンリエッタは侍女を伴って宝飾店を訪問していた。
「祝宴の舞踏会に身に着ける宝飾品でしたら、恐らく公爵令息様が誂えてこられるのでは」
「違うのよ。それとは別の用事なの」
「然様でございますか」
メルローサとの友情の証として、何か揃いの物を作りたい。
言葉で語らなくとも、言葉以上に雄弁に語ってくれる物を。
勇気をもってメルローサが舞踏会の場に立っていられるように。
風邪をひいてしまいましたので、少し執筆速度が落ちています。ご了承くださいませ。




